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SA-105 結婚式を合同で?


 お土産屋さん計画は、しばらく温存しておこう。上手く行けば北の村の新たな商売にもなりそうだ。

 にこにこしながらお茶を飲んでいる俺に、マリアンさんが訝しがっているけど、理由が分からなければそれで良い。


「ところで、ザイラスの相手が決まったそうじゃ。ウイルが連れて来ると言っているが……。ザイラスの任地は話しておろうな?」

「一応、王都で兵を鍛えて貰おうと思っています。少なくとも早急に2個大隊は必要でしょう。いつまでも義勇軍を手元に置くのは問題があります」


「なら丁度良い。早めに婚儀を済ませ、新任地に向かうなら2人で兵を鍛えられるじゃろう」


 嬉しそうに話をしている女王陛下だけど、ちょっと気になる内容だったな。確か、2人で兵を鍛えられると言っていたから、ザイラスさんの相手は武人なのか?


「ひょっとして、女性のザイラスさん?」

「ジル―シャ・ハイデルンと言う。クレーブル王家の名門で、長剣の腕はザイラスには劣ると言っておったが、女性騎士の中では頭3つ分は抜きん出ているそうじゃ」


 なるほど、それじゃあ相手を選びそうだな。相手だって自分よりも強いと分っている女性だったら、話が来た段階で丁寧に断りそうだ。

 

「ザイラスからは、お任せしますと言葉質は取ってある。まして、クレーブル御后が捜したとなればザイラスとて断り切れまい」


 可哀想に……。優雅な独身生活は終わりを告げたと言う事になるのかな?

 

「せっかくですから、女王様にも婚礼を一緒に上げて貰います。来賓はクレーブル王国だけでも良いでしょう。シルバニア王国が貴族を持たない統治を考えていますから、招待する賓客も少数で問題ないと思います」


 エミルダさんの話も、納得は出来るが心の準備と言うものがいるんじゃないか? まだまだ先の話だと思っていたんだが。


「そうじゃな。……合同も悪くない。ついでに、聖堂騎士団の中にも、決まった相手がいるようなら一緒に式を上げるのも一興じゃ」

「待ってください。仮にも、一生に1度かも知れない式ですよ。一興というのは問題がありそうですが?」


 慌てて止めてみたんだけど、周囲の反応はそうではなかった。皆の視線が冷たく感じるぞ。


「式など適当で良いのじゃ。第三者もしくは神官が立ち合えばそれで良い。とは言え、体裁もある。我等の結婚式に合わせて式を執り行うと言う事で皆は納得するであろうし、皆で山賊をした仲間でもある。彼らの式であれば我等も同席することに何ら問題はない」


 と言ってるけど、俺にはそれで良いのか? という思いもある。だが、同じ釜の飯を食った仲間の結婚式に出たいと言う女王陛下の思いも分るつもりだ。


「でも、そうなると……、いったい何組の結婚式を一度に行うんですか? 王都の礼拝所でもあまり人は入れないと聞いていますよ!」

「バンターらしくも無い。アルデンヌ大聖堂で行うのじゃ。例え100組みを同時に式を上げても十分に入れる大きさがある」


 確かに野原だからな……。なんて感心している場合じゃないんだが、どうやら俺がここに来る前に全てが定まっていたらしいな。

 ここは諦める外無さそうだ。サディーネ女王は気は強いけど美人だからな。元の世界で友人達に見せびらかして羨む顔を見たいものだ。


「ところで、東と西をどうするのじゃ。どうにか以前のカルディナ王国の版図を手に入れたが、今のままではいずれ西からの攻撃を受けてしまうぞ」

「その為の兵員増強です。何とか2個大隊を作ることが出来れば、1個大隊ずつ東西に振り分けられます。我等からの侵略はマデニアム王国の1部を割譲すれば良いでしょう。これは3個大隊まで戦力を増強したところで初めれば十分に可能です。他国のように5個大隊を持たずとも良いでしょう」


「そこで王都のザイラスと言う事じゃな。とりあえず平和であれば良い。マデニアム王国の割譲であれば、街道の尾根を我が物とするだけで十分じゃ。山間であるから、マデニアム王国も諦めざるを得まい」


 ある意味、象徴的な割譲だ。マデニアム王国にしても莫大な戦後補償を山半分で済むなら文句は出ないだろう。

 俺達の軍が侵入する方が遥かに問題だろうからな。戦にもならないんじゃないか?

 だが、尾根を丸ごと手中に収めることによって、シルバニア王国の東の守りは鉄壁なものになる。

 2度と東から攻められることは無いはずだ。


 それに引き換え西には課題が残りそうだ。

 ウォーラムにトーレスティ、それにクレーブルの国境は明確ではないようだからな。

 山や大きな石がごろごろした荒地だから明確な国境を定めていなかったようだが、その辺りをキチンと定める必要が出てくるだろう。

 特に、レーデル川西岸の荒地は問題だ。粒金がそれなりに採取っ出来るらしいから、きちんと説明しても後々に遺恨が残りそうな気がするな。


「再度クレーブル王国に行ってみようかと思っているんですが……」

「我等の交易船の話か?」


「場合によっては、トーレスティとも権益を分かつ事になりそうですが、話によってはレーデル川西岸の国境を明確に出来るかも知れません」

 

 粒金の話をすればクレーブルも話に加わってくれるだろう。粒金で得た金を新たな交易路と交易物の調査として使えば、誰の財布も傷めずに済む。かなりリスクの多い事業だから、貴族達の反発もあるだろうが、新たに国庫からその事業費を引き出さずに済む。


「試掘でもかなりの粒金が得られたからのう。半分を税として納めさせても志願者は多いであろう。我は賛成じゃ」

「3か国で立ち会って国境を決めても、レーデル川は長い間に蛇行していますから、それなりに採掘が出来るでしょうね。クレーブル国王は賛成すると思います。トーレスティとしても嬉しい知らせではないでしょうか? クレーブルの交易船を羨ましく思っていたはずです」


 新たな事業を通して3つの王国が同盟できれば心強い限りだ。

 旧カルディナ王国ともゆかりのある王国だから、それなりに見返りをする必要もあるだろう。新たなシルバニア王国の外交の始まりって事になるんだろうな。


「ところで、バンター殿は絹をシルバニアで作ることも視野に入れているようですが、本当に可能なのですか?」

「可能だと思っています。このアルデス砦の周辺は冬は深い雪の中になりますが、それほど気温は下がりません。暖炉があれば十分に温かく暮らせますからね。

 俺の住んでいた国の山沿い地方にそっくりです。そこは絹の生産が盛んでした。絹と言うよりもその手前の絹糸でしたけどね」


「糸があれば布は織れます。絹糸の原料をこの地で……、生産する?」

「生産と言うよりは育てると言った方が適切です。かなり面倒ですけどね」


 ヒントを与えすぎたかな?

 エミルダさんは思った以上に聡明な人だ。俺の話から少しずつ、絹の生産を考えているようだ。確かに上手く軌道に乗れば銀山よりも多くの富が手に入るだろう。

 だけど、手に入れただけではどうにもならないはずだ。

 アルデス砦の下にある関所をそのまま残して、絹糸の生産を門外不出にするのもおもしろそうだ。

 さすがに絹織物までは無理だろうから、シルバニアは絹糸だけを考えれば良いだろう。


「絹糸さえ出来れば、クレーブルやトーレスティでも織ることが出来るでしょう。それを使った交易も活発化すると思いますよ。最終的には毎年ドレス数百着程度を作れる体制に持っていきたいと考えてます」

「王侯貴族でなくとも、絹のドレスを着ることが出来ると言う事か?」


 テーブルには女性ばかりだけど、皆驚いているな。

 そう言えば、トーレルさんの婚礼も御嫁さんは木綿のドレスだった。御后様がようやく晴れ着として着られる位だから、かなりの値段なんだろう。


「我等は木綿の花嫁衣装でも、将来は絹の衣装を着せてやれそうじゃのう」

「たった1日ですから、1着を使いまわすことも出来るでしょう。それも新たな商売になりそうです」


「たった1日でも、着たことに変りはありませんし、思い出はいつまでも残るはずです。出来れば新たに設ける修道院でそれを行いたいですね」


 それって、結婚式場とセットにするってことか?

 そんなことをしたら、アルデンヌ大聖堂に大勢のカップルが押し寄せてきそうだぞ。


「2つの村も活性化しそうじゃな。賑やかになるのは良い事に違いない」

「宿も造りませんと……。これは、教団の新たな事業になりそうです」


 女王陛下とエミルダさんの2人は微笑みながら頷いているが、俺とマリアンさんは胡散臭い目で見ている。ミューちゃんは我関せずに、取り分けて貰ったお菓子を食べているけど、最初に式を上げるのがはミューちゃんもしくは次の世代になりそうだな。

 少なくとも数年ではどうしようも無いだろう。

 

 それでも、そんな前向きな提案が出来るだけ、新しい王国は希望に満ちていると言う事になるだろう。

 悲壮感を漂わせて小さな焚き火を囲んだ時代とは雲泥の差がある。

 かつてはカルディナ王国を手中に収めたマデニアム王国の没落を考えると、栄枯盛衰は意外と短時間に行なわれるようだ。

 世界征服を目論んでも、版図の経営に課題が残るようではダメってことなんだろうな。

 マデニアム王国は、どの段階で失敗したんだろう?

 俺達が山賊を始めなければ、上手く行っていたのだろうか……。

 たぶん、没落の速度を速めただけだと思う。

 同じ規模の王国が他国の統治を根本から葬った以上、自らの王国から統治に必要な人材を送らねばならない。

 そんな事をせずに、富を自国に持ち帰ることだけを考えていたようにも思える。

 俺達が介在せずとも、それほど長くない時期に一斉蜂起が起こるだろうし、南の砦を手放した途端、クレーブルが攻め入って来ただろう。

 

 それに、もう1つの失敗がある。せっかく縁戚関係のあった2つの王国と同盟を結んでいるのに、その軍を上手く利用できなかったことだ。

 カルディナ王国を倒したところで、クレーブル王国に攻め入るべきだった。それをしなかったのは、銀鉱山の利権を自らの物としたかったんだろうが、カルディナとクレーブルを倒せば、3つの王国で利権を分け合っても十分に満足できたろうにね。


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