表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/209

SA-159 地図を活用しよう


 三角帆の操船は難しいものがあるのかも知れない。

 風上にも進めると教えておいたんだけど、小型の船を作って操船の訓練に励んでいるようだ。

 ある意味、石橋を叩くやり方ではあるが、俺だって良く分からないからな。どんなリスクがあるか分からないから、十分に訓練を積んでほしいと思ってる。

 そうなると、当座の課題は2つの王国から派遣される人物の宿舎と言う事になる。やはり砦内の客用建屋を改造することになるんだろう。

 1階に2部屋と台所、2階に部屋を2つで我慢して貰おうかな。夫婦者と従者が数人なら十分だと思うけど、マリアンさんに監修して貰えば良いか。


 なるべく他の人に仕事を依頼して、俺は地図とにらめっこの日々が続いている。

 サディ達が興味を持って地図の見方を聞いて来るけど、その時はキチンと教えてあげることにしている。

 何といっても測量によって作られた地図は、周辺諸国を含めても初めての事だ。これがどれだけ役に立つのかを考えると、優越感に浸ることができる。

 シルバニアの東の尾根からヨーテルン町までの地図だが、最初の用水路建設には丁度良い。レデン川からアルテナム村を経て屯田兵の開墾する東の砦の西部を南に向かって最後にはレーデル川に注ぐ用水路だ。


 途中に何カ所か調整池を作っても良いだろう。上手く行けばレーデル川から魚も上がって来るかもしれないな。

 高低差を上手く調整すればそれ程流れも速くならないだろうし、取水口はヨーテルン町の北部にある水車用のせきを使えるだろう。水量調整は本流の放水口をV字にすることで水面の高さをある程度制御できるだろう。


 いくつかのラフな絵を描いて考えをまとめておく。石工職人に説明する上でも、絵があれば分かり易いに違いない。


「中々凝った物になるようじゃな?」

「水を治める者は国も治められる。俺の国ではそんな話も聞いたことがあるんだ。凝って見えるけど、この種の構築物はあちこちにあったよ」


 ちょっと郊外に行けば農村地帯が広がってたからな。

 きちんと設計されたものかどうかは分からないけど、昔からの使い方もあったに違いない。簡単なコンクリート作りの堰や水門、それに用水路……。あれらは水田には欠く事が出来ないものだったに違いない。

 ここには水田は無いけど、荒地の開墾には水が無くては始まらないと思う。


「我は、シルバニアの民を幸せに出来るだろうか?」

「出来るかではなく、するんだ。すでにサディはこの国の初代女王として君臨している。俺達が毎日食事を取れるのも、農民が畑を耕し、鉱夫が銀を採掘し、ネコ族の人達が羊を育てているおかげだと思わねばならない。彼らの暮らしが少しでも良くなるように、仕事がもっと楽になるようにしなければね」


 それに、戦が起こらぬ王国にしなければなるまい。万が一起こってしまっても、彼らの暮らしに影響が出るようでは施政者としては問題だろうな。

 そんな仕組みを考えてはいるんだが、中々思うようにいかないんだよね。


 マリアンさんがサディを連れてクリス達と散歩に出掛けるようだ。

 砦の広場の周囲に作った花壇の世話をするのかも知れないな。少しは女性らしい趣味を見付けてくれてほっとしている。

 クリスもよちよち歩きを始めたから、砦勤めの機動歩兵達にも可愛がられているようだ。

 あんまり俺のところにやって来ないのが残念なんだけど、王族の間では早くに子共を別に育てる習慣があるらしい。

 たぶん、王族が全滅することを避けるための慣習なんだろうけど、情操教育上問題があるような気がしないでもない。


 1人パイプを咥えて考え事をしているところに、ラディさんが現れた。

 ウォーラム王国の状況が少し分かりそうだ。

 テーブル越しに座ったラディさんにワインのカップを渡して、自分のカップにも少し注ぐと、彼の報告を聞くことにした。


「ウォーラム王国の穀物は例年より不作のようです。これで2年連続した不作ですが、神皇国より持ち出した宝物がありますから、数年は商人から食料を買えるでしょう」

「やはり、農民の無理な徴兵が祟ったのかも知れませんね。それでも兵士を農村に帰さないと?」

「さらに徴兵を募っております。全くあれでは……」


 トルニア王国が内政に重点を移したのに対し、ウォーラム王国は更なる兵力増強に走ったらしい。

 国民総数にタイス路兵士の割合は、かなり高いんじゃないか? あまり兵力を上げすぎると国庫が破綻するぞ。


「西の尾根の監視所の下に柵を作った方が良さそうだな」

「すでに、尾根より西に矢が届く距離で柵を作っています。かなり急峻の尾根ですから守りは容易でしょう」

「トレンタスの南の屯田兵は?」

「現在2個中隊程の戦力です。重装歩兵が西の砦と峠の関所を守っていますから、合わせて1個大隊規模になりますし、王都の機動歩兵2個中隊と、騎馬部隊が2個中隊。先ず抜かれることは無いでしょう」


 尾根の先端部分には、北に張り出したトーレスティの領土と砦もある。尾根を上ろうとしたウォーラム王国軍を背後から攻撃できそうだ。

 今のところ、だいじょうぶのようだが、引き続き情報を仕入れねばなるまい。


「行商人は関所を越えているのでしょうか?」

「数家族が行商を行っているようです。我等は同行していませんが、金払いは良いと聞いております」


 それなりに富の分配は行ったと言う事なんだろうな。

 征服されたリブラムの方がどうなのか気になるところだ。あまり待遇に差を着けるようでは、内乱の可能性も出てくるぞ。

 

「できれば、旧神皇国とヨーレム王国の情報も行商人から手に入れてください。ウォーレム王国がヨーレム王国を狙う事になればかなり厄介な事態になります」

 俺の言葉にラディさんが頷く。

 すでに息子さんを使って活動しているのだろう。周辺の行商人との関係は上手く行っているようだ。


「バンター殿に教えていただいたヤギのチーズの需要が結構高いのに驚きました。私達の方でさばいておりますから、それで色々と情報を仕入れることができます。毛糸の需要もそれなりですね。北の村では穀物生産は出来ませんが、狩猟時代よりも安定した暮らしをしています」

 少しずつ家畜が増えているみたいだな。獣の習性をよく知っているネコ族ならではのことだろう。

 当初は補助金を毎年渡さねばと思っていたのだが、昨年よりは補助金なしで暮らせるようになったらしい。

 2個小隊の部隊を派遣してくれているから、当然税金は受け取らないのだが、将来的には同一税制に組み込みたいと思っているところだ。

 まあ、10年は今のままで良いだろう。まだ、三分の二近いネコ族が狩猟の旅を継続しているのだ。


「ところで、例の畑は何とかなってるのかな?」

「隠匿畑ですね。少し背の高い牧草を育てていますが、規模を広げるおつもりですか?」

「数年で別の植物を育てたい。雑木に近いものだが、背丈は精々ラディさんと同じ位だ。実も食べられるけど、それは育てる連中の楽しみで良いでしょう。酒までできますよ」


 そんな産業でカモフラージュできそうだ。

 桑の苗を早いところ探さないとな。枝を切り取って水に漬けて運べば何とかなるんじゃないかと思ってるんだが……。


「銀貨の図柄をミューが選んだと聞きましたが?」

「ああ、サディやエミルダさんも良い絵柄だと言ってたよ。俺が昔いたところでは、建物や花なんかもあったからね。

「ですが、我等ネコ族は別な見方をしているようです。王国で一番流通する高額貨幣に一族の者が選んだ図案を使うと……」


 最後は小さな声で聞えなかったが、ラディさんも喜んでいるようだ。

 10L銅貨にはミクトス村のリンゴに似た実を付ける花を使って、1L銅貨は麦の穂を描くことになっている。

 俺達の王国の硬貨が花シリーズなのも特色があって良いと思うな。


 俺にあらためて頭を下げると、ラディさんは広間を出て行った。

 さて、再び地図を眺めよう。

 大まかなルートはできたから、次は途中の調整池を考えないとな。

 調整池から支線を延ばすことも考えなければなるまい。 池で魚も育てられるだろうし、水路の水量があれば製粉用の水車も設けられそうだ。


 秋も過ぎたころに、測量隊を呼び寄せて状況を確認する。

 どうやら、王都から北部を重点に測量を行っているらしい。


「そろそろ、地図を元に工事を行おうと思う。工事にも測量が必要だ。現在は2部隊で測量をしているが、1部隊を工事の方に回すことになる。1か月程度で測量を交替して貰おうと思ってるんだが」

「我等もその方が助かります。親が嫁を貰えと煩くて……」


 良い親じゃないか! 仕事を趣味にしては人生がつまらなくなってしまう。

 やはり、人並みに暮らしてほしいと思うのが親心だろう。

 となると、あの屯所では小さすぎるんじゃないか?


「全員分の家を何とかしよう。それだけの値打ちのある仕事をしてるんだ。場所はどこが良い?」

「なら、旧王都ですね。長屋でも良いですけど、なるべく一緒の区画で暮らしたいと思っています。それに、元宮廷画家の人達も一緒であれば助かります」


 そう言う事なら、ザイラスさんに頼めば良いな。

 王都の三分の一は旧貴族街だ。戦火に会わない建物を色々と流用してるが、まだまだ土地もあるし建物も余ってる。


 工事は来年の春を予定して、1部隊をアルデス砦に派遣して貰う事を約束する。ザイラスさんに宿舎の斡旋をして貰えるよう。後でマリアンさんに文書を作って貰おう。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ