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SA-143 屯所を大きくする


 俺達はデリム村の東10M(1.5km)程の場所に、後方支援用の荷馬車を輪形に停めて陣を張った。その先に機動歩兵用の荷馬車を1列にして西を向けているから即応性は十分だろう。

 騎馬隊は輪形陣の東西に馬を休めてテントを張っている。

 輪形陣の周囲を騎馬隊が半個分隊で3方向を警戒しているから、現状では過剰すぎる警戒だ。


 輪形陣の中央に焚き火を作り、騎馬隊と機動歩兵の部隊長を集めて状況を再確認する。

 クレーブルとトーレスティの軽装歩兵もこれからは荷馬車での移動展開を行うから機動歩兵と称しても良いだろう。


「屯所は近いんですか?」

「ここから、もう少し南だ。距離は100M(15km)程だな。移動するのか?」

「明日にでも、移動しましょう。デリム村の防衛は十分です。南に100Mは丁度良い場所になります……」


 デリム村の300人が弓を持っているそうだ。弓以外に槍を持つ者も多いらしいから、そう簡単に蹂躙されることはない。

 指揮をトーレスティ王国軍の軽装歩兵1個分隊で執るという手筈になっているらしい。通信兵を3人置いているから連絡体制も万全と言う事になる。

 後は、国境部の簡易地図だが、まだこの周辺にまで及んでいないようだ。とは言え時間の問題ではあるな。


「戦が起こるとすれば、神皇国への侵入と言う形になるでしょう。ウォーラムからトーレスティへの侵入は起こらないと思います」

「その根拠は?」

「今まで、俺のところにトーレスティの北側国境付近でウォーラム王国の部隊を目撃した報告は入っていません。俺達が積極的な戦をしないと踏んで、国境を守る部隊を後方に展開したようですね」

 

 念の為にラディさんに調査をお願いした方が良いだろうな。

 トーレスティとウォーラム王国の国境の奥の部隊規模は押さえておく必要がある。


「しかし、本当に荒れ地だな。馬の餌も運ばねばならんとは思わなかったぞ」

「あまり雨が降らないのです。一雨降ればそれなりなんですが……」


 飼葉も輸送しなければならないとは面倒だな。だが、逆に敵側の騎馬隊も同事故とになるんだろうか? 神皇国の状況調査もせねばなるまい。これもラディさんにお願いすることになりそうだ。


「とりあえず、屯所近くに納屋を作って飼葉を運ばせています。これだけの軍馬ですから更に追加しなければならないでしょうが……」

「後は、飲料水ですね。深井戸を掘る事もできないんでしょうか?」

「街道沿いに4つ目の井戸がどうにかですね。ですが元々は商隊用の物ですから汲める量は大したことがありません」


 国境から40kmと言うところだろうか?

 敵側もその存在を当然のごとく知っているだろう。となると、街道筋の最初の町も激戦が予想されそうだ。


「街道沿いの町リドマックには井戸が3つあります。深さは25D(7.5m)程ですが、それで3千を超える住民をまかなっています」

 

 やはり、深井戸が1つ欲しいな。

 屯所の後方に1つ作っておくか……。マイマイ井戸なら、かなり深く掘れるだろうし、水が出れば櫓を汲んでつるべ方式で汲みあげられるだろう。


「それにしても民兵を2個分隊ですか……。我が王国も少しは出せるでしょうから、確認してみます」

 レクサスさんの言葉使いは最初から比べれば丁寧だな。1個分隊でも増えればそれだけ防衛力が増すし、後方支援も容易になるはずだ。


 翌日、部隊を後方に作られた屯所に移動する。

 屯所はログハウス風に作られた納屋のような代物だ。それでも床板が張ってあるし、入口の左右に2段の棚のようになった寝床がずらりと並んでいる。1個小隊は一緒に暮らせそうだ。真ん中に鉄製のストーブが置いてあるから真冬でもそれほど寒くはないだろう。

 そんな小屋が3つに、床板のない納屋が2つ。教室程の1部屋の建物は指揮所になるんだろうか? 手作りの大きなテーブルとそれを取り巻くベンチが4つある。

 全ての建屋を見たところで、指揮所に主だった部隊長を集めて当座の任務を告げる事にした。


「屯所はもう1つあるんですよね。その屯所の資材を使って、住居を充実させましょう。柵も必要です。西と北側を補強して、東と南は薄くても大丈夫だと思います。後は井戸が必要です。何としても掘りましょう!」


 そんなことで、工事が始まった。

 一番大変なのは井戸掘りだ。直径30m程の逆円錐形に地面を掘らねばならない。掘り出した土は柵の近くに積み上げて土塀に仕上げる。

 それだけ防衛設備が充実することになるわけだが、かなりの重労働だな。機動歩兵達が頑張っているのだが、子供の体位ある石がごろごろ出てくるぞ。

 もう1つの屯所の解体と移動は騎馬隊の仕事になる。荷馬車を連ねて北東に向かっていった。解体と材料運搬を行うようだ。

 

 数日が過ぎると、指揮所にいてもあちこちから建物を作る音が聞こえてくる。新たに兵舎が5棟、納屋を1つ出来るらしい。それでも足りないと思っていたら、兵舎の寝床用の棚を3段にして収容人数を上げるような事を言っていたな。

 8棟出来たなら、3個中隊が入れる勘定だ。俺達の部隊は騎馬隊だけで3個中隊、それに機動歩兵が5個小隊、民兵が1個小隊と言ったところだから、もう1つ作る必要がありそうだ。

 ザイラスさんに話すと、すでに材料手配を終えていると言っていた。更に兵舎が2つ増えるようだ。


「ちょっとした村じゃな。井戸があればこの屯所を将来の開墾拠点に使えそうじゃ」

「国王もそれを考えているのかも知れません。数日後に雑木の苗を送ると連絡がありました」

 サディとレクサスさんがそんな事を指揮所で話している。

 確かに良さそうな話だ。そうなるとますます井戸が重要になって来るぞ。


 井戸掘りが水脈に当たったのは、掘り始めてから20日以上過ぎた時だった。井戸の深さは10mを越えている。水量自体はかなり豊かなようだが、これは試験的に汲みだしてみないと何とも言えないな。

 直径2m程の井戸になるように石組を作って漆喰を塗り周囲を土砂で埋める。

 石組の高さは2mほどなのだが7分目ほどに水が溜まっている。どんどん汲みあげて水を入れ替えれば濁った水も透明になるだろう。

 早速汲みあげた水は、細長い馬用の水オケに入れられ、美味しそうに軍馬達が飲んでいる。


「3日も経てば、沸かして飲めるだろう。かなりの水量だ」

「汲み上げ用の足場は?」

「ドワーフ達が作っている。明日には出来上がるだろうな」


 これで、何とかというところだろう。水の運搬をしないだけでも助かる話だ。

 俺達の屯所の状況が少しずつ改善されていくのを指揮所で見守っていると、通信兵が飛び込んできた。

 テーブル越しに、俺の前に立ち息を整えると大声を出す。


「デリム村からの通信です。神皇国から難民が押し寄せているとの事です!」

「了解した。王都に通信は出来るのか?」

「現状ではリドマック経由になるでしょう。すでに通信を送っているそうです」

「了解だ。次の通信があるかも知れん。引き続き頼む」


 通信兵が騎士の礼をして指揮所を後にする。

 簡易な地図を広げて様子を想像するが、やはり見て来た方が良さそうだな。

 顔を上げると、レクサスさんと視線が合った。


「様子見だな。私が出掛けてくる」

「お願いします。避難民の人数とどんな連中かが問題です」


 俺の言葉に頷くと、直ぐに指揮所を出て行く。

 数十kmは離れているから、半日は掛かりそうだな。もうすぐ昼食だから帰りは日暮れ近くになるだろう。


「少し早くないですか?」

「だが難民となると、攻め入った……。と言う事になるんだろうな」

リックさんの言葉にザイラスさんが相槌を打っている。

 まだそこまで行っていないだろう。交渉が決裂したと見るべきだろうな。

 リブラム王国が滅んで間がない内に、神皇国に攻め入るのは愚策だ。リブラム王国の投降兵を先兵として使うにはもう少し時間が掛かるだろう。

 トルニア王国の方もその腹積もりがあるらしく、3王国の投降兵をじっくりと鍛えているみたいだ。死兵と言えどもそれなりの戦力にならない内は使えないと見ているんだろうな。


 ジッと地図を眺めていると、再び通信兵が駈け込んで来た。

「リドマックからです。荷馬車隊の到着を待って新たな町に移送する。以上です」

「了解だ。リドマックと、デリムの光を良く見といてくれよ!」


 今度は礼では無く、頷いて帰って行ったぞ。

 人様々という奴なんだろうが、きちんと礼をするようにザイラスさんから伝えて貰おうか……。


「準備は出来ていたと言う事か?」

「そのようですね。レーデル川の屈曲部まで長い道のりですが、荷馬車なら5日も掛からないでしょう。たぶん今頃は、クレーブルにも荷馬車隊を依頼してるでしょうね」

「場合によっては一時的な野営所を作らねばなるまい。その辺りも確認が必要だな」


 ザイラスさんの言う通りだな。テント村のようになるんだろうか?

 この屯所から遠くない場所に作れば水の補給は出来るだろう。少しは食事も分けてやらねばなるまい。

 サンドラに、至急手配を依頼する。

 荷馬車1台に食料と水ガメを積んで商人に届けて貰えば良いだろう。それ位の資金に不自由はしてないからな。


 夕食前にレクサスさんが帰って来た。

 避難民の総数は300程度。低位の神官に農民が混じっていたそうだ。

 農民の荷馬車や荷車には山のように家財道具が積まれているらしく、それほど悲壮な表情では無かったらしい。

 戦が起こりそうだと聞いて被害が無い内に国を離れたのだろう。

 戦が起きてからでは多くが着の身着のままだろう。まだ戦にはなっていないと言う事になりそうだ。



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