「センセー、センセー、センセーはどうして教師になったの?」
個人面談の真最中、本来質問する側の教師が何故か質問されていた。彼の目の前で少年はニンマリと意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
「お前なァ、いい加減、話を逸らすの止めようよ」
教師の里見はボリボリと頭を掻いた。チロリと生徒、八田の方を見ると、全く話を聞いていない。
「はいはい、じゃあ第一志望はどこデスカ」
片肘を付きながら、名簿をパラパラとめくり、ヤル気のない声で尋ねた。今日は既に5人と面談をした。八田でラストなのだ。
「センセーこそ、ヤル気ないじゃん」
八田は口を尖らせた。今度は里見がそっぽを向いた。
「第一志望ねェ。何かヤル気削がれる……」
「元から無いだろが」
「色々と悩むんだよね。なりたいモノになれなかったら、とか」
八田は里見のツッコミを気にする事なく、ブツクサと文句を続けていた。そして急に里見を見た。
「だーかーらー、センセーに体験談を聞きたいのッ!」
ドンッと音が鳴りそうなくらい机を叩いた。鈍い音がする。
「……体験談ね」
「うん、体験談!」
うーん、と里見は黙ってしまった。八田は早く早く、と里見を急かした。
「何だよ、金八に影響されたとか、そんな理由?」
ムッとしながら八田は言った。教師の返事が遅いのに業を煮やしたのだ。すると次の里見の行動は素早かった。
「あー、そりゃナイナイ。俺、金八見たことないもん」
「そうなの?」
「おう。昼寝の時間だった」
「どんな青春」
またもや八田の顔が苦々しくなった。
「じゃあ、なんでまた教師に?」
「……就活、全部落ちたんだよね。あ、泣きそう。コレまだ引きずってるからサ」
しばらく二人の間に沈黙が流れた。里見は目頭を押さえている。八田はポカンと口を開けたままだ。
「もしかしてそんな理由?」
「ああ。そうだけど?」
「すげ、くだらない」
「うっぜー!何だよ、人に無理矢理聞いといて」
里見は八田に向かって思いっ切り文句を言った。八田も八田でブーブー文句を言っている。
「もっと夢のある理由が良かった」
「現実はこんなもんさ」
里見は微笑みながら、俺の場合はな、と付け足した。
「あーあ、近くにいるオトナがこんなんじゃなー」
「オイオイ、夢の職業に就けなくてもそれが敗者だとは言えないぜ?」
「なんで」
里見がニヤァッと笑った。
「教師になって良かったと思ってる。俺の勝ちだ」
「……さっき引きずってるって言った癖に」
「アレはアレ。コレはコレ」
「うわ、オトナの言い訳だね」
「うっさい」
「もういいよ、センセーなんてアテにしないから」
「反抗期か」
「じゃ」
八田はカタリと席をたった。
「は?おい、ちょ……まだ終わってねェんだけど」
いいんだよー、なんて言いながら、八田は部屋を出た。里見はハァと溜め息を付き、立ち上がりかけた体を元に戻した。パラパラと冊子をめくる。教室には静けさしかない。
「厭味な笑い方しやがって、あんにゃろ」
クックックッと、里見は素直じゃない生徒を思い出して笑った。
|