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SA-137 3か国会議


 クレーブル、トーレスティに戦術会議を申し出る。

 シルバニア女王のサインのある書状を持ってザイラスさんがクレーブル王宮に馬を走らせた。

 数日して、10日後に会議を了承する返事を貰って、ザイラスさんがアルデス砦に帰って来た。


「一緒に行ってくれませんか? 俺では相手を説得できる自信がありません」

「すでにバンターはシルバニア王国の2位にいるんだぞ。そんな事でどうする。一緒に行くのは構わぬが、自信を持って自説を説け」

 

 サディも頷いているから決まったも同然だな。

 ザイラスさん夫妻にミューちゃんを伴って、出掛けることになってしまった。

 

 3日後に、ザイラスさん夫妻が馬で俺達はカナトルに乗って街道を南に下る。

 南の砦でウイルさんが加わり、5人でクレーブル王国の王都を目指す。

 俺とミューちゃんだけがカナトルと言うのは少し問題だが、馬よりもおとなしいし、座る位置が少し高くなるだけだから、駆け足で走ってるような錯覚を覚えるのもおもしろいんだよな。だいぶこの獣にも慣れたし、今さら馬に乗り換える事も無いだろう。


 王都の王宮で国王夫妻に謁見して王女の誕生と名前を報告すると、御后様が我が事のように嬉しそうに表情を崩しながら、祝福の挨拶をしてくれた。

 その翌日。朝から小さな広間のテーブルに、3カ国の軍を束ねる将軍が集まり軍議が始まる。

 トーレスティ王国からも、鎖帷子に身を包んだ厳つい老将軍と副官、それに国王の名代として第1皇子がやって来た。将軍はガトネンと言うらしい。第1皇子はマクシミリウスと言うそうだ。マクスとお呼びくださいと挨拶してくれた。


 テーブルの周りに座った俺達にワインが配られ、ウイルさんが大きな地図をクルクルと広げて四方に重しを乗せる。

 周辺諸国を網羅したこの世界の地図だ。山や森と荒れ地、それに町村が色分けされている。

 その地図に白と黒の駒を置いていく。金属製の駒は地図の上で動くことはない。


「クレーブルで分っているのは東の国境付近の状況だ。3個大隊がレーデン側を越えている。我が王国の兵は、トーレスティに2個大隊。東に2個大隊を派遣している。王都に1個大隊、港の陸戦隊が1個大隊」

「我がトーレスティは5個大隊の内、4個大隊を北の国境に展開しています。1個大隊は王都に駐屯させました」


 バイナムさんの報告に続いてマクスさんが部隊の展開状況を告げる。

 今度は俺の番だな……。


「先ずは、トルニアの状況です……」

 トルニアが3つの王国を滅ぼしたことを告げて、西に5個大隊を展開すべく動いていることを伝える。

 西のウォーラムについてはリブラム王国軍を北の山麓付近にまで置いてめている状況を話す。


「他国への侵攻を決意した以上、ウォーラム王国とて5個大隊とは考えられません。仮に1個大隊を徴兵で増やしたのなら、西を守るために戦力の大半を移動していたリブラム王国に攻め入るのは容易だったでしょう」

「建国したての割には良くも調べたものだ。それでシルバニアの戦力は?」


「旧王都周辺に1個大隊。東に1個大隊程です。大隊単位でなく中隊単位で部隊配置をしている状況ですが、これら常備軍以外に2個中隊の弓兵と1個大隊の民兵を動員できる体制を組んでいます」


 俺達の話を聞いてウイルさんが地図の駒を落とす。

 その駒の配置をしばらく眺めながら皆の顔色をうかがう。誰もが表情に優れないな。

 絶望的ではないと思ってはいるようだが、兵の半数を失う覚悟は出来ているようだ。

 

「トルニアはそれほどの戦力を持っているのか!」

「西も問題ですぞ。征服した王国の兵士を死兵に使われたら……」


 可能性が無いわけではない。現時点で6個大隊でも、征服した王国の軍を組み入れることで雪だるま式に膨れて行く。身内を押さえられたら、その安全のために俺達に向かってくるだろうな。

 だが、その前に戦をしていれば、精々3個大隊程度の増加に留まるだろう。1個大隊が500人程度だから、死兵1,500人が押し寄せて来るとなるとかなりの脅威だ。倍する戦力でどうにかだな。


「我等の戦力は3王国で11個大隊。王都の防衛に1個大隊を使えば、東西の防衛に使えるのは5個大隊程だ」

「更に問題がありますよ。ウォーラム王国の侵攻ルートが左回りになれば、難民がクレーブルに押し寄せます。少なくとも数万は覚悟すべきでしょう」


 トーレスティの3人が俺に厳しい顔を向ける。少し遅れてバイナムさんが俺を見た。前に話を出していたんだが、トーレスティにはまだ伝えていなかったようだ。


「少なくとも、1個大隊は避難民の警備に必要になる可能性があります。敵が紛れていないとも限りませんからね」

「先ほど左回りと言いましたね。まさか神皇国を亡ぼすようなことは……」


「十分に考えられます。指導層をそっくりウォーラム王国の意に染まる者に入れ替えると言う事も出来るでしょう。神皇国とウォーラムの間で使者が飛び回っているようです」

「すると、神皇国はさほど抵抗なく落とすことも出来ると言う事になる。兵力も傭兵が1個大隊。傭兵なら金で転ぶだろうな」


「戦力が足りません。何とか3個大隊を援助して貰わねば、トーレスティは滅んでしまいます!」

 叫ぶような声でマクスさんが訴えた。悲壮感で顔が青くなっているぞ。


「待て待て、まだ会議は終わっていない。10倍の相手に戦をして、死者を1人も出さぬほどの稀代の軍師がここにいるのだ。バンター殿は、現状を説明している。まだ我等の戦をどう行うかは話しておらん」


 バイナムさんは、マクスさんをなだめるように言ってのける。俺に下駄を預けるって事になるのかな?

 まあ、やれないことは無いんだけどね。その前に、他の考えがあるのかを確認しといた方が良さそうだ。


「俺達を取り巻く情勢は分かって頂けたと思います。さて、皆さんならどのような策を練りますか?」

「侵攻部隊に我等が待機した部隊をぶつける事になるだろう。場合によっては砦周辺にまで下がって、防衛線を張ることも考えられる」


 俺の言葉に、今までジッと俺達の話を聞いていたトーレスティの将軍が言った。確かガドネンさんだったな。


「正攻法ですね。その場合は動員する兵士の数が勝負を分けてしまいます」

 武器の違いが無く士気が同じであれば、数が多い方が勝つ。砦はあまり利用価値が無いだろう。他の場所を侵攻すれば良いだけだからな。


「バンターは奇策の名人だったな。俺達には想像も出来んが、この状態でも勝つ方法があると言うのか?」

「相手は精々2倍です。1個小隊で2個中隊を葬るのに比べれば楽ですが、死者は出るでしょうね。戦に参加する兵士の総数が1万に近い数ですから、俺達の軍だけ犠牲者を出さないという戦は出来ません」


ザイラスさんの言葉に俺が答えたのを見て、バイナムさんが笑顔をガドネンさんに向ける。


「ガドネン殿、口の利き方は出来ぬが、その知恵はフェンドールを凌ぐだろう。バンター殿の策を先ずは聞いてみぬか?」

「是非とも! 噂は我にも届いております」


「戦の時と場所を選ぶことが勝利の条件の1つです。防衛戦では、これが難しい。選ぶのは相手次第になってしまいます。先ずはこれを何とかしたい……」


 簡単に言えば敵の誘導と言う事になる。罠を作って、そこにおびき寄せる。これは騎馬隊と軽装歩兵の連携で可能だろう。


「陽動を利用して誘うというのか? 全く恐れ入る。となると待ち構えるのは弓兵と言う事になりそうだ。オブリーから聞いたが、あの弓を使えば敵は先に進めんな」

 俺の説明にバイナムさんが頷きながら呟いた。

「弓兵が2個中隊いれば数百本の矢を降らせえることも可能です」

 俺の言葉にバイナムさんが唸りながらワインを飲んでいる。


「出来るのか?」

「出来るも何も、俺達騎士に長剣を使うな弓を使えと言ったのがこいつだ。おかげで逃げ足だけが速くなったぞ」

 

 ザイラスさんがワインを傾けながら昔の話をしてるが、最後は愚痴になってるぞ。


「待ってください。矢の雨と言いましたね。矢の狙いは精々相手の頭の上を狙うんですよ!」

「それは俺達が使う弓がそんな使い方だからだ。シルバニアは違う。ジル殿、持ってきているのだろう?」

「あれは、稽古せねば狙うのが難しい。見ねば分らんだろうな。我もそうであった」


 ジルさんが席を立って、広間を出て行った。

 お披露目することになるのかな。この際しょうが無いだろう。


「我等の弓の最大の特徴は、その飛程だ。トーレスティの弓兵が使う弓の飛程は300D(90m)というところだろう。相手の革ヨロイを貫くなら200D(60m)程で放たねばならん。バンターの暮らしていた騎馬兵は弓を使っていたそうだ。その飛程は500D(150m)を越える。有効射程は300Dを越えるぞ」


 トーレスティの面々が、ザイラスさんの話をそんなバカなという表情で聞いている。

 最初はザイラスさんも驚いてたし、オブリーさんだって見るまで信じなかったからな。

 短弓と長弓の違いが戦をこれほど左右するとは、俺だって思っていなかった。


 やがて、ジルさんが弓と矢を持って現れたのだが、その弓と矢を見たガドネンさんが思わず立ち上がったぞ。

 テーブルをぐるりと回ってジルさんの弓を持たせて貰っている。頭を傾げているし、矢のヤジリを見てさらに目を見開いている。


「それが俺達の弓だ。騎乗して使う。2矢放って後退するのが常だったな」

「これで真っ直ぐに放てるとは驚きだ。それで、本当に500Dも飛ぶのか?」

「ああ、それを斜め上に向かって放つ。敵軍に矢が雨になって降り注ぐと言う事になる」


実際には斜めに落ちるんだが、短弓の軌道から比べれば雨という表現が正しいと俺も思う。


「後で実際に見せて貰いたいものだ。ところで誘いとも言っていたな」

 元の席に戻ったところで、再び俺に質問を浴びせる。


「ええ、誘いは有効です。通常の弓で敵に一撃を浴びせ直ぐに引き返せば、敵は後を追うでしょう。そこを狙います。柵や溝で敵をなるべく密集させれば……」

「1個小隊で1個中隊を相手に殲滅することも可能だ」


 ザイラスさんが俺の言葉に重ねるように断言する。

 ザイラスさんの名前はトーレスティ王国でも知られているようだ。疑問は残っているようだが、それ以上の質問は出なかった。



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