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SA-153 アルデンヌ大聖堂が新たな本山?


「出掛けてしもうたな。我等はずっと穴掘りをするのか?」

 ザイラスさん達を見送りながら、ポツリとサディが俺に呟く。

 行きたいのは分かるけど、精々ここまでにしてほしいものだ。穴掘りをしている場所なら安全だからな。


「クレーブルに戻りますか? まだ連絡が来ないと言う事は、かなり揉めてますよ」

「神皇国を除外した経済圏の構築じゃったな。そんな面倒な場所には行きとうないぞ。そう言えば、もう一つあったのう。エミルダ叔母様はどうしておるのじゃろう」


 そんな話をしながら、焚き火の傍に腰を下ろす。荷馬車の側板を使ってベンチをいくつか作ったようだ。

 焚き火の傍に置いてあるポットからカップにお茶を注ぎサディに渡すと、自分のカップにもお茶を注いだ。

 もう直ぐ日が落ちるが、ザイラスさん達はちゃんと補給部隊を見付けられるだろうか? 見付けられなければ、機動歩兵は手ぶらで帰還し、ザイラスさん達はヨーレム侵攻部隊の背後を攻撃して帰る事になるだろう。

 結果はどうであろうとも、神皇国の東に目を向けることになるだろうな。


 通信兵が駆けよって来た。

 何かあったのだろうか? 焚き火を囲む俺達は息を整える通信兵に注目する。


「エミルダ様の使いで神官がやってくるそうです。到着は明後日になるとの事です」

「御苦労。ザイラスさん達が出掛けているから、西にも目を向けてくれ」


 俺の言葉に騎士の礼をして、通信兵が再び暗闇に溶け込んで行った。


「今頃、神官が?」

「たぶん、エミルダさんの結論が出たんでしょう。俺達は歴史に埋もれるかもしれませんがエミルダさんの名は残りかもしれませんね」


 俺の言葉が理解できないような表情をしているけど、ある意味、宗教改革だからな。そうなると、もう一つの方も気になる。クレーブル王宮は商業ギルドのトップを交えて激論を繰り返しているのだろうか?

 いくら議論しても良いけど、方向性位は教えてくれてもよさそうな気がするな。


 翌日の夕暮れ前に、フィーナさん達が10台以上の荷車を新たに加えた車列を作って戻って来た。

 その夜更けには、ザイラスさん達も戻って来たが、全員無事が何よりだ。


「フィーナ達も無事に戻ったようだが、護衛部隊が1個小隊随行していたぞ。ヨーレル侵攻部隊も後ろに防衛部隊を配置してはいたが……、篝火を焚くようではな。居場所を教えてくれるようなものだ」

「やはり、俺達の襲撃を予想はしていたことになりますね」

「予想はしても、後ろに気を取られるようでは前を攻撃出来ぬ。詳しくは分らなかったが、侵攻部隊の足止めは確実だ」


 クレーブル王国の国境近くの村を襲おうとせずに、全軍を南に向けるべきだったんだろうな。

 2方向に戦端を開こうとしたのが間違いの元って事になる。それに相手の状況を知らなかったのも大きな敗因だ。

 さて、南のウォーラムの部隊は、いつ引き上げるのだろうか?

 それによっては俺達の方に圧力を掛けてきそうだから、早めに杭だけでも移動させるか……。

 

「まだ諦めんと言う事じゃろうか?」

「現場で判断できないと言う事でしょうね。侵攻部隊の指揮官はいるんでしょうが、全体の戦略をどこで執っているかが問題ですね」

「どういう事だ?」


 ザイラスさんが俺に聞いてくる。あまりこんな話は、聞いたことが無いのかも知れないな。


「戦をするには戦術と戦略の2つが必要です。簡単にいえば戦略とは戦の目的と戦果を考えるもので、戦術は実際の戦の方法を考えると言う事なんですが……」


 戦略を考えるのは国王や将軍だ。最小の被害で最大の効果を得るための方法を考えねばならない。

 戦術は敵を前に如何に勝ちを得るかの為のものだ。ある意味スケールの違いにも見えるけど、戦略は戦を伴わずに行う事もできる。

 シルバニア王国とトルニア王国が名目上、矛を収めているのもそんな感じだな。互いの戦略の一致と言う事だと思う。

 その点ではウォーラム王国の戦略は少しお寒い感じがするな。

 2つの王国は滅ぼしたようだが、肝心のヨーレム王国侵攻に頓挫してしまった。

 現場の指揮官がいくら考えても、敵の火炎放射器前にしては突撃など愚の骨頂でもある。一旦下がって、侵攻の方法を考えれば良いのだが、それもやっていないようだ。

 あれでは兵士の損耗を招くだけだろうにね……。


「ようするに、引くに引けない状況になっていると言う事か?」

「早い話が……。原因は2つ考えられます。現状を本国の戦略を練っている将軍達が知らないのか、はたまた、現場指揮官が更迭を嫌がっているか……」

「だが、神皇国の予備兵力まで侵攻部隊に加えているのだぞ!」

「賞罰には厳しいと聞いたことがあります」

 

 どちらにしても問題だな。だが、俺達には都合が良い。

「もうすぐ、東からの援軍も到着します。明日からの穴掘りは頑張ってください」

 俺の言葉に、イヤイヤながらも頷いてくれる。

 あまり続けると士気を下げそうだな。


全部隊を西に移動して再び空堀と土塁作りを始める。

 測量部隊の作った神皇国との国境線は80km程もある。万里の長城のような威容はないが、その内に観光名所になるかも知れないな。


 そんな工事を行っている俺達のところに、3人の神官が訪ねてきた。

 場所を移動していたから、探すのに苦労したかも知れない。

 大きなテントに盾を使ったテーブルと簡易なベンチを備えた指揮所に招き入れ、用向きを聞いてみる。


「我等は神皇国教団本部の修道院で神の教えを学んでおりました。先のウォーラム王国の侵攻をいち早く察知してクレーブル王国へと逃れることが出来ました……」


 侵攻は事前に知ることができたらしい。ウォーラム王国内の祠を守る神官が知らせてくれたらしい。

 それを聞いてからの行動が生死を分けたという事だろう。この3人は運が良かったんだろうな。


「クレーブル王国の国境付近に作られた町で、新たな祠を作って暮らそうと思っていたのですが、エミルダ様の招きで、大勢の神官が修道院に向かいました……」


 そこで新たな宗教組織の協議が行われたんだな。ここにこの3人がいると言う事は、エミルダさんの考えで意見の統一を見たと言う事になるのだろう。


「我等は、新たな教団の設立を宣言しました。シルバニア、クレーブル、トーレスティ、それにトルニア王国が我等の教団の教義に従うとの内諾を得ることが出来ました。バンター殿、アルデンヌ大聖堂はシルバニア王国のみの施設ではありませんぞ! 新たな教団本部として機能することになり、聖堂騎士団はその守護者として位置付けられることになります」


 ザイラスさんがいたら、さぞかしおもしろい反応を見せてくれたに違いない。

 ここにはサディ達がいるだけだからな。一番驚いてたのはマリアンさん位だし、サディやミューちゃんは他人事で聞いている。


「そうなると、修道院を大きくしないといけませんね。それはこの戦が一段落してからになりますが?」

「今のままでも十分です。近くに村人が幾つか住宅まで建てて頂きました。我等教団神官の新たな出発を個々の中に記念碑を刻めば良いのですから」


 これで、唯物的な神官がいなくなったわけだ。形から入るのも大事なんだろうけど、宗教は心の安息を願うものであるはずだ。日々の生活が出来るだけで満足と言う事になるんだろうか……。


「後1つもよろしくお願いします。帰りにクレーブル王宮に寄るのでしょう?」

「ご存知でしたか……。我等で貨幣を鋳造することは行いません。はっきりと宣言して修道院に戻るつもりです」


それだけ俺達に伝えると、神官達は粗末な荷馬車に乗って東に向かった。

 それにしても、トルニアまでもが俺の思惑に乗るとはどういうことだ?


「おもしろくなってきたのう。ウォーラムよりトルニアが先を見ておる。自国の民衆を思えば宗派替えは当然じゃろう。それに、ウォーラムの息の掛かった教団発行の硬貨を使うのは、富を蓄える上でも問題になろうからな」


 そう言う事か。宗教的には今よりはマシになるだろうし、何といっても商業取引上の課題を何とかしたいと言う事なんだろう。

 本来ならクレーブル王宮に特使を送りたいところだが、戦の直ぐ後だからそうもいかなかったと言うのが真相に近いんじゃないか? 

 中々世渡りが上手だぞ。


 神官達の来訪から10日近くなって、ようやく3王国で硬貨の発行に係わる条約ができた。

 新たな硬貨は貴金属の含有率が8割らしい。鋳造は商業ギルドが請け負い、材料費は発行する王国が用意する。また発行にあたっては2割分の貴金属を国庫に用意することが条件になるとの事だ。


「めんどうな条件になるのう……」

「ええ。ですが、これなら硬貨そのものを使って海外貿易も出来そうです。旧硬貨と違い、格段に貴金属の比率が上がりますからね」


「全く、転んでもタダでは起きない奴だ。これもバンターの布石って事か?」

「いや、あくまでも神皇国が滅びた事で起きる事です。せっかく採れた銀塊をこれからは上納しないで済みますし、差益で神皇国を富ませる事もありません。とは言え、アルデンヌ大聖堂には寄付をしていくつもりですよ」


 俺の言葉にサディとマリアンさんが頷いている。

 さて、残ったのはウォーラム王国の後始末って事になりそうだ。

 それにしても、俺達の工事がまだ知られていないのだろうか? こっちが相手の軍を心配になってしまいそうだ。





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