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敷き詰められた金平糖 作者:水戸れんこん
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ほんの偶然

 本当に偶然の話。

 いつの間にか私は裏の人の愛人になっていた。

 別に夜の店に勤めていたわけでも借金を背負っているわけでもない。だからといって一目惚れされたわけでもない。

「お帰りなさい」

 私が住んでいるのは本家ではなく別宅。本宅にはまぁ、姐さんがいるわけで。

 こっちは事務所兼住宅みたいな所。

「ご飯にします?お風呂にします?」

 背広をハンガーにかけながら聞く。

「風呂にする」

 私達の間に色恋はない。

 どちらかと言うと…

「飯は?」

「用意するよ」

 すると少し寂しそうにこう言った。

「一緒に呑まないの?」

「呑むに決まってるでしょうな」

 どちらかと言うと仲の良い呑み友達の方が合っている気がする。

「お風呂、行ってきたらどうです?」

 私もお腹空いているから。

 組長と出会ったのは雨の日の居酒屋。帰り途中に雨に降られてたまたま寄った居酒屋で出会った。

 カウンターの隣で何だかサラリーマンではない人間が呑んでるなとは思ったものの話かけられて何故か馬が合ったのだ。

「赤莵馬の紫か」

「珍しくコンビニにあったのよ」

 お互いにお酒が大好きでつまみの趣向も合うのだ。あっちは、どう思ってるのか知らないけどこっちにとっては友達に近い感覚がある。

「さつま揚げの煮物も美味しいし」

「神野さんがいっぱいくれたから作ってみたの」

 そう言うの好きかなと思って。

「貰い物の赤霧島もあるよ」

「あっ、茜霧島もある」

 お互いに霧島の瓶をテーブルにおく。

「この前は姐さんに料理に使われたんだっけ?」

「そう、すごく悲しかった」

 本家の姐さんはお酒を呑まない人らしい。料理は上手らしいけど酒呑みの好きな料理は作らないらしい。

「氷、用意してくる」

 割っても美味しいけどロックでも呑みたいよね。

「ここは居心地が良い」

 そう言い彼は潰れていた。

「姐さんと喧嘩でもしたの?」

「ヒスってた」

 うーん、きっと跡目のことだろうな。姐さん、女の子と男の子産んだけど性格逆になってるしね。

 どっちも良い子なのは知ってるよ。唯花ちゃんは元気で50m走速いのも知ってる。でも、しっかりもので弟の叶斗君の面倒もしっかり見てたりするよ。

 叶斗君だって、この前作文で賞状貰ったのも知ってるしテストは毎回百点だって知ってるよ。

「何でそんなに知ってるの?」

「前に言ってたじゃん」

 酔ってたから覚えてなかったかな。

「それ、5年前の話だよ」

「今は?」

 これ聞いたのは、3年前なんだよね。小学生の内なのかしら。

「高3と高1」

「大きくなったね」

 しかし、ヒステリーになるとしたら叶斗君だと思うんだけど。

「叶斗君は就きたい職業でもあるの?」

「フロント企業に居たいって」

 フロント企業はIT系だから叶斗君には合ってそうな職業だな。

「それで良いじゃん」

 だって、そのまま跡目になれるんだから。

「ダメなんだってさ」

「姐さん、実家の組の人を押したいんだっけ?」

「そう」

 跡取りの問題は以外と難しい話である。

「それは反対しなよ」

 もし、この組が血縁を重んじるなら跡取りに姐さんの組は要れない方がいい。それが仮に叶斗君の片腕候補でも。

 乗っ取られる。きっと血に不純物が混じる。

「してる、叶斗の片腕も叶斗が指名してる」

 しっかりた子だわ。

「叶斗君の意志を大切にしないとね」

「もう一回そう言ってくる」

 すると規則正しい寝息が聞こえてきた。

 今日は、相当疲れてたみたいね。

 彼の側近を呼ぶと布団に運んでもらった。

「笹音さんはお休みにならないのですか?」

「えぇ、まだ仕事があるので」

 そう言いパソコンを立ち上げた。



「笹音さん、来客です」

 黒服の兄さんが私を起こしに来た。

「誰です?」

「本家の姐さんです」

 そう耳元で囁いた。

「珍しいね」

 取り敢えず着替えますか

「皆川くん、そもそも何で来たの?」

「近くを寄ったかららしいです」

 イビりに来たのは目に見えてわかります。

「どうも姐さん、お久しぶりです」

「ニートはこうも生活に不規則なのかしら?」

 ホスト通いの姐さんに言われたくないです。

「私、在宅の仕事がありますので」

 本当はそこそこ名の知れた小説家だけど姐さんには言いたくないかな。

「ふーん」

 姐さんはつまらなそうにお茶を啜る。

「あの人に余計なことを吹き込んだようで」

「一般論を説いただけです」

 にっこりと答えた。

「堅気の一般論を?」

「いえ、人間の一般論です」

 姐さん、野生動物じゃないですもんね。と笑顔で答えた。

「愛人の癖に楯突くんじゃないわよ!」

「いえー、間違いを直しただけです」

 皆川くんに目配りをする。

「姐さん、次のスケジュールは大丈夫ですか?」

 すると姐さん一行は慌てたように帰っていった。

「笹音さん、怖がらせないでください」

「ごめんね、皆川くん」

 これも彼のためなんだ。

 私はね、彼とは楽しく呑んでいたい訳なんだ。だから、厄介事は片付けないといけないんだ。

「笹音さんは、すごい人ですよ」

「そんなことないよ」

 嫌みを嫌みで返してるだけだから。

「さて、出掛けてくるね」

 そう言い鞄をもつ。

「送りますよ」

「怖がっちゃうからいいよ」

 担当さんは知ってるけど他の人は知らないからね。これは、秘密にしないとね。

「行ってきます」

 そう言い玄関を出た。

─ほんの偶然─

 雨の日にあの居酒屋に行ったこと

 ─ほんの偶然─

  彼が話しかけたこと

        ─ほんの偶然─

        馬があったこと

  ─ほんの偶然─

    愛人になったこと

         ─ほんの偶然─

   彼とこのままの関係を続けたいこと

 この思いは恋でも愛でもないけれど。私は彼と共にいたい。

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