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SA-166 桑が届いた


 トルニア王国の大使は、積極的にシルバニア王国の状況を見て回っているようだ。調査と言っても良い位の緻密さだと監視しているラディさんの部下の1人が教えてくれた。

 敵を知り己を知らば……、という言葉もある位だ。俺はラディさん達に協力して貰ってるけど、トルニア王国はハーデリアさん自らが動いているようだな。

 住民と話をするわけでもなく、広く国内を馬車で移動しているようだから、先ずは簡単な地図作りと言う事になるんだろうか?

 

 3日間隔で開いている顔会わせ的な会議の席上で、ハーデリアさんの最初の言葉が王国内の自由見学だったからな。

 他の大使が、思わずハーデリアさんに顔を向けたのも分かる気がするぞ。

 親しき仲にも礼儀有りと言う事なんだが、それよりも優先するのが俺達シルバニア王国の内情だったのだろう。


「良いですよ。さすがに軍事拠点は許可できませんが、その他はご自由にご覧ください。案内者は必要ですか?」

「そうですね……。出来ればお願いしたいです」

「でしたら、前日に砦の守備隊長に連絡してください。ふもとの砦から騎士を案内役として呼び寄せます」


「もし、銀山に向かわれる時は、我等の同行も許可願えますかな?」

 クレーブルとトーレスティの大使も興味を持ったようだ。

「どうぞ、ご一緒に。2つの銀山の規模は異なりますが、我等シルバニアの富を支える重要施設です。是非とも1度は見ておいた方が良いでしょう」


 銀山は現状では俺達の重要な施設ではあるが、数百年もすれば枯渇してしまうだろう。

 交易船が相手国で使うのは銀らしいから、一方的な持ち出しになっている。2つの銀山がクレーブル王国の対外貿易を支えていると言っても良いくらいだ。


「トルニアにも小さな銀山がございます。比率と重さを同一にと言う事で、トルニアも新硬貨を鋳造いたしましたわ」

 テーブルに小さな包みを3つ出して、各国の大使に差し出した。

 俺も包みを受け取って開いてみると、中に2枚の銀貨が入っていた。100L銀貨に1000L銀貨は裏の絵柄が、馬と牛だ。騎馬民族とも交易することでこんな絵柄を選んだんだろうな。


「シルバニアも斬新でしたが、トルニアもこのような絵柄にしたのですな。我等ももう少し考えるべきだったと思いますよ」

「この場合、大事なのは銀の比率と重さです。気に入らなければ、回収して鋳造すれば良いでしょうし、長い目で見れば最初の銀貨がいつまで王国内で使用されるかも考えるべきでしょう」


 貿易の対価としてどんどん流出していくのだ。

 シルバニア王国の銀の生産量は年間銀塊20本で止めている。

 兌換用として1本は保存するにしても、残りの半分以上は交易用に使われるのだ。それはシルバニア住民の食料として還元される。

 シルバニア王国の住民が周辺王国と比べて少ないのは、食料自給率が悪いからにほかならない。

 この状態で、銀の採掘量が激減したならば、一気に国が衰えてしまう。他に産業があまりない王国の宿命なんだろうな。


「将来は、共通硬貨とすることをお考えですの?」

「それが、悩ましいところです。教団がそれを行っていたんですが、中間搾取が酷くて、そのままでは交易船での使用が出来ませんでした。銀の比率を上げましたから、今度は相手国も銀貨そのもので交易してくれるものと思っています」


「クレーブルの交易船が金貨と銀貨を持って行ったそうです。上手く行けば、煩わしい兌換を省くことができるでしょう」


 早速始めたようだな。上手く行かねば、更に比率を上げなければならないが、たぶん問題ないだろう。額面通りとはいかずとも精々2割ほどの目減りで済むはずだ。


 そんな会話で会議が盛り上がるのもおもしろい。サディ達も各国の様子をおもしろそうに聞いているし、外周部の蛮族やウォーラム王国の動向もそれなりに分かるから、ラディさん達へ具体的な調査を指示することも出来るようになってきた。


「エミルダ叔母様が会議に加わりたいと言っておったぞ。あまり政治には関心は無いと思っていたのじゃが……」

「たぶん一時的なものでしょう。神官達の配分は神皇国が無くなってしまいましたから現状は行われていないはずです。この席で同意が得られるなら各国の老齢神官を入れ替えるのではないかと……」


「神官様がおられない村も出て来たようです。エミルダ様が嘆いておられました」


 マリアンさんはたまにやって来るタルネスさんから聞いたようだ。行商人達の信頼が厚い人だからな。そんな話を聞いてマリアンさんを訪ねたに違いない。


「ならば尚更じゃな。マリアン、我の判断で良いじゃろう。次の会合に呼んでくれぬか?」


 マリアンさんがサディに頭を下げて了承している。

 シルバニア王国は新しい教団の擁護者でもあるのだから、教団の願いは教団の権力に繋がらない限り叶えるべきだろう。まして、庶民の安らぎを末端で支える祠の神官が不在となれば問題は大きいと思わねばなるまい。


 次の会合にはエミルダさんがテーブルの端に着座していた。

 サディの紹介に、3王国の大使が納得していたが、エミルダさんの話を聞いて、直ぐに王宮と調整することを約束してくれた。

 彼らが直ぐにと言うからには、10日以内には確実だ。トルニア王国のハーデリアさんも大きく目を開いて驚いていたようだったな。外交には明るいが国内状況については、そこまで目を向けられなかったという事なんだろう。少し、ハーデリアさんの能力の限界が分った気がするぞ。


「ところで、トルニア王国からの大聖堂巡礼は可能なのでしょうか?」

「国交を開いている以上問題は無いんだが……。ごらんの通り、宿泊施設があまりない。他国も巡礼の話はあるんだろうか?」


「そうですな。そんな話を聞いたことがあります。それもある程度考えねばならんでしょう。何といっても、大聖堂がこの地にあるのですからな」

「どうでしょう。旧関所に宿泊施設を作られては? 一度にやって来る巡礼団の数はそれ程でも無いでしょう。100人程の宿泊なら、兵舎のような形でも良いでしょうし、山間部の雇用も生まれると思いますが?」

「それ位ならどうにでもなりそうじゃ。1日あれば大聖堂と修道院も参拝できるじゃろう。それはシルバニアで用意しようぞ」

「巡礼団の規模と日程は教団と調整と言う事で何とかなります。商業ギルドの連絡網を使わせて貰いましょう」


 お土産もあった方が良いのかな?

 簡単なお店を作ってみようか。巡礼者にしても行った記念という物が欲しくなるだろうし……。

 

 エミルダさん達も新たな僧院を建設するみたいだ。修道院よりもさらに南に下がった崖際なんだが、問題ないんだろうか?

 しかも石工は雇わずに神官達で作り上げるらしい。

 ある意味、神官達が高度な学問の体系を持っているのかも知れないな。さらにそれを応用するだけの知識もあると言う事だ。

 

 各国の変人達を集めた昔の測量部隊の宿舎では、現在水を効率的に汲み上げる方法を考えて貰っている。

 水車方式と風車までは考えたようだが、ポンプ機構にまでは到達できないようだ。年が明けても悩んでいるようならヒントを上げても良いだろう。


 秋風が木枯らしに近い冷たさになってきた時、クレーブルの商人が俺を訪ねて来た。

 荷馬車に乗せられていたのは間違いなく桑の枝と苗木、それに乾燥させた果実だった。


「これも託されましたぞ。綿花という物らしいですが、何をなさるおつもりですか?」

「これで糸を作ります。その糸をクレーブルとトーレスティに販売しますから、麻織物の要領で布ができるか試してください」

「何ですと!」


 同席していた大使達が驚いた声を発する。

 まさかこれで布が作れるとは思ってもいなかったようだ。珍しい観賞用の花だと思っていたらしい。


「まことですの?」

「ええ、出来ますよ。麻よりも遥かに丈夫ですから、需要もあるでしょう。糸作りは面倒ですが冬場の農家の内職には都合が良いです」


「いつも領民を考えているのですね?」

「領民を安楽に導くのは王族の役目と思っています。領民が豊かになれば、それだけ俺達も豊かになれます」


「我等が困っている時に助けて貰ったのは領民じゃ。しかもマデニアムに奴隷として売られた下層の農民達。彼等にはいかに恩を返しても返しきれぬ」

 

 サディの言葉にマリアンさんも頷いている。ネコ族もそれと同じだから、誰も文句は言わないが、北の村でひっそりと暮らしてるんだよな。


「綿織物であれば交易品としても使えます。是非とも形にして頂けると助かります」


 商人達は丁寧に頭を下げて広間を去って行った。

 問題は桑だな。もうすぐ冬になるけど、植えて周りをワラで囲っておくか……。ダメなら、実から種を取って撒いてみよう。

 翌日、ミューちゃん達を連れてカナトルに乗ると、荷馬車を引きつれ北の村へと向かった。


 一か月もすれば雪が降り出すだろう。

 果たして、根付くか気になるところだがやってみないとね。俺の育ったところにも桑畑があったけど、どうやって畑にまで出来たのかは分からない。

 これも試行錯誤の世界が待っている事だろうが、最終的な姿を目にしているんだから、何とかなるんじゃないか?



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