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SA-149 デリム村の戦い


 村の監視台から、敵の接近を知らせる連絡が入った。

 1km程離れた場所に南北に展開しているとの事だ。俺達の急造の陣の中にも水を入れたタルやオケがあちこちに置いてある。火矢への備えは十分のようだ。


「クリスは預けてきたのじゃ。やはり、今夜であったな」

「盾が余ってれば南に伸ばしてください。まだ、砦への襲撃は始まっていないようです」

 

 すでに、ザイラスさん達は砦を出て、砦から東に待機しているころだ。

 俺に頷いて南に走って行ったけど、人に頼めば済むと思う。ひょっとして南の防衛を指揮するつもりなんだろうか?

 

 村の監視台から通信が入ったようだ。

 直ぐに俺のところに通信兵が駆けて来た。


「北に光が見えたそうです。呼応したように西の部隊が前進しているとの事です」

「御苦労。……聞いたか! いよいよ始まるぞ。持ち場について迎撃だ!」

 

 俺の周りに集まっていた部隊長達が自分の持ち場に急ぐ中、サンドラを呼び止めた。


「カタパルトで爆弾を使え。3回までなら6台で発射してもだいじょうぶだ。敵が柵に取り付いたところで放て」


 俺の言葉を聞いて少し喜んでいるようだ。

 せっかく持ってきたんだからな。使う場所があるとすれば今がチャンスだろう。

 何度か使えば敵も侵入を躊躇するはずだ。


 石弓と短弓の組み合わせだから、石弓をセットする隙を突かれないだろうし、トーレスティの軽装歩兵は槍を持っている。敵も槍を持ってはいるだろうが、荷馬車と盾の障害があるから数の少なさをかなりカバー出来るんじゃないか?


 西に向かって光球が放たれる。

 数十m先で地面に転がったが、光球の明かりで敵の姿が浮かびあがった。

 すでに300m程に近付いているぞ。駆けだすまでもう少しだな。


 突然、西から蛮声が上がる。

 槍を前に突き出して一斉に突っ込んで来た。

 その後ろに、もう1団の姿が見える。2段で攻撃するのか?


 前方の杭に張ったロープに足を取られて敵軍の動きが鈍った。次の瞬間、杭の列にドォーン! と爆弾がさく裂して周囲を照らす。

 矢とボルトが次々と射かけられるのがこの位置でも分かるほどだ。


 それでも、敵軍の兵は突撃して来る。

 盾の隙間から槍が突きだされると、周囲の荷車から怒号と叫び声が聞こえ始めた。

 再び、爆弾の炸裂が広い範囲で起きるが、敵は怯む様子も無い。

 俺達の弓兵はどれだけ矢を持っているんだろう。まだ矢を放っているぞ。

 今のところは持ちこたえてるな。

 サディ達の方に回る敵兵は少ないようだ。魔導士部隊とマリアンさんがいるから少しは安心できるんだが……。


 始まって、1時間も過ぎたころ、杭付近でこちらに矢を射かける敵の弓兵がバタバタと倒れるのが見えた。やって来たな……。

 

「頑張り時だ。敵の背後を突いたぞ!」

「「オォォ!」」


 俺の叫ぶような声に、機動歩兵が答えてくれる。

 事前に作戦を伝えてあるから、ザイラスさん達が敵の後ろに回り込んだことを理解してくれたようだ。

 前にも増して敵に槍を突き込んでいる。短弓の連中は矢を撃ち尽くしたらしく、短槍を持って盾を越えようとして来る敵兵を相手にしている。


 そんなところに3回目の爆弾がさく裂した。盾から30m程の距離で炸裂したようで、押し寄せていた敵兵の一部が俺達に背中を見せる。

 たちまち伝染するように体を返すと、西に向かって逃げ出していく。


 歓声があちこちから聞こえてくる。

 勝利の雄叫びなんだろうけど、伝令に急いで各部隊に点呼を取るように命じた。

 勝ったことは勝ったけど、損害が多いのなら痛み分けになりそうだ。


 そんなところに、ザイラスさん夫妻がやって来た。

 一暴れしたから、何となくご機嫌な顔をしているぞ。確かに策通りではあったのだが、まだ結果の確認が出来ていない。


「良いところに来てくれました。車列の障害の南北に部隊を配置しといてくれませんか?」

「敵の反攻を考えたか……。一応、リックとレクサスがその位置を固めているから大丈夫だ。ところで、陛下は?」

「南の指揮をしてます。現在点呼をしていますが、まだ結果が来ていません」


 ザイラスさんがテーブル上に広げた地図の駒を少し修正してくれた。

 どうやら騎馬部隊は2個中隊もいなかったらしい。

 数回矢を浴びせると、直ぐに去ってしまったそうだ。


「2個小隊は倒しただろう。騎馬部隊は俺達の方が多いな」

2人でワインを飲みながら話してくれたけど、これで今夜は終わりと思ってるのかな?


「ザイラスも帰っておったか。バンター、南は軽傷が2人じゃ。治癒魔法で処置済じゃが、他はどうなっておる?」

「現在、点呼中です。報告は女王陛下が最初ですよ」


 結構時間が掛かってるな。やはり負傷者が多かったのかも知れない。

 焚き火でパイプに火を点けて待っていると、3人の部隊長が帰ってきた。

 やはり20人以上の負傷者が出たようだ。


「負傷者は魔導士の方々に治療して頂きました。重傷者はおりませんし、戦死者もおりません」

 セフィーさんが驚いたような口調で報告を締めくくった。

「疲れているところを済まないが、敵の方も頼む。早く楽にしてやった方がいい奴もいるだろう」

 俺の言葉に頷くと、再び部隊に戻っていく。

 敵兵の軽症者は治療してあげた方が良いし、すでに手遅れの連中には長く苦しまずに葬ってあげるのが慈悲なんだろうな。慈悲の一撃という言葉がこの世界にはあるのに最初は驚いたけどね。

 外科医療が未発達である以上、仕方のない事なのかも知れない。


 夜が明けると、目の前の惨状があらわになる。

 早いところ、穴を掘って埋めねばなるまい。盛夏も過ぎ去ろうとしているが、まだまだ暑い日が続く。死体は直ぐに腐ってしまうだろう。


 穴を掘って、捕えた敵の捕虜を使い敵兵の亡き骸を穴に埋める。墓標はこの世界では作らないそうだ。土から生まれた者は土に還る事を教団は教えているらしい。


「2個中隊は葬った勘定だ。俺達を再び襲う事は考えられんが……」

「そうでもありませんよ。ヨーレムの侵攻部隊が南西に向かえばそれどころではなくなります」

 それに、政庁に駐屯している部隊も気になる。まだまだ油断はできない。


「それで、これからどうするんだ? 思い切って侵攻するか?」

「それは、ちょっと、……ですね。とは言え、やられたらやり返すのが俺達の常ですから、敵を掻きまわしてみますか?」


 騎馬隊だけで1個大隊がいるのだ。使わなければ損だからな。

 テーブルの地図を示して、作戦を伝える。


「昨夜、砦を襲った騎馬隊を早期に壊滅させたいです。陽動に引き出されたところを見ると、それほど遠くに退いてはいないと思います。砦から西に偵察を行って敵騎馬隊を捜索してください。ついでに、軽装歩兵部隊の集結地を探してくれると助かります」


「見付けたら、包囲殲滅もこの部隊数なら可能だ。深追いしなければ、それで良いな?」

「それで良いです。戦はまだ続きますから、あまり暴れないようにお願いしますよ。俺達は、屯所に引き上げます」


「引き上げるのか?」

 ザイラスさんに答えた俺に、サディが問い掛けてきた。


「引き上げますよ。まだまだ戦は続きます。今回はヨーレム侵攻と同時にトーレスティ侵攻の足掛かりを得ようとした敵への牽制です。上手い具合に、敵兵を間引き出来ましたから、再び屯所で時を待ちます」


 ある意味、前哨戦ではあったが機動歩兵の緊急展開の訓練としても役立った。かなり使える部隊だぞ。トーレスティの部隊にも短弓を持たせれば、さらに使える部隊になるんじゃないかな。

 

 翌日、捕虜を伴って屯所に戻る。

 飼葉は村に保管して貰った。春になっても残っているようなら、肥料として使って貰っても良いだろう。

 のんびりと1日掛けて屯所に戻ってみると、数台の荷馬車がやって来ていた。

 食料や武器の補充は定期的に必要になるからな。

 数十名の捕虜を荷車に乗せて、補給部隊が王都に帰っていく。


 屯所に戻ると、矢の補給や荷馬車の修理が始まる。荷馬車の台数が多いからどうしても何台か故障してしまうようだ。修理専門のドワーフ達がいるから何とかなるようだが、機動歩兵で簡単な修理ができるようでなくては困る事になりそうだ。


 そんな俺達のところに、測量部隊が地図を届けてくれた。

 国境の柵を元にした地図らしいが、かなり詳しく描かれている。少なくとも、砦と見張り所、村や町の概略位置とこの屯所は描かれている。

 ありがたく使わせて貰おう。

 礼を言いたいけれど、すでにシルバニアに向かったらしい。

 シルバニアの詳細地図ができあがるのもそれ程先の話ではなさそうだ。


 新しい地図を指揮所のテーブルに乗せて駒を乗せていく。

 北の国境に展開する欺瞞部隊を翻弄するのは、もう少し先になりそうだな。

 それよりは、ヨーテルンに侵攻した部隊の後ろを攻撃した方がおもしろそうだ。


 2日程過ぎた夜半に、ザイラスさん達が帰ってきた。

 眠る前に報告してくれた内容では、敵の騎馬隊はさらに縮小することになったようだ。騎士だけではなく軍馬を狙ったらしい。


「すでに騎馬隊とは言えなくなっているな。本国から軍馬を取り寄せるとしても、訓練は必要だ。この部隊は春まで考えずに済むぞ。それと軽装歩兵だがさらに1個中隊を削減した。西に離れた場所で陣を構えたようだが、騎馬隊と同じく侵攻は無理だ」

「成長の1個大隊が移動して来れば?」

「それも無いだろう。移動するとすれば南になる。ヨーテルンとトーレスティの2方面で同時に戦えぬと彼等も悟るだろう」


 先ずはヨーテルンと言う事だな。

 それまでには東のトルニアを何とかしたいものだ。

 あっちの戦次第では俺達の苦労も減ると思うんだが……。



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