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SA-109 簡素な集団結婚式


 砦の広間のテーブルには来客の男性陣と昔の山賊仲間達で一杯だ。

 この流れで行くと、まともな食事も取れないんじゃないかと心配していたが、それなりに食事は出て来たぞ。と言っても、焼肉やピザモドキのパンだから、何となく酒の肴に思えなくもない。

 とりあえず食べるだけ食べたところで、適当に皆の様子を眺めることにした。

 ザイラスさんはお茶を飲むようにワインをウイルさんと飲んでいるし、トーレルさんは真っ赤な顔をしている。そんな顔でふらふらしながら来客にワインを注いでいるんだが、倒れる寸前の様相だ。


「バンター殿。少しよろしいですかな? 出来れば夜風で酒を冷ましたいと思っているのですが……」

 俺のところにやって来たのは、アブリートさんだ。隣にはドルネアンさんが俺に小さく頭を下げて挨拶をしている。


「ですね。飲める連中にここを任せて少し酒を冷ましますか」


 俺達3人が広間を出ても誰も気にしないようだ。それ位飲んでいる。

 外に出ると、館のテラスあるテーブルセットに俺達は腰を下ろした。従兵が直ぐに俺達を見付けて、ご婦人方に頼んだのだろう。

 身綺麗なご婦人がお茶をカップを運んできてくれた。


「レーデル川の計画は、トーレスティ国王の賛同を得ることができました。開発事業の事務所をクレーブルの王都に設立しましたぞ。始めるのは3か月後でよろしいですかな?」

「段取りをお任せして申し訳ありません。俺達はそれで十分です。採掘人は家族で20家族程度を考えているのですが……」

「最低でも、50組は出して欲しいと思っています。3か国の採掘人は同一が望ましい。共同事業ですからな」


 50組から少しずつ増やすんだろうな。とりあえずは王都から募集することにするか。王侯貴族相手の商売をしていた者達は職が減っているはずだ。


「ところで、カルディナ王都は文官の多くがマデニアム侵攻で亡くなってしまいました。クレーブルそれにトーレスティには教育機関はあるんでしょうか?」

「貴族のほとんどは家庭教師によってある程度の知識を身に着けます。それ以上学ぼうとする者達には研鑽の為の学院が王宮の一部を使って行われています。たぶんどの王国にも似た施設はあるのではないでしょうか?」

「私の王国にも存在します。歴史、数学、音楽等を学んでいる筈です。私も歴史を学んだ1人です」


 アブリートさんの言葉にドルネアンさんが言葉を繋いでくれた。

 学者を養成する機関はあるようだ。これは都合が良い。


「足腰の丈夫な数学に堪能な者を、俺の国に派遣することは可能でしょうか? 出来れば5人ずつ欲しいのですが?」

「数学者とバンター殿がどういう関係になるかを教えて頂ければ、国王に上申することは出来ると思いますよ」

「数学を戦に取り入れるのですか?」


 ドルネアンさんの言う事は、シミュレーションの世界では必要になるだろうが、それはもう少し先の話になるな。統計という学問が必要になるだろう。


「実は、地図を作ろうと考えてるんです。今ある地図は町や砦、それに街道等の大まかな関係は分るんですが、これでは大規模工事が出来ません。

 例えばレーデル川から水路を作って農地の灌漑を行うとなれば、どのように工事を進めて、その工事期間、費用を計算することも出来ないんです」


 俺の言葉に2人は驚いている様だ。

 確かに数学が土木事業に関係するとは思ってもみないだろうな。だけど高度の数学が無ければピラミッドは作れなかったとテレビの人が言ってたのを聞いたことがある。


「もっと、正確な地図……と、国王が言っていたことがあります。数学に堪能で体の丈夫な若者が数人ですね。何とかしましょう。彼らが使えるかどうかは、バンターさんが判断してください」

「私も同様です。レーベル川からの疎水は何度も計画が上がりましたが、その計画を実行するための予算が皆目見当も付かずに断念した経緯があります。たぶん長期的な計画になるでしょう。優秀な次男、三男の就職先としても良さそうです」


 どうやら賛成してくれるみたいだ。

 問題は、この世界の幾何学の程度になるんだが、貴族の趣味で発達したんだろうか?

 少なくともピタゴラスの定理位は知っていてほしいな。


・・・ ◇ ・・・


 翌日は、本当に晴れ渡った朝だった。

 これなら天気に文句を言う者もいないだろう。

 朝早く荷馬車で駆け付けたミューちゃんが、俺の衣装を届けてくれたんだが、真っ黒の忍び装束なんだよな。

 とりあえずきちんと装束を身に着け、普段なら背中に担ぐ刀をベルトに差し込んでおく。

 覆面もあったが、さすがにこれを着けるわけには行かないだろう。腰のバッグに綺麗に畳んで入れておいた。


 俺のいでたちを見てうんうんと頷いているミューちゃんも忍び装束だ。背中に俺に似せて作った刀を背負って覆面を付けている。

 何となくアトラクションの出番待ちの雰囲気だ。それとも、コスプレ大会って感じかな?


 あれほど酒を飲んでいたザイラスさん達も正義の味方の装束に身を包んでいる。それを羨ましそうに眺めているのがウイルさん達来客の武人達だ。


 準備が出来た者達から、騎士が馬車で式場へと運んでいく。

 俺達も馬車に揺られて砦を後にした。3時間も掛からずに式場に到着できるだろう。


 街道をそれて北に進路を取ると、尾根の上に白亜の城が見えてくる。

 まだ建設途上だから足場もあるし、屋根や塔も形になっていないが、おぼろげにその姿を想像することは出来るな。


「あれなシルバニア王国の女王陛下が住むにふさわしい。欲を言えばもう少し大きい方が良かったな」

「あれで十分ですよ。王都は別にありますからね。アルテナムやミクトスが直ぐに大きくなることは無いでしょう」


 直ぐに発展することは無いだろうが、将来性は十分にある。

 問題は周囲から飛びぬけて富む事が、他国の侵略を誘引する可能性があることだ。

 それに対抗するための3王国の同盟が共同事業で進めば良いんだけどね。


 アルデス砦を横に見て馬車は先に進む。

 大きなテントが幾つも建てられているから、あれが今日の式場なんだろうな。

 すでに純白の衣装で散歩している娘さんもいるぞ。

 ワインを飲んでいるけど、衣装にシミなど付けないか心配になってしまう。


 馬車を下りると、そんな連中に混じって成り行きを見守る。

 汚さないようにジッとテーブル席に着いて、時間までパイプを楽しむことにした。

 そんな俺達を、2人の娘さんがドレス姿で、メモをチェックしながら確認している。


「バンターさんですね。あちらの席の1番の席に移動してください。トルティさんが案内してくれますから、あまり動かないでくださいね」

 

 フィーナさんとメイリーちゃんの2人だった。

 言われた通りに移動すると、2番目の席にいたのはザイラスさんだし、3番目にはバルツさんが座っていたぞ。

 何か流れ作業で式を挙げる感じがするな。一生に1度あるかないかなのにこんなんでいいのだろうか?


 俺達の正面には小さな屋根の無い礼拝所がある。その手前には赤い絨毯が東西に敷かれ、この席の少し前から横に敷かれた絨毯に交差するような形で南北にも絨毯が敷かれていた。

 参列者が続々と集まって、南北に伸びる絨毯の左右に置かれたベンチに座り始める。案内はオブリーさんがしている様だ。

 フィーネさんの部下である、元貴族の少年と少女が貴族の装いで宝石箱を持って現れる。その後ろには神官服を纏ったエミルダさんが続いていた。


 いよいよ始まるのだろうか?

 いつの間にかテーブルの反対側には女王陛下やジルさん、それにどこで見付けたのか聖堂騎士団の装束を着けた女性兵士がいた。ちょっとポッチャリした感じの人だな。何となく料理が得意な雰囲気がする。


「いよいよじゃな。さすがに自分の番となると緊張するのう。獲物を待って藪に潜んでいる心境じゃ」

 俺は獲物なんだろうか? デラックスな王冠を今日は頭に乗せているから、落さないかとマリアンさん達が心配してどこかで見てるんだろうな。

 後ろを振り返ると、ザイラスさんとバルツさんが今にも吹き出しそうな顔で笑いを堪えている。


 神官服に身を包んだトルティさんが俺達の前に来て頭を下げた。

「私の後に付いて来てください。中央が女王様方お二人。その後にザイラス様達が続きます。ミューさんとメイリーさんが絨毯の最後に下りますから、2人の指示に従って左右に移動して頂きます。……それでは御起立ください」


 一体何組がいるんだろう? ズサっと音が響いたぞ。

 俺達の行動を満足そうな表情で見ていたが、「それでは、お願いします」と言って礼拝所に向かって進み始めた。

 女王陛の左腕を俺の右腕に沿えて、ゆっくりと絨毯の上を歩き出す。


 東西に敷かれた絨毯の上、女王陛下と俺が礼拝所の直ぐ前に並ぶ。俺達の一歩後ろにザイラスさん達がそれぞれの伴侶と共に並んだ。

 真新しい神官服に身を包んだエミルダさんは、その姿を見る限り威厳があるな。普段の言動からでは想像できない。やはり場に応じて自らの姿を変えられるんだろう。


 エミルダさんが俺達に向かって一礼をすると、俺達も深く頭を下げる。

 頭を上げた俺達の目に映ったのは、慈悲深い目をして微笑むエミルダさんの顔だった。

 正面の緑の木々で飾った祭壇に向かうと、祈りを捧げる。

 神の名は知らないものだったけど、どうやら地水火風の4神らしい。なるほど多神教って事になる。

 5分程の短い祈りではあったが、4神に俺達の結婚を報告したところで礼拝所を下りて俺達のところにやって来る。


「4神の代理として、ここに皆さんの結婚を承認します。その証として互いに誓約の指輪を交換し、この日の誓いを永久なるものとしてください」


 これで、シルバニア王国の伝統行事が始まるんだな。俺達の世界の風習みたいなものだけど、記念としてなら問題ないだろう。


 最初は俺達らしい。

 エミルダさんはトルティさんが持ってきた箱を開ける。

 中から取り出したのは、銀で作った飾り気のないサークレットだ。


「バンター様は今日から、王族の地位を持つ事になります。女王陛下の統治をいつまでも助けてあげてください」

 そんな事を言って、俺に頭を下げさせると俺の頭にサークレットを乗せる。

 飾り気のないサークレットだが、見た目は孫悟空の頭にあった緊箍きんこ見たいな感じになるんだが……。女王陛下に変な呪文を教えてるなんてことは無いよな。

 見た目はアレだが、女王陛下の普段のサークレットよりデラックスには出来ななったんだろうな。飾り気のない、一見すると鉢金に見えそうなこれなら、どうにか気にせずに頭に乗せておけるだろう。


 続いて渡された銀の指輪を互いに薬指に入れると、指輪を着けた手を握らせ、エミルダさんが自分の手を添えて、短い祈りを捧げてくれた。

 互いに当たを下げると、俺達の後ろにトルティさんと共に歩いて行く。

 たくさんいるからな。かなり時間が掛かりそうだぞ。

 簡単ではあるが厳かな雰囲気に包まれて、俺達は結婚したことになる。

 


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