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赤 い 波
作:凪沙 峻





十一月二十三日、北海道上川郡愛別町。
 真っ白い雪に覆われた天塩岳がくっきりと青空に浮き上がっている。南には大雪山系の黒岳、赤岳、北鎮岳が見える。
この町は[きのこの里]として有名だ。自然の物ももちろんあるにはあるが、今はほとんどが養殖のキノコだ。椎茸やシメジ、マイタケなどを養殖していて一年中出回っている。 
 味は天然物にかなわないが、一般の消費者にはハウスの中で栽培された衛生的な養殖物のほうが喜ばれる。今のような真冬でも温度と湿度が管理されたハウスでキノコが栽培されている。
伊達英章は午前中の患者がいなくなった頃を見はからって昼食をとっていた。
田舎の開業医は暇だ。来るのは近所の年寄りばかりで、それもたいていが風邪や神経痛の薬をもらいにくるだけだ。
 だが伊達の専門は内科ではなく整形外科だ。それでも風邪の患者がやってくる。整形外科医院には風邪薬は置いていない。風邪薬は妻が北海道医大時代の友人に頼んで毎週宅急便で送ってもらっている。
整形外科の医院に毎朝早くから年寄りが押しかけて待合室を老人ホーム代わりにするのには理由がある。原因は妻の奈美子だ。
 奈美子は休業日以外は毎朝七時に鍵をあけて暖房を入れる。七時半には押し寄せてくる年寄りたちのために三本のポットにお茶を用意する。お茶だけではない、お菓子もだ。
 開業したのは七年前だが、開業のときから奈美子はその調子だった。
「たくさん人がいれば、にぎやかでいいじゃないの」
それが奈美子の言い草だった。だから待合室が朝から年寄りでいっぱいになる。
もっとも、切傷や骨折などはそうたくさんいるわけではないから医院も暇には違いない。 患者は多いときでも一日に五人か六人がせいぜいだ。ただ冬になるにしたがって患者は増える。スキーやスケートの事故もあるし、冬道で転倒する人や車のスリップ事故などの交通事故が増えるからだ。
医者としての腕は良い。二十年間北海道医大で勤務して故郷の愛別町で開業した。北海道医大では整形外科の副部長にまでなったが、惜しまれて退職した。
妻の奈美子は、彼女が北海道医大で内科の看護師をしていたときに知り合った。子供は美子という女の子が一人だ。来年は幼稚園だが、通わせるかどうかはまだ決めていない。 ひと通りのことは妻の奈美子が教えているし、美子が幼稚園にいって昼まで帰らないとなれば、待合室でたむろしている年寄りたちも寂しがるだろう。
 伊達が四十二才の時にできた娘のせいか可愛さもひとしおだ。
今も美子は待合室で年寄りたちを相手にままごとをして遊んでいる。年寄りたちの風邪が移ったら困るから、美子にはインフルエンザの五種混合ワクチンを接種してあった。
「あなた、お客さまよ。東京からいらしたって…」
奈美子が昼食をしている伊達に言った。
「東京?。患者さんかい?」
伊達はサラダを食べている手を休めて奈美子を振り返った。
「ええ。でも、どこも悪そうには見えないけど…」   奈美子は首をかしげている。
「はいるぞ」
居間の入り口に立っていた奈美子をおしのけるように一人の男が入ってきた。年令は伊達と同じくらいで長身の男だった。
「ここは診察室ではありません。待合室でお待ちください」
奈美子が男に言った。
「伊達英章だな。おれは東京からきた鷲武というものだ。おまえに聞きたいことがある」
鷲武と名乗った男は奈美子の言葉には答えず、上着の内ポケットから黒い皮表紙の身分証を出して立ち上がった伊達に放り投げた。立った伊達も一八五センチを越える長身だ。
受け取った身分証を開くと、警視庁刑事局次長 鷲武秀介と印刷されていた。写真も間違いなく本人のものらしい。階級は警視長だ。
 伊達は身分を確認して身分証を鷲武に返した。
「患者じゃないのなら帰ってくれないか。わたしは警察に取り調べを受けるようなことはしていない」
伊達はそう言って、また食卓の椅子に座った。
「おまえにはその覚えがないかもしれんがこっちにはあるんだ。さっさと食事をすませろ。おれはここで待たせてもらう」
鷲武は食事をしている伊達の後ろを通って居間のソファーに腰をおろした。
「つかぬ事を聞くが、ここの家は禁煙か?」
鷲武は煙草を取り出した。
「乱暴な警察官だな。奈美子、お茶でも出してやってくれ。わたしも煙草は吸うほうだ。灰皿ならそこにある」
伊達は笑いながら奈美子に言った。
「ええ…、でも…」
突然入ってきた警察官と名乗る無遠慮な男を、奈美子は心配そうな表情で見つめている。
「おれか?。おれなら本物の警官だ。もっとも、一時は馘になりかけたこともあったがな。あんたの旦那に見せたバッチも本物だから安心しろ」
鷲武と名乗った男は奈美子にそう言って煙草に火を付けた。


「それで、わたしに聞きたいこととは何だ」
昼食を終えた伊達は、鷲武と向かい合って腰をおろした。
「十月十一日から十二日にかけて、どこで何をしていたか答えろ」
鷲武は正面に座っている伊達を睨んで言った。
「……。一ヶ月いじょうも前の事はいちいち覚えていない。例え思い出したとしても警察に取り調べを受けるような覚えはない。第一あんたは一方的で乱暴すぎる。そういう人間は気にくわん」
伊達は自分も煙草に火を付けて鷲武を睨んだ。
「伊達、煙草を消して、そこの庭に出ろ」
鷲武が立ち上がった。
「庭に出てどうするのだ」
「おまえを痛めつけてでも、十月十一日と十二日に何をしていたかを聞き出す」
「そういうことか…」
「庭へ出ろ」
鷲武はそう言うと、縁側のガラス戸を開けて雪が積もっている庭に出た。
「奈美子、美子をここに入れるんじゃないぞ」   伊達も白衣とスリッパを脱いで縁側から庭に出て鷲武と向かい合った。
「あなた…」
奈美子が縁側に駆け寄ろうとしたのを伊達は手で制した。
いきなり鷲武の右足が伊達の顔をめがけて飛んできた。素晴らしい速さの回し蹴りだ。その回し蹴りを紙一重でよけた伊達の右ストレートがうなりを上げて鷲武の右頬に飛んだ。鷲武は自分の頬にすれすれに襲った伊達の右腕をつかみ柔道の一本背負いで投げた。
 鷲武の一本背負いに体を空に浮かせながら、伊達の右足の蹴りが鷲武の左鎖骨をとらえた。鷲武の鎖骨が折れたのを伊達は自分の足で感じた。だが、伊達も雪の上に激しく叩きつけられた。素早く起き上がろうとした伊達の顔面に鷲武の左足が飛ぶ。その足をギリギリで避けながら、転がった伊達の左足が鷲武の右足を払った。鷲武も雪の上に背中から叩きつけられた。
こいつはただの町医者じゃない。
 初めて会った伊達という男と対峙しながら鷲武はそう思った。
 鷲武は今まで喧嘩をして負けたことはなかった。ただの喧嘩じゃない。刃物を持った凶悪犯や、喧嘩慣れしたヤクザを相手に何度も修羅場をくぐってきた。警察官の柔道大会や空手大会でも負けたことはなかった。
 警視庁刑事局の刑事は、あらゆる格闘技の有段者たちばかりだ。そうでなければ刑事局の刑事はつとまらない。だがこいつは違う。
激痛が鷲武の神経を駆け抜けた。鎖骨を折られた左手はもう使えなかった。残った両足と右手で戦うしかない。激痛と痺れが鷲武の左腕を襲っていた。額に脂汗が流れた。
「もうよせ!」
伊達が言った。
「なに!」
鷲武が怒鳴った。
「もうよせと言ってるんだ」
「きさま…」
「鎖骨が折れている。治療しないと折れた骨が肩の神経に刺さるぞ!」
伊達は苦痛に歪んでいる鷲武の顔を見ながら叫んだ。
「だまれ!。まだおれは立っている。かかってこい!」
鷲武はそう言って一歩踏み出した。
「わかった。あんたの質問に答える。だから、もうよせ。手遅れになるぞ。おい、奈美子やめろ!」
伊達が叫んだときは、すでに雪の上に鷲武が倒れた後だった。
 鷲武の後ろには大きなフライパンを握った奈美子が立っていた。伊達は、うつぶせに倒れている鷲武とフライパンを握っている妻の奈美子を見比べて大きなため息をついた。


「目が醒めたか?」
そう言ったのは伊達英章だった。鷲武秀介は診察室のベッドに寝かされていた。頭が異様に重い感じがする。
「きさま…」
鷲武は重い頭を左右に振ってベッドから起き上がろうとした。
「無理に起き上がるな。まだ麻酔が効いている。ちょっと目を見せてくれ」
伊達がペンライトで鷲武の両目を診察した。まだ瞳孔の反応が鈍い。完全に麻酔から醒めるにはまだ二時間ほど必要だった。
「黙って横になっていないと、またフライパンで叩くから」
白衣を着た伊達奈美子が鷲武の顔を覗き込んで言った。
 小さな女の子が椅子に座って鷲武を見ている。診察室を四・五人の年寄りが心配そうに覗き込んでいた。
 鷲武は、縁側で伊達とやりあっていたとき、突然後頭部に衝撃を感じてそのまま気を失ったことを思い出した。
「クソッタレ…」
小さな声で毒づいて、鷲武はまた眠りに落ちた。

鷲武は情けないおもいで自分の左腕を見つめていた。左の上半身は頑丈な石膏のギブスで固められている。夕方五時を過ぎていた。待合室を占領していた年寄りたちも家に帰ったあとだ。
「伊達、きさまはいったい何者だ。格闘技をどこで覚えた」
鷲武はギブスの点検をしている伊達に聞いた。
「わたしはただの町医者で、格闘技は柔道、空手、剣道を高校時代からやっていた。空手と剣道は平成十九年から二十一年まで全日本選手権で三年連続優勝したが、柔道は残念ながら優勝はした事はない。毎年異様に強い警察官に投げ飛ばされて二位が最高の成績だった。相手はあんたに似ていたような気がする。これで質問の答えになったか」
伊達は笑いながら、固まった石膏ギブスの余計な部分を医療用の電動カッターで器用に切っている。
「クソッタレめ…」
鷲武は低い声でつぶやいて伊達を睨んだ。
 格闘技の大会ではたいていが警察官が上位に入賞するが、確かに数年間は空手と剣道で民間人に手玉にとられたことがあった。こいつはそのときの相手だったのか。鷲武はすでに消えかかっていた記憶をよみがえらせた。
「下品な言葉がお好きなようだけど、この子の前では遠慮してほしいわ」
伊達奈美子は包帯の用意をしながら鷲武を見つめた。
「ママ、このおじちゃんは下品なの?」
診察室の椅子に座っていた美子がそう言って母親を見上げた。
「そうじゃないわ。とっても優しいおじちゃんだけど、美子が見てるから恥ずかしいのよきっと…」
奈美子は笑いながら鷲武のギブスの上から包帯を巻きはじめた。伊達は黙って美子の頭を撫でながら鷲武を見つめていた。
「さて、それじゃ夕食にするか。あんたも食べるといい。昼間の質問にも答えなけりゃならんしな」
伊達は立ち上がって食堂に入った。
「おじちゃん、いっしょにいこ」
美子が診察ベッドに腰掛けている鷲武の右手をとって、引っ張るように食堂に入っていった。奈美子は消毒液で手を洗いながらその姿を見送った。


「ウィスキーかブランデーが良ければ言ってくれ」
夕食のあと、伊達と鷲武はソファーに座ってコーヒーを飲んでいた。
「ああ、ブランデーの水割りがいい。濃いめのやつをたのむ」
鷲武はそう言ってコーヒーを一気に飲み干した。
美子が鷲武の膝に乗っかっている。ミルクと砂糖が交ざったような子供の匂いを鷲武は嗅いだ。結婚したこともなければ子供も育てたことのない鷲武には、なぜか幼い美子の匂いが新鮮に感じられた。
「どうぞ。でも術後間もないから、くれぐれも飲みすぎないことね」
奈美子がブランデーの水割りを鷲武と伊達の前に置いた。
「おじちゃん、お酒すき?」
美子はテーブルに置かれた水割りのグラスと鷲武を見比べて聞いた。自分の首から下がっている錦織のお守り袋を大事そうに握っている。
「うん、まあな」
鷲武は美子に笑いかけて水割りを飲んだ。膝に乗っている美子を見つめる鷲武の目は、ここにきた時と違って優しい光だった。
「きれいな袋だな…」
鷲武は美子が握っている袋を見つめた。
「よしこのお守りなの」
美子はうれしそうに言って鷲武を見上げた。握る袋の中で金属同士があたる音がした。
「子供に好かれるタイプのようだな」
伊達は美子に笑顔を見せた鷲武に言った。     「なぜか、年寄りにも好かれる…」
「そうか…」
「まあ、それはこっちの話だが…」
鷲武は美子に笑いかけながらつぶやいた。
「ところで…」
鷲武が顔を上げた。
「世話になっていてすまんのだが、例のことを聞きたい」
鷲武が水割りを飲み干して伊達を見つめた。
「美子、ママのところへいっていなさい。パパはこのおじちゃんと大事なお話がある」
そう言った伊達は、鷲武の膝に乗っかっている美子を抱き上げて食堂に連れていった。奈美子が美子をつれて寝室へ入った。
「聞きたいのは、十月十一日と十二日のアリバイか」
座りなおした伊達が煙草に火を付けた。
「そうだ」
「十一日と十二日は、岩手県で開かれた学会に出席していた」
伊達は新しい水割りを作りながら答えた。     「岩手県のどこにいた?」
「上飯岡という町だ」
伊達は、どこをどうやって鷲武がここを知ったかはわからないが、身分証にあったとおり警視庁刑事局から来た人間だとすれば、ただのアリバイ調べではないように思った。
 鷲武の階級は警視長だ。警視長といえば県警本部長か方面本部長クラスの階級で、北海道警察本部長でも警視監だ。警察ではそうとう上の階級の人間が伊達の目の前に座っている。
「東北自動車道の、盛岡インターを過ぎたあたりで車両事故があった。知らんかもしれんが…」
伊達を見つめる鷲武の目が鋭かった。
「…………」
「ある理由があって、十一日と十二日に上飯岡にいた人間を全部調査した。上飯岡町民センターで東北・北海道外科医師学会があったのは、こちらの調べでも判明した。その中で北海道の上川管内から出席したのはおまえだけだった」
「全員を調べたのか?」
伊達は少し驚いて鷲武を見つめた。
上飯岡だけでも数千人もの住民がいるはずだ。そして学会に出席した医師も二百人だ。その全部を調べたと鷲武は事もなげに言った。
「そうだ。正確に言えば一万一千十三人だが…」
伊達と鷲武の前に奈美子が新しい水割りを置いて、また寝室に入った。
「何のために…」
「それは言えん。捜査上の秘密だ」
「そうか…。それで、何を知りたい?」
伊達が煙草を灰皿でもみ消した。
「何かを見なかったか、それとも何かを拾わなかったか」
「何かじゃわからん。いったい何なんだ?」
「それも言えん…」
「おい…」
伊達が顔をしかめて鷲武を見つめた。
「いいかげんにしろ。何か、何かじゃ答えようがないだろう。その辺に落ちているゴミや空缶を拾っても、いちいちあんたに言わなきゃならんのか」
伊達は両手を広げて鷲武に言った。
「そうだ。ゴミや空缶でもだ」
そう言った鷲武の真剣な顔に、伊達は大きくため息をついた。
伊達は頭のなかで、美子がお守りにしている三個の金属球と、その袋が前足に絡み付いていた犬のことを思い出した。
 その犬は今は伊達の家に飼われている。純血種の紀州犬だった。放し飼いにしてあるがどこへも行こうとはしない。美子の遊び相手だ。めったに吠えることのない犬だった。美子はその犬にビリーという名前を付けた。
「犬を拾った…」
伊達は鷲武をじっと見つめながら言った。     「犬だと?」
「ああ、表にいただろう。あの犬だ」
「その犬はどこから来た?」
鷲武は右手で煙草をくわえた。
「知らん。そうとう汚れていたから野良犬だったのだろう。娘がどうしても連れて帰ると言い出した」
「拾ったのはそれだけか?」
鷲武は煙草の煙を吐き出して伊達を見た。     「あとは、その犬の…」
「まて!」
伊達がビリーの足に絡み付いていた袋と中の三個の球体のことを言おうとしたとき、鷲武が右手で伊達を制した。
「おい、女房と娘のところへ行け。早くだ!」
いきなり鷲武が立ち上がった。右手で腰に付けていた拳銃を素早く抜いた。
「どうした」
「黙って言うとおりにしろ!」
鷲武の表情を見て伊達は奈美子と美子がいる寝室へ駆け込んだ。すぐあとから鷲武が飛び込んできた。
「ベッドを立てろ!」
鷲武が小さな声で伊達に言い、寝室の電灯を消した。
「声を出すな」
「何なんだ!」
伊達は奈美子と美子に覆いかぶさるようにしながら暗闇の中で鷲武に聞いた。
「パパ…」
美子が小さな声で伊達に抱きついている。
「ちょっとかくれんぼだ、静かにしていような」
鷲武が美子の頭を撫でながら言った。
「おじちゃんも隠れてるの?」
「そうだ。いい子だから、静かにな」
「うん、おじちゃんもね」
美子が伊達に抱きついたまま小さな声で笑った。
鷲武の神経が四・五人の人の気配をとらえていた。殺気がみなぎっている。
 伊達もただならぬ気配を感じていた。犬の唸る声を伊達は聞いた。ビリーの声だ。よほどのことがないかぎり吠えたり唸ったりしたことのないビリーが激しく怒りを表している。
「ここにいろ!」
伊達にそう言って鷲武がベッドの陰から飛び出した。寝室のドアを開けた鷲武は拳銃を構えたまま素早く居間に出て寝室のドアを閉めた。
真っ暗な居間の中に男が二人飛び込んできた。二人とも散弾銃を持っている。
 鷲武は拳銃の狙いを付けると同時に二発撃った。二人の男は鷲武が撃った拳銃で額の真ん中を撃ちぬかれて後ろへふっ飛んだ。
 鷲武は居間から玄関のほうに走った。玄関で犬が唸っている。玄関には犬に喉を食い千切られた二人の男が転がっていた。鷲武は犬の頭をなでながら靴棚の上にあったレースの花瓶敷きで犬の口についた血を拭った。
「電灯は付けるな。大事な物だけを持って一緒に来い」
鷲武は寝室に入ってベッドの陰にいる伊達にいった。
「どうしたんだ!」
伊達が聞いた。
「説明はあとだ。おまえたちは狙われている。ここにいては危険だ。殺されたくなかったらさっさと用意をしろ。医者はしばらく休業だ」
鷲武が低く響く声で言った。
「わかった。娘を頼む」
伊達は暗闇のなかで美子を抱き上げて鷲武に渡した。鷲武に抱かれた美子は、しっかりと両手を鷲武の首に巻き付けた。













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