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SA-114 マデニアム王国農民の蜂起


「待ったく、山賊時代が懐かしいぞ。言いたい放題に色んな意見が出てくる」

 会議が終わって、皆が出て行った広間には昔の山賊仲間が残ってお茶を飲んでいる。

 ザイラスさんのげんなりした口調の言葉は、どうやら皆の共通意見らしい。


「全くじゃ。このまま国政をクレーブルに譲って、再び山族を始めるのも悪くは無いかも知れんのう」


 女王陛下までこの始末だ。

 早いところマデニアムの内乱が起きないと、シルバニア王国が瓦解しそうな感じだな。


「すでに当初の目的を果たした以上、創建した王国の責任は取るべきでしょう。それに、東西の雲行きも怪しいところがあります。将来は俺達が単なる飾りになる様に後任を育てれば俺達は楽隠居が出来ますよ」


 俺の言葉にザイラスさん達が興味を引かれたようだ。

 全員の顔が俺に向いたぞ。


「ある意味国政から解放させて貰えると言う事か? それで、何をする」

「考えられるのは、新しく開拓する交易路を探す船に乗り込む事ですが……」


 途端に騒がしくなってきた。

 ある意味、ロマンチストの集まりだったのかも知れないな。

 俺は一緒に行くぞ! とか、お前泳げるのか? 何ていう言葉が飛び交っている。


「悪くない話じゃが、我の代理となると問題じゃな?」

「早く後継者を作れば良いのです。10歳にもなれば後見人を付けて代理を務めることも可能でしょう」


 そんな事をトーレルさんが真顔で言うから、女王陛下の顔が赤くなってしまったぞ。

「だが、それなら問題ない。お前らも、しっかりと後継者を作るんだぞ。10年後は再びあの時代に帰れそうだ!」

 ザイラスさんの大きな声が広間にこだます。


「待て! それを早める方法があるぞ」

 ヌフフ……。とサディが不気味な笑いをしながら俺達を眺める。

 こんな話だと一生懸命に考えるんだからな。


「ようするに、我等の留守を守れる者がおれば良いのじゃ。クレーブル王国の御后は我が父王の姉上じゃ」

「姪の代理を頼むと言う事ですか?」

「そうじゃ。ある意味、名目じゃな。それなりの見返りは必要であろうが、2,3年なら任せても良いのではないか?」


 確かにアイデアであるんだけどね。

 だけど、こういう場合は帰って来たらクレーブル王国に併合されていた……。何てことが往々にして起きるんじゃないかな?


「斬新な案でありますが、我等が戻ってきた時に、王国の名前が変わっている等と言う事も考慮すべきかと」

「何を言う。30人から始めて王国を興したのじゃ。戻って王国が無ければ再び興せば良かろう」


 今度は全員の目が俺に移った。

 俺がいれば何とかなると思ってるのかな?

 それは危険な考えだと思うんだけどな。


「女王陛下の言葉は重く受け止めますが、相手あっての事です。ここは両案とも取り入れましょう。少し無茶な話ではありますが、隣国のクレーブル王国は我がシルバニアに好意的であることも確かです」

「人選は俺の担当だな。トーレルと準備を進めよう。もちろん泳げない連中は対象外だ」


「船乗りを雇うよりも、機動歩兵の中からクレーブルの操船練習所に1個分隊程派遣すべきでしょう。妻とその方向でクレーブルと調整します」

「旅に必要な品は陸とは異なるやも知れぬ。ビルダー、その辺りは任せるぞ」


 こんな話だと積極的になるんだから困ったものだ。

 となると、俺の仕事は船の設計になるんだろうか? この世界の交易船も一度見ておく必要がありそうだ。

 そろそろアルデス砦が雪に包まれる。

 あたたかなクレーブル王国へ訪問することは、あまり異論が出ないんじゃないかな?


・・・ ◇ ・・・


 年が明けて、アルデス砦はすっかり雪に包まれてしまった。

 クレーブルに行ってみようかとサディと話をしていると、ミューちゃんがリビングの扉を開いて、ラディさんの到着を教えてくれた。

かなり急いでやって来たらしい。

 広間で待つラディさんのところに慌てて下りていくと、席を立って俺に深々と頭を下げる。

 片手で席に座るように指示したところで、俺も腰を下ろす。


「どうかしましたか?」

「マデニアムで農民が蜂起しました」


 何だと! 驚いて席を立つ。お茶を運んで来たミューちゃんに、至急ザイラスさん達を砦に呼ぶように頼み込んだ。

 パイプに暖炉から火を点けると、ゆっくりと席に戻る。


「規模はどうですか?」

「まだ村単位ですが、直に纏まると思われます」


 早すぎるのが問題だ。

 いずれはやってくる事態なんだが、俺達の準備が整わない。

 一応、ふもとの砦に物資を集積してはいるが、戦力がまだだ。昨年募集した兵達は実戦に耐えられるんだろうか?


「キューレさんに東の尾根の監視を強化するよう伝えてください。キューレさん達の拠点は狼の巣穴でしたね?」

「3個分隊を狼の巣穴に置いているようです。もう1分隊は西に展開しているようですが。監視強化はマデニアムからの逃亡ですね。盗賊団を作られてはなりません。直ぐに伝えましょう」

 そう言って、一緒にやって来た部下を走らせた。


 とりあえず、ここまでやっておけば良いか。トーレルさんのところから狼の巣穴に食料をあらかじめ運んでおくのも良いかもしれない。

 これは、皆が集まってからでも良いだろう。

 クレーブルからの義勇軍は引き上げて貰ったからな。訓練された兵士の数があまりにも少ない。

 やはり民兵を招集することも視野に入れておいた方が良いだろう。


「ミクトス村に民兵の出兵の可能性があることを伝えてくれ」

 通信兵を連れてミューちゃんが戻って来てるから、メモを通信兵に託した。


「始まったか……。一応、クレーブルにも知らせておくべきじゃ。ニーレズムの動きによってはクレーブル国境警備を増強すべきであろう」

「確かに……。南の砦のウイルさんで良いでしょう。王都の騎士に連絡を取れば今日中には知らせることが出来ます」


 遅れてやって来たサディの一言は、関係を続けるためには必要な事だ。

 やはり、クレーブルを含めて通信網を作る必要があるな。

 通信兵の要請は急務だぞ。


 テーブルの上にシルバニア王国の地図を開いて、マデニアム王国の要衝を確認する。

 王都は北東部にあるし、大きな町は王都の周辺だけらしい。王都から離れるほどに人口が少なくなっているとの事だ。

 俺達の最終目標は烽火台から南に連なる尾根を版図に組み込み、峠越えをした山道の出口にあるふもとの砦を手中に収める事にある。


「場合によっては北の村からも1個小隊規模の民兵を出せますが?」

「一応、準備だけはお願いしたいな。烽火台周辺部を押さえたいからね」


 俺の言葉に頷いて、広間を去って行った。

 伝えることは全て話したから北の村で民兵を集めると言う事なんだろう。


「やはり、新兵を使う事になるのか?」

「数として、使いたいですね。実行は昔の仲間と言う事になるでしょう。とは言え南北にこの尾根が長いと言うところが問題です。それに早いところ、峠を封鎖しませんとシルバニアに蜂起した連中が雪崩れ込まないとも限りません」


 場所的には隘路の先にある広場の東というところだろうな。

万が一、柵を破られても隘路で阻止できるだろう。広場に1個小隊は駐屯できるところも助かる話だ。

今回の火事場泥棒的な版図の拡大は輜重部隊の円滑な動きが課題になる。

南に長く伸びた尾根には道すらないのだ。

 早めに、船着場の東の尾根に見張り台を作っておくべきだったな。


「尾根沿いに道を開き見張り台を置くと言うのか? かなり時間が掛かりそうじゃな」

「それでシルバニアが安心できるなら作るしかありません。上手い具合に、監視に特化したネコ族の部隊があります。1度作っておけば、2個分隊程で機能維持ができるでしょう」


 狩猟の旅を3回以上重ねた山歩きのベテラン揃いだ。石弓を持たせれば少人数の越境部隊は阻止できるだろう。

 

 それと、マデニアムの蜂起が地方に限定されているのか、それとも王国内全域に拡大しているのかも気になるところだ。

 これは、次の報告を待つしか無さそうだな。


 一夜明けると、元山賊仲間達が次々とアルデス砦に集まって来る。

 雪の中をご苦労な事だが、急変した事態を相談するためだからな。集まった連中を見渡すと、ザイラスさんの隣にジルさんがいるぞ。隣のザイラスさんがやつれて見えるな。


「状況を説明します。現段階ではラディさんの報告による内容だけです」

 ラディさんが、テーブルに広げた地図を使って再度状況説明を行う。

 やはり、一時的なものか、それとも王国全土に広がっているのかまでは分らないな。

 農民に対する過大な税の徴収は、農村地区を中心に纏まるだろうが、果たして全土に広がるだろうか?

 その見極めをしないで、マデニアム王国の西を切り取るのは無謀ではあるな。


「明後日には、部下が次の知らせを持ってくるでしょう。3日様子を見てから戻れと指示してあります」

「だが、バンターはこの機会を狙っていたんだろう? やはり攻めるべきなんじゃないか?」


「そこなんです。2つ問題があります。1つ目は、俺達の戦力が整わない事。2つ目は切取った版図の防衛を考えると、烽火台の南の尾根に3つほど監視拠点を作らねばなりません」

「この砦は頂くのだろう? ならば大規模な軍を街道を使って動かせないはずだ。もし動かして、この砦を落しても隘路で前のように阻止できる。バンターの考える監視拠点の目的は何だ?」


 この世界の軍人の考えは正攻法のようだ。マデニアム王国がカルディナ王国を電撃戦で落せたのも、そんな考えを持つ軍人がいなかったからだろう。


「少数部隊で尾根を越え、ラディさん達と同じような行動を起こされると厄介です」

「敵も同じような部隊を作ると言うのか? 一旦、入られると始末するのは困難だ」


 ザイラスさんもラディさんの部隊の有効性に気付いている様だ。

 方法としては1つだけ。ラディさん達と同じレベルの連中にカウンターテロを行って貰う事になる。

 これはキューレさん達に任せることになるのだが、そのための拠点は俺達で作ってあげたいものだ。


「当座は峠の封鎖で良いでしょう。アルテム村の機動歩兵2個分隊とミクトス村の民兵1個小隊で何とかなります。俺達が東に向かうとなれば西が手薄になってしまいます。新兵を西の砦に向かわせ、防衛線を築いてください」


 イザとなれば、レーデル川西に駐留している、元義勇軍の連中に救援を頼むことも出来るだろう。

 俺達は、昔の連中を掻き集めて東に向かう部隊を編制しなければならない。



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