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SA-016 もう一つ部隊がある


 俺達の討伐部隊が、1個中隊でやって来るとは思わなかったな。

 それでも、南の森から街道に戻って来るところを襲ったからどうにか倒せたが、敵兵が街道の南の崖に団子状態になってしまった。

計画では各個撃破という事だったんだが、火炎弾で炙り出して石弓で倒すと言うようなやり方になってしまった。

 それでも30人近くの兵士が街道に這い上がって、俺達に向かってきた時は冷や汗ものだったが、トーレルさんの部下達が弓兵と共に血祭りにあげていた。

 

 くたくたに疲れて砦に帰ったけれど、1個中隊を倒したことで、俺達の士気はうなぎ上りだ。果たして全滅させたかというと、少し自信は無い。これで俺達の存在が大きく敵軍に知れ渡ったと思う。

 当座は、荷物を襲うだけにしよう。やはり数の差が大きいからな。


 討伐部隊を壊滅させた翌日。いつものように俺が一番遅くまで寝ていたようだ。

 広間でお茶を飲んでいる皆に、おはようと挨拶して顔を洗いに外に出た。

 ふわふわと白いものが舞っているぞ。雪が降って来たのか?

 積るほどではないにしろ、これからの山賊行為は少し面倒になるな。


「降ってきましたね」

「ああ、これからどんどん降って来る。一か月後には膝位に積もるんだ」

「そうなると、街道の峠をやって来る連中が限られるな」


 俺の一言で、テーブルの連中が色々と話し始めた。

 そんな話を聞きながら、朝食を頂く。ピザのように平たいパンに野菜スープだ。肉は朝食には付かないんだな……。


「それでバンターとしては、冬の襲撃をどのように考えているのだ?」

 朝食を終えてお茶を飲んでいた俺に、ザイラスさんが聞いて来た。


「崩した崖がそのままです。あれでは荷車の通行が出来ないですから、街道の警備を重視した工作隊が編成されて再びやって来るでしょうね。囚人が駆り出されてくるのであれば救出しなければなりません」


 俺の言葉に、テーブルにいる連中が重々しく頷いた。


「そうなれば、この間の中隊を壊滅させたのは問題ではないか? さらに戦力を上げて来るぞ」

「いくら上げても問題はありません。ここの地形が我らの味方をしてくれます。街道の両端が崖であれば街道で戦闘を行える部隊は1個小隊を超えることができません」


「なるほど、結局は街道に長く伸びた部隊になるって事だな。だが、足止めは出来ても救出は難しくないか?」


 俺の話に課題を出したザイラスさんは、敵の編成を少し考えたんだろうな。

 テーブルの上に作戦地図を乗せて、俺の想定する敵の編成を街道の上に並べてみた。

 瓦礫を撤去する囚人の工作部隊の前後を2個小隊が挟むという形になる。


「これで救出ができるのか?」

「10人中、数人を救出することになるでしょう。ですが、武器を手にして最後を迎えることができます。それは武人としての名誉と言えるのでは?」


 俺の言葉に全員が唸っている。

 初めて、犠牲者を前提に俺が作戦を立てたのを呆れているのかな?


「バンターの作戦で問題ない。戻って牢獄の中で飢え死にを待つより遥かにマシだ。俺が次の工作隊に入っていたとしても、その作戦で討ち死にした時には笑みを浮かべるに違いない。それに、助かるチャンスがあるのだ!」


 トーレルさんはそう言っているけど、唇を噛んでいるぞ。

 だが、その話に皆が頷いていることも確かだ。


「今後の作戦次第では助かる者の数も増えるだろう。我らはまだまだ非力だ。バンターもそれを重々承知している。囚人の救出で我らが数を減らすことも考えねばなるまい。たぶん5日も置かずにやって来るだろう。これからゆっくりと作戦を練る事にしようぞ!」


 王女様の鶴の一声で、俺達は作戦地図を元にそれぞれの考えを声に出す。

 作戦上の不明点は直ぐに騎士が現場に向かって確認をしてくれるから、地図の上には色々と書き込みが増えてきたな。

 俺達の部隊編成もトーレルさん達の救出と離散農家の若者が参加してくれているから、少し人数が増えている。

ザイラスさん配下の3つの分隊は10人編成になったし、トーレルさんのところは10人ずつ2つの分隊だ。

 威勢のいい軽装歩兵は12人の分隊だが、25歳位のグレーテンさんが率いている。ラディさんはネコ族の4人と農民兵達を率いているが、15人の石弓兵の中には4人も魔導士がいるから崖の上は十分に任せられる。

 ドワーフの2人はその都度自分の好きな場所に向かうんだが、今回はどこを選ぶんだろうな。

 手元の編成表を見ながら、パイプを楽しんでいると俺に声が掛かった。


「要するに分断だ。それは俺達にも理解できる。だがその方法と分断した後の対処が課題という事だろう?」

「俺も賛成です。如何に相手を散らせるかが今回の作戦の鍵になるでしょう。それに、昔の軍略の本で読んだのですが、俺達にはもう1つの部隊がいるんです。その存在も軽くは無いですよ」


 作戦地図の囚人達の駒を指差したところ、皆の視線が一斉に俺に向いた。


「絶体絶命の場合に人間はどう行動するか? 運命を受け入れるという事もあるでしょう。ですが、武人であれば最後のチャンスに掛けるんではありませんか?」

「少なくとも1個小隊規模の囚人のはずだ。それより多いかもしれんが、彼等にも戦闘に参加させるのか?」


 立ってる者は親でも使えって言うしね。怯えて身を潜めるとも思えないし、森に逃げ込まれたら後で捜索するのも面倒だ。一緒に戦ってもらえたらかなり作戦が楽になるぞ。


「大軍略家のフェンドール殿さえ、霞んで見えますな」

「全くじゃ。ザイラス達のテーブルに降って来たのは。我の日頃の信心に外なるまい」


 そんな王女様達の会話を聞いてマリアンさんがうんうんと頷いているが、どんな神に祈ってるんだ?

 ひょっとして、俺がこの世界に飛ばされてきたのは、その祈りのせいなんだろうか?

 剣と魔法の世界だからな。神のご加護ってのも、有りなのかも知れないぞ。


「襲撃のタイミングですが、残骸の撤去工事がほぼ終わったころ、荷車が通れる状態になった時とします……」


 あまり、この作戦を続けるのは問題だろう。大掛かりに山狩りをされるとも限らない。

 長期間街道を閉鎖するのは色々と問題が出て来るのだ。

 

「襲撃の合図はラディさんの部隊による一斉攻撃です。リーダスさんとグレーテンさんはラディさんと一緒です。全体の指揮はラディさんにお願いします。色々と荷物を降ろしたり大物を投げないといけませんから忙しいですよ」


 北の崖の上から囚人達を監視する敵兵を一気に倒し、街道の両側に火炎弾と石弓を打ち込んで東西に分断する。あわせて囚人達に武器を崖から下してあげれば良い。東西から挟み込まれないように崖の上から援護すれば……。


「俺とトーレルで東西から街道に突っ込めば良いのか……。単純だが、俺達には分かり易い。俺は東で良いな!」

「となると私は西になりますね」

 ザイラスさんの言葉にトーレルさんが頷いているぞ。


「トーレルだけでは戦力が足りんじゃろう。我の部隊とバンターは西になるな」

 勝手に自分の配置を決めているけど、まあ問題は無いな。

 部隊の名を記入した駒を作戦地図の上に置いた。


「もう一つの問題が、襲撃のタイミングと皆さんが隠れる場所になります。人数が少ない時は街道の傍に隠れていましたが、これだけの部隊になると敵に発見されかねません。森に潜んでください。雪で足跡が残る場所もダメですからね。明日にはそんな場所をあらかじめ見付けねばなりません」


 俺の言葉を、いつの間にか手にしたワインのカップを持ちながら頷いている。ちゃんと見つけないと後が苦しいんだけどな。


「グレーテンとリーダスは敵兵の武器を纏めてカゴに入れておけ。簡単な槍も作っておいた方が良いだろう。数は50もあれば良い」


 俺が最初に全員を救出することは難しいと告げたけど、作戦が上手く行けばかなりの人数を助けられると分かったのだろう。作戦を考える前と後では明らかに表情が異なる。


「バンター殿の護衛はいらないのですか?」

「まあ。イザとなれば我とマリアンがおる。それに今までの襲撃で、4人も倒しておるのだ。身を守ること位は出来ると信じたいものだが……」


 トーレルさんの質問に王女様がそんな話をしたから、テーブルから失笑が漏れてきた。

 かなり失礼な話だけど、ちゃんと王女様を守ったんだからもう少し、持ち上げてくれても良かったんじゃないかな?


「バンターの剣技には期待するな。だが、バンターの考案した石弓は強力だ。王女様達5人が石弓を持ち、3人が弓を持つ。槍衾を作れば後ろから順次敵兵を倒してくれるぞ」

 ザイラスさんもそんな事を言ってるぞ。せっかくリーデルさんが作ってくれた刀があるんだ。つかってみようかな? でないと、いつまでも俺の評価がさっきの話になってしまいそうだ。


翌日は、早朝から砦の中が慌ただしく動いている。

 直ぐに敵の部隊がやって来るわけでは無いんだが、作戦が決まればそれに向けて色々と準備をしなければならないようだ。

 打ち込みようの丸太を使って朝の練習をしていると、トーレルさんと分隊長が少し離れて俺の打ち込みを眺めている。

 ザイラスさん達だと、俺の木刀を奪って打ち込みの基本を教えてくれるんだけど、長剣の使い方だし、腕力が無いと真似することも困難だ。

 自然と、昔ならった剣道の打ち込みになるんだが、これって流派は何になるんだ?

 ひとしきり打ち込みが終わったところで、ロープを巻いた丸太に礼をすると、屯所の壁際のベンチに乗せた俺のバッグから水筒を取り出して水を飲む。


「変わった剣の使い方ですね。初めて見ました」

「丸太に頭を下げる男もですよ」

 トーレルさんと分隊長が近付いてきて感想を述べる。

「一応、俺の練習に付き合ってくれましたからね。感謝するぐらいはしませんと……」


 俺の話を聞いて、微笑みながら頷いている。

「確かにそうですね。若いじぶんには、皆と一緒に散々古い革ヨロイを相手に打ち込みはしましたが、誰も革ヨロイに頭を下げる者はいませんでした。騎士は誠実であれ、と教えられましたがバンターさんの言葉には頷けるものがありますよ」


 とは言え、急に始めたらおかしくなったと思われるぞ。

 俺なら、少しぐらいの奇行は大目に見てくれるんだけどね。


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