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SA-126 屯田兵と保育園


 秋風が段々と冷たく感じるようになってきた。

アルデス砦が雪に埋まるのは今年は早いかもしれない。

北の村やミクトス村の畑の取入れも終わったようだ。

来年の耕作の為に落ち葉を発酵させたたい肥を畑にすきこんでいる農民の姿が尖塔の監視台から見えるとミューちゃんが教えてくれた。


 そんな農民の姿に頭が下がる。

やはり、この場所で畑作をするのは難しいのかもしれない。試験的に種を撒いたライムギは平地の収穫の7割と言う事だ。

野菜は出来が良いと言うから、野菜を中心に育ててみるのも良さそうだな。


「シルバニア王国の三分の一は山になる。収穫は期待せずに、銀でクレーブルより購入することになる。ミクトス村が狼に襲われた後に村人が戻らぬ理由もそこにあったのであろう」

「ですが、農作物はこの先もずっと採り入れが出来ます。銀山はそうはいきません」


 長く王国を栄えさせるためには、利害の一致する王国との同盟と他国に攻め入られないだけの戦力を確保する必要があるだけではない。

 国力も必要になるのだ。俺は国力=自給力+経済力と考えている。

 経済力は、現時点では銀鉱山の銀塊でどうにかなるが、限りある資源であることが問題だ。北の砦の銀山は以前に比べて産出量が2、3割落ちているらしい。

 幸いにも新たな銀山が見つかったから良かったものの、そうでなければクレーブル王国と共に将来は没落していただろう。

 レーデル川の粒金で早いところ、新たな交易路を確保して販路を延ばすと共に、新商品となるべく品物を探さねばならない。

 とは言え、これは何とか目途が立ったと考えるべきだろう。

 

 問題は、自給力なんだよな。

 ライムギの総生産数は、シルバニア王国の必要とする量の8割程度だと、サフィーネさんが教えてくれた。野菜類は十分のようだから、やはり耕作地を増やさねばなるまい。場所的には南の船着場周辺と言う事になるのだろうか?

 王都で開拓者を募り開拓村を作る事になるんだろうな。


「どうしたのじゃ?」

「やはり、開拓団を編成すべきかと……」

「確かに、王都で職にあぶれた者が多いとザイラスがこぼしておったが、彼等に開拓が務まるであろうか?」

「先ずはやってみるべきかと。ダメ元です」


 貴族相手の商売は無くなったからな。その辺りは俺達が少しは面倒を見るべきだろう。それに、放っておくと碌な事にはならないからな。

 少しでもライムギの収穫が得られるのであれば、自分達で消費する以上の収穫が得られるならば……。それはシルバニアの自給率を上げることに繋がるだろう。

 これも数年は無税扱いにして、手厚く補助すべきなんだろう。

 荒地で農業を始めると言う事は過酷な労働なんだから。


「やるとしても、場所は?」

「この辺りなら、手つかずの荒地です。幸いに、マデニアムの投降兵達が道を作ってくれました」


 予定した場所を地図で教えると、マリアンさんまで身を乗り出して頷いている。

 

「やはりのう……。ザイラスも、その地を考えていたようじゃ。バンターも同じ考えであれば問題なかろう。農林はマクラムの担当だったな。彼に指導できる人材を出して貰えばよい」


 確かに適任だろう。後は初期の援助をしてやればいい。待てよ……、彼等を屯田兵のように使う事も出来るんじゃないか?

 ふもとの砦に近い場所に村を作れば、いざという時に1個小隊程度の兵力を作れそうだ。少しずつ増やして1個中隊になれば尾根の守りは鉄壁になるぞ。


「ちょっと変わった開拓団を作りましょう。鍬と石弓を持たせます。ふもとの砦と連携することで尾根の監視所を任せれば、重装歩兵を東の砦に移動できます」

「民兵と異なるのか?」


「民兵は防衛を重視しますが、新しく作る開拓団は攻撃にも使えるように訓練します。ふもとの砦のトーレルさんに訓練して貰いましょう」

「農業と軍務を半々と言う事じゃな。それなら収穫が少なくとも軍務の給金で暮らせるじゃろう。トーレルとマクラムを呼び出すゆえ、その開拓団の話をするが良い」


 こんな軍隊なら、将来は1個大隊程に拡大しても良さそうだ。

 自給率に寄与できるし、少しは給与も少なくて済むだろう。半分まで削減できれば良いんだけどね。


 数日過ぎてやって来たザイラスさん達に屯田兵の構想を伝える。

 兵士としての質を疑っていたが、石弓を使う事で何とかなりそうだと賛成してくれた。

 マクラムさんも農家の次男、三男を指導員とすることで、彼等にも農地が手に入ることを喜んでくれたようだ。


「だが、お前の構想が形になるには時間が掛かりそうだ。それに、荒地の開拓は中々上手く捗らぬぞ。先王も色々と手を打ってはいたのだが……」

「先ずは木を植える事から始めます。林を作れば落ち葉をたい肥に出来ますからね。それに、レーデル川で魚も獲れるでしょう?」


「釣りをする者はあまりいませんが、支流のレデン川の魚をヨーテルンでは網で獲っています。本流のレーデン川ならもっと大きな魚もいるでしょうね」


テーブルで3人でお茶を飲みながら話していたのだが、いつの間にか、暖炉近くに椅子を運んでパイプを楽しみながらの世間話になって来たな。


「魚も売れると言う事ですか?」

「ええ、農家では肉を頂けるのは年に何回もありません。魚ならそれなりに食べられますからね。私も焼き魚は好きな方ですよ」


 なるほどね。肉は裕福な者が食べて、庶民は魚って事だったんだな。騎士団では魚を食べたことが無かったから、習慣が無いものと思っていたんだが……。

 俺達が山賊をしていたのが原因かも知れないな。それなりに加工肉が手に入ったし、ネコ族の人達が狩りで獲物を持ってきていたからな。


「干し魚も行商人がクレーブルから仕入れてくれています。やはり農家がお得意だと聞きましたよ」

「北の村で牧畜を始めようとしてるから、将来は肉が庶民にも行き渡るんじゃないかな。それは後の楽しみとして、川魚が売れるなら専業にしても良さそうだ」

「船着場の人達が小遣い稼ぎに釣りをしているようです。川魚なら、大きな桶に水を入れれば近くの村までなら生きたまま運べますからね」


 すでに、鮮魚輸送も行われていたと言う事になるな。

 その他に、どんなものがレーデル川で獲れるかを聞いてみると、川エビや貝も獲れるらしい。

 

「軍は干し肉とパンが基本だからな。クレーブルではたっぷり食べてきたが、その前に魚を食ったのは何時だったか忘れてしまったぞ」


 裕福の中に軍も入るとは驚きだが、俺もその恩恵を受けて来たと言う事になる。

 魚は高タンパク低カロリーだし、頭も良くなるような話をお袋から散々聞かされたな。クレーブルの食料事情を改善するためにもレーデル川の漁を推進さえるべきかも知れないぞ。


 そうなると、当初予定していた場所よりもレーデル川に近い場所になるのかな? 川まで1km以内で、東の尾根に近い場所。それでいて耕作に適した用地が確保できる場所と言う事になる。


「ふもとの砦より南に下がったこの辺りならどうだ? 尾根の突端に近い場所だが、船着場からは60M(3km)以上離れているし、尾根に近いなら井戸を掘れるはずだ」

「そうなりますと、バンター殿が最初に行うべきだと言われた植樹は、この街道に至る道に沿って行えば荷物を運ぶ商人達も喜びます」


 並木道になりそうだな。とりあえず、ふもとの砦まで行えば良いだろう。3列に植えれば十分な落ち葉を供給できるし、間伐材は焚き木として使えそうだ。


「問題は、彼等が名目上兵士であることだ。衣食住はシルバニア王国が出すことになる。フィーナが何と言うかだな」

「砦として機能する村を想定しなくとも良いでしょう。半分は農民ですからね。とは言え、彼等の収穫が軌道に乗るまでは援助せざるを得ません。それに住居は農村のログハウスを考えれば良いでしょう。北の村を短期間に作った実績を持ってます。100個の住宅を作る事から始めれば良いと思います」


 トーレルさんのところの騎士と、アルテナム村の機動歩兵を使えば良い。

 東の砦の防衛で削減されているが、2個小隊は残っているはずだ。木材は、北の村から運べば良いし、大工はヨーテルンとアルテナム村から雇えば良い。


「100個の住宅と井戸を何個か作ったところで、屯田兵を移動させます。その前に家族持ちの兵を募集して訓練を開始すれば良いでしょう。これはザイラスさんにお願いしますよ。彼等に農業を教える10家族はマクラムさんにお願いします。開墾に使う農具はリーダスさんに連絡してくれれば数を揃えます」


 こんな話を、トーレルさんとリーダスさんにも伝えて、この世界最初の屯田兵が形になることになった。

 実際に開拓を始めるのは、来年の早春になりそうだ。だが、屯田兵を将来の東の守りの要としたい。

 出来れば西も同じ組織を作りたいが、先ずはやってみてどうなるかを見てみよう。

 

 俺達が新しい兵科を考えている間、サディはミューちゃんとマリアンさんを伴って何度もトーレルさんのところに遊びに出掛けたようだ。

 生まれた子供は女の子らしい。いつもトーレルさんが抱いているそうだ。

 あまり過保護に育てると、将来嫁に行く時にトーレルさんが泣き出すかも知れないな。


「ジルも身重らしいぞ。王国の住人がどんどん増えていくのう」

 サディがにこにこしながら報告してくれたけど、ザイラスさんも同じように子煩悩になるのかな?

 あの2人だと、戦場に赤ん坊を背負って出掛ける位はやりかねない。

 ここは、保育施設についても考える必要がありそうだ。


 確か向こうの世界では、近くのお寺で保育園を経営していたな。

 ここは、エミルダさんに相談してみるか。

 各町村にある祠の管理に神官がいるから、教団組織を上手く使えば出来そうな気がするぞ。

 読み書きと簡単な算数まで教えられる、教育機関として整備するのも良さそうだ。

 毎年、教団には銀塊を1本送っているんだから、数人程の人材を派遣してくれれば助かるんだけどね。



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