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SA-131 知識はあるんだけどね


 オブリーさんは王都でザイラスさんから俺達だけで別荘に向かったと聞いて、すぐさま出掛けて来たらしい。

 いくら治安が良いとは言っても、間違いが起きたら取り返しがつかないと言う事らしいが、それほど心配することは無いんじゃないかな?


「もう、絶対にやめてくださいよ。連絡してくだされば直ぐに私が南の砦でお迎えしますから」

「まあ、迷惑じゃろうと言う事で連絡はせんかったが、次からは前もって連絡を入れる事にしようぞ」


 そんな事を言ってるけど、いつまでも末の王女気分なんだろうな。俺も庶民根性が抜けないから、中々難しい注文ではある。

 サディの答えにしても、オブリーさんが怖い顔で見据えているからに違いない。たぶん、直ぐに忘れてしまうに違いない。


「それで、次はどこに行くのですか?」

「バンターに港を見せていたのじゃ。バンター次はどこじゃ?」


「そろそろ帰りましょうか? おおよその事は分ったつもりです。オブリーさんがいらしたなら、昨年の船長と、船大工を別荘に招きたいですね」

「了解です。では、私に付いて来てください」


 3人の気楽な行動は出来ないみたいだ。オブリーさんに率いられてぞろぞろと港を離れる途中で、布を扱う店を見付けたのでネルに似た布を手に入れた。

 広場に戻って馬車に乗ると、2人の兵隊が御者台に上る。


「色々と面倒じゃのう。気楽に過ごすにはどうすれば良いか考えねばならぬ」

「それだけ御后様達がサディを案じてるんです。最低限の護衛についてオブリーさんに相談するほかありませんね」


 護衛に特化したSPみたいな人を作る事になりそうだな。

 ある意味、ミューちゃんがマリアンさん並みの武芸があれば良いんだけど、どちらかというと俺達の使い走り担当だからな。石弓の腕はそれなりなんだが、街中でボルトを放つ事は別の問題がありそうだ。

 

 別荘に戻ったところで、マリアンさんにネルを使って三角形の袋を作って貰う。

 少し考えていたけど、お茶のポットに入れて使うと言ったら、納得してくれた。お茶をそんな袋に入れて使う事もあるらしい。


「少し厚めの布ですね。お茶なら木綿で良いのですが、粉茶をお買いになったのですか?」

「お茶とは違うんだけど、出来たらご馳走しますよ。昔飲んでたものを見付けたんで少し買い込んで来たんです」


 そんな話をマリアンさんとしてると、サディ達がオブリーさんと窓際で議論しているのが聞えてきた。

 ミューちゃんが望遠鏡を覗いているところを見ると、港で何かあったのだろうか?


「カタパルトは護衛船だけでは無かったのか?」

「海戦では極めて有利との事で、小型のカタパルトを交易船にも積んだのです。あの船団が最初にカタパルトを搭載した交易船です」

「クレーブルが海賊を始めたわけではないのだな?」

「まさか……。海賊を撃退することはあっても、他の船団に対して略奪行為をすることはありません」


 交易の度合いにもよるだろうな。常に対等な利益をもたらす交易であってほしい。でないと交易が途絶える恐れも出てくる。

 たぶん護衛船は王国の息の掛かった者が乗り込んで、交易の監視を行っているのだろう。とは言え、そこに莫大な利益が絡んでいるから、不心得者が出てくる可能性もあるわけだ。


「ある程度は予想できたことだから、俺としては問題ないと思うな。将来的には交易船の武装によって護衛船を減らすことも考えられるだろう。それだけ利益が増すんだから、交易船の船主もカタパルト設置には前向きなんだろうと思う」


 俺の話を聞いて2人がテーブルにやって来た。ミューちゃんも望遠鏡に布を被せてマリアンさんの隣に腰を下ろす。


「先ほどバンター殿がおっしゃった通りなのです。長い航海を行う交易船の全てに小型のカタパルトが2台乗せられるでしょう。ですが護衛船2隻の随伴は今まで通りになっています」

「護衛船は必ずしも護衛だけでは無い……。そう言う事ですね」


 俺の話にオブリーさんが頷いた。苦笑いを俺がしている意味が分かったらしい。

 分らないのは家の連中だな。首を傾げている。


「やはり海賊の脅威はあると言う事ですか?」

「海賊船を見掛けぬ航海は無いと船長達は言っているようです。海戦をすることはそれ程多くは無いと聞いていましたが、船団の規模が小さいと襲ってくるとも聞きました」


「かなり危険だと言う事ですか……。そうなると、新たな交易路を探す船団の武装も考えないといけませんね」

「海戦を想定した交易船とするのじゃな? おもしろそうじゃ!」


 サディとミューちゃんは喜んでるけど、マリアンさんは首を振って諦めてるな。まあ、1度船に乗れば満足するんじゃないかな。


 その夜、マリアンさんに縫って貰った袋に砕いたコーヒー豆を入れて、久しぶりにコーヒーを味わう。

 少し砂糖を入れて飲むコーヒーは、マリアンさんがすっかり気に入ったようだ。

 残りの豆を渡しておいたから、しばらくは楽しむことが出来るだろう。

 サディ達には不評なんだけど、これは個人の好みもあるからな。俺とマリアンさんで楽しめれば良い。


 光球の灯りが照らすテーブルで交易船の武装に付いて考える。

 皆が寝る前に大きなカップにマリアンさんがコーヒーを入れてくれたから、パイプを楽しみながら飲んでいる。今回の最大の成果じゃないかな。


 考える上で問題になるのは敵の武装なんだが、今までの護衛船の武装は弓だけだったらしい。

 と言う事は相手も弓であったと言う事になる。そんな相手にカタパルトを使うんだから一方的な海戦になったんじゃないか?

 だが、相手の船が同じ位の大きさなら良いのだが、小型船では牛刀になりかねない。それに発射間隔が長いのも問題だろう。飛距離は十分だから火の点いた矢を打ち出して相手を威嚇するような戦をしてるんじゃないかな。

 それでもひるまずに近付いて来たなら、至近距離で打ちだせば通常の火矢より威力はあるだろう。

 だが、小型船が多数では対処のしようがない。

 カタパルトよりも小型で長弓よりも有効射程の長い武器が必要になるわけだが、そんな武器があっただろうか?


 飛距離は1M(150m)程で良いわけだから、カタパルトを小型化すれば良いような気もするな。

 長弓でも良さそうだが、あれは面を狙った武器だから、一斉に火矢を放てば何本かは当たるだろう。

 石弓と長弓のどちらも使える兵士を乗せれば良い。

 それ以外に、小型のカタパルトを数台乗せて、相手に爆弾を打ち込む事にするか。次の戦でクレーブルとニーレズム間の石橋を破壊しようと考えてたから、火薬を転用すれば新たに作らずに済む。

 使わずに保管しておくのは、危ないから早めに使ってしまうに限る。

 そうなると、やはり船の模型を早く見てみたくなる。どこに設置できるかを考えないと先に進めないぞ。


 2日程過ぎたところで、ようやく船長と船大工がやって来た。

 船大工の弟子が新たな交易船の模型をリビングに運んで来たんだが、大きさだけで2m近い代物だ。模型を越えてるんじゃないか?


「出来たのは今年の春先だ。夏には来るだろうと言う事でそちらに運ばずにいたのだ」

「ワシも昨夜初めて見たのだが、かなり変わっているぞ。色々と確認したいのだが構わぬか?」

「ええ、皆で良く見ながら、次の模型を作って貰いましょう。俺達も港で交易船や護衛船を見て来ました。この船がかなり変わっていることは認めます」


 テーブルでお茶を飲み終えると、リビングの一角に据えられた模型の周りに皆が集まる。

 マリアンさんやミューちゃんもサディの後ろから覗いているぞ。


「一番変わっているのは帆と舵だ。舵は確かにこの方法が良いだろう。今建造している交易船にこの舵を取り付けている。来年には結果が出るだろうが、俺が思うに他の交易船もこの方法を取り入れることになりそうだ」


 人工の水路で舵の効き目を試したらしい。

 そんな施設があることにも驚いたが、船を作る上では色んな注文があるそうだ。その改良点に問題が無い事を確認した上でなければ、船の建造を行わないらしい。

 ある意味、検定と言う事になるんだろうか?

 長距離の航海を安全に行うために出来たんだろうな。


「分からんのは、この可動式の帆だ。俺達が建造する船もマストがあるが、これほど進行方向に対して動くことは無い。左右に振れる帆桁なぞ初めてだ」

「作れれば問題ありません。それが必要な理由はこの船の漕ぎ手が半減以下だと言う事です」


 左右に10本突き出ている櫂は必要が無いはずなんだが、一応念のための措置でもある。


「この船底に突き出た板も分らん代物だ。このぐらいなら突き出ていても問題は無さそうだが、万が一に備えて船体とは切り離せる。でないと暗礁にぶつかったらそれで終わりだ。出来れば撤去したいところではあるな」

「それが無いと困ります。これだけの長さがいるかどうかは微妙なところですが、この板で風で船が流されるのを防ぐんです」


 俺の話を聞いて、皆が一斉に俺に顔を向けた。


「バンター、帆船は風を帆に受けて進むのじゃ。風は後ろから吹いて来る。流されることは船足を早める事になるのではないか?」


 サディの思いは皆も同じなんだろうな。船長でさえ頷いているぞ。

 模型の帆を斜めにすると皆の顔を眺める。


「この状態で、船の左舷から風が吹くとすれば、この帆船はどちらに進みますか?」

「横に進む。少し右に反れるだろうな」

「舵で左に進路を取ったら?」


 船長が咥えていたパイプを落した音がリビングに大きく響いた。

 少し遅れて船大工が「あ!」っと大声を上げる。


「風上にこの船は進めるのか!」

「そう言う事です。だから船が流されないように工夫する必要があるんです」


 テーブルに戻ると、マリアンさんがコーヒーを運んでくれた。

 サディとミューちゃんにはジュースらしい。

 熱いコーヒーは暑い日にも良い感じだな。

 船長達も美味そうに飲んでいる。


「ちょっと不思議な感じです。港の店で飲んだカフィーに似ていますが、これはあの粉が全くありませんね」

「ちょっとした工夫ですよ。ネルで濾しているんです」


「船でさえ、あれだけの工夫を考えられるんだ。これ位は簡単かも知れんな。あの店にも教えてやってくれ。カフィーを飲む客は意外と多いと聞いたぞ」

 船大工の棟梁がそんな事を呟いている。

 それも良さそうだな。定期的な豆を入手と交換で良いだろう。


「一番の疑問に答えてくれたが、本当に出来るか小さな船で調べてみたい。2人乗りの手漕ぎの船を使えば簡単に改造ができる。それは俺達に任せてくれ」

「よろしくお願いします。こまごましたところはメモで送りますから、次の模型に反映してください」


 2人が頷いたところを見ると、現実主義者のようだ。

 昔からのやり方にこだわる事が無くて安心できる。小さな帆船は上手く行くだろう。来年が楽しみになって来たぞ。



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