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SA-120 やはり爆弾が必要だ


 やって来たのはトルニア王国軍と言う事で間違いないだろう。

 街道は阻止具で何重にも閉じているから、さすがに馬では越えられないようだ。

 横一列に並んだ数は1個小隊と言ったところか。後続の歩兵がその後ろに並ぶがその数は2個中隊程の数だ。

 自分達の半数を潰す覚悟があれば、俺達以外なら砦を落すことも出来るだろう。

 だが、俺達の前となると、いささか数が足りないな。

 

 きらびやかなヨロイを着けた騎兵が1騎、列から抜け出てザイラスさんの方に馬を進めてきた。


「我はトルニア王国軍第一大隊のエイドールである。不法に我等の征服した土地の砦を占拠する者に告げる。直ぐに出て行かねば我等にも考えがあるぞ!」

「我はシルバニア王国のアルデンヌ聖堂騎士団を率いるザイラスと言う者。切取り損ねた自分の技量を他者の慈悲にすがるつもりか!」


 言い合ってるぞ。ザイラスさんの大声がこんな時に生かされるとは思わなかったな。

 隣の奥さんも言い負かされない旦那を頼もしく思ってるに違いない。

 それに引き換え相手はちょっと頼りなく思うな。ガルトネン氏とならおもしろい漫才が聞けたかもしれないけどね。


 さらに数回互いに声を掛け合っていたが、次第に相手が激高して来るのが俺にでも分かって来た。


「ええい、らちも無い。掛かれ!」

 相手の大声がこだまし、一斉に敵兵が前進を始める。

 だが、砦周辺にはいくつもの柵が作ってあるから、どうしても街道方向に誘導されてしまうのは仕方がない事なんだろう。

 すでに国境の柵を越えている。ザイラスさんはどう出るのかと思っていると、片腕を大きく上に伸ばした。


「放て!」

 言い合いの時よりも声が大きいぞ。

 その声に騎士達が盾から姿を現して空に向かって矢を放った。

 矢継ぎ早に、どんどん矢を放つ。

 矢は柵の外には飛んで行ないようだ。俺達の矢の秘密を知ることは無いだろう。

 

 バタバタとたおれる敵兵だが人数が多いから、かなり騎士達に近付いている。

至近距離から放たれる矢はヨロイを着た体を貫通するほどだ。

 ゆっくりとザイラスさん夫妻が長剣を抜いた。騎士達も弓を離して長剣を抜き盾の後ろに移動していく。


 騎士達の横に出ようと盾の並びを迂回する敵兵達に次々とボルトが突き立って行く。

 サディやミューちゃん達もそれに加わっているようだ。

 俺も、ザイラスさんに向かって足早に向かう。


 敵兵との距離を取ればボルトに当たることは無い。カタパルト要員も石弓を放っているようだ。

 至近距離なら外れることは無いからな。盾を乗り越えてきた敵兵も、もう一つの盾を乗り越えるだけの気力はないようだ。


 ザイラスさん夫婦はいつの間にか多数の敵兵と斬り結んでいた。

 全く、懲りない人達だな。遠距離から攻撃すれば良いものをわざわざ目立つ場所に立つんだから……。

 そう思いながらも、近付いてきた敵兵に腰の刀を振りぬいて倒す。

 黒装束は昼間は目立つと言うのを忘れてた。

 いつの間にか俺まで囲まれてしまったぞ。


「バンターだな。離れてるんだぞ。近寄ったら敵と間違えそうだ」

「夫の言う通りです。私も間違えるかも知れません」


 前を向いているのに、俺が来たのが分ったのか?

 言われる通りに数mの距離を置いた。直ぐ後ろには並んだ盾があるから後ろを気にしないで済むな。


 長剣を腰だめにして突撃して来た2人の敵兵を斬ったところで、ザイラスさん達が下がって来たぞ。左に避けようと動いたところに敵兵が長剣を振りかぶって俺に迫って来た。

 剣筋を咄嗟に見極めて一撃を避けたところへ刀を振り下ろす。

 相手も長剣の心得があったのだろう。腕を振り上げて俺の一撃を避けようとしたが、刀の切れ味までは分らなかった様だ。

 腕を切り取ったところで呻き声を上げて倒れて行った。

 すると、周囲から敵兵が次々と逃げ出していく。改めて倒れた男を見ると、先ほどザイラスさんと言い争いをしていた敵兵だった。

 

「バンターが指揮官を倒したのか? ん、まだ生きている様だ。誰か松明を持ってこい!」

 ザイラスさんは部下に体を押さえさせると松明の火で切り口を焼き始めた。

 呻き声を上げて体をばたつかせているが、しっかりと体を押さえられているから動きようもない。

 しっかり焼いた時には、気を失ってしまっていた。


 後は後始末をするだけだな。

 柵の近くに穴を掘って、亡き骸を葬る。まだ息のある者には慈悲の一撃をほどこす事になるが、よろよろと動いている者までの命は取らないようだ。簡単な手当てを済ませて街道に連れ出している。


「半数には届かぬのう……。やはり、もう少し鍛えねばならぬぞ」

「御意。飛び道具に慣らされたのでしょう。斬り結んだ連中も昔ほどの腕ではありませんでした。嘆かわしい事です」


 そうなのかな? 俺には十分に訓練が積まれた騎士に見えるんだけどね。


「誰かやって来るぞ!」

 ジルさんが、街道の東を眺めながら教えてくれた。

「あれは、砦に来た隊長じゃな。数騎で駆けて来るとは何であろうのう」


 柵の手間で、自分達の武装を解くと近付いてくるようだ。

 改めて交渉と言う事だろうか?


「通しても構わぬぞ。我は離れていた方が良さそうじゃな」

 サディがミューちゃんと共に魔導士部隊の中に入っていく。同じような装束だから頭の覆面で分らなくなってしまうな。ミューちゃんは忍び装束だからしっかりと浮いているぞ。


「これはだいぶやられましたな……」

周囲を眺めてガルトネン氏が呟いている。

そんな彼のところに足を運ぶと、正面を見据えて問い掛けた。


「戦況の検分と言う事ではないでしょう。我が所領への来訪目的は?」

「そこの若者を引き取りに……。どうやら、手心を加えて頂いたようですな。私も安心できます」


「出来れば、引き取って頂けると助かりますが、この若者は?」

「トルニア王国の御后様の一番下の弟にあたるお方です。我とも縁続きであればありがたいお申し出、感謝に堪えません」


「出来ればガルトネン殿と同じように直ぐに引き返して欲しかったのですが、我等と一戦せねば納まりが付かなかったようでしたので」

「まだ、バンター殿のような境地には達していなかったと言う事でしょう。片腕は仕方がないでしょう。彼が戦に出ることは2度と無いでしょうから、御后様も喜ぶと思います」


 命があっただけ幸いだと言うのだろうか? 片腕の恨みはいずれ……、なんてことにならないようにしたいものだが、ガルトネンさんの話では、これで十分だとも聞き取れる。


「しばらくは砦にいることになるでしょうが、マデニアムの統治はしっかりとお願いしたいところですね」

「カルディナ王国に攻め入ったとなればそうなるでしょうな。それは我等も危惧しておりますからご安心を……」


 部下に横たわった男を左右から支えるようにして運ばせると、改めて俺達に礼をして帰って行った。


「王家の血筋か……。名目上の指揮官だったと言う事か?」

「ガルトネン殿は伯父に当たるのでしょうね。ある意味、お守りを担当していたはずです。ですが手傷を負ったと言う事になると……」

「通常なら降格だな。だが、彼がいて軍の統制が取れているのだろう。それに指揮官の単独行動ともなれば、ガルトネン殿に責任を取らせる事も出来んはずだ。少なくとも我等に手出し無用位は全軍に告げていると思うぞ。やって来たのがあれだけだったからな」


 壊れた柵を修理したところで俺達も砦へと引き上げる。

 一応勝利した事には変わらないから、皆でワインを飲んで勝利を祝う事にした。


「それにしても、見て起きたかったと後悔しています。あれほど綺麗に腕を落せるものなのでしょうか?」

「バンター、お前の長剣を貸してみろ。ジルがいまだに疑問を持っているんだ」


 理由もわかってるから、腰から鞘ごと刀を抜いてミューちゃんに届けて貰った。

 俺の刀を抜いて2人でぼそぼそと話してるんだが、欲しいのかな?


「問題は向こうが我等を今後どのように見るかじゃ。場合によっては死兵を持って街道を抜かんとするやも知れぬ」

「ガルトネンさんが今の地位にいれば俺達に害を与えるとは考えられませんが、用意だけは必要でしょう。爆弾を50個作ります。20個を砦に置けば安心できるでしょう。20個はアルデス砦に置いて将来のトルニアとクレーブルの戦に備えます。残り10個はラディさんに託せば色々と策が取れそうです」

「アルデスに50個は用意しておけ。トルニア戦は数倍の敵が相手に平地での戦になる」


 そんなにいるかな? まあ、作るのは簡単なんだけどね。

 だけど、ザイラスさんの思いも理解できないことは無い。アルデス砦の戦では、爆弾が無ければ対処できない数だったからな。


「夏前に準備しておきます。この砦もザイラスさんとトーレルさんで交替で面倒を見てくれると助かります」

「まあ、トーレルにも代わってやらんと文句を言われそうだ。問題は補充兵だな。早くに2個大隊は準備しないと向こうに俺達の戦力が無い事が直ぐにバレそうだ。場合によっては、ここで訓練を積ませるのも方法だろう」


 そうしたいところだな。重装歩兵の方も補充することで砦に精鋭を1個分隊以上回したい。

 明日にでもザイラスさんと戦力のバランスを含めて詰めてみよう。


 10日が過ぎたところで、街道を2騎の騎兵がやって来た。監視兵に書状と木箱を託して帰って行ったらしい。


「これがその書状なのか?」

 そんな事を言ってサディが読みだしたが、直ぐに俺に寄越したぞ。

 何だろうと思って書状を読むと、シルバニア王国の承認をトルニア国王が認める内容だった。

 今更というところだが、国境に着いての但し書きに俺達が作った柵が掛かれている。

 これは将来に使えそうだな。読み終えたところでザイラスさんに書状を渡す。

 木箱の中身はブレスレットだった。かなり高価な品に見えるが、この場合は返書をしたためなくても良いのだろうか?


「正式には、いるのだろうが、現状での国交がないからな。向こうから一方的に王国承認を告げて来たに等しい。向こうからはしばらく攻めぬと言う事の意思表示だと思えば良い」

「そうであれば、次は南に向かうと?」

「そうなるな。俺達の戦力は小さいが無視できぬと言う事だろう。攻める姿勢を見せていないかこんな書状で俺達の安堵を誘っていると見て良さそうだ」


 これも作戦と言う事なんだろうな。

 前の第二王子の方が直接的でやり易かったぞ。



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