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SA-144 我等聖堂騎士団

 神皇国より街道を沿いに避難民が少しずつ、トーレスティに入ってくる。

 これでウォーラム王国の侵攻が始まったら一気に避難民が溢れそうな気配だ。このやり方はあまり良くないな。せっかく神皇国を手に入れても、メリットが無いように思える。傀儡の神官達で教団運営を図ろうとは思ってもいないのだろうか? 諸国の情報が手に入り、硬貨の鋳造で利ザヤを稼ぐのが一番だと俺は思うんだけどね。


「もうすぐ初夏になる。ウォーラムは動かぬのだろうか?」

「頃合いを伺っているようにも思えます。新興国の戦力は傭兵1個大隊。教団の要である神殿は聞く範囲で判断すれば要塞です。一気に神皇国の王都である政庁を押さえ神殿を破壊するとなれば……」


 簡単な地図に3個大隊の駒を置いた。2個をリドマックの先にある街道に置き、1個をヨーレムとの街道に置く。


「これで、ヨーレムとトーレスティに牽制出来ます。街道封鎖と簡単な柵で十分でしょう。それが出来た段階で軍を進めます」


 リブラム王国の投降兵を使って一気に政庁を攻撃する。

 投降兵の規模が問題だが、2個大隊以上は編成するんじゃないかな。不足分はリブラム王国の領民を徴用すれば済む。


「圧倒的に不利ではありますが、リブラム王国の兵が全滅した時に、傭兵達はどれ位残っているかですね。半分程度になっていれば、傭兵を雇う事で神殿を落せます。最初に交渉して傭兵が反旗を翻してくれるなら、投降兵と傭兵、それに最初に配置した1個大隊でヨーレムは滅ぼされるでしょうね。温存した部隊の内、1個大隊を神皇国に派遣すれば、戦力を持たない以上降伏する外に手はありません」


 皆が俺の配置した駒を眺めて唸っている。

 これも問題が無いとは言えない策なんだよな。大前提が、俺達の3王国が戦力の協力をしないということだし、万が一、背後からトーレスティがウォーラム本国の王都を攻撃したら、反撃する部隊は精々2個大隊程度だ。

 ある意味、トーレスティが越境して攻撃することが無いと言う考えを持っている。


「トーレスティは侵攻しないのか?」

 ザイラスさんがレクサスさんに問いかけた。

「トーレスティは現在の国土に満足しています。無理に周辺諸国を切り取れば将来に禍根を残すことにも繋がります」


 平和主義なんだろうか?

 たぶん昔からそうなんだろう。肥沃な国土は農業国として十分に民を満足させることが出来るのだろうな。


「バンターは仕掛けるつもりなのか?」

「仕掛けます。ですが、それはまだ先の事。現状では我等はここで待機している事で十分です。早ければ秋口、遅くとも年内には神皇国にウォーラムは侵攻するでしょう。翌年はヨーレムになりますね」


 ウォーラム王国はシルバニア王国と立地条件が似ている。

 それ程穀物生産高が高いとは思えない。自国の食料自給率が低ければ、買うか奪わねばならなくなる。

 神皇国で手に入れた食料を使ってヨーレムを奪えば、ウォーラム王国の食料自給率は格段に高くなる。

 ある意味、いずれは起こることだったに違いない。俺達の王国へ至る街道に大軍を率いていたのは、食料購入の為の銀山を奪うためだったはずだ。

 シルバニア王国への侵入が出来なければ他国の領地を奪うと言う選択がなされたことは容易に想像できる。


「神皇国からの援軍要請は無視するんですか?」

「無視はしたくないが、その書状は届かないと思うよ。ウォーラム王国よりの神官もいるはずだ。会議は割れて収拾がつかなくなっているだろうな」


 サンドラさんの言葉に答えると、悲痛な表情を浮かべている。知り合いがいるんだろうか?

 そんな連中の最後のチャンスは敵の侵攻で教団の政庁が大騒ぎになった時だろうな。大勢の避難民に紛れればトーレスティにたどり着くことが出来るんじゃないか?


「今は耐えると言う事になるのか?」

 ジルさんの言葉に隣のザイラスさんも頷いてるぞ。他の連中も俺を見てるのが気になるな。

 ある程度、俺達の戦の方法をキチンと説明しなければならないようだ。


「良いですか? 俺達の王国はそれ程戦力を持ちません。一番多いクレーブルでさえ5個大隊に陸戦隊が2個大隊です。トルニア王国の侵攻が迫ってますからトーレスティに派遣できる戦力は1個大隊程度になります。俺達シルバニアも同じ事、元々の戦力が2個大隊程度でしたからトーレスティとクレーブルには2個中隊程の援軍です……」


 ここにいる俺達でさえも、全部合わせて1個大隊程度だ。トーレスティ唯一の遊軍と言えるだろう。残りは長い国境線のあちこちに待機している状態だ。


「3個中隊の騎馬隊で強襲するのもおもしろそうですが、それはもう少し後になります」


狙い目はヨーレム王国に攻め入った時だ。3個大隊を相手にするには5個大隊程の戦力を使う事になるだろう。


「大部隊を編制することになります。ヨーレムを徹底的に叩いて降伏させ、ウォーラム王国の領土にする。ですが、これを行えばトーレスティと大きな国境線を持つ事になる。その守りをどうするかをウォーラム王国は悩む事になります」


 街道封鎖で対応できるものではない。荒地ではあるが容易に攻め入ることが出来る国境線だからな。

 トーレスティは砦や拠点をいくつも作っているし、光通信器で情報を素早く伝えることが出来る。

 それが出来ないウォーラム王国は一定距離ごとに部隊を張り付ける事になるのだろう。とんでもない数の兵士が必要になる。

 もし、新たに徴用して監視兵を充実させても、兵士は国力を消費するだけで、生産することは無いからな。


「だが、トーレスティにとっても同じ事になるんじゃないか? トーレスティの方が戦力は遥かに低いのだぞ」

「ええ、それはそうですが、トーレスティには明確な阻止線があります。国境の柵と国境近くの村や町、それに砦などは強化されて、2次防衛線を作ることが出来ます。荒地での戦は騎馬が主体でしょう。阻止線で止められたら、騎馬の優位性は失われます」

「そうなると、我等の出番は神皇国が滅びた後ということになるのか?」


 サディの質問に俺は無言で頷いた。

 ある意味、無駄飯食いの集まりである教団を解体する良い機会だと思う。

 それなりに俺達の力になってくれたけど、あれだって銀塊や財宝目当てのところがあるからな。

 清貧の教団と言えないだろう。王国の村や町の祠を守る神官の方が遥かにマシに思える。

 もし、ウォーラムが神皇国に攻め入ったら、教団が残ったとしても傀儡になる。その傀儡を無視しても罰は当たらないだろう。


「だが、それならばこそ我等に援軍要請の書状位は届けてくるはずだが……。内部分裂と言う事だったな。すでに運命は決まっていると言うのか」

「教団が無くとも、私達は天国に行けるのでしょうか?」


 マリアンさんの言葉は軍議にはそぐわないが、一番大事な事だと思う。

「すでに神が我等に残した教えはキチンと経典に書かれています。エミルダさんや修道士達が教団本部を離れて神に仕えられるのは、経典に書かれた教えを忠実に守っているからなのでしょう。神を祀る総本山が無くなっても、経典がある限り天国は我等に門を開いてくれるはずです」


 俺の言葉に手を合わせて拝まなくても良いと思うんだけど、マリアンさん以外にも同じ仕草をしている女性がいる。敬虔な信者なんだろうな。


「まるで神官だな。だが、確かにその通りだ。何といっても我等はアルデンヌ大聖堂騎士団そのものだからな」

「でしたね。旗と衣装も持ってきてますよ。明日からはそれを着ましょう」


 さっきまでの悲壮感が嘘のようだ。またあの旗の下で戦をすることになるんだろうか?


「我等もそうありたいものですが……」

 羨ましそうな表情でレクサスさんが俺を見た。何とかしてあげたいところだが……。

「少なくとも、国王の許可を取るべきでしょうね。期間限定で聖堂騎士団に編入するなら国王とて許可してくれると思います。何といっても聖堂騎士団の団長は、ザイラスさんですから」

「ああ、許可さえあれば俺達と同じ衣装で構わぬぞ。俺達騎士団の信義はただ一つ。『正義の味方』だ。今の状況にはぴったりだと思わんか?」


 正義の味方の呪縛は凄いものだ。クレーブルとトーレスティの連中の目が輝いている。昔話の一節を聞かされていたんだろう。あるべき騎士の姿としてね。


「ですが、1つ分かりません。なぜ、バンター殿はその衣装なんですか?」

「これかい? シルバニアのもう1つの部隊の衣装さ。策士という訳じゃないけど、それに近い事をしてると必ずしも正義の味方にはなれそうもないからね」


 俺の言葉に納得して頷いてるのにも困ったものだ。

 ザイラスさんなんか俺の言葉を聞いて笑い声をあげてるからな。


「まあ、そう言うわけだ。バンターは騎士団員とは異なる。その配下の者達は俺達とは異なる方法で戦をするが、あまり表面には出てこない。だが、優秀であることは確かだ。その内、見ることもあるだろう」


 情報戦と後方攪乱に特化した部隊なんて言っても何のことか分からないだろうな。ネコ族の特殊技能を最大限に発揮した部隊だから、ネコ族がいない王国では作りようもない。そんな事から、まだその部隊の有用性に気が付かないのだろう。

 ラディさんも、この場所ではあまり俺に近付かないようだ。

 離れた場所から光信号で情報を送ってくれている。


「話が横にそれ過ぎたな。まだ戦の時ではないと言う事は分かった。となると俺達はどの辺りでどんな連中と戦をするのだ?」

 ザイラスさんの改めて俺にたずねた答えを皆が注目しているのが分る。

 地図の駒をいくつか移動して皆の表情を再度眺める。真剣な表情だな……。


「トーレスティから俺達が侵攻するタイミングは2つあります。というか、この2つ以外の戦で、俺達はトーレスティの地を離れることはありません。

 1つ目は、神皇国の難民をウォーラムの軍が追撃した時。もう1つは神皇国からヨーレムにウォーラムが侵攻した時の2つです。

 基本は騎馬隊による1檄離脱。数回の攻撃で機動歩兵の陣に誘き寄せれば一網打尽に出来ます」

「山賊時代と変わらぬな。確かに我等騎士団の得意な戦法じゃ。駆ける馬上からの一斉射撃は何度も練習が必要になるぞ」


 サディの言葉にレクサスさん達が真剣な表情で頷いている。

「私達も、緊急展開の方法を教えねばなりませんね」

 サンドラの言葉に新たな機動歩兵部隊長達が頷いている。

 まだまだ練習の余地があるだろう。練習すればそれだけ戦を上手く進めることが出来る。

 機動戦を経験していないウォーラム王国には対処することも出来ないんじゃないか?




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