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SA-107 ザイラスさんのお嫁さん


「先ほど、レーデル川の西に広がる荒地は俺達で勝手に線引きしても構わないとおっしゃいましたね。レーデル川の流れと上流の鉱山の関係が気になって、少し先行調査を行いました。そこで見付けたのがこれになります」


 黒装束の中から小さな革袋を取り出してテーブルの上に中身を出すと、今度は驚いて席を立って眺めている。


「粒金……。あの荒地はこれが採れるのか?」

「簡単な試掘で片手に乗るほどの量を得ています。この利権を分けるには荒地の国境を明確にすることが必要だったわけですが……」


 しばらくは声も出ないようだ。利権を放棄した事を明確に言葉で言ってたから、今更撤回はできないだろうな。


 皆に頭を下げてパイプを取り出すと、部屋の隅に控えていた侍女が火種を持ってきてくれた。

 先ずは一服して、皆に考える時間を与えねばなるまい。


「だが、我等は国境の線引きをバンター殿に一任した。たとえ有望な金鉱脈だとしても、今更王の言葉を撤回できぬ。それはドルネアン殿も同じであろう?」

「正しく……。盲点でありました。鉱山は山に、という先入観が我等にはあったようです」

 

 反省しているようだ。だが、俺達だけで採掘したら、せっかく同盟関係に近い間になった関係が簡単に崩壊してしまいそうだ。


「そこで、先ほどの話に戻る事になります。手の平に乗るだけの量を採掘するにもかなりの労働になることが分かっていますから、利益は鉱山よりは少ないでしょうが、確実ではあります。この採掘事業を3か国共同で行いませんか? それで得た金を使って交易船を作り優秀な船乗りを雇えば、絹を手に入れるのも夢ではありません」


 俺の話を聞いて、国王が笑い出した。

「ハハハ……。全く、恐れ入る。トーレルがフェンドールを超えるというのも良く分かる。ドルネアン殿もそれなら問題あるまい。各国から100人程人足を出せばこの計画が軌道に乗るだろうよ。国境なぞどうでも良かったのだな?」

「俺達で開発するには荷が重すぎますし、後々の世代にしこりを残します。国境の線引きは先ほどのお話通り、シルバニア王国でやらせてもらいますが、線引きは採掘後に行います」


「全くお人が悪いですぞ。ですが、トーレスティ国王ならば諸手を上げて賛成してくれるでしょう。国庫からの出資金は無しで、長期に渡って働き口ができ、その上将来に繋がるとあっては、反対のしようもありません」


 とは言え、金だからな。推定埋蔵区域を立ち入り制限として、クレーブルとトーレスティの両国から監視兵を派遣するそうだ。

 各国から50人を集めて採掘を行い、採掘された金は3か国の代表者が共同管理と言う事にしておけば良い。


「荒地ですから、食料、水、焚き木等の定期的な供給も必要でしょう。当座はテントで良いでしょうが、長期的に考えれば村を作る事になりそうです」

「それもおもしろそうだな。採掘が終われば土地を耕して畑も作れそうだ」

 

 資金に目途が付けば、やりたいことが色々と出てくる。それでもかなりの量が採掘出来そうだから皆の話は弾むばかりだ。

 新たな3つの王国の共同事業はこれで形に出来るだろう。

 全体計画はアブリートさんが指揮ってくれる事になった。当面は、クレーブルとトーレスティの2か国で初めて、シルバニアは少し遅れて人を出すことになる。


「それで、婚礼なのですが、女王陛下の考えでは夏至にまとめてやりたいと……」

「バンター殿やトーレル殿の婚礼をですか?」

「それ以外にも、たくさんいるようです。エミルダさんはアルデンヌ大聖堂ならば、例え100組であろうとも可能であると……」


 俺の話を、テーブルの皆がおもしろそうに聞いている。

 話の流れが難しい話を終えたところだから、今度は安心して聞いているようだが、それにしても、驚くような話ではあるんだけどな。


「エミルダと女王陛下が一緒になっているなら、理解もできるな。とは言え、エミルダは教団の上位に位置する神官でもある。教団の枠を離れてのびのびしてるのだろうが……」


 国王はそう言って、隣の御后様に目を向ける。困った顔で御后様が頷いているから、昔から、自由奔放の女性だったのかも知れないな。

 よくも教団の神官になったものだと感心してしまう。


「修道院を併設するように動いていますよ。俺も悪い話ではないと思っています」

「しばらくは対立せぬようにしてほしいものだ。確かにデリア神皇国の腐敗は目に余るが、共通貨幣を考えると必要悪にも思えてならぬ」


 そんな感じだな。とは言え、民衆の心の拠り所である宗教の本山でもある。

 その内、内部で宗教改革でも起きるんじゃないか?


「統治に深く係わる部分もあります。バンター殿とエミルダ様の考えはお口に出すことが無いように……」


 ドルネアンさんの言葉は、俺が宗教改革を考えていると思っているようだ。

 とんでもない誤解だから、とりあえず宗教と統治を切り離して国造りをするつもりであることを説明しておく。


「話を戻しますと、婚礼にそれ程間がありません。ジルの方は準備が出来ておりますの?」

「父が新しく長剣を作ってくれましたし、母がシルバニア王国の聖堂騎士団の装束を揃えてくれました。兄からは白い馬を頂いておりますから、全て揃っております」


 今度は俺が驚く番だった。

 とんでもない、戦姫だぞ。まさか戦場に向かう装束で結婚式に臨むんじゃないだろうな?

 チラリとザイラスさんを見ると、諦め顔で首を振っている。


「女性にとっては、ある意味戦場でもあるのであろう。遅れを取ることが無いようにいたせ。我からも何かを届けねばなるまい。長年クレーブルの軍務をこなしてくれた恩は軽くは無いからな」


 国王も、おもしろそうに頷いているから困ったものだ。


「そうなると、私もクレーブルを離れて婚礼に同席したいものですな。話に聞く大聖堂を是非ともこの目で見たいものです」

 夫の言葉に奥さんも頷いてるけど、早めに大聖堂の姿を話しておいた方が良いだろうな。あれじゃ、詐欺に思える人だっているんじゃないか?


「その大聖堂なのですが、もうすぐ完成します。ただ……。荒地の真ん中にぽつんと礼拝所があるだけです。その礼拝所も4本の石柱と梁だけで屋根すらありません。ですが……」

「左右に広がるアルデンヌ山脈、正面には険しい山がそびえ立ち、見上げればどこまでも広がる碧空……。緑の絨毯を踏みしめて大聖堂の中に私は入っていく……。

 正しく、あの詩の姿をエミルダ様は形にしたのでしょう。やはり、その姿を一度は目にしたいものです」


 かなり好意的だな。昔の詩人の言葉のようだが、教養のある者は皆知っていると言う事なんだろうか?

 あの場所で、貧相な礼拝所を馬鹿にする者は教養が無いって事になりそうだ。

 それもまたおもしろい話ではあるんだけどね。


「バンター殿はシルバニア王国の王都で暮らすのですか?」

「旧王都にはザイラスさん達に住んで頂きます。何としても兵力を早急に整えなければなりません。いまだに、ウォーラム王国軍は西の山沿いに駐屯しておりますし、東には衰えたとはいえマデニアム王国軍がおります。

 俺達は、産業基盤を整える事を優先に、アルデス砦で暮らそうと思っています」


「アルデス砦は大規模な改修中らしいな? マデニアムの投降兵を使って石を運ばせているし、我が国の石工達も大勢出掛けていると聞いている」

「丸太作りの砦を少し見られるようにしませんと、皆さんの嘲笑を買いそうです。山沿いですからある意味城だけです。周囲には村がありますからそれ程不自由ではないでしょう」


「女王が村暮らしとは思い切ったものだな。それも少し理解出来るつもりだ。ザイラス、旧王都の連中は一筋縄ではいかぬぞ。ジルも傍にいるのだ。徹底的に甘い考えを持つ者を叩くが良い」


 国王の言葉に頷いてるから、かなりの強硬策を考えているのかな?

 有象無象の連中が多いのも確かだが、中には協力してくれる者もいるに違いない。そんな連中を早く見つけて欲しいものだ。


「クレーブルとトーレスティの参加者はウイルを通して伝えれば良い。それにしても集団婚礼とは、長生きはするものだな」


 やはり、呆れてるんだろうな。

 そんな話をして、俺とザイラスさんはクレーブル王国を後にすることになった。

 ヨーテルンに帰ると、ほっとしたようにザイラスさんがテーブルに足を投げ出している。

 女王陛下御一行は、アルデス砦に行ったきりだから、行儀の悪さをとやかく言う者はいないのが助かるな。


「中々の美人じゃないですか。部隊の誰もが羨ましがりますよ」

「まあ、美人であることは確かだ。今年30のはずだが、全くそうは見えんだろう? だが、棘があるのも確かなんだ。

 昔、2度試合をして俺は惨敗している。バンターも気を付けるんだぞ。

 まあ、強いだけならそれでも良い。部下の手前では、少し引いてもくれるだろう。

 だが、もう一つ、欠点があるんだ。何事も軍隊形式。ジルの家系は代々の軍人だ。しかたが無いといえばそれまでだが」


 何となく理解できるな。でも、軍隊の生活に慣れるとそれなりに順応できるとも聞いている。規則正しい生活に慣れると、それでないと生活が成り立たないらしい。

 たぶん作れる料理は野戦食なんじゃないか? ジルさんのドレス姿は誰も見たことが無いかもしれない。

 でも、ちゃんとした侍女を雇えば良い話。ザイラスさんはシルバニア王国の軍隊を束ねる長官でもあるのだ。世間的には従兵と侍女は必要だろう。


 それは俺達にも言える事だ。

 食事は今までと同じにマリアンさんが準備してくれるかも知れないけど、マリアンさんも内務をつかさどる長官だから、早めに何とかしないと婚礼の翌日にひもじい思いをしなくちゃならなくなりそうだ。

 ミューちゃんと相談してみようかな。ラディさんがずっと置いてくれるような話をしていたし、女王陛下も妹のように接していたからね。



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