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エピソード3.5:君を好きになった日㊤

 ――時と場所は戻り、宮城県仙台市、政宗の部屋のリビングにて。


 2人からの話を聞いたユカは、どこか複雑な表情で……一度、大きく息を吐いた。

「……あの時は楽しかったね。本当、楽しかった」

 目を細めて感慨深く呟くユカに、統治が静かに同意する。

「ああ……非常に、有意義な時間だった」

「ケッカ、ここまでは大丈夫か?」

 政宗の問いかけにユカは弱々しく頷くと……テーブルに右肘をついて、ふらつく頭をおさえる。

 明らかに苦しそうな彼女に、政宗と統治は慌てて立ち上がった。

 ユカはそんな2人を左手で制してから顔を上げて、長い髪の隙間から頑張って笑顔を向ける。

「ごめ……ちょっと疲れたみたい……」

 そう言って机に突っ伏すユカに政宗が近づき、彼女の背中をさすりながら問いかける。

「そうだな、懐かしさもあって一気に喋りすぎた。ベッドに戻るか?」

「……うん、お願い出来る?」

 ユカに言われた政宗が、椅子に座っている彼女を抱え上げて、リビングを後にした。

 そんな2人を見送った統治は……改めて椅子に座りなおし、どこか苦しそうな表情で天井を仰ぐ。

 今すぐに食器を片付けなければならないし、それから明日の2人分の朝食や昼食まで用意しておきたい。冷蔵庫の食材だって、改めてちゃんと確認しておきたい。やりたいことは山積している。

 しかし、彼を支配しているのは……これまでに感じたことのない、言いようのないほど不快な、倦怠感。

 統治の体に絡みつき、彼の体から生気を奪い去っていく。

「……何だ、この感覚は……」

 自分もまさか、ユカの風邪がうつってしまったのだろうか。

 統治は一抹の不安を抱きつつ……とりあえず、食べた食器を洗うために、ノロノロと立ち上がった、


 廊下を抜けて、玄関近くのゲストルームに戻ってきた政宗は、部屋の奥にあるベッドにユカを丁寧に寝かせてから、そっと布団をかける。

 ユカがどこか安心した表情で、天井を見上げて息を吐いた。

「額のシート、取り替えるか?」

「うーん……まだいいや。もうちょっと冷たかよ」

「そっか、ならいいんだ」

 政宗はユカの額にそっと手を添えてから……意を決して、彼女にこんなことを尋ねる。

「なぁ、ケッカ、こんな状況で申し訳ないんだが……約10年前のバレンタイン、俺に電話してくれたことって……覚えてるか?」

「バレンタインに、電話……?」

 少し顔を赤くして考え込むユカだが……やがて、申し訳なさそうに首を振った。

「ゴメン……分かんないや。何か思い出したら教えるね」

 その答えに、政宗は動揺を感じさせないよう、必死で顔にいつもの表情を貼り付ける。

「そうだよな……俺こそいきなり聞いてゴメンな。ちょっと統治を手伝ってくる、すぐに戻ってくるから」

 そう言ってユカに握った右手を突き出すと、布団の中からユカの右手が出てきて、コツンとぶつけてくれる。


 ――これは、覚えているのに。


 ユカがいる部屋の扉を閉めた政宗は、斜め前にある脱衣所に移動した。

 洗面台に両手をつき、恐る恐る顔をあげる。

 鏡にうつった自分の顔は、情けない……本当に情けない泣き顔だった。頑張って彼女の前では涙を流さなかったけれど、もう、限界だと自分でも分かっていたから何とか逃げてきた。

 こんな顔は……久しぶりに見た気がする。

「ハハッ、そうだよな……そもそもいつものケッカだって、覚えてるかどうか……」

 自嘲気味に呟いてから、とりあえず顔を洗った。

 水を止めて、タオルで顔を覆っても……涙が溢れて止まらない。


「どうしてだよ……どうして、俺ばっかりこんなに覚えて……!!」


 分かっていたし、覚悟をしていたことだ。

 ただ、政宗にとっては……折れた自分を奮い立たせ、ユカが改めて、心から大切な人になった、そんな、人生のターニングポイントになる大切な思い出。

 それを彼女が忘れていることが、悲しくて……悲しくて、しょうがない。



 あれは、今から約10年前、とても寒く――冷え込んだ、バレンタインの日。

 あの研修後、すっかり疎遠になってしまった政宗と統治は……それぞれの場所で、それぞれの日々を過ごしていた。


 研修終盤、3人揃って模擬試験で良い成績を残し、そのご褒美と息抜きにと出かけた先で――ユカが『痕』に襲われ、瀕死の状態になる。

 その原因の1つは、政宗を含む3人の油断だった。


 その場所に『遺痕』はいないと聞いていた。そしてまさか、ユカと同じ年齢くらいの女の子が攻撃をしてくるなんて、思っていなかったのだ。先日ユカが対応した美鳥は『遺痕』だったけれど、一切攻撃性はなかったのだから。


 ――女の子の友達が欲しい、お話がしたい……左右の手に『関係縁』が残る彼女は、政宗にそう言った。

 もしかしたら、友達が出来たら――彼女は自力で消えることが出来るのではないだろうか。

 『縁故』が直接手をくださなくても、彼女は自力で満足して、消えてくれるのではないか。

 過去、彼が学校周辺で『痕』を対象に聞き込みをしていた頃、そんな出来事に遭遇したことがある。『縁』は強制的に切らなければいけないわけではない、相手の状態によっては、自然と切れることもあるのだ。むしろ、そのほうが多い。

 何よりも、儚く微笑む彼女の表情が……ユカに似ている気がして。

 本来であれば一誠や瑠璃子、麻里子に相談と報告をすべきだが、キャンプ場の利用手続きや荷物の搬入などで忙しそうにしているし……キャンプ場という非日常の空間に浮き足立っていたこと、そして何よりも、これまで困難を3人で乗り越えてきたという『過信』が、3人の判断力を、不幸なことに極限まで曇らせてしまった。



 そして、取り返しのつかない悲劇が発生する。



「ケッ……カ……!? 嘘だろ、おい、ケッ……ユカ、ユカ……返事をしてくれよ!! なあユカ!! ユカぁぁぁぁっ!!」



 何も出来ず、ただ、意識を失ったユカの名前を叫ぶことしか出来なかった自分(政宗)

 何度も同じ夢を見ている。そこでは何故か客観的に自分を見ている政宗がいて……彼が見ている政宗は、その表情に、どこか、諦めがあるのだ。



 ――ああ、やっぱり、俺の大切な人は……いなくなってしまうんだ、と。

 死神との『縁』は――切れていなかったんだ、と。



 その後、ユカとは別メニューになり、何とか目標の試験をパスした政宗と統治は……なし崩し的に宮城に戻ってきた。そして夏休みが終わり、学校が始まって、日常が戻ってくる。


 政宗は彰彦が死んだときのように機械的に気持ちを入れ替えて、何とか、日々を過ごしている。

 ユカのことは、情報をあえて入れないようにしていた。深く傷ついた『生命縁』の影響で、命をつなぎとめてはいるものの、今後、予測不能の大きなトラブルに見舞われる可能性が高いらしい。ただし、これも『らしい』という不確かな情報で、具体的に一体何が起こるのか……誰も分からないのが現状だということしか分からない。

 そんな不確定な未来、あってないようなものだ。

 ユカについての詳細は、一誠や瑠璃子が状況をメールで伝えてくれるものの……婉曲な表現ばかりの内容に返信が億劫になり、いつの間にか、開くことさえなくなってしまった。

 ユカの状態が決して良くないことを、本文で感じ取ってしまう……そのことで、結局、自分に嫌気が差すだけなのだから。


 日常をただこなしていた中の1日、2月14日、バレンタインデー。

 その日、学校の最寄り駅から東松島の自宅へ向かう電車に揺られていた政宗は……電車のなかで、電話が長く震えていることに気付いていた。恐らく着信だろう。メールならば短い振動だから。

 普段ならば電車に乗っているからと無視するのだが、その日はなぜか胸騒ぎがした。相手がどうしても気になって……仙石線・本塩釜駅(ほんしおがまえき)で途中下車。ホームの隅っこにあるベンチに腰を下ろし、容赦なく襲ってくる冷たい空気にため息を付きながら、電話の相手を確認する。

「……麻里子さん……?」

 政宗の携帯電話に表示された相手、それは、福岡の麻里子の名前だった。

 彼女から電話がかかってくるのなんか初めてだったので、まさかユカに何かあったのかと、政宗は慌ててリダイヤルをする。

 呼び出し音が1回、2回――応答。


「もしもし、麻里子さ――」

「――政宗?」


 電話の向こうから聞こえた声に、政宗は目を見開いて息を呑んだ。

「ケッ……カ? ケッカか!?」

 電車が発車して誰もいないホーム、冬の済んだ空気に、政宗の声が響く。

 電話の向こうの彼女が、「ひゃっ!?」と驚いた声を出した。

「……そげん大声出さんでも、聞こえとるよ」

「だ、だって……悪い。ケッカ、大丈夫なのか?」

「うん、とりあえずちゃんと生きとるよ。後で証拠写真でも送ろうか?」

「あ、ああ……」

 現実が信じられない政宗に、電話の向こうの彼女がどこか楽しそうに笑う。

「なんねその声、まるで死人と話してるみたいに――」

 こう言われた瞬間、政宗の頭にカッと血がのぼった。

「――本当に心配したんだ!! 俺が……俺と統治が、どれだけっ……!!」

 激高したそこから先は言葉にならない。流石に悪ノリしすぎたことを察したユカが、電話の向こうで声のトーンを下げる。

「……ゴメン、今のはあたしが不謹慎やったね。あたしはちゃんと生きとるよ、安心して」

 その言葉に安心した政宗もまた、声を少し潜めて、電話の通話音量を上げた。

 ちゃんと、しっかり、彼女の声を聞くために。

「どうしたんだ、いきなり電話なんかして……」

「えっと……瑠璃子さんや一誠さんが、政宗のこと、心配しとるけんが。メールも返ってこんし、『縁故』の修行もしてないみたいって……」

「……」

 図星なので何も言えない。確かに、研修から戻ってきてから……『縁故』の修行はしていない。折角獲得した『初級縁故』の学科試験免除の資格が台無しだ。

「……ああ、悪いな、心配かけて」

 こう言いつつ、政宗は修行に戻るつもりはなかった。これ以上『縁故』を続けたって、もう二度と、ユカには会えない。

 あんな目にあって、今も命が脅かされて……それでも続けたいと思うわけがないのだから。

 政宗の言葉に、電話の向こうのユカがため息をつく。

「そりゃあ、あたしにあげなことがあったけんね。少しくらい休んでもいいと思うけど……」

 ユカは一度言葉を切ると、はっきりとこう言った。


「政宗……あたしはここで、『縁故』として生きていくよ」


「ケッカ……?」

「確かにまだ少し……ううん、大分怖いけど、でも、いつまでもこのままじゃダメだって思った。政宗が、繋いでくれたから」

「え……?」

 予想外の言葉に、政宗は震える手で電話を握り、ユカにそっと問いかける。

「俺が、繋いだ……?」

 電話の向こうの彼女は、優しい声で首肯した。

「そう、政宗が、あたしと統治を繋いでくれた。あたし達3人を、誰にも負けないチームにしてくれた。色々あったあの合宿だけど、思い出すと楽しかったって……思わせてくれた。それは、政宗のおかげだって思っとる」

「ケッカ……」

 鼻の奥がツンとした。どうして、いつの間に……彼女はこんなに強くなっていたのだろう。

 自分が引っ張って、支えなければならないと思っていたユカは、もう、どこにもいない。

「ありがとう政宗、あたし、負けないよ。だから……もうちょっと、一緒に頑張って欲しい」

「一緒に……」

「そうだよ、政宗が言ったこと……ちゃんと覚えとる?」


 あの夜、星空の下で話をしたことを思い出す。

 まだ1年も経過していないのに、ひどく昔だったような……そんな、思い出。

「俺達はきっと、これからもずっと一緒なんだろうな」

 あの時は、本当にそう思ったから。だから、自然とこの言葉を口にしていたんだ。


「政宗……あたし、いつか、また3人で何かしたい。働く、っていうのはちょっと難しいかもしれんけど……でも、いつかまた、3人で集まりたい。約束した仙台観光にも行かんとね」

「……そうだな」

「ちゃんと持っとるよ、政宗から貰ったSuica。これ見ながら頑張るけん……だから……」

 電話の向こうの彼女は、どこか声を震わせながら……それでも、政宗にこんなお願いをするのだ。


「だから……政宗は、あたしの前からいなくならんでね。ずっと、ずっと……『関係縁』、繋いどってね」


 震える声が確かに伝える、ユカからの願いごと。

 政宗はつられて震えそうになる声を整え、呼吸を落ち着かせて……しっかりと、言葉を返す。


「……当たり前だろう? 俺達は、ずっと一緒だ」


挿絵(By みてみん)


 電話を切った政宗は、屋根の隙間から見える、灰色の空を見上げた。

 雪が降りそうな、そんな色と容赦のない冷え込み。ずっと夢中で電話をしていたこともあり、体は冷え切っているけど……でも、頬だけは温かい。

「……ユカ……」

 電話の向こうにいた彼女の名前を、久しぶりに本当の響きで呟いた。

 それだけで、涙が再び溢れる。


 声を聞けて嬉しかった。

 でも、傍にいられなくて寂しい。


 君が思ったよりも元気そうで安心した。

 でも、隣にいられなくて――寂しい。



 君の顔を見ることが出来なくて、君の隣にいられなくて……とても、とても、悔しい。



 電話を握りしめる。

 もう、彼女の声は聞こえない。


 分かっていた。

 声だけじゃ足りないこと。

 声を聞いたから、余計に強く思う。

 会いたくて。

 会いたくて。

 彼女(ユカ)に会いたくて……しょうがない。



「ユカ……っ!!」

 冷たい手で強く電話を握りしめて、彼女の名前を呼んだ。でも、何も返ってこない。

 彼女がいるのは福岡、自分がいるのは宮城。

 物理的に遠いのは分かっている。ただ、それでも――今は、会いたいと強く願ってしまう。

 会って、彼女が生きていることを確認したい。研修の時はずっと一緒にいられたのに、今は……遠くて、とても遠くて、途方に暮れるしかないじゃないか。

 結局、1人では何も出来ない、そんな自分が……情けなくて、歯がゆくて、どうしようもない。


 こんなところで、自分は何をしているんだろう。

 自分には一体……彼女のために、何が出来るだろう。


 政宗がそう思った瞬間、画面がメールの着信を告げる。差出人は瑠璃子だった。

 久しぶりにメールを開くと……そこには、肩の下まで髪が伸びて、少し不器用だけど元気そうに笑っているユカの写真が添付されている。

「あ……」

 思わず話しかけそうになった自分に苦笑いしてしまった。落ち着けこれは写真だ、どれだけ話しかけても、何も答えてはくれないけれど。

 でも……。

「生きてるんだよな……ユカは、ちゃんと……生きてるんだ……!!」


 彼女は生きている。

 それだけで、何にも変えられない力が湧いてくる。


 考えろ、佐藤政宗。

 自分に今出来ること、それは――


「……あたしもいつか、宮城で働きたい」

 研修中、3人で布団を並べた夜。ユカがそう言っていたことを思い出す。

「政宗……あたし、いつか、また3人で何かしたい。働く、っていうのはちょっと難しいかもしれんけど……でも、いつかまた、3人で集まりたい。約束した……仙台観光にも行かんとね」

 先程の電話で、彼女は「一緒に働くのは難しい」と言った。

 確かにそうかもしれない。けれど……果たして、100%不可能なことなのだろうか。

 例えば、例えばだけれど……自分の手で何か組織を作って、そこに、彼女を迎えることが出来れば。

 その組織に統治も引き入れて、また、3人で何かを始めることが出来れば。

 絵空事にしか思えない。叶う確証なんかどこにもない。

 でも、それでも……やるしかないんだ。

 3人で一緒にいるためには、自分が率先して前に進んで……2人に追いついてもらわないと。


「――このままじゃダメだよな、ケッカ」

 誰にも届かない独白は、冬の空気に紛れて消える。

 ただ……左手の小指に、ピン、と、何か張ったような感覚があった。

 政宗は視界を切り替えて、左手を見つめる。そして……。


「……ヤバイな、これ。ちゃんと隠蔽しておかないと……」


 左手の小指から伸びる、ユカと繋がる『関係縁』。

 彼の指に近い部分から、しっかり色を変えている。


 赤から紫への変化、それは――政宗がユカのことを特別に思っている、動かぬ証拠。

 表情をコロコロ変える彼女から目が離せなくて、段々強くなっていく姿が誇らしかったし、自分も負けたくないと思った。

 そして、今日――自分を奮い立たせてくれた彼女に心から感謝しているし、同時に、とても愛おしいと思う。

 政宗は自分の左手の小指を見つめ、笑顔で……そっと、思いを口にした。


「……俺は好きだよ、ユカ」


 いつかまた、3人で一緒にいられるように。

 いつかきっと、ユカに感謝とこの気持ちを伝えるために。

 その日のために、生きていこう。


 政宗はこの日、自分の生きる理由を、はっきりと見つけることが出来た。



 その後、政宗は統治と連絡を取り、途中のスーパーでチョコレートを買って、塩釜にある彼の実家を訪ね……色々と、話をした。

「俺は……必ずケッカを助ける。そのためには、統治、お前の力が絶対に必要なんだ」

 彼ははっきりと決意していた。今はただ、前を見て動き続けることを。

 この『関係縁』を繋ぎ続けて、必ず、彼女の願いを叶えると。


 きっと、自分が進む道の先には……ユカがいて、統治がいて、また3人で集まる。

 そう信じて、それだけを信じて、がむしゃらに動き続けてきた。

 そしてようやく、今、その願いが叶ったのに。



 今のユカは、政宗が、統治が――そして何よりもユカ本人が苦労して掴み取った現在を、困難続きだったこの10年間を、何も、覚えていないのだ。



 これは、不幸な偶然が重なったこと。誰も悪くないと皆が口をそろえるだろう。でも、政宗にしてみれば……彼女の体調不良に気づけなかった、あれだけ見ていながら彼女の変化に気付けなかった、自分のせいなのだ。


 巻き込んで、負担を強いて、その責任感の強さに甘えて。

 これだけ辛い思いをさせているのに……彼女を思う気持ちは、強くなるばかり。



 会いたい。

 (政宗)が知っている、いつもの彼女(ユカ)に――会いたい。



 そして、またいつもみたいに、笑いながら言って欲しい。

「ありがと。いつも通り、チャチャっと片付けて戻ってくるけんが……いつも通り仕事しながら待っとってね、心配症の支局長さん」

 いつも通りの――政宗がずっと思い続けている彼女に、戻って欲しい。


「俺は……好きだよ、ユカ」


 震える唇で呟いたあの時と同じ言葉は、誰にも届かず消えていく。

 降り続ける雨の音だけが、規則的に響いていた。

 別名「男同士のバレンタイン事件」。最初のエピソードで統治が少しだけ語っておりますな。

 研修終盤に発生した悲劇に関しては、ユカ視点で語りたいことが多いので……今後改めて掘り下げます。

 ここで政宗の気持ちが完全に固まりました。研修中は気になるけど戸惑いがある→ユカの『生命縁』が傷ついた事件で完全に心が折れる→この電話で自分の本心を思い知らされて強く決意する、という流れです。それで組織まで作っちゃう政宗は本当に凄いと思いますし、ユカのことも本気なんだなぁと霧原は改めて感じました。

 そして、そんな出来事を、目の前のユカが忘れていたら……泣きたくもなるでしょうよ。泣けよ。


 しかーし。

 シリアスはとりあえずここまで。明日以降は改めて現在の時間軸に戻って、本格的にラブコメさせます!!

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