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SA-104 アルデンヌ大聖堂の正体


 ラディさんの長い話をあきずにジッと長老達が聞いている。たまに頷くことああるから、寝ているわけでは無さそうだ。

 やがて、話が終わると、長老達がパイプを取り出して一服を始める。


「そのような戦をするとはな……。なるほど狩りの腕があるなら十分に使えよう。それで我等を主体とする部隊を作ろうとするバンター殿の缶下の深さには恐れ入る限り。

 だが、我等は流浪の民。果たして皆がそれを良しとするであろうか?」


「ネコ族全員が、北の村に定着することを俺は考えてもいません。最初に、安住の地を提供すると言ったはずです。

 狩猟の旅は長く辛い旅でもあります。幼子や歳を取った者達の多くが旅の途中で亡くなるでしょう。

 狩猟の旅には足腰がまだ整わないもの、老いて足腰の弱った者達を北の村に置く事で良いのではないでしょうか?

 ネコ族の身のこなし、気配の消し方、体の丈夫さは狩猟の旅を通して培われるもの。俺は狩猟の旅を続けるのはネコ族にとっても良い事だと思っています」


「ほほう、我等に狩猟の旅は必要だと説くか……。で、その目的は?」

「シルバニア王国の夜を支配して頂きたい。昼であれば、それに正面通しであれば俺達は何とでも対処出来そうです。ですが……」


「全てに、表と裏があると言うのだな。我等にその裏を対処してほしいと……。裏社会と夜の戦を我等に任せると言う事か。おもしろい話を持ってきたものだな」

「だが、バンター殿の申し入れは我等にとってもありがたい話。確かに、アルデンヌ山脈を1度巡ると、100人以上の者達が亡くなる時もあるのじゃ」

 これまで黙っていた長老の1人が口を開いた。


「生活に必要な品は俺達で準備しましょう。何がいくら必要かを教えて頂ければ準備いたします」

「北の村は、この更に東になります。すでに住居も建ててありますし、井戸も作られています。1千人以下であればそのまま暮らすことも出来ますし、村の周囲には畑さえ作られています」


 一時期の村ごとの疎開用だったのだが、残っている村人はミクトスもしくはアルテナムに移って貰えば良いだろう。もし残ってくれるなら農業の指導者として別途給与を払う事も出来そうだ。


「有力者を集めて会議を開かねばなるまい。我等は賛成できるが、それを良しとせぬ者もおるだろう。十分に説明をして納得させねばな。ラディ、しばらく残ることが出来るか?」

「バンター殿は、シルバニア王国の重鎮です。単身でお戻しすることは出来ぬかと」

「我等方で送り届けよう」


 長老に頭を下げて感謝を伝える。

 闇討ちされることは無いだろう。俺の話を聞いてくれたと言う事で十分だ。

 北の村に10家族程が残ってたくさん作った住居の掃除をしてくれているようだから、彼等にも早いところこの話を伝えねばなるまい。


「出来れば北の村まで送っていただけるとありがたい。その村が、先ほど話した村になります。大きさと住居の間取りをあらかじめ知っておくことも大事かと」

「今夜は、我等のところで泊まってくれ。明日に、送って行こう」


 これで、俺の役目は終わりだ。

 ダメ元だから、一応の話をしておけば良いだろう。ねぐらに案内してくれるかと思っていると、大きな焚き火の席に案内して貰った。

 ラディさんが酒のタルをいくつか荷馬車に乗せていたんだろう。今夜は宴会って感じだな。

 

 知らない連中だけど、ネコ族は良い奴ばかりだから、安心して飲めるぞ。

 鹿のような大きな肉が焚き火で焼かれ始めると、皆の歓声が上がる。

 こんなに騒いでも、周囲に誰もいないから問題ないって感じだな。勧められるままに酒を飲んで、肉をむさぼる。

 

 翌日目が覚めたら、知らないテントで横になっていた。

 自分で歩いて来れたんだろうか? まるで記憶が無いのが問題だな。

 ズキズキ痛む頭を押さえてテントから出ると、直ぐ近くに昨日の焚き火跡があった。

 チロチロと小さな炎が上がって、いくつかのポットが熾火の上にじかに乗せられている。


「あの騒ぎに最後まで付き合う人間族も珍しいですよ。これを……」

 俺を見付けたラディさんが渡してくれたカップには、見覚えのある液体が入っていた。

 ミューちゃんが前に持ってきてくれた物と同じなんだが、あれは苦かったぞ。

 それでも、効き目は確かだから、意を決して飲み込むと、直ぐに普通のお茶を入れてくれた。


「朝食は簡単なスープですから、直ぐに持って来させます。バンター殿と一緒に3人が北の村に向かうそうです。私は数日ここで過ごしてから帰ります」

「ありがとう。ネコ族の人達で十分に話し合って欲しい。出来れば俺達と一緒に暮らして欲しいけどね」


 ここからなら北の村には半日で歩いて行ける。

 北の村に彼等を案内して、村に残っている村役に紹介した。

 村役達も村あ賑わう事を喜んでいるようだ。3人をあちこちと案内する気でいるらしい。

 そんな彼らに別れを告げて、アルデス砦まで荷馬車で送って貰う。

 だいぶ工事も進んでいるみたいで、投降したマデニアム軍の兵士が荷車で石を南の荒地から運んでいるのが見える。

 重労働だから、食事はたっぷり与えているし、たまにカップ半分程のワインも与えているらしい。

 マデニアム軍よりも待遇が良いと喜ぶ兵士もいるらしいから、マデニアム軍の中身が良く分かるな。士気が低いわけだ。


 そんな工事現場に俺を置いて、荷馬車は北の村に帰って行った。

 少し離れた場所で工事風景を眺めていると、ミューちゃんが走って来た。


「バンターさん。こっちにゃ!」

 大きな声で呼ぶから、工事をしている連中が俺を見ているぞ。

 それでも、妹みたいなものだから微笑みながら手を振ってミューちゃんの方に歩いて行った。

 

 こっちこっちと案内してくれるミューちゃんに付いて行くと、女王陛下達が屋根だけ着いたテントのテーブルに着いて図面とにらめっこをしている。

 エミルダさんも一緒にいるのは、かつての砦が無くなってしまったからだな。

 礼拝所も一緒に撤去したらしい。


「バンターがここにいると言う事は、ネコ族の長老達と無事に合うことが出来たと言う事じゃな?」

 マリアンさんが、ここにどうぞと譲ってくれた椅子に座る間もなく女王陛下が質問を浴びせてきた。


「とりあえずは要求とその謝礼を話して来たよ。主だった者達を集めて会議を開くらしい。ラディさんは残ってくれた。上手く運べば北の村が賑やかになるし、俺の直属の部隊が出来る」

「版図が広がった事で皆がバラバラになってしもうた。少しさびしくなるのう」


 募集した兵が一人前になれば、少しはこっちにやって来れるだろう。だけど、いつまでもここに滞在することはできないだろう。確かに寂しい気がする。


「そこで1つ提案が……。毎年、最初に山賊を働いた時期に、皆で狼の巣穴に集まりませんか? 1年に1晩だけ、昔の仲間が集まってワイワイ騒ぐのもおもしろいと思うんですが」


 俺の話に、いつの間にか俺を見て顔に喜色を浮かべているぞ。

 周りの魔導士のお姉さん達もニコニコしながら頷いている。


「そうじゃな。確かにおもしろそうじゃ。全てはあの小さな砦から始めたのじゃ。1晩というより数日でも構わんぞ。峠を通る旅人を脅かすのもおもしろそうじゃ!」


 そんな事をしたら、山賊女王と二つ名が付きそうだ。

 良識派のザイラスさんやトーレルさんにすがる事になりそうだな。


「その時はクレーブルの王女を招待してあげてくださいな。こちらにいる間、ずっと山賊になりたいと言ってましたよ」


 エミルダさんも参加したいのかな?

 まあ、その時は2次会で他の人達も呼んであげたらいい。でも最初はやはり俺達数十人になるんだろうな。


「ところで何を悩んでいたんですか?」

「そうじゃった。これなのじゃ。礼拝所を城内に作ろうと思っているのじゃが、叔母様が納得してくれぬ」

「せっかくのアルデンヌ聖堂騎士団なのですから、外に作って頂きたいですわ。将来は修道院をと思っています」


 そう言う事か。教団と王国を分離したいと言う事なんだろう。本来ならこちらからお願いしたいぐらいだ。それに、広大な大聖堂を思い浮かべるには、城の中に作る小さな礼拝堂では不足なのだろう。

 それにしても、修道院は予想外だったな。

 教団の本山には帰らずに、ここで後輩の指導をしながら過ごすつもりのようだ。

 有象無象の輩が権力争いに明け暮れる教団本部よりも遥かに過ごしやすいかも知れないな。


「この付近に土盛りをして小さな礼拝堂を作れば、エミルダさんの答えになりますか? 周囲の壁は無く、4本の柱に支えられた梁だけの建物です。屋根さえ作りませんよ」

「礼拝堂の周りは緑の絨毯。見上げれば蒼の天蓋。左右に広がる大伽藍……。正に、大聖堂そのものですね。その西に小さな家を作って頂ければ私の修道院になります」


 それ位ならどうとでもなるだろう。

 小さくても、それなりと言う事もあるだろうから、クレーブルからやって来た石工たちに形にして貰おう。礼拝所のラフスケッチを見せれば何とかしてくれそうだな。


「そうなると、この礼拝所が不要になりそうじゃ」

「これはこれで必要です。ちょっとした集会にも使えますし、エミルダさんが来た時には、城の連中だって一緒に祈りをしたいででしょうし……」


 俺の言葉にマリアンさんが頷いている。

 宗教心が俺みたいに希薄な人はこの世界では稀なようだ。

 女王陛下は首を傾けて考えていたが、エミルダさんを見て頷いているから、とりあえず問題解決って事なんだろう。


「それにしても、さすがですわ。やはり私達とは信仰が異なるのでしょうね」

「やはり教団としては問題でしょうか?」


 俺の言葉を聞いて、ミューちゃんが入れてくれたお茶のカップを持ちながら微笑んでいる。

 やはり、本来の教義的には問題と言う事になるんだろうな。


「問題というよりも、余りに広すぎます。たぶんバンターさんの宗教観の中に私達の教団教義が入っていると言う事になるんでしょうね。バンターさんの宗教感を否定するなら自分達の宗教をも否定すると言う事になるんじゃないでしょうか?

 教団の重鎮でさえも精霊崇拝者に我等の教義は理解できようが、我等には彼らの宗教観を理解できかねると言っています」


 問題にすることがそもそも出来かねると言う事か?

 それなら問題なさそうだが……。


「ただ1つ。出来ればバンターさんの宗教観を広めないでほしいと言っていましたよ。私も同感です。私達の役目が無くなってしまいますし、周囲の王国を含めてバンターさんの宗教観を理解出来る者もいないと思います」


 ひょっとして、エミルダさんがここにいたいと言うのは、俺を通して俺の宗教観を調べたいと言う事なんだろうか?

 下手に広がれば、教団としても無視できないだろし、かといってそれを完全に否定することも出来ないと言う事らしいからな。

 とは言え、教団の上位者がこの地に留まってくれるのも確かだ。新たな名所が出来るのかも知れないな。

 でも、アルデンヌ大聖堂が、小さな屋根すらない礼拝堂だと知ったら、皆不満を持つ事になるんじゃないか?

 お土産用の、せんべいやお饅頭を扱うお店を近くに作ってみようかな?

 そっちの方が人気が出るかも知れないしね。

 


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