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SA-130 コーヒーがあった!


 翌日はトーレルさんと別れて、カナトルを連ねて南に向かう。

 朝早くに出たから、夕方には到着するだろう。昨夜の内に、ウイルさんの配下が別荘に知らせに向かったと言っていたから、レイノルさん達が首を長くして待っていてくれるだろう。


 街道の所々に作られた休憩所の木陰で、たまにカナトルを休めてお茶を頂く。

 お茶の為なら休憩所に作られた林から焚き木採りをしても良いらしいが、俺達は油を使った簡単なコンロでお茶を沸かす事にした。

 油は豆から絞った貴重品だ。これも交易で得たものらしい。

 抽出方法さえ分かれば俺達で作っても良さそうな感じがする。菜種油辺りが採れるなら、テンプラやドーナッツが作れそうだ。

 

 どうにか日暮れ前に別荘に到着し、港の灯りを楽しみながらの夕食を頂いた。

 別荘へやって来た目的は交易船だから、レイノルさんに船大工のテレファンさんを呼んで貰う事にした。

 ついでに酒を買い込んできてもらう。やはり手土産は必要だろう。少し上等の酒を頼むことにした。


「確か模型を作るような話をしていたが、出来たのであろうか?」

「3か月は掛かるだろうと言ってましたが、本職は船大工ですから片手間仕事なのでしょう。途中まで作ってあれば少しは改良点が見えてくると思ってるんですが……」


 とは言ったけど、俺にもあまり自信が無い。船に乗ったのは手漕ぎのボート位だからね。

 だが、ヨットは風上に進めると聞いたことがある。その理由が三角帆と、船体の下に突き出した板だと言うんだが、どういう原理なのかは分からず終いだ。

 まだ、模型が出来ないなら、3人程乗れるヨットでも作って貰おうか。オールを使えるようにしておけば、帰ってこれないということにはならないだろう。


「バンターが思うように作れば良い。3王国がそれを許しているのじゃからな。我も色々と考えねばならん。この秋からいよいよ徴税が始まるからのう」

「基本は出来たんですか?」

「うむ。ヨーテルンの農家が、昨年秋に収穫したライ麦を基本とすることにしたのじゃ。小作や地主もおるから、自作農家を基本にしておる。収穫の2割を現物、もしくは商人への売値で納める事になる」


 2割は少ないんだろうが、その値がどのような事で前後するかをこれから考えると言う事か?

 だけど、かなりの検討をフィーナさん達がやってた気がするんだが……。


「特例は、北の村じゃな。それに屯田兵達もじゃ。収入が明確な場合は楽なのじゃが、商人は面倒じゃった」


 何と、店の大きさで決めたらしい。行商人から王都の大店を5段階に分けたそうだ。行商人だと10Lで、大店は銀貨5枚になるらしい。

 かなり乱暴な方法だが、ビルダーさん達が納得してくれれば問題は無いだろう。


「商人以外の売買を禁じることで、税の未納は少しは防げるじゃろう。年間の収入が銀貨10枚に達しなければ、税金の対象外じゃ。これで働く者が増えるであろう。逆に、年間収入が銀貨10枚に達しない者には食料を与えることになっておる。これは教団の神官の仕事にしたぞ。銀塊1本の引き換えじゃな」


 福祉の実践を神官に委ねるのか……。

それに見合った寄付を神官に渡すのを忘れないようにしなければなるまい。

銀塊1本は教団本部に送ってるんだからね。


「そうなりますと、兵士達の給与はどうなるのですか?」

 マリアンさんが気になったのか、サディに質問を投げかけた。


「衣食住全て王国が支給する。そうなると独身者なら1か月銀貨1枚で十分じゃろう。妻帯、子供の数、それに軍での地位で加算していくことにした。ザイラスの了承は得ているぞ」


 さらに話を聞いて行くと、俺達の基本給も兵士の給与を元にするらしい。

 長官クラスで銀貨10枚との事だが、衣食住は確保されてるから十分なんだろうな。保育園の娘さんが貰う5倍という事になるんだろうが、国作りに関連する費用は別建てだから、余ってしまうだろうな。その使い道も考えねばならない。

 いずれにせよ、シルバニア王国の最初の徴税だ。

 不満に思う人達も出てくるだろう。その不満が何から生じるのかをきちんと把握して次の年に見直すことにすれば良い。


 翌日は、サディとミューちゃんを連れて港見物に出掛けることにした。

 小さな馬車は御者を含めて4人が乗れるから、俺達の移動に都合が良い。マリアンさんは、朝から何冊かの本を開いて魔導士のお姉さんと議論していた。

 たぶん、内務長官としての仕事をしているのだろう。各部局の横並びを調整するのが仕事だからな。


 御者はミューちゃんに任せて、のんびり周囲を眺めていると、サディが腕を伸ばして、特徴のある建物を教えてくれる。

 去年の別荘暮らしで何度も訪れていたから、色々と見て回ったに違いない。

 

 道なりに進んでいくと、やがて大きな広場に出た。

 広場の両側にたくさんの荷車が並んでいる。良く見ると、荷車の種別や大きさで場所を決めている様だ。

 黄色の手旗を振って俺達の馬車に男が近付いて来る。


「あの男達がこの広場を仕切っておる。数人おるのじゃが、中々の手際じゃ」

 サディの説明では、駐車場の誘導員と駐車料金の徴取員を兼ねた連中らしい。

 確かに俺達の後ろにもいつの間にか荷車が列になっているからな。

 広場を効率的に使うには誘導員の存在は欠かせないだろう。

 

 誘導員の案内してくれた区画には、同じような馬車が数台停まっていた。

 後で間違わないかと馬車を見て、思わずのけぞってしまったぞ。

 何と、荷馬車の後ろに大きく聖堂騎士団の図案が描かれた板が取り付けられていた。これなら目立ちすぎるし、乗りたい奴もいないんじゃないか?

 ちょっとサディ達の感性を疑いたくなったが、この図案を誰もが気にいってるんだよね。

 

 誘導員にミューちゃんが銅貨を1枚渡して、木の札を受け取っているのがチラリと見えた。

 後で建て替えた分を払わないといけないな。


「さて、出掛けるぞ。先ずは交易船を見に行こう。それと、ミューには毎月銀貨3枚を給与とは別に与えておる。雑費は必要じゃからな。ここに出発する時にはさらに5枚を渡しているから心配はないぞ」


 ミューちゃんを見ていた俺にサディが教えてくれた。

 バッグに木札を仕舞いこんだミューちゃんとサディが手を繋いで歩き出す。その後ろに付いて俺も歩き始めたが、こんな3人だと俺は2人の護衛に見えるんだろうな。


 石造りの2階建ての建物が碁盤に目のような通りに沿って並んでいる。

 宿屋や商店、問屋に食堂……。看板を眺めるだけでも楽しくなるけど、前の2人の歩みが速いから、あまりのんびりと見ているわけにもいかない。

 ともすれば少しずつ増えてきた人並みで、見失いかねない。


 2人の後を懸命に付いて行くと、突然前方が開けて大きな船が見えてきた。

 どうやら船を停める埠頭に着いたらしい。

 荷役人が荷車を忙しそうにガラガラと音を立てて俺達の前を走り抜けた。

 さすがにクレーブルの心臓だけのことはあるな。

 ここを敵に渡さねば、例え王都を明け渡してもクレーブルは容易に再生できるだろうな。

 シルバニアにとっての銀山のようなものだ。違うとすれば、銀山は限られた資源だが、港は発展する可能性がいくらでもある。


「あちらの船がこの港では一番大きいぞ。4隻あるらしいが、生憎と2隻じゃな。その隣が護衛船と言う事じゃ。数隻の交易船に2隻が随伴すると聞いたぞ」

 得意になって教えてくれるけど、たぶんオブリーさんに昨年教えて貰ったに違いない。


「あそこのお店でお茶を飲みながら見学するにゃ!」

 俺の服の裾をクイクイと引きながらミューちゃんが腕を伸ばして提案して来る。

 ここで、ボケーっと船を見てるなら確かに邪魔になりそうだな。

 ミューちゃんの意見に従ってお店に入ると一段高くなったテラスに設えられたテーブルセットの1つに腰を下ろした。


 店員が注文を聞きに来る。メニューを見せて貰い、変わった飲み物は無いかと聞いてみた。


「それなら、カフィーを試してみてはいかがでしょう。見た目は黒いのですが苦みがたまらないと人気急上昇です」

 ひょっとして、コーヒーなんだろうか? 直ぐにそれを頼んで砂糖を付けて貰う。

 サディ達はジュースにしたらしい。交易でいろんな果物が陸揚げされるからジュースの種類も多いようだ。


 やがて運ばれてきた物は、やはりコーヒーに見える。

 小さなカップに真っ黒な液体だからサディ達が驚いているぞ。

 少し口を付けて味を確認する。間違いない、コーヒーだ。だが、豆を砕いて直接煮込んだらしいな。粉が混じっているぞ。

 砂糖壺からちょっと砂糖を入れてかき混ぜる。少し濃いがアラビアコーヒーってこんな感じなのかも知れない。帰りに是非とも豆を手に入れたいものだ。


「美味しそうに飲んでおるが、だいじょうぶなのか?」

「昔飲んでいたコーヒーと言う物と同じに思えます。豆から作るんですよ」


 近くを通った店員に豆を譲って貰えるか交渉すると、1グルで良ければと答えが返って来た。

 直ぐに値段を聞くと銀貨1枚と言う事らしい。高い金額ではあるが、バッグから銀貨を取り出して渡すと、直ぐに店の中に入って行った。

 少しかさばる包みを受け取ってにんまりとした俺を、サディ達が呆れて見ているけど気にしないぞ。港に来て良かったとうんうんと頷きながら、腰のバッグに詰め込んだ。ほとんど中身が無いバッグだったが大きく膨らんでしまった。


「あれが陸戦隊じゃ。非番の連中は港の治安維持を担当しているようじゃな」

 横縞のシャツと短パンのいかつい男達が数人で港を巡回しているのが見える。俺達のところでは騎士団の連中が担当しているようだけどね。

 そんな中、見知った女性が数名の兵を引き連れて港の様子を見ているのに気が付いた。


「あそこにオブリーさんがいますよ」

「どれどれ、確かにオブリーじゃな。何をしているのじゃろう? 手伝ってやろうか……」

 

 サディが席を立ってテラスの柵によって「オォーイ!」と手を振っている。直ぐにオブリーさんは気が付いたようだ。兵士と共に急いで店に入って来た。

 ドカドカと足を鳴らして俺達のテーブルに近付き、厳しい目を俺達に向ける。


「もう、探しましたよ。一国の女王様なんですから、伴も連れずに港を見物何て事は止めてください!」

「まあ、そう目くじらを立てずとも良いぞ。我が国では女王でも、この国では単なる客じゃ。それにバンターがおれば無頼漢がいようとも早々遅れは取らぬじゃろう」


 だいぶ強くなった気はするから、サディ達が逃げる時間稼ぎ位は出来るだろう。

 オブリーさんに椅子を勧めて、伴に兵士達にも近くのテーブルに座って貰う。

 ミューちゃんが改めてジュースを頼んでいるから、もうしばらくはここで休むことが出来そうだ。

 


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