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SA-139 教団本部が無くなることも


 長い軍議が終わると、国王主催の晩餐が同じ部屋で始まった。ミューちゃんも俺の隣で豪華な食事に舌鼓を打っている。ちょっとした役得には違いない。


「バンター殿が西の総指揮を執ってくれるならワシに異存はない。マクス殿も父王に伝える時には、クレーブルは賛成したと言ってくれぬか」

「クレーブル国王の内諾があるなら、父王に異存はないものと思います。そうなると、バンター殿の副官とザイラス殿の部隊への派遣部隊で王宮内に騒ぎが起きそうです」


「それは、クレーブルも同じだ。ウイルの部隊でも、前に1個小隊の枠で部隊内で危うく騒動になるところだったと聞いたぞ」

「あれは、騎士ならではの事。それだけ我が軍は正義を重んじると私は感心しました」


 そんな昔話が始まって、晩餐は楽しく過ごすことが出来た。

 だが、決まり次第副官をアルデス砦に送る、と言っていたのが気になるところだ。早めに準備はしておく必要があるぞ。


 通信兵として少年達を使う事にマクスさんが驚いていたが、俺達の方法をクレーブルでも取り入れている事をオブリーさんが説明してくれた。

 早馬では無く、光を合図に使うと言っても中々信じられなかったようだが、後で実例をオブリーさんが披露すると言っていた。

 オブリーさんだって最初は驚いていたからな。マクスさん達が首を傾げるのも無理はないと思う。


 3日ほど滞在したところで、俺達はクレーブルの王都を後にした。

 早ければ来年には戦が始まるのだ。急いで準備を始めなければなるまい。


 アルデス砦に到着すると、直ぐに長官達を集める手配をする。

 3日後に国難を越える災厄の相談をするとして、サディのところにやって来たエミルダさんにも最悪に備えた相談をしてみることにした。


 広間のテーブルには俺とエミルダさんだけだ。ミューちゃんにもお茶を入れてくれたところで、席を外して貰った。


「私と2人だけになりますが、いったいどのようなお話で?」

「こんな話はあまり人にするものではありませんからね。とは言え、場合によっては起きる事なので早めに対応を取る必要があります」


 優雅にお茶を飲んでいるエミルダさんは、俺の顔をおもしろそうに見ている。

 どんな話か楽しみという感じだな。


「もし、教団が無くなったら……、どうしますか?」


 俺の言葉に、表情を無くした。右手からカップが落ちてテーブルにお茶がこぼれる。


「早ければ来年にもその事態が発生します。現在、ウォーラム王国が隣国のリブラム王国に侵攻中。年末にはリブラムは無くなるでしょう。その勢いで、神皇国、ヨーレムに軍を進めることは火を見るより明らかです」


「まさか……。過去にも戦はありましたが、神皇国に軍を進めた例は一度もありません」

「過去は過去です。神皇国との間で頻繁に使者のやり取りを行っているところを見ると、場合によっては神皇国の国としての権益を全て奪い去って神殿だけが残ることもあり得るでしょう」


 地図を開いて、ウォーラム王国の今後の侵攻ルートについて説明する。

 ジッと俺の話を聞いていたが、話を終えると深くため息をついた。

 席を立って、落したカップを手に、テーブルを回ると暖炉のポットから新しくお茶を入れる。俺のカップにもお茶を注いでくれた。


 ゆっくりと席に戻ったところで、テーブルにこぼしたお茶をハンカチで拭き取ると、お茶を一口飲み俺に顔を向けた。


「信じられないお話ですが、可能性は高いのですか?」

「侵攻するのは確実です。神殿を略奪する可能性は半分程。神官の殺戮もあるのではと考えています。殺戮を免れた神官はウォーラム王国の傀儡になるでしょうね」

「教団の事実上の消滅になりそうです。他の王国の神官の支えが無くなれば民衆の心の拠り所も消滅します」


 エミルダさんに軽く頭を下げると、暖炉でパイプに火を点ける。

 ゆっくりとパイプを楽しいみながらエミルダさんの次の言葉を待った。


「もし、バンター様が私の立場ならば……、どうしますか?」

 そう聞いて来るよな。

 その言葉を待っていた。


「これから話す事は、俺とエミルダさんだけの話です。俺が信じる宗教は多神教の一種であると言う事は前にお話ししましたね。色々な寺院ややしろに像やご神体と呼ばれるものが安置されています。ある意味、祈るべき対象の具現化と言う事になるでしょう。神殿にも同じような神像があるのでしょうか?」


「ええ、ありますよ。4柱が存在します。まさかそれを破壊することは無いと思いますが……」

「神像は教団に必要ですか?」


 ビクッと体を震わせて改めて俺を見る。


「いえ、あくまで教団の総本山としての神像だと教えを説いた神官様が言っております。各国の町や村にある祠の象徴である十字架に同じですわ」


 あの『♀』の印も十字架というのか……。そうなると、教団の一番大切なものは何だろう?


「教本が一番大切なものになります。何度も専門の神官が写本を繰り返しています」

「教団の奥義は教本にあると言う事ですか……」


 フム……。十字架も大事だが、それよりは教本なんだな。ある意味プrてスタントに似たところもある。

 ならば、簡単な話になるぞ。


「どうです。思い切って神皇国の教団本部と縁を切りませんか? 教本こそ信仰の対象であるなら、教団の総本山は必要無いでしょう。各国の政治に介入こそしませんが、俺には存在する意義が理解できません」


「各国の神官は総本山が任命しているのです……。まさか、アルデンヌ大聖堂を新たな総本山にすると?」

「総本山とは言いませんが、教本の奥義を伝える場所であれば良いと思っています。修道院がそれに当たるのではないですか?」


 俺の問いかけにエミルダさんは目を閉じて考えている。

 聡明な女性だから、頭の中でシミュレーションを行っているのだろう。果たしてどんな結論に達するのだろうか?


「バンター様は、神が私に使わせた使者なのか、それとも悪魔の手先なのか……。それは私にも分かりませんが、先ほどおっしゃった話は可能です。ですが、それを実行に移すのは教団の神殿が破壊された後、あるいは教団が本来の目的を違えた時で良いでしょう。私の恩師である老神官を出きればこの地に、と考える次第ですわ」


「俺も安心できます。神の御旗を持って俺達に戦を挑んできた時には、頼らせて頂きますよ」

 アルデンヌ聖堂騎士団へ臨時に各国の軍隊を参加させれば良い。

 ちょっとした財宝で、あの名前が公に使えるんだから利用させて貰おう。


「それにしてもバンター様は良くこんな方法を思い立ちましたね」

「俺の国では色んな宗教争いがあったんですよ」

 いろんな宗教とそれらの間に起こった争いを簡単に話してあげた。

 感心して聞いているようだが、少しはヒントになったんだろうか?


 3時間程の2人だけの話を終えると、エミルダさんが足早に砦を去って行った。

 来年以降の話ではあるのだが、早めに動いてくれるんだろうな。その為に、老神官を招くのだろう。

 宗教はある意味体系付けられたシステム運用が必要になる。

 修行中の神官達も使って、教本が主体となった新しい解釈が生まれるかもしれないな。

 とりあえず、1つ片付いたというか、任せることが出来たと考えておこう。


・・・ ◇ ・・・


 神皇国の方はエミルダさんに任せることが出来たから、次はシルバニア王国の内政への影響を考えねばならない。

 マリアンさんの下に3人。ザイラスさんとトーレルさん。それにラディさんの7人が補佐官とも言うべき協力者を1人ずつ連れてきている。

 俺とサディの後ろにはミューちゃんがいるし、何があるか分からないから通信兵も広間の隅で待機しながら俺達にお茶を出してくれていた。


「シルバニア王国建国2年目になる。皆もその道で国造りに励んでいる事は嬉しい限りじゃ。とは言え、それぞれに問題を抱えておるのも理解出来る。自ら抱えるには荷が重いとなればいつでも我等に報告するが良い。一緒に考えれば良い案が生まれるやも知れぬ……」


 サディがそんな事を言ってるけど、隠すんじゃないって事だよな。それに、俺達にも対処できないかも知れないって言ってるような気もするぞ。

 まあ、それでも年に何回かの会合で議題にすれば良い案が出るかも知れないな。短期的には無理でも長期的に解決する方法もありそうだ。


「……ここに非定期に集まって貰ったのは外でもない。東のトルニア王国がどうやら3王国の征服を成し遂げたようじゃ。次に狙うのは、シルバニアもしくはクレーブルであろう。また、西のウォーラム王国がリブラム王国を征服し神皇国を従えようとしている。戦力の少ない神皇国とヨーレムを従えた後に向かうのはトーレスティであろう。長く戦の無い時代であったが、マデニアム王国のカルディナ侵攻がこれほど周辺諸国を巻き込んだ戦になるとは思わなかった……」


 東西で戦が始まりそうだと聞いても余り驚いてはいないようだ。それぞれの管轄で噂を耳にしているのだろう。

 それを知っているなら、これからの会議はスムーズに運びそうな気もするな。


「我等はシルバニアの国造りで忙しい。だが、我等の国造りに手を貸してくれた王国の危機を座して見るようでは我等の矜持に係わる。さらに侵攻を図る王国は我等の領土の東西に位置していることも問題ではある。軍を東西に展開するとともに、クレーブルとトーレスティへ援軍を向けると我は決意した。その援軍と皆への協力はバンターが説明する」


 長い前振りだけど、状況説明にはなっているし、軍の移動についても皆が頷いていたから了承できると言う事なんだろう。

 さて今度は俺の番だな。


「長くなりそうですから、お茶やパイプもご自由にどうぞ」

 俺の言葉に、お茶を飲む者やパイプに火を点ける者まで出て来た。ここは気楽な気分で聞いてほしいからな。最初から緊張して聞かれたら、ちゃんと納得できたかどうかが怪しくなる。フランクにいつもの通りで良い。


「当初、東のトルニア王国への備えだけを考えていました。それなりの手は打ったつもりですが、西のウォーラム王国の動きはある意味俺も驚いています……」


 トルニア王国の戦の侵攻をクレーブル王国に誘導して国境線で迎撃、押し返してクレーブル王国の版図をレーデル川西岸にまで広げる。

 それが、トルニア王国対策であり、戦場はクレーブル王国の東に広がる荒地だから一般の民衆に被害が及ぶ可能性は殆ど無い。

 問題はウォーラム王国の戦のやり方だ。



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