表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/209

SA-160 皆で豊かになるためには


 アルデス砦が一面の銀世界に埋もれる頃、ミクトス村からリーダスさんが新しい硬貨のサンプルを持ってきてくれた。

各硬貨とも10枚ずつなんだが、真新しい硬貨だから綺麗に輝いているぞ。

 サディ達も手に取って出来栄えを見て笑顔になっている。


「全く、硬貨を花柄にするなんて聞いた時には呆れたが、実際に出来てみるとそうでもないな。何となく気品も感じられる」

「これなら代替わりしても新たに鋳造しなくても良いですからね。そもそも共通貨幣として作るなら歴代の大神官の序列1位としなくても良かったと思います」


「とはいえ、他の王国ではそれぞれ王族の横顔にしたようだ。後で面倒が起きねば良いのだがな」

 そう言って、リーダスさんが笑っている。

 たぶん貨幣鋳造の劣化を考えているんだろう。財政難になれば金貨10枚で11枚を新たに作るなんて簡単にやってしまうんじゃないか?

 それを防ぐ為に金や銀の含有率を定めておいたんだが、ばれないと思ってるんだろうか? リーダスさんには簡単に比重という概念を教えておいたんだが、それを聞いた時にはびっくりしたようで咥えていたパイプを落した位だ。


 俺達なら簡単に含有率を知ることができる。不正を防ぐ最善の方法を知っているのは後々の貨幣の混乱を避ける上でも、他国よりも数歩先を行っている感じだな。


「純度は全て85じゃ。それでも発行額の2割を国庫に納めれば十分に役立つじゃろう。俺達の王国はこれで良いな?」

「問題ない。それで、どれほど発行できるのじゃ?」

「金貨は500枚、大銀貨が2000枚、小銀貨が5000枚というところじゃな。さらに作ることはできるが、当座はこれで進めてくれ。既存の金貨の額面を換えるのは一時には商人達が混乱するぞ。その辺りはどうするんだ?」


「1年の猶予を与えます。既存の硬貨をこの間に駆逐することになりますが、庶民の蓄えを額面以下で引き取るのも問題です。シルバニア王国に席を置く者に限って、新しい硬貨と等価交換を行えば良いでしょう。1年後は含有比率を元に引き取ることにします」


 他国はどうするんだろうな。民衆の反対を押し切って減額して交換するのだろうか? その辺りは各国の治政者の技量が試されそうだな。


「古い硬貨は鋳つぶして、新たに比率を整えれば良いな。6掛けぐらいにはなるじゃろうが、我等には銀山があるからのう。それ位は余裕でこなせそうだ」


 それが他国には無いのが問題だ。レーデル川屈曲部から採取した粒金がどれだけになったか分からないが、それをこの事業に使うこと位は出来るだろう。

 

「商人を考えればさらに鋳造しておくべきじゃろうな。さらに2割増しで用意できたときに布告すれば良かろう」

「他国との調整もいるでしょう。その辺りはお任せしますよ」


 トルニア王国も1枚噛んでくるかも知れないな。神皇国が無くなった以上、新たな貨幣体系を模索しているはずだ。

 王都にやって来る商人に打診するべきだろう。商人だけではなくオブザーバー的に外交に明るい貴族が一緒にやってくるはずだ。


「出来れば武器なぞ作らずに硬貨を作っていたいものじゃ。それで、次の製作品はあるのか?」

「今はまだありません。場合によっては数年後に必要になるかも知れませんから、鉄は用意しておいてください」

「分かった。鉄鉱石は無いからのう……」


 ん? 鉄鉱石と言ったな。

 この世界の鉄製品は全て鉄鉱石から作るんだろうか?

 となると、新たな産業が生まれそうだ。場所を考えねばならないが、レーデル川沿いと言う事が条件になる。

 あの、砂金の町を使うか? すでに砂金採取で暮らしが立たないくらいに、産出量が減っているはずだが、流れを利用して比重の重い砂鉄を得るなら、あまり大きな設備もいらないだろうし、少しぐらいは砂金も取れそうだぞ。

 リーダスさんが部屋を出ていくのを見送りながら、次の計画を頭の中で描いて行く。


「これはどうするのじゃ?」

「記念に貰って置いたらどうですか? まだ使えませんからね」


 俺の言葉に、早速3人で1枚ずつ選んでるぞ。トーレルさんとザイラスさん達にも届けておいた方が良いだろう。それとビルダーさんも商業を束ねた長官だから早めに渡しておいた方が良いかもしれない。

 3人ともニコニコしてポケットやバッグに入れてるけど、皆に見せびらかさないか心配だ。きっと欲しがるに違いない連中がたくさんいるからな。


 雪に包まれた砦は退屈なんだろう。

 北の村に皆でソリで出掛けたようだ。家畜の出産が続いているらしく、それを見学に出掛けたみたいだな。

 おかげで広いテーブルを使って次の計画を考えられる。

 桑は何とか栽培できそうだが、蚕をどうするかだな。

 俺はあの光景を見ても何とも思わないが、始めてみるとなると問題だろう。

 従妹を連れて、友人の養蚕農家を訪ねた時には、悲鳴を上げて逃げ出したぐらいだ。あの蚕が絹を作るのだといくら説明しても納得して貰えなかった。

 俺がホラーハウスに連れて行ったと、母さんに訴えてたぐらいだ。


 きちんと説明をして、果たしてどれ位の人間が納得してくれるかが問題だ。10万匹以上の蚕を見ても動じない度胸が要求される。

 ガの幼虫を見て、それが繭を作る事を知る人間がどれだけいるだろう?

 繭を得るために大量の蚕を飼うと言えば納得してくれるかな?


 蚕棚の作り方、桑の葉の与え方、掃除の仕方……、色々あるぞ。

 最後に繭を作る枠を作ってもそれから糸を紡ぐまでが一仕事だ。

 ある程度は俺が教えるしか無さそうだけど、糸を紡ぐまでの仕事で良いだろう。織物に加工するのは、他の王国に任せても良さそうだ。

 あまり独占するのも問題だろうし、農家の副業として織物を任せる事で農村を豊かにもできる。


 待てよ……。その前段階で、綿の栽培も出来そうだ。

 この王国で織機を見たことが無いが、織物は全て輸入に頼っているのだろうか? 衣料品だけをとっても色々と分らないことが出てくるな。

 この世界の文化程度がかなりいびつに思えてきた。

 クレーブル王国の貿易政策でいろんな品物が入って来るのだが、俺達の王国は周辺諸国を合わせても原材料や農産物の輸出に限られている。

 銀山だっていつかは枯渇することを考えると、やはり加工貿易に換えていくべきだろう。

 他国に無い物を調査することも新たな交易船の役割に違いない。どちらかというと品物をたくさん持って行き、向こうが欲しがる物を確認する事で良いんじゃないかな。必要のない物を売り付けるのは問題だろう。

 そんな中で一番簡単なものは綿製品に違いない。

 綿を生産し、紡いで織上げる。それで布ができるはずだ。一連の作業に必要な道具や織機はドワーフ族の腕の見せ所になるだろう。

 となれば、先ずは綿花の種を取り寄せることから始めなければなるまい。

 綿織物が周辺王国で作られていないかどうかを確認することが、最初の仕事になりそうだ。


 5日程過ぎた時、雪の中をビルダーさんがやって来た。

 新しい硬貨をいよいよ作る事で相談に来たらしい。


「新しい硬貨を頂きました。全て花をあしらったのは私も驚きましたが、他国との商いをする上では都合がよろしいと思います。問題は3王国がいつ、硬貨の切り替えを行う事ですが、その調整はどのようになさるおつもりでしょうか?」

「市場を混乱させたくないからな。できればビルダーさんがその調整を行って欲しい。付け加えて、1年間であれば九貨幣との交換を額面通りに、1年後は硬貨の値打ちで交換を行う事もお願いしたい。これは各国の思惑もあるだろうから、場合によっては期間が前後すると思うけどね」


 俺の話で少しホッとした表情に変わった。素人に任せる事を恐れていたみたいだな。

 サディも表情が穏やかになる。場合によっては3王国の王達が集まって決める事になるんじゃないかと予想していたみたいだ。


「ところで、俺の疑問に答えてくれませんか? 綿の布や服はたくさん商われているようですが、3つの王国を訪れる機会があったにも関わらず、綿花畑を見たことがありません。綿織物は輸入しているんですか?」

「おっしゃる通り、クレーブル王国が輸入しております。麻織物は農家の副業で織っているようですが、それほどの数は出回らないようです」


 やはりか……。だが麻織物を作る技術はあるようだ。それは使える技術に違いない。


「綿花の種を手に入れてくれ。荒地で良く育つはずだ。種でなくとも、綿花そのものでも良いぞ」

「クレーブルの商人仲間に依頼してみましょう。でも、確実かどうかは分かりませんよ」


 何とかなりそうだな。きっといくつか栽培している国があるはずだ。絹織物を作る前に綿織物で紡ぎや織り方の練習ができるだろう。


「次は織物を作るのじゃな。我等の王国に新しい産業ができそうじゃな」

「ええ、そうしたいですね。ですが、これも他国を巻き込みたい話ではあるのです。一か国だけが突出するようでは周辺諸国から恨まれますよ。役割分担を行う事で、新たな交易品を作り出す事が目的です」


 感じ入った様相でマリアンさんが俺を見てるけど、俺としては全責任を持たされるのが嫌なだけだ。

 それなりに資質を持った在野の人物がいるに違いない。そんな連中を発掘して俺達の力になって貰えるようになってほしいところだ。

 ある意味、科学と技術の融合を図る事なんだが、そんな部署を作らないと、俺の仕事が一向に減らないんじゃないか?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ