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SA-011 警備が多い時には


秋も深まると街道を通る者達が多くなってきた。

重税を払えない農民達は、家族や親戚の者達が連れだって夜間に街道を通る。昼間はマデニアム王国の奴隷市場に引かれていく者達だ。

 農民は松明も持たずに街道を歩いているから、崖の上の見張りの連中は夜間は注意して街道を見張っているようだ。

 奴隷商人達は俺達の襲撃を恐れて、昼間に峠を越えるべく街道を進んでくる。

 事前に東から檻を積んだ荷車がやってくるから、それでおおよその通行時期が分かるんだよな。

 

「やはり、冬越しの食料が問題じゃ」

「廃村では野生化した根菜まで集めているようです。小さなプラトが袋3つになったと話してましたよ」


 プラトはどう見てもジャガイモだった。廃村の人口は100人を超えているから、精々1日で消費してしまう。

 

「やはり、収穫物の輸送部隊を襲うほかあるまい。だが、警護が厳重だぞ」

 ザイラスさんがそう言って俺を見るから、テーブルの全員が俺を見てるぞ。

 

 ラディさんが懇意にしている商人は、俺達に色々と荷を届けてくれてはいるのだが、いかんせん家族経営の行商人だからな。小麦粉でさえ一度に3袋と言う感じだ。

 運ぶ頻度を上げれば目を付けられる事になりそうだ。それでも、近頃はラバ3頭を使って荷を増やしてはくれてるんだが……。

 この世界での税は穀物って事になるだろう。となると王国の貴重な収入源だから確かに警備は厳重になるだろう。

 それに荷馬車に積める穀物の量は20袋程度だ。長い荷馬車の列を作ることになるんだろうな。

 

「ザイラスさん。穀物輸送の隊列について詳しく教えてくれませんか?」

「そうだな。地域的な違いもあるだろう。周辺諸国の例をみると……」


 荷車の数は30~50台。馬の口を取る者がその数だけいるってことになる。輸送警護は1個小隊と言うところだそうだ。

 先遣隊が1分隊、荷車10台ごとに1分隊、殿に1分隊と言うところらしい。

 なら、全体でみれば大人数でも、前に輜重部隊を襲撃した手順で良いんじゃないかな?

 保護した木工職人が作ってくれた作戦盤をテーブルに乗せて貰った。

 峠付近の簡単な地形が色で表現されている。

 その街道に、木の駒を並べて行く。


「こんな形で街道をやってくるわけですね」

「そうなるな。輸送隊の指揮を考えると、50台が最大だろう。この配置では6個分隊約70人になる。4個分隊で1個小隊だから、峠の山賊を考えて、2個小隊となる可能性があるな。先遣隊と殿が2個分隊だ」

 ザイラスさんが駒の数を増やして、前と後ろの分隊の色を変えた。


「軍隊の士気はそれなりでしょうが、小隊間の協力は出来ているんでしょうか?」

「小隊の指揮官が荷車の間に入るとは思えん。こちらの小隊は先遣隊、後列の小隊は殿にいるだろう。功名争いは小隊から始まる。連携はその上の指揮者中隊長がいなければ無理だろう。一応、全体の指揮は先遣隊の小隊長が務めることにはなるのだが……」


「1個小隊の護衛は考えられませんか?」

「無理だな。山賊が出る事を知っているはずだ。最低でも2個小隊とみるべきだろう。だが1個中隊規模にはならん。次の車列を作らねばならんだろうからな」

 

 護衛に戦力が削がれることを危惧するってことか。このような車列が続々と続くんだろう。だが、2個小隊を潰したら、次は中隊で警護をしそうだぞ。そうなると襲撃も一度限りって事にもなりそうだ。


「前にも同じ手を使いましたが、最後の荷車の列を襲います。この分隊目掛けて石を落とし、警護の分隊を石弓で狙撃すれば、輸送部隊を分断できるでしょう。残りは殿の2個分隊です」

「前の荷車は一目散で街道を東に向かうな。後続の荷車の一部も安全に移送出来るなら先遣隊を指揮する小隊長は責任を後ろの小隊長に転嫁出来るな。良い方法だ。後ろの小隊の1分隊は前に進むだろう。直ぐ後ろの荷車を守ったと言いわけができる」


「襲撃で落とす石は数個で良いな。できれば再利用したい。一緒に【メル】で火炎弾を炸裂させれば荷馬車を引く馬は確実に止まるであろう」

「襲撃は先を行く荷馬車が離れてからにします。ラディさんの部隊は可能な限り、この分断した東側の荷馬車隊を追いやってください」

「分断して助太刀しないように追い払うんだな。了解だ」


南側に待機したザイラスさん達を現した駒を分断した箇所に移動する。

王女様の指揮する部隊も西側に移動した。


「これで、挟めます。リーゼルさんの部隊も西でお願いします」

「2個分隊を我らで始末するのだな? バンターも中々作戦が上手じゃ」


 王女様は喜んでるけど、マリアンさんは心配顔だな。だけど、俺を含めて石弓は8人。弓も3人が持っている。槍衾で固めた後ろから撃って行くだけで敵を倒せるんじゃないか? 南に逃げる敵は矢で倒して貰おう。


「ワシと弟子はザイラスのところじゃ。崖の上に石弓があれば近寄れば始末してくれるだろう。荷馬車を先に進めぬ事が大事じゃな。阻止用具をワシらが街道に引き上げよう」

 荷馬車の駒の前に新たな駒を置いたぞ。

「ある程度、荷車を引き離して俺達も戻って来る。崖の上だが十分に狙撃は出来るぞ」


 簡単な模型だが、全体の動きと自分の役割分担が共有できる。中々良いものを作って貰ったぞ。


「石弓の矢はたっぷりあるのか?」

「1丁に付き15本作ってある。村にはさらに30本を届けてあるぞ。このアジトにも100本はあるじゃろう。心配は無い」


 王女様の危惧も少しは理解できる。

 この襲撃が成功すれば、王国としても見逃すことは出来ないだろう。討伐隊を組織して大掛かりな山狩りをしかねないからな。アジトをどうやって守るかはある程度考えておかねばなるまい。


「とりあえず次の襲撃はこんな感じで行きましょう。それで、アジトの方なんですが……」

「順調に工事が進んでるぞ。この屯所も西に2部屋作れるだろう。周囲の柵は俺の身長より少し高い位だが、南側はそろそろ完成する」


 低い柵だと思ってたけど、あれが完成品なんだ。俺の身長位だが乗り越えるには道具がいるだろうから足止めの1つと考えれば良いか。

 もうちょっと立派な柵を考えてたんだけど……。待てよ、そうなると南に作る堀はあの深さ50cm程の溝の事なんだろうか?


「南の堀も完成してますし、跳ね橋も作りましたから、1個中隊が来ても支えられますよ」

 リーゼルさんが得意げに言ってるから、やはりあれで完成なんだ……。

「要は敵との間に柵を作れば良いのだ。あれで十分に機能してくれるだろう」


 王女様も認めてるけど、俺と少し観点がちがってるんだろう。言ってる事は理解してるんだけど、西部劇に出て来る砦をイメージしてたからな。ちょっとがっかりしてしまった。


「廃村への斜路は掘りを作った土でどうにかだな。少し足りないところは、東側から運ぼう」

「斜路が出来るとラバを使って廃村に荷が運べる。少しは楽になりそうだ」

 

 自画自賛というか、皆自分の作業に納得してるぞ。

 頂いたパイプにタバコを詰めて暖炉で火を点けた。いつの間にか覚えてしまったようだ。こちらの世界では成人が17歳という事だから特に問題は無いらしい。

 少し気分転換を図ろうと、そのまま外に出た。

 騎士達がコンコンと杭を打っている音が聞こえる。確かに早いペースで仕事が進んでいる。塀の向こうからアジトの中が見えなければ、確かに十分なんだろうな。木造だけど、火矢を受けても焼け落ちるという事は無さそうだ。少し内側に傾いているから水を掛けて消すことも考えているんだろう。


 広場の中ほどには杭が数本並んでいる。これに数本の丸太を並べただけで立派な柵になるからな。そんな丸太はまだないから、ロープを巻いて木剣の稽古に使われている。

 毎朝1時間、リーゼルさん達が交替で俺を指導してくれてるんだけど、どうも俺の習った剣道とは少し違うようだ。

 素質が無いと言われ続けてるけど、継続は力だって誰かも言ってたからね。毎日の練習を騎士達が生暖かい目で見ているけど、気にしたら負けだからな。

 

「バンター、午後は練習しないのか?」

「ああ、朝だけで十分だよ。少しは上達してるって思ってるんだけどな」

 休んでいた若い兵士のからかいの言葉に、そんな返事をすると皆が一斉に笑い出す。

 やはり、俺には無理だって思ってるに違いない。

 両刃の刀身の幅は10cm近くあるからな。長さも1m近いから結構重いんだ。騎士達の長剣の使い方は両手で持って腰を使って叩き付けると言った感じに見える。剣道の授業で握った竹刀しないとだいぶ使い方が違うぞ。

 

「どうした? 打ち込みようの丸太を眺めて」

 その声に振り返ると、ドワーフのリーダスさんが俺を見げている。40cm程身長に開きがあるんだが、筋肉質でその上すばしこく動くことができる。俺の渡した手斧を腰のベルトに挟んでいるから、十分に山賊として通用するぞ。


「ちょっと考えてたんです。やはり俺には長剣は無理じゃないかと……」

「まあ、向き不向きは人による。使い難いというなら、少しは面倒を見てやるぞ」


 慰めかもしれないけど、ここはリーダスさんに甘えてみることにした。


「こんな形に長剣を加工できませんか? 片刃で反りを少し付けて頂ければ……」

「出来んことは無いが、こんな長剣を使うつもりか?」

「一応、俺達の国に昔からあるものです。肉厚ですから横幅が狭くても折れることはありません」


 リーダスさんがしばらく考え込んでいたが、俺に向かって手を差し出してきた。

「背中の長剣を貸してみろ。バンターの言った通りのものを作ってやる。かなり変わってるから襲撃には役立たんだろうが、相手も驚くに違いない」


俺から長剣を受け取ると、ぶつぶつ言いながらアジトの外れにある工房に向かって歩き出した。後ろ姿に頭を下げる。

 パイプの灰を焚き火に捨てて新しいタバコを詰めておく。火が付いていなくても恰好が付くし、少し柑橘系の香りが楽しめる。

 屯所に入ろうとすると、遠くからカンカンと槌音が聞こえてきた。リーゼルさんが始めたようだ。これで少し使い易くなると良いな。



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