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SA-113 少しずつ暮らしは良くなる


 銀で作った海賊旗。アルデンヌ聖堂騎士団の旗をそのままピンバッチにしたものを勲章にする。裏には山賊を開始した年月日と『新たな王国再興を記念して』との文字が浮き彫りにされている。

 もう1つは、銀の含有率が少なく、中央のドクロは真鍮で作られている。裏はアルデンヌ聖堂騎士団の設立年と『我等正義の騎士なり』の文字だ。


「中々良くできているではないか。我も1つ貰っても良いな?」

「まあ、関係者ですから良いですけど……。2組作りましたから、誰にどちらを送るかはよく考えてくださいね」


 たぶんザイラスさんと相談するんじゃないかな?

 基本的には聖堂騎士団設立の前後で勲章を分けるんだろう。ワイン1杯は、前者に贈られる副賞と言う事になるだろうな。


「明日にでもザイラスを呼び寄せよう。トーレルも一緒であれば問題あるまい」

「リーダスさんやラディさん達も忘れないでください」

「もちろんじゃ。フリーナ達も含めての事になる。ミューも忘れておらぬぞ」


 ミューちゃんだって、サディと一緒に石弓でボルトを放ってくれたからな。

 そう言えば村人も協力してくれたんじゃないか?

 昔の仲間に報いると言っても、中々大変な作業になりそうだ。


「そう言えば数学者の卵達はどこに行ったのじゃ?」

「北の村から伸びる柵の西側です。そろそろヒツジやヤギが運ばれてきますから、その前に地図を作りに出掛けたようです」


 彼らの暮らしが立つように王都の住民並みの給与を支払うとフリーナが言っていた。少しは増額するんだろうけど、測量行の費用は別に払っているから、丸々残るはずだ。

 王都で数字を相手に暮らすよりは待遇を良くしてあげないとね。


 何日か過ぎると、タルネスさんが商人仲間と一緒にヤギや羊を引き連れて北の村へと向かう姿を砦のテラスから眺めることが出来た。

 どちらも100匹近い数だから苦労している様だ。何頭かのカナトルが一緒になっているが、あれは牧畜の監視用なんだろう。

 初めて乗る俺でも何とかなるポニーみたいな馬だけど、俺が走るよりは早く駆けることが出来るからね。


 西と南にも柵を作ったようだけど、これで定住したネコ族の人達も忙しくなりそうだな。

 今年と来年は必要な品を全て王国より贈ることになるけど、再来年には税を取ることになる。定住して牧畜が軌道になるまでにはもう少し掛かるかも知れないが、ネコ族と合意した内容だ。

 フィーナさんの事だからかなり手加減してくれるだろうし、場合によってはマイナス税を課すことになるかも知れないな。

 税は住民の暮らしの元になるものであって、住民の暮らしを困らせるためのものではない。その言葉を常に覚えていたいものだ。


「だいぶ連れて行ったが、あれで肉を得るのか?」

「肉、乳製品、毛糸が出来ますよ。セーターや手袋を編んで換金することも出来ます。耕作地に恵まれませんから、他の手段を考えませんと」


 ミクトス村は銀鉱山もあるし、ドワーフの攻防もいくつも作られている。

 開放的な村だから、将来的には北の砦を凌ぐことになるだろうな。

 北の砦は、銀鉱山の産出量が低下しているようだから将来的には閉山となるだろう。兵士の訓練施設として使う事になりそうだ。


「トーレルの話ではふもとの砦の南に作った船着場は村になったそうじゃ。対岸の我等の領地と合わせて1つの村として機能しているらしい」

「出来れば橋を作りたいところですが、今のままでも良いでしょう。村の東の尾根に見張り台を作ってくれれば後々助かるんですが」

「マデニアムの監視と言う事か? すでにマデニアムの命運は尽きようとしている。今更監視は不要と考えるが?」

「マデニアム領の分割後が心配です。ニーレズムが俺達との国境と接するには問題ありませんが、トルニアであれば問題です。峠の烽火台から南に伸びる尾根を大きな柵と考えて、トルニアに備えることを考える必要が出てきます」


 マデニアム内乱が始まれば俺達は尾根を手中に収めるつもりだ。

 尾根を押さえれば、山岳猟兵を使って東からの侵入を偵察段階で阻止できる。


「ウォーラム対処が先だと思っていたが……」

「あそこは峠の隘路を押さえてしまえば大軍を動かせません。西の砦を有効的に使えるよう、柵と石垣を作れば重装歩兵を西の砦に1個大隊置くだけで対処可能です。それに、この荒地の防衛に中隊規模でクレーブルとトーレスティが軍を派遣してくれています。騎馬隊ですから、トレンタス町まで半日も掛かりませんよ」


 その上南の砦には、クレーブル王国のウイルさんが騎馬隊2個中隊を率いて駐屯しているのだ。西の備えは十分なものだろう。

問題は東だ。機動部隊が2個小隊とトーレルさんの騎馬隊が1個小隊だけだからな。何としても、王国の戦力は2個大隊を超えるものにしなければなるまい。最終的には3個大隊が欲しいところだ。


・・・ ◇ ・・・


 秋の取入れが終わると、農家から余剰の穀物を買い取って不足する町や村に分配する。「それでも足りなければ、クレーブルから購入することを考えていたが不足するどころか余るほどだ。軍用として王都とふもとの砦に蓄える事にした。


「穀物はたくさん収穫できましたが、製粉施設が不足しております」

 農林業の長官であるアルテナム村長のマクラムさんが、俺達を訪ねて陳情する。

 砦にある製粉用の臼を使っていたらしいのだが、やはり色々と不便なんだろう。


 少し考えなくちゃならないな。

 ラドネンさんを呼んで水車式の製粉機を作れないか相談してみた。


「水車の回転軸を動力源にして引き臼を回すのか……。凝った仕掛けになるがおもしろそうだな。村の木工職人にも声を掛けてみよう。石工も数家族残ってくれたから石臼は何とかできそうだ」


 職人達は目新しいと喜んで作ってくれる。ヨーテルンに近いレデン川なら水車式の製粉所を2か所は作れそうだ。

 地図作りはシルバニア王国の北東部から始めている。そのまま南下してレーデル川の船着場まで作成できれば、農業用の水路を作って製粉所を作れるだろう。農業生産が上がれば製粉事業も大きくなるに違いない。


 そんな話を会議に諮る。

 依然は夕食後に毎夜のように行っていたのだが、今では任地が離れているからな。ヨーテルンの砦にある広間で10日おきに実施しているのが現状だ。

 将来的にはアルデス砦で行いたいが、交通の便が悪いので交通の要衝であるヨーテルンになってしまった。

 各長官が副官を連れてやって来てるし、くじ引きで10人の一般傍聴を認めている会議だ。

 昔はワインが飲めたとザイラスさんはこぼしているけど、開かれた王国造りの為だから昼間から飲むのは良くないと思うな。

 会議の進行はトーレルさんが行ってくれる。マリアンさんも今日は女王陛下の後ろでは無く、隣に恐縮しながら座っているぞ。


初めに、隣国の状況とそれに対する我が国の対策が一通り報告された。

今までは噂でしか伝わらなかったことが、きちんと傍聴人達にも聞かせて貰えるのだ。熱心にメモを取っている者までいる。

意外と新聞が作られるのも早いかも知れないな。

 ある程度指導しておく方が良いのかも知れない。デマと真実は違うのだ。新聞記者の使命は真実を伝える事。そこに自分の考え方を加えるのは構わないが、状況については真実である必要がある。


「……それで、将来的には製粉業を行うと?」

「農林業の管轄で良いだろう。農民達の共同事業も進んでいるのだろう?」

「はい。おかげで商人達とも上手く行っております」


 マクラムさんとビルダーさんが互いに頷いている。

 農産物の取引窓口を各町村で1本化していると言う事だな。農協みたいになりつつあるって事だろう。


「俺達のところも問題ねえぞ。銀の算出は良好だ。カルディナ王国当時の5割増しというところで留めている。あまり算出すると銀の下落を招きそうだ」

「国庫は銀の算出とマデニアム軍の残した旧カルディナ王国の財産で潤っています。来年の無税による国庫の圧迫は予想よりも少なく済みそうです」


 資金的には問題ないと言う事か……。

 やはり銀鉱山を持つ事は、新興国の財政を助けてくれるな。


「シルバニア王国軍は、騎馬隊が1個大隊。重装歩兵が1個大隊、それに機動歩兵を1個大隊。その他の部隊を1個中隊として編成しつつあるが、今のところ全部合わせて2個大隊というところだ。

 義勇軍についてはクレーブルに戻したが、レーデル川の屈曲部に駐屯している。俺達の軍備が整わない内に、再度他国から侵攻された場合には、即時に集まってくれるだろう」


「私からは、マデニアム王国の侵攻から約4年間の国民の行動に係わる賞罰の報告です……」


 マリアンさんがメモを片手に、少し長い話を始めた。

 王国軍兵士の功労に応じて勲章を与える事。その勲章の区別と副賞としての利益を告げると、集まった連中の中から賞賛の声が起きる。ザイラスさんの声が一番大きいな。やはり副賞のワイン1杯は魅力なんだろう。

 マデニアム占領時代の悪行で罰を受けた人数を聞くと、皆ホッとしている様だ。

 国外追放者については、きちんと村や町にも張り出して伝えるらしい。

 

「これが現状だ。今後シルバニア王国としては、次の計画を実施する。一部はすでに始まっているが、我等の王国だけで出来るものではない。小さな王国が集まって大きな事業が始めて可能になる。

 1つは、新たな交易船の海路を開拓する事。もう一つはクレーブル、トーレスティ、シルバニアの国境が未整備であるレーデル川屈曲部の大規模な開拓だ」


 開拓する前に金が取れることは黙っておこう。

 それは交易路探索の資金になる。俺達で使う訳にはいかないからな。


 続いて、各自が取り掛かっている事業の資金計画が出される。

 一番お金が掛かるのが軍備と言う事は問題だけど、これは初期の装備費がかなりの部分を占めている様だ。

 実際の運用資金で考えれば旧カルディナ王国より少なくなるだろう。

 


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