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SA-118 トルニア王国からの使者


「王都から再び煙が上がりました。場所は宮殿のようです!」

「何だと! トルニア軍は?」

「進軍速度を上げたと報告がありました」


 意図的かどうかは分らないけど、居住可能なように修復するのは時間が掛かりそうだ。少しでも早い消火を考えて王都に急いでいるんだろう。

 石造りだから、あまり長時間火に包まれていると王宮自体が崩壊しかねない。

 全て石造りならいいのだが、可燃物を内装にたくさん使っているのも問題なのだろう。

 王宮に人がいるのなら、事前にそれらを撤去できるかも知れないが、かなり荒らされているようだから一面に可燃物が広がった状態なんだろうな。


「とりあえず王都にトルニア軍が入るのは想定済みです。今日にも入るなら、明日からが問題ですね。ラディさん達の状況報告を逐次待ちましょう」


 ここはジッと待っていよう。

 トルニアの目的は周辺諸国を統一することのようだ。野望を持ったマデニアム王国は今は名前だけでしかない。

 トルニア王国の旗が王都に翻った時がマデニアム王国の滅亡を告げる事になるんだろうな。

 トルニア王国がマデニアムを飲み込んだ後に、向かうのは南になるはずだが、俺達の存在を知ったらどう動くのだろう?

 この世界の王国であれば5個大隊程度の戦力は持っているはずだ。自国の防衛に2個大隊を残すとして、3個大隊場合によっては4個大隊をマデニアム王国の切り取りに向かわせているに違いない。

 だが、その後でニーレズム王国を落すには、少し足りないんじゃないか?


「ラディさん。トルニア王国軍の規模を探ってくれませんか? どう考えても3個大隊というのは数が少なすぎます」

「3個大隊なら、今のマデニアム王国を版図に納めるには十分じゃないのか?」


 ザイラスさんが、俺の言葉に地図から顔を上げて聞いてきた。

 周囲の連中も頷いているところを見ると、3個大隊でのマデニアム王国切り取りには納得しているみたいだな。


「ニーレズムとマンデールを狙うでしょう。2つとも戦力の低下と式の低下は著しいです。3個大隊を全て投入すれば、この2つの王国も手に入れることが出来るでしょう。ですが、それだとマデニアムの領土を維持する戦力が無くなります」


「3個大隊以上なら、俺達に構わずに南に向かうと言う事か。だが、3個大隊であれば俺達は目障りな存在と言う事だな」


 どうやら納得してくれたようだ。

 ラディさんも、部下に指示を与えているから明日には答えが分るだろう。


「そうなると我等は少し早まったことになるような気がするが……」

「今をおいてマデニアムの領土を切り取ることは出来ないでしょう。トルニア王国がマデニアムの領土を統治し始めたら、1戦を覚悟しなければなりません。その後に国境線を引くのはかなり困難です」


「すでにこの砦を得て国境線を柵として作っておけば、大きな争いをせずに固定化できると言う事か? まあ、それでも何度かは小競り合いをせねばなるまい。それも柵と砦を有効活用で斬ると言う事だな」


 少なくともこの街道を押さえれば、シルバニアに危害が及ぶことは無い。

 南北に伸びる尾根は大規模な部隊移動を困難にしているし、唯一の移動ルートである街道は入口、峠、出口の3か所に砦があるのだ。これを突破するには自軍の半分以上を磨り潰す覚悟がいるだろうし、突破したとしても民兵組織を作っているから町や村を襲うのは至難の業だ。


翌日の夜に、トルニア軍の規模が判明した。およそ4個大隊。その内の1個大隊は統率があまり執れていないと言う事だ。


「王都に2個大隊が入り、もう2個大隊は周辺の町を探っているようです。王都の東門から悲鳴がひっきりなしに聞こえていました」

「虐殺でしょうか?」


 俺の問いにザイラスさんが首をひねる。

「虐殺では無く、罪を極端にさばいているのかも知れんな。王都の火事が収まっているなら、略奪行為をトルニア軍は行っていないと言う事になる。民衆蜂起の際に略奪を行った者を見せしめに殺戮しているのだろう」


 治安維持と自分達が正義であることを、極端な表現で示しているのだろうか?

 それなら、悲鳴が南門だけというのも頷ける。

 だが、ある程度は罪の軽重を考えないと、反乱の種を撒くようにも思えるな。元々が圧政によるものだから、略奪行為で得た金品で次の収穫まで耐える事を考えたかも知れないし……。


「極端ではあるが、自分達の統治を知らしめる機会にもなるであろう。これでしばらくは反乱は起きぬ」

「その後に施しを行うなら民衆からの支持も受けられるでしょう。長い目で見れば今年の税を取らぬと言うだけで、新しい君主を皆が受け入れられます」


 別にトルニア王国が窮乏しているわけではない。

 3つの王国を手に入れようと野望を持っているだけだ。その為の準備は綿密に行っているだろうから、1年程度なら新領地からの税を無視できるかも知れないな。それに民衆から略奪品を取り上げるだけで十分な財宝を手にすることも出来るだろう。

例え王侯貴族が持ち去ったとは言え、それらを次の戦で手に入れることは十分に出来ると考えているはずだ。


「俺達は砦と関所に戦力を集中している。重装歩兵は尾根の監視所を守っているが、民兵を合わせても1個中隊に足りぬぞ。トーレルを呼ばなくても良いのか?」

「十分です。攻城兵器はカタパルトで迎撃出来ますし、砦や関所への攻撃は石弓で撃退出来ます。心配であれば、関所と砦の東に簡単な阻止具を並べれば良いでしょう。敵の到達を遅らせるだけ矢やボルトを放てます」


 ザイラスさんとグンターさんが顔を見合わせて頷いているから、明日は朝から阻止具作りを始めるんだろうな。三角柱を横にしたような簡単なものだが街道封鎖では十分役に立った。


「さらに矢を運ばせるか……。尾根の方にも少しは運んでおかねばなるまい」

「それに北に展開しているキューレさん達にも渡さねばなりません。街道の北の山麓に3個分隊が展開している筈です」

 兵站は俺達の方が有利だ。

 さて、最初はどう出てくるかな?


 トルニアの軍がマデニアム王都に入って5日が過ぎた時だ。

 昼食後のお茶を楽しんでいると、機動歩兵が客が来たと俺達に告げる。


「客だと?」

「トルニア王国第2大隊長と副官達5名です。我等に会見を求めて来ました」


 サディが俺に顔を向ける。俺の判断で良いって事かな?

 ザイラスさんも頷いているから、ここは合ってみようか。


「ここに案内してくれ。ただし女王陛下がいることは内緒だぞ」

歩兵が広間を出て駈け出す音が聞こえてきた。


「我は隣の部屋で聞いておる。ミューも一緒だぞ。ザイラスとジルはそのままで良いであろう。後は……、グンターと副官だが、護衛はどうするのじゃ?」

「ザイラスさん夫妻がいるのであれば安心できます。軽装歩兵にお茶を用意させておいてください。何も出さないと言うのであれば後々文句を言われそうですからね」


「おもしろそうだな。前のような会話が楽しめそうだ」

 ザイラスさんは他人事のようだ。隣のジルさんも目を輝かせているから、やはり似た者夫婦ってやつなんだろう。


 やがて、軽装歩兵に案内されて数人が広間に入って来た。

 左手で席を勧めると、ドカリと腰を下ろす。中々肝が据わっている感じだな。

 ザイラスさんと同年輩の男とトーレルさん位の男女、それに俺と同じ位の若い男が2人だ。


「ワシは、トルニア王国の第2大隊長を務めるガルトネンと言う者。覚え置くが良い」

「俺はグンター。とある部隊を預かる者です」

「若者がこの砦を乗っ取ったのか? 一時の高名に惹かれるのは理解できるが、我等の軍の前では蟷螂の斧にも等しいぞ。早々に立ち去るが良い」


「中々おもしろいお話ですね。私を前にそこまで明言する人物も中々おりません。俺達の斧の切れ味を味わいますか?」


 俺の言葉に若い2人が長剣を握ろうとした音を聞き片手でガルトネン氏が辞めさせる。

 そこにポットとお茶を運んで来たので、ジルさんがカップに注ぐと皆の前に配ってくれた。

 最初に俺が飲んで毒が入っていないことを示すと、ほっとしたような表情で5人がカップに手を延ばす。


「頂こう。見れば1個中隊にも満たぬ数。それで我等の軍を防ぐつもりか?」

「4つに組んだら、良いところまで行くでしょうが、俺達は引かざるを得なくなるでしょうね。ですが、それではガルトネン殿が拝命した戦をせずにトルニアに戻ることになりますよ」


 失礼と言って、席を立ち暖炉でパイプに火を点ける。

 従兵を呼び、パイプ用の火種を用意して貰い、相手にも勧めておく。俺だけだと何となく罪悪感に捕われるからね。


「我等の目的を知っていると言うのか?」

「ある程度は分ってましたが、トルニア軍の移動時期と速度で確信しましたよ。ここで言っても良いのですか?」

「それには及ばぬ。だが、1つ明言しておく。この砦はマデニアムのものではないか? マデニアム王国をほぼ手中に収めた我等のものだと思うのだが?」


「マデニアム王国は我等の地を蹂躙し王侯貴族まで殺戮しています。数年の圧政を含めての対価であれば安い取引だと考えますが?」

「この砦を譲らぬと?」

 

 語気を強めて俺を睨んで来た。


「全くその気はありません。すでに新たな版図に柵を築きましたから、他国の兵士が俺達の許しも無く入ってきた場合は、戦端を開くのに躊躇はしませんよ」


 同じように相手の顔を見据えて語気を強める。

 これで明確な版図を相手に伝えたことになる。果たして、どう出るかが楽しみだな。


 プカリとパイプを楽しんでいると、ガルトネン氏が腰のバッグからパイプを取り出して専用の火種を使って火を点ける。

 少し交渉を楽しむつもりのようだ。


「バンター殿の話はマデニアムの兵士より聞いたことがある。第二王子の策略を全て防ぎ我等の大敗北を招いた人物であると……。もっと年老いた人物かと思っておったが若いのだな」

「あれは、相手が策に溺れたのです。現場を見ずに策を巡らすなど俺にとっては愚の骨頂に見えましたが」


 俺の言葉にニヤリと頬を緩ませる。

 と同時に長剣を一気に引き抜きながら立ち上がるとテーブルに片足を乗せて俺に振り下ろしてきた。



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