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SA-127 地図作りの場所確保


「私は賛成ですわ。女王陛下も納得して頂けるなら、教団が子供のお世話をいたします」

「じゃが、教団施設では狭かろう? その辺りは考えねばなるまい」

「祠の移動は何ら問題はありません。祠と神像は一緒ですからね。祠と神官の住居、それに子供が遊ぶ家と庭があれば十分ですわ」


 祠の近くに適当な物件が無ければ、引っ越しをするということになるな。

 教団の教義に反しなければ、シルバニア王国の祠の数はあまり変わらずに済むから都合が良さそうだ。


「子供好きの娘さんを雇う事は出来ますね?」

「その位なら何とでもなる。商店の店員並みに支払う事で良いであろう。だが、タダという訳にもいかぬであろうな」


 保育料と言う事になるんだろうな。娘さんに支払う額が銀貨2枚程度だろうし、あまり高くすると子供を預ける者がいなくなりそうだ。

 

「それでしたら、昼食も用意したいですね。朝から夕刻まで預かることができます」

「預かる時間と引き取りに来る時間も決めねばなるまい……」


 中々考えることがありそうだぞ。

 これは、サディとエミルダさんに任せておいた方が良さそうだ。

 読み書きと計算は納得してくれているから、俺の方から特に意見を言う事も無い。


 その間に、もう1つの課題を片付けよう。偏角の確認だ。

 数学者の卵達が頑張って三角測量を行っているが、その測量は磁石を用いて行っている。

 磁石の示す磁北とこの世界である球体の回転軸が同じであれば良いのだが、ズレがあると困るからな。

 地図はキチンと回転軸に合わせて経線を引きたいからね。

 そうなると、真の北を確認することが大事になるが、そのやり方が問題だな。

 簡単な方法は日時計を作って柱の長さが最短になる位置を調べれば良いのだが、どの程度の誤差が出るか皆目見当が付かないぞ。

 色々と試してみるか……。


 シルバニア王国の冬は、雪が降り続ける日々だ。ともすれば吹雪の日だってあるんだが、稀に朝から快晴の日もやって来る。

 そんな日に中庭にテーブルを持ち出して、テーブルの端に細い柱を立て、テーブルに広げた紙に影の位置を記録していく。あらかじめ方位磁石で南北線を引いているから、その線との比較で良いだろう。


 パイプを咥えながら適当な時間間隔で影の先端をプロットしていく。

 そんな俺の作業を砦の連中が見学にやって来るのだが、誰も俺の目的を理解してはいないだろうな。

 サディ達は太陽がこの大地を回っていると信じている様だ。俺達の代値は平らで周囲を海が囲んでおり、その先は大きな山脈で囲まれていると言っていたな。その先は崖になっていると言ってたから、間違いなく天動説だな。

 大地が球体何て言ったらどうなるんだろう?


 冬も終わりになるころには、数回の観測を行うことが出来た。

 結果は西に3度と言う事になったが、これ以上の観測は俺には出来ない。

 地図は偏角を西に3度を取って作り事になりそうだ。


「雪の中、ご苦労な事じゃ。ところで何をしていたのじゃ?」

「本当の北を確認してたんです。この方位磁石は必ずしも北を指さないんです。本当の北と磁石の指す北の誤差を調べてたんですよ」


 だいぶ砦の周囲の雪も融けてきたようだ。10日もすれば雪融けの荒地に草が芽吹くんじゃないかな?

 北の村の西に広がる荒地には、牧草の種をたくさん撒いたから、一面の緑になれば良いんだけどね。

 とは言え、まだまだ寒い日々が続く。

 広間の大きな暖炉の周りに俺達は集まって仕事をすることが多いんだよな。


「本当の北と言う表現もおもしろいのう。北はアルデンヌ山脈の方向と我は聞いておるぞ」

「確かにそうですけど……。では、山脈のどの峰が北なんですか? という質問に答えられませんよ。それを確認するための作業が、あの中庭の作業だったんです。方位磁石を使えば北は分りますが、地図を作る上ではちょっと不足します。それが、方位磁石の指す北と本当の北にズレがあると言う事に結びつくんですが、一応そのズレを調べることが出来ましたから、地図作りに問題はありません」


 あの連中はどのあたりまで調べているんだろう?

 この砦周辺から開始したはずなんだが、あれから姿を見てないんだよな。

 1年に1回は状況報告をしても良さそうな物なんだが……。


「ところで、測量隊はどの辺りで作業をしているのか分かりますか?」

「1隊は尾根をに向かいました。街道を調べるのではないでしょうか? もう、1隊は荒地を西に向かいましたよ」


 ラディさんの情報網は、彼等の居場所が分かるみたいだな。

 

「1度、砦に来て報告をするように告げてくれませんか? 出来れば春と秋の2回は状況を確認しませんと……」

「確かに……。ですが、彼等は学者の卵。始めたら一直線のところもあります。報告を忘れていることを御咎めすることが無いよう」

「分かってるさ。そろそろ、形が見えてくるんじゃないかと思ってね。それと、王都近くに向かうなら、王都で絵師を探して来てくれないかな」


ラディさんが暖炉の傍から立ち上がると、広間を出て行った。

 これで、報告にやって来るのを俺は待つだけになるな。


「絵師を呼ぶとは?」

「地図を描いて貰います。測量隊の情報を元に描くのは絵師の方が得意でしょう。学者達では数字をいじるのは得意でも絵心があるとは思えません」


「出来れば風景画も描いてほしいところじゃ。クレーブルの伯母様が我等の暮らしを見てみたいと言っていた」

「たぶん王都には絵師が大勢いたんでしょうね。数人を呼び寄せて描かせるのは俺も賛成です」


 表は中々のお城に見えるんだが、中は殺風景だからね。少しは華やかになるんじゃないかな。魔導士のお姉さんが作ったタペストリーが俺達のリビングの壁を飾ってるんだが、あれを何とかして隠したい気持ちだ。


「ところで保育園は何とかなったんですか?」

「春分の日から1か月後に始めるぞ。各町村に1つ作ってあるから問題も無かろう。1か月20Lで昼食付じゃ。娘達の職場も出来たと村役達が喜んでおる」


 春分の日が農家の仕事始めだからな。たぶん種蒔きの時期に合わせて始めようと言う事だろう。となると、今頃はどこの神官も忙しそうだな。

 この頃エミルダさんの姿を見ないのは、あちこちの神官を訪ねているに違いない。


「そう言えば、昨年の夏に交易船の模型を作ると言っておったがまだなのか?」

「知らせが来ませんね? まだまだ先の話ですから遅れても問題はありませんが、色々と改良をお願いしましたから、それで時間が掛かってるんでしょう」


 3か月位で出来そうなことを言ってたけど、やはり問題があったと言う事かな?

 近場なら直ぐにも知らせが来るんだろうけど、距離があるからなあ……。今年の夏に再度出掛けてみるか。絵画をお土産にすれば御后様も喜んでくれるに違いない。


「それと、部隊や職人の人達との打ち合わせ用の部屋と宿泊場所を何とかしたいですね。色々と教えることがあるんですが、測量隊を作る時は修道院をお借りしましたが、いつもと言う事にもいかないでしょうし」

「となれば、関所が良いじゃろう。2個分隊を駐屯させる場所があるのじゃ。それにここからは目と鼻の先じゃぞ」


 確かに丁度良いかもしれないな。今では1個分隊の半分の1班が駐屯しているだけだ。仕事は屯所の維持管理だから、逗留する者がいれば彼等も楽になるだろう。

 関所の連中に頼んで、簡単な広間と個室を屯所の1つに作って貰う。個室と言ってもカーテンで仕切るだけの簡単なものだ。広間に大きな暖炉があるから凍えることは無いだろう。

 ついでに、リーダスさんに黒板を作って貰う。チョークは金属加工の印用にあったから丁度良い。

 広間を教室代わりに使って教えることが出来そうだ。

 鍋や食器は屯所の予備品を使えるし、食事は北の村からネコ族のおばさんを3人程その時に雇えば良い。

 おばさん達の移動は関所の連中がやってくれるそうだ。彼等も自炊でなく美味しい物を食べたいんだろうな。


 そんな段取りが済んだ頃、測量隊が報告に帰って来た。

 砦にやって来た彼等を関所の屯所に案内して、広間のテーブルに着かせる。

 昼は適当に食べることにして、夕食の為に関所の機動歩兵が北の村に出掛けて行った。


「どんな具合だ?」

「かなり進んでいます。Aクラスの杭を打って、その杭を基点にAAの杭を打つ。更にAAAを打つまでになっていますが、この数字から地図を作る方法が思い浮かびません」


 やはり数字を扱うのは慣れてるけど、それを図面に描くとなると考えてしまうと言う事だな。


「王都より絵師を数人招く事にした。彼等に地図を描いて貰うつもりでいる。問題は絵師は数字に詳しくないと言う事だな。この間を上手く取り持つ人物が欲しいところだ」

「クレーブルの学府から2人程、新たに招けば良いでしょう。絵心がある者はいるのはいるのですが……」


 言い淀んでいるのは、問題児でもあるのだろうか?

 よく聞くと、どうやら出身が貴族ではないと言う事と女性であると言う事だ。クレーブルは簡易な貴族制を取っているが、シルバニアには貴族はいない。丁度良いから呼んでもらう事にした。


 彼らの話を聞くと、1年間で打った杭の数は総数で1千本を越えているらしい。

 石の杭は石工の良い練習台にもなるし、収入を安定させるにも貢献しているみたいだな。


「地図作りを行う上で、かなり気を付けねばならないことがある。場合によっては、禁忌に触れるかも知れない。これから仕事を進める上で、この辺りで覚悟を決めて欲しい。お前達は教義を場合によっては捨てる覚悟があるか?」


 俺の言葉に、彼等は驚いたように一斉に俺に顔を向けた。


「角度を測り距離を求める。これのどこが教義から外れるんですか?」

「今のところはね。だから、ここで選ばなければならない。このまま俺に協力してくれるか。それとも協議を大切に日々を送るか」


「クレーブル王国の教団の教義は穏やかなものです。それに例え教義から外れようとも俺達が黙っていれば済む事です」

「果たして黙っていられるか……。だが、俺のところではこの話を広めた者は火炙りだったぞ。それ位の話なんだ。異端者のそしりを受ける位なら我慢は出来ようが、極刑ではな」


 テーブルに座った連中の顔色が青ざめて来たな。

 だけど、神が実際は悪魔なんだという訳ではないから、安心して欲しいな。俺がこれから告げることは世界観の話であって、神を否定するわけではない。


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