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SA-132 大使も必要だ


別荘に俺達がいることが分かったのだろう。色んな人物が訪ねてくる。

執事のレイノルさんが俺達の行動の合間を縫って、来客をさばいてくれるのがありがたい。

基本は午後のお茶の時間と言う事になっている様だ。

今日は王都の神官がアブリートさんと一緒にやって来た。どうやら俺達が始めた保育園の話をザイラスさんから聞いたみたいだな。

目的と経営に付いて話をしたのだが、2人とも感心して聞いてくれた。2、3の質問に答えたんだけど、クレーブルでも始めるんだろうか?


「主人1人の収入では暮らしに不便を感じる者が多い事も確かです。私の妻も働いていますからね。小さな子供を預かってくれる施設があればどんなに便利だろうと先ほど妻と話していたところです」

 来客のカップを下げながらレイノルさんが話してくれた。


「シルバニアは復興の最中ですから、そんな工夫も取り入れてみたんですけどね」

「バンター様達だから出来たのだと思います。アブリート様が憂い手も、その解決策を考える者達がおりません」


 ブレーンに恵まれていないのだろうか? それとも組織的な問題なのかも知れないな。俺達も縦割り組織にならないように横の連携を図って行かねばなるまい。


「中々の来客じゃな。やはり互いに大使を遣わさねばなるまいが、我等は人材不足、トーレル辺りであれば問題も無かろうが……」


 アブリートさんの帰るのを待っていたかのようにサディ達が入って来た。

 伯父さんなんだから、元気な姿を見せても良いんじゃないかな? それとも、固い話が苦手なんだろうか?


「騎士ならば小さいころからそれなりの教育を受けているんでしょう? そんな中から選んでは?」

「それも良いが、そうなると武官と言う事になる。やはり文官が欲しいところじゃ」

 そう言って、俺の隣に腰を下ろした。

 だけど、俺達のところは騎士団が母体だから文官なんて……。

待てよ、フィーナさんなら適任じゃないのか? だが、俺達の財政を預かる重要な人物だからな。彼女のサポートをしている元貴族の子供達だって今では大きくなったけど割くことは出来ない話だ。


「長期的に考える他に手がありませんね。文官を大使にするよりは武官であった方が今後の戦には都合が良いでしょう」


 別荘から帰る時に再び東の国境を視察するつもりだ。ついでに南の船着場の様子も見て来るつもりでいる。

 1年でどれだけ迎撃態勢が整ったかを確認しなければなるまい。

 俺達の船着場も砦化しているはずだが、場合によっては2個中隊を駐屯することになりそうだからな。屯所の建設も気になるところではある。


 そんなある日、トーレルさん夫妻が騎馬隊を引き連れて別荘を訪ねてきた。

 明日には俺達も別荘を発たねばならないな。


「クレーブル王都に寄らずに別荘に向かったことを御后様が嘆いていましたよ。来年は王都にも顔を見せなければなりません」

「今回はバンターの作る船の確認が目的じゃ。早々気安く王都を訪ねるのもどうかと思うぞ。それで、王都の様子はどうであった?」


「昔と変わりませんね。妻の実家にお世話になりましたが、毎日のように貴族の晩餐に招待されました」


 やはり王都は鬼門だな。次も真っ直ぐ来た方が良いのかもしれない。

 翌日。俺達は東に向かう事になった。

 昼過ぎには昨年と違って石で壁を覆った監視所が見えてくる。

 俺達の接近を知って、直ぐに監視所の兵が馬を走らせてきたが、正体を知って恐れ入っているから困ったものだ。


 直ぐに監視所近くに作られた屯所に案内されたが、それほど長くいられる訳ではない。

 隊長の許しを得て監視台に上がり、東を望遠鏡で探って見る。

 まだ、トルニア王国の監視台は作られて行ないようだ。

 こちら側は、2重の柵と空堀が作られている。少なくとも騎馬隊による強行突破は難しいだろう。クレーブルの戦力を考えれば強襲を止められるだけの体制が出来たことになる。次は俺達の対応だな。


「1年で監視所を新たに2つ作りました。監視台も高く作ったのはバンター殿の進言によるものと聞いております。さらに付け加えるべきことあればお教え願いたい」

「2個大隊の食料10日分と、水場でしょうね。これだけの阻止線を騎馬隊で突破するのは困難です。この状態で睨み合いになりますよ」


 俺の言葉に頷いているところを見ると、彼もそれを危惧していたのだろう。俺からの言葉を添えて上官に具申すれば直ぐにも備蓄が始められると考えているに違いない。


「長期化した場合には、矢の備蓄も考えた方が良いかと……。矢筒に入れる数の3倍は用意しておかねばなりません」

「すでに準備しつつあります。ですが3倍ですか……」


 背負った矢の数に予備を少し位に考えていたんだろうな。いくらあっても足りないのが矢なんだけどね。

 俺達の方も準備しておかねばならないな。かなり作ってはあるようだが一度確認しとかないといけないだろう。


 お茶のお礼を言って、今度は柵伝いに北へと向かう。

 夕暮れ前に俺達の南の船着場が見えてきた。

 低い石垣はまだ制作途中のようだ。10D(3m)の高さにするらしいが、今のところは6D(1.8m)程だな。

 船着場の宿の1つを貸し切って俺達がのんびりとワインを傾けていると、船着場の責任者が訪ねてきた。


「遠路ご苦労さまです。御指示に従って守りを固めておりますが、いかがでしょうか?」

「もう少し先になるだろうから、この調子で進めて欲しい。川上の船着場も一緒に囲んでるのかい?」


「今は長いロープを使って南北を行き来しています。ロープは3本使っていますから1本が切れても問題はありません。舵だけで南北に行き来出来ますから助かっています」


 流れがあるから出来るような船の使い方だな。どうにか川底にアンカーを固定出来たみたいだ。

 10人乗りの船を使って荷を運んでいると言っていたが、戦になったら荷役の量が増えてしまいそうだ。やはり事前南の砦にある石橋を使って兵士を移動する外に無さそうだぞ。


 川上に植林をしたそうだから将来の焚き木採りに不自由はしないだろう。川岸に小さな畑を作っている様だ。

 包囲されてもそれなりに耐えられそうだ。2個中隊どころか1個大隊が宿泊できる屯所もすでに出来ているらしい。


「屯所と言っても、普段は倉庫として利用しています。おかげで行商人達もここで品物を揃えられると喜んでいますよ」


 問屋的な役割も担ってるのか。それなら小売りの行商人に喜ばれそうだな。

 しばらくタルネスさんに会っていないけれど、商売は上手く行ってるのだろうか? マデニアム出身なんだけど山賊時代は散々世話になったからね。


 船着場で一泊して翌日は少し足を延ばすことにする。

 王都のザイラスさんの子供をサディが是非とも見たいらしい。

 泊まって行けとウイルさんに引き留められたが、何とか夜遅くになって王都の門を潜ることが出来た。


 王宮は炎上して無くなっているが、旧貴族の館が幾つか残っている。そんな館の1つにザイラスさん達が住んでいるから俺達も客室の1つを借りることが出来た。


「だいぶゆっくりしてきたな。まあ、シルバニア王国に特に問題はない事も確かだ」

「今年の秋には問題が出てくる可能性がありますよ。最初の税の徴収ですからね」


 広間の一角でザイラスさんとトーレルさんと一緒にワインを飲む。

 3人で飲むのは俺達の結婚式依頼の事じゃないかな。サディ達はジルさん達と女子会で盛り上がっているんだろう。たまにここまで笑い声が聞こえてくる。


「税と言っても微々たるものだ。マデニアムが占拠していた時には半分を持って行かれたらしい。2割は周辺王国から比べても少ないと思うぞ」

「税額についてはしばらく様子を見ることにします。銀山の収入次第なんですが、将来的には3王国共同事業の利益が入るでしょう。その利益が見積れません」


「まあ、国庫の状況に寄ると言う事だな。兵達も年明けから規則的に収入が得られることを喜んでいる。今までは不定期だったからな」

「私達にも収入があると聞いて妻が喜んでいます。実家の方は豊かな貴族ですからね。貧乏でも誠実であればいつまでも一緒にいますとは言ってくれるのですが……」

「俺のところは、次の戦場はどこだと煩くてかなわん。子供が出来たからしばらくは持つかと思っていたが、バンターの始めた保育園が災いしてるぞ」


 保育園に預ければジルさんは昼間は自由になるって事かな?

 だけど夕方には戻って来るんだから、兵士を鍛えるには丁度良いと思うんだけどね。


「別荘に滞在中は、結構な数の訪問客で困ってしまいました。やはり駐在武官を置くべきだと女王陛下が言っていました。ザイラスさんとトーレルさんが推薦して頂ければと……」

「トーレルなら適任だが、東があるか。となると……」

「バルツではどうでしょう。元は貴族の次男ですし、妻も下級貴族の出身です。王宮となると、誰でもという訳にはいかないでしょうし、山賊初期の中でもあるんでしょう?」


「確かに適任だな。俺のところで騎兵の訓練を行っているが、後は副官を格上げすれば良いだろう。バンター、女王陛下にはそう伝えてくれんか?」

「了解です。バルツさんなら一緒に戦ったこともありますから女王陛下も納得してくれるでしょう」


 本人の確認は無視してるけど、一応栄転って事だから喜んでくれるだろう。必要経費もたっぷり持たせて置けばクレーブル王宮で恥を欠くことも無いに違いない。


「問題は東だな。ニーレズムが滅んだのは俺にも伝わってきたがその後が分らん。バンター、気を付けて見とくんだぞ」

「分かってます。ラディさんの部隊に探りを入れて貰おうと思ってますから、採り入れ前には状況を知らせますよ」


 ザイラスさんにも東の脅威が理解できるのだろう。俺達の領土に直接攻撃はしないと思ってはいるが、向こうの戦略が分らないからな。

 戦力の大きさと部隊配置は早めに掴んでおいても損は無さそうだ。



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