表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/209

SA-140 俺達の準備


「ウォーラム王国の進軍ルートを探ると、どうやら神皇国を落して次にヨーテルンを下すつもりのようです。その後はトーレスティを目指すでしょう。ある意味正攻法です。ですが、これを行われるととんでもない数の難民がトーレスティ、クレーブルに押し寄せてきます……」


 その点、トルニア王国の戦は俺達への影響が少なかったといえよう。この世界の住民の半数以上は農民だ。農民が逃げださないように上手く戦をしている。

 ウォーラム王国の戦はそれが抜けている。相手国の領民を保護すると言う考えはないようだ。

 逃げる者を虐殺しないだけでもマシなんだろうけど、もう少し征服後を考えても良いような気もするな。


「数万を超える難民が流出して来るでしょう。その対策と西への援軍も考えねばなりません。とは言え、我等は新興国出来る事に限りがあります。食料でさえ、、自国で生産する量では足りないのですからね……」


 物量的な援助は木材に限定し、食糧援助は資金援助とする。銀塊5本で十分だろう。足りない場合はさらに3本を使う事にする。

 援軍は2つ作る必要が出てくる。東はトーレルさんに指揮して貰い、西はザイラスさんになるが、騎馬隊1個中隊に機動歩兵が2個小隊をそれぞれに付ける。

 重装歩兵が2個中隊、軽装歩兵が3個中隊それに屯田兵と民兵でシルバニアを守る事になるが、東を重装歩兵のオットーさん、西を同じくレイトルさんに任せる。


「シルバニア王国の東西は、アルデンヌ山脈の尾根が伸びています。街道を封鎖して縦深陣地を築き、尾根を見張れば大部隊が侵攻しても阻止できます。尾根の監視は東をキューレさん、西をラディさんにお願いすれば良いでしょう」


 屯田兵は東に置き、王都の民兵は西に備えれば良い。

 さて、皆の質問に答えるか……。

「個別に頼むこともあるでしょうが、これからの対応は今話した内容が基本になります。質問はありますか?」


 そう言って、パイプを取り出して火を点ける。

 ミューちゃんが通信兵に手伝って貰いながら、冷えたお茶を換え始めた。


「先ずは私からです。数万の避難民を受け入れるような町はありません。分散して受け入れる事になるのでしょうか?」

 最初の質問はマクラムさんからだった。農林長官だが、町の有力者でもある。


「新たな町を作ろうかと思っています。現在、レーデル川屈曲部で大規模な砂金採掘を行っているのは皆さん知っているでしょう。だいぶ採掘量が落ちて来ました。来年には採算が合わなくなるでしょう。併せて行っている開拓事業を避難民を使って拡大するつもりです」


「神皇国は無くなるのですか?」

 マリアンさんは信心深いからな。その質問もそこから来ているのだろう。


「傀儡となるか破壊されるか。現状では予想することも出来ません。最悪は神官の虐殺と神像の破壊が考えられます。そうなりますと我等を含めて信仰の対象を失う事になりかねません。この会議前にエミルダさんに概要を伝えて対応を考えて貰っています」


「とりあえず矢とボルトを作れば良いな。1万はいるじゃろう。ミクトス村だけでは無理じゃ。王都の工房を使うが問題ないか?」

「ミクトス村では別の物を作って貰います。全て王都で良いでしょう」


 そんな質疑が半日も続いた。

 どうにか終わって、帰って行ったが後は時間との勝負になりそうだな。


「女王陛下が援軍に加わる等前代未聞だぞ!」

 そう言ってザイラスさん達が笑ってるけど、マリアンさんは諦顔だ。王女を乳母と一緒にクレーブル王宮で預かって貰う事でとりあえずホッとしたような顔をしてたが、マリアンさんが安心できるのは何時になるんだろうな。

 

「バンター殿が一緒であればだいじょうぶでしょう。実例に事欠きませんし」

 トーレルさんも嬉しそうだ。ずっと屯田兵を鍛えてくれてたからな。今度は騎馬隊で大暴れできると思ってるんだろうな。

 それはジルさんも一緒らしい。嬉しそうで、今にも部屋を飛び出しそうな感じでウキウキしている。


「我等は1個中隊でもトーレスティとクレーブルがそれぞれ騎馬隊を出してくれるなら、我等だけでも対応できると思うのだが?」

「それは無謀ですよ。ですが、場合によっては騎士の突撃を行う事になるやも知れません。騎馬隊が弓兵では無い事を見せて貰いますよ」


 俺の言葉に益々機嫌が良くなったぞ。ザイラスさんがご機嫌なジルさんの肩を叩いている。結局は似た者夫婦なんだろうな。


「トーレスティとクレーブルから軍の高官が来る。これは西の問題だから俺とバンターで良いが、南の船着場についてトーレルに任せるぞ。東の防衛線を作る連中とは打ち合わせをしておけよ」

「今でも定期的に会っています。機動歩兵1個小隊の移動は済んでいますし、大型の船を上流側に2隻準備しています。移動時間を短縮するのに、さらに1隻作っておきます」


「それで、我等の軍装は騎士団で良いのだな?」

「ええ、それで良いですよ。騎士団旗も堂々と使ってください」


 ジルさんのこだわりは理解できないところもあるけど、トーレルさんもニコニコしてるかあれが気にいってるのかな? 海賊旗なんだけどね。

 

「あれなら、誰もが驚くでしょうね」

 トーレルさんの言葉に、サディまでもが頷いているのも問題のような気もするぞ。

 次は軍の高官が来てから再び招集すると俺が伝えたところで解散になった。


 翌日、カナトルに乗ってミクトス村の工房を訪ねる。

 リーダスさんとラドネンさん、それに木工職人が数人というところだ。


「もう少し小型のカタパルトを作って貰おうと思ってやってきた。カナトルの引く荷馬車に乗せられて、飛距離は1M(150m)以上というところだ」

「西で使うんじゃな。それ程無理な要求じゃねえが、荷車も改造する必要があるぞ。荒地を進めば直ぐに車軸がダメになる」


 ここは1つ技術提携を行っておこう。リーダスさんに板バネの説明をすると、目を見開いている。

 

「そうなると、カナトルでは無く馬を使え。荷車の車輪を鉄張りにする。かなり頑丈になるからカナトルでは無理じゃ」

 そんなアドバイスを受けたところで、ラドネンさんに火薬タルの中身を使ってカタパルト用の爆弾を作ってくれないかと依頼する。


「火薬タルは3つだ。1タルで100本以上作れるぞ。今の数が50個程だから、1タル分で十分と思うが?」

「確かに、課題のある武器です。それで十分でしょう」


 後は望遠鏡と分厚い板で盾を作って貰う事になる。身長程の板の盾は連結すれば簡単に陣が作れるからな。

 出来るだけたくさんと注文を付けて帰って来た。

 

 アルデス砦に戻ると、久しぶりにのんびりできる。

 次は3王国の軍の調整が待っているけど、人選に時間が掛かっているようだ。

 その間は、クリスを抱いたサディを見ながらマリアンさんとおしゃべりをしていよう。まだハイハイはしないようだ。

 マリアンさんが直ぐに大きくなると言ってるけど、早くよちよち歩きを始めないかな。

 

 初秋の風が気持ちよい。

 見張り台から見る景色はまだ緑だが、北の山麓は紅葉が始まる気配だ。

 直ぐにこの風が冷たく感じるんだろうな。

 今年の収穫は、どんなだろうか? マリアンさんには豊作の知らせが届いたらしい。少しは輸入する麦の量を削減できるかも知れないな。


「バンターさん、皆が集まってるにゃ」

「分かった。直ぐに下りてくよ」


 昨夜遅くにトーレスティとクレーブルの部隊が到着した。

 俺の率いる部隊長という事らしいが、一緒に来た少年兵達はアルテナムの屯所で光通信器の使い方と信号を学ぶらしい。

 見張り台から下りて館の広間に入ると、10人以上の騎士が揃っていた。俺達のところからは、サンドラと副官だな。とりあえずはテーブルに着いてもらう。

 すでにサディやマリアンさんも席に着いている。ミューちゃんはマリアンさんの副官である魔導士のお姉さんと一緒に皆にワインのカップを渡していた。


「良く来てくれた。俺がバンターだ。騎士ではないから口の利き方が出来ないことを最初に言って置く」

「一応、我の伴侶になる。騎士ではなくとも、それなりの地位を得た者と覚えおくが良い。この中の全員が来年には始まるであろう国難を知っておるはずじゃ。その対応に集まって貰ったのじゃが、バンターを指揮官とすることに反対の者がおれば最初に申し出るが良い。我等一丸となって事に当たる。万が一にも反意を持つ者あれば至急に換えて貰わねばならん」


 結構、棘のある言い方だが、誰も口を結んでサディの顔を見ている。

 どうやら、指揮官は俺で問題ないらしい。


「先ずはトーレスティの部隊長から名前と参加部隊を教えて頂きたい」

「名前は、レクサス。1個中隊の騎馬を率いる騎士だ。隣はセフィー。娘ではあるがガドネン殿の2女。軽装歩兵2個小隊は槍を使う」


「改めて挨拶します。クレーブルのリック。騎士2個中隊。レビットが率いる軽装歩兵2個小隊は短弓と短槍になります」

「シルバニアのザイラスだ。俺と妻のジルで2個小隊ずつ率いる。隣のサンドラは機動歩兵、使う武器は石弓と短槍になる」


 騎馬が3個中隊。軽装歩兵が1個中隊になる。見掛けは1個大隊というところか。輜重兵が2個分隊程欲しいところだが、ミクトス村から民兵を出して貰おうかな。


「俺達は来年の夏にデリム村に集結する。3会戦分の矢を用意して、食料は10日分。その前に俺の方でデリム村へ食料を移送する。ウオーラム王国が神皇国を従えてどう動くかは分からぬが、大部隊を移動するなら街道となる。街道の西の砦をトーレスティの1個大隊が防衛するから、俺達はその側面を突ける位置が良い」


 広げた地図で俺達の待機場所を示すと、集まった全員が俺に大きく頷いてくれた。

 明日からは、早速準備を始めて貰わねばなるまい。

 何をどこに用意するかを、これから話さなければな。今日は長くなりそうだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ