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SA-134 バイナムさんがやって来た


 王国内に現金が動いたので、商売は繁盛しているようだ。

 クレーブル王国から石橋を通って品物が流れているし、南の船着場には行商の人達が荷馬車を引いて行く。

 小さな集落を回る、昔ながらの行商人もいるが半数以上は、峠の街道を行き来するマデニアムからの行商人らしい。

 商業ギルドの鑑札は、余程の事が無い限り王国も重視しているようだ。さすがに臨戦態勢下のクレーブルとニーレズム間の石橋は通行を見合わせているらしい。


 そんなわけで、シルバニアを経由した流通が行われているのだが、俺達の関所では荷改めをしても、トルニア側では全く行われていないらしい。

 さすが大国の度量と感心してしまうが、おかげでラディさん達の情報収集が広く行われているとの事だ。

 たかが商人とでも思っているのだろうか? それとも俺達の活動など気にしていないのか判断に迷うところではある。

 まさか、あえて俺達に情報を掴ませようとしてるんじゃないかと、敵の作為を疑う始末だ。


「それにしても、毎日10台以上の荷車が我が国からトルニアに荷を運んでいるとは驚きじゃ」

「ニーレズムの西にある石橋を使う交易はクレーブルが防衛線を引いていますから、色々と不都合なのかも知れません。時間的には同じ位で船着場を使った経路で荷を運べますからね」


「おかげで船着場が活況じゃと聞いたぞ。さすがはバンターじゃな。将来をキチンと見ておる」


 冬の昼下がり、外は雪が降っているが広間の暖炉は暖かだ。

 ミューちゃんも編み物の手を休めて一緒にお茶を飲んでいる。

 マリアンさんは難しそうな顔をして魔導士のお姉さん達と何やら大きな帳簿を開いて相談しているぞ。


「ミューもそろそろ、相手を見付ける年頃じゃな」

「まだまだ早いにゃ。でもその内、父様が見つけてくれるにゃ」


 自分で探そうという気は無いんだろうか?

 北の村の保育園の手伝いに度々行っているから、その時にと言う事もあるだろうけどね。


「私よりも兄様が先にゃ。いつも出掛けてると母様が嘆いたたにゃ」

「少し間隔を開けても良さそうだな。今度ラディさんに伝えておくよ」


 ミューちゃんの考えでは順番と言う事らしい。ラディさんの長男はタルネスさんと組んで商いをしてるはずだ。王都の様子を探るような話をしていたが、どんな情報を持ってくるだろうな。


 ミューちゃんのお母さんは、マリアンさんに似たふくよかな小母さんだった。北の村からアルデス砦に引っ越して来て、まかないの仕事を担当して貰っている。

 スープが美味しくなったのはミューちゃんのお母さんの手が入ったからなんだろう。アルデンヌ山脈を狩りをしながら移動する生活が長かったから、こってりしたスープは味が濃い。薄いシチューのようにも思える時があるぞ。

 さすがに夏はこんなスープにはならないんだろうが、夜の警備を担当する兵士達も飲むと温まると喜んでいたな。


「トルニアがおとなしいにゃ。今年もシルバニアに軍を進めることは無さそうだと、機動歩兵の隊長さんが言ってたにゃ」

「サンドラさんかい? たぶん、東の砦のグンターさんに教えて貰ったんだろうな。トルニア王国の基本戦術は常に1つの敵と戦う事らしい」


「我に贈り物を持ってきたのも、そう言う事じゃな。となると、マンデールを打ち破った後には我等に牙を向けんとも限らんぞ」

「可能性はありますが、その時には2面作戦を取るでしょう。街道の峠道を攻略出来るとは思えません」


「南の石橋を使うという訳じゃな。我等の戦力は精々3個大隊。守り切れるのか?」

「その為に3王国で協力事業をしているんです。緩やかな連合化を図って行ければ良いとは思っているのですが……」

 

 同盟では無く連合化が望ましい。それによって経済力が増すだろうし、戦力の融通が利くんじゃないかな。

 各国から1個大隊を出して連合軍を作るのも良いのかも知れない。1か国の戦力ではたかが知れているからね。


 トルニア王国もマンデール王国を平定したところで軍の再編成をせねばなるまい。征服した王国の兵士達もその中に組み込むことになれば、見掛けの戦力は大きくなるだろうが、内部の葛藤を無くすには時間が掛かるだろう。

 それに、軍が大きくなればなるほど、全体を動かすことが難しくなる。

 俺達のように通信兵を持っているわけではないから、早馬を使って命令を伝えるのだろうが、機動戦ではⅠ時間程の指示の遅れが勝敗を左右することになるんじゃないかな。

 いずれにせよ、今年は戦は無いだろう。

 準備を入念にして、兵士を鍛えねばならないな。


「トルニアの目的は、やはりクレーブルと?」

「ええ、シルバニアは銀を算出するだけです。クレーブルを押さえればシルバニアは安い値段で銀塊をトルニアに納めねばなりません。この国自給率が問題です」


「あちこちと開拓はしておるが直ぐに穀物が採れるわけではないからのう……。色々と試してみねばなるまい」


 そのための地図作りなんだけどね。地図を完成させて用水工事を始めるにはまだまだ時間が掛かりそうだな。戦なんてやってる暇はないんだけど、周辺の事情が事情だ。


「トルニアは諸王国を全て征服するつもりなのだろうか?」

「必ずしも……、というところでしょう。大国の弊害は色々と出てきます。特に中央集権が強ければ強いほどに。権力の分散と情報の共有が俺達3つの王国には必要になります」


「王国として独立しているが、外敵の脅威を共有化するのじゃな。当然、新たな交易路による富分配もその視野にあるはずじゃ。我もそれで良いと思う」


 将来的には合衆国になるのかな?

 3つの自治州とその頂点に立つ政府があれば良い。民生は自治州に任せ、外交と軍事は政府という構造なんだだろう。

 それが出来るのはかなり先の話だ。俺達の代で出来るとはとても思えない。

 だが、連合軍の設立は何とかしておきたいな。


・・・ ◇ ・・・


 冬の最中に、アルデス砦に来客が訪れた。

 バイナムさんが10人程の供を連れてやって来たのだ。従者の案内で広間やって来たバイナムさんとオブリーさんを暖炉の傍に招き寄せて、ホットワインを差し出す。体を温めるにはこれが一番だろう。


「こんな季節に来ていただけるとは光栄の限りですが、春になってからでも良かったのではありませんか?」

「まあ、色々と聞きたかったのだ。それよりも……。女王陛下のご懐妊。国王、后共々我が子の事のように喜んでおります。風邪などひかぬようにしっかりと食事を取って下されと国王より仰せつかりました。南方の珍しい果物を持参しました。後でお召し上がりください」


 オブリーさんが大きな包みを取り出してマリアンさんに渡している。

 何だろう? ちょっと楽しみだな。


「少なくとも今年は戦は無いと俺は思っているのですが?」

「トルニアが我が国を狙うのは来年以降だろう。我等の判断もバンター殿と同じだ。だが、ウォーラムの動きがおかしい」


 ラディさんからの情報はまだ入ってこないな。

 それでも西の山道にいた1個大隊が縮小していると教えてくれた。

 その部隊が向かった先は……、さらに西のリブラムと言う事か?

 慌てて、テーブルに地図を広げる。

 カルディナ王国への侵入をあきらめて西に軍を向けるのはありそうだ。ウォーラムの南は、トーレスティと神皇国がある。さらに西にカルメシアという国があるらしいが、遊牧民の部族国家らしい。


「騎馬民族の侵入でもあったんですか?」

「どこから情報を仕入れたは分らぬが、遊牧民達の抗争が一段落したらしい。そうなると、彼等が目指すのは食料を持つ東の諸国だ」


 神皇国は財力を元に傭兵部隊を持っているらしい。ヨーレムはカルメシア地方との国境は長くなく1個大隊で十分に対応出来るようだ。

 となると、騎馬民族の侵入をリブラムはもろに受けたことになる。全軍が西に向かうなら……、そう言う事か。


「めんどうな事になりましたね。好戦的な国家がもう1つ出来たことになります」

「そうだ。トーレスティとウォーラムの間は荒地がある。いくつかの砦が作られてはいるが、トーレスティ軍は3個大隊を北に、1個大隊を西に布陣させた」


 一応無難な構えだな。防衛戦だからそれ位の戦力で十分だろう。だが、リブラムをウォーラムが下したら、心許ない話だ。場合によっては神皇国に侵入しかねないぞ。


「神皇国の戦力は1個大隊程度ですよね。次は神皇国を狙ってきますよ」

「そうなるだろうな。その次はヨーレムと言う事になる。ヨーレムの戦力は3個大隊程度だ」


 トーレスティの北と西に、部隊を展開しなければならなくなりそうだ。

 どう考えても俺達の王国だけで東西の両戦線を維持するのは無理だろう。ほころびを突かれて敵軍の侵攻を許すことになるが、それを阻止する第2戦線を構築するだけの戦力が無い。

 バイナムさんの危惧するのはそういう事だろうな。クレーブル王国だけならば、5個大隊の正規軍に1個大隊の陸戦隊を持っているからレーデン川に防衛戦を築けば良いからそれほど無理な話ではない。

 盟友のトーレスティ王国の崩壊を、座して待つのではなく支援することでクレーブル王国は動いているということだろう。

 それなら、俺達もできるだけの事をしなければなるまい。

 とは言え、戦力が戦力だから援軍を送るのは無理だろう。防衛戦の方法を教えれば良いんじゃないか?


「西については大きく2つ問題があります。1つは難民をどうするか。もう1つは防衛戦の構築場所です」

「防衛戦は国境が原則だろうな。数は少ないがいくつか砦もある。街道には関所が作られているぞ。だが、難民とは?」


「神皇国とヨーレム王国からの避難民です。かなりの数が押し寄せてきますよ。その避難民を一時的に保護する事を考えなければなりません」


 俺達の世界ですら戦争難民の数は膨大だった。

 この世界ではどうなのか分らないが、カルディナ王国の崩壊はマデニアム王国の短期間での電撃戦によるものだった。

 おかげで避難民は発生していないのだが、その後に圧政が続いたんだよな。

 ウォーラム王国の戦がどんな戦略を取るか分らないけど、仮に正攻法を取るなら左回りに戦線が移動していくことになる。

 民衆は追い掛けられるようにクレーブル王国に雪崩れ込んでくるぞ。


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