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赤 い 波
作:凪沙 峻



23


[おおとり]は、粟島の北端の鳥崎岬灯台の駐車場に着陸した。真冬の今は観光客の姿もなく冷たい北風が吹き抜けている。
着陸する前に[おおとり]は島を一周した。地形を頭に入れておくためだった。
 大神や池月がこの島のどこにいるのかはわからないが、島の南端に、この風景にはそぐわないような、黒く塗られた建物があったのを確認している。鷲武はその建物に目をつけていた。
「この島で一番大きな町は岩船だ。町を流していれば必ず襲うか尾行がつく。そいつを捕まえて大神たちを叩きつぶす」
鷲武が言った。
「一時間以内に、奴らがおれ達を襲ってくれるといいんだが…」
伊達はそう言って鷲武と国分を見た。
「このさい、時間は気にするな。たしかに奴らが切った期限まであと一時間だが、奴らはおれたちがこの島に着陸したのを知っている。第二の罰とやらを実行に移すことも大事だろうが、おれたちの存在を消すことこそ最優先なはずだ。おれたちが上陸したことで、奴らのケツに火が付いたのだ。第二の罰どころではない。下手をすれば自分たちが殺されるのだ。おそらく第二の罰は、おれたちを殺すまでは実行には移さないだろう」
鷲武は歩きながらそう言った。
「[おおとり]はどうしましょう…」
国分が鷲武に聞いた。
「ほうっておけ」
鷲武が[おおとり]を振り向いて言った。
「でも…」
「国分」
伊達が国分の肩を叩いた。
「はい…」
「地球の半分がふっ飛べば、[おおとり]には二度と乗ることはないだろう。ここが最後の戦いになるかもしれん。[おおとり]に対するおまえの気持ちはわかる。分身のようなものだからな。だが、今は大神と池月を叩きつぶすのが最大の任務だ。しっかりしろ、国分らしくないぞ」
伊達は笑いながら国分を見つめた。
国分の[おおとり]に対する気持ちは伊達にはよく分かる。[おおとり]があればこその国分の存在だった。
 岩手県警の[おおとり]は日本海に沈んだ。国分にしてみれば自分の分身が沈んだのと同じ気持ちだろう。そして第二の[おおとり]は自衛隊から借り受けたものだが、そのヘリにも国分は[おおとり]と名前を付けた。
 [おおとり]という名前は、国分と警視庁刑事局、いや伊達と鷲武と自身をつなぎ止めてくれる唯一の糸だと思っているのかもしれない。
「国分…」
鷲武が歩きながら言った。
「はい」
「局のデカになって後悔しているか」
鷲武は歩き続けたまま言った。
「後悔なんてしていません。とても誇りに思っています。ただ…」
国分は鷲武と伊達の後ろを歩きながら、そう言って言葉を切った。
「おまえの[おおとり]に対する気持ちは、おれにもわからんじゃない。おまえは初めの頃からみるとヘリの操縦はうまくなった。正直なところ、まさかヘリで宙返りなどとふざけた真似をするとは思わなかったがな。それだけ、おまえのヘリに対する思い入れが深いのも理解できるつもりだ。だが、おまえの任務はなにかをよく考えてみろ。おまえの任務はなんだ」
 鷲武はそう言いながら立ち止まって煙草に火を付けた。風が細い音で啼いている。
「天神の会を殲滅して、[あかしお]の制御ボックスを取り戻すことです。そして日本国民の命を守ることです」
国分が答えた。
「そういうことだ。その任務はおれも伊達も同じだ」
鷲武が煙草の煙を吐いた。
「おれは、伊達とおまえをみこんで刑事にした。伊達やおまえをみるおれの目には狂いはない。おまえがこれからも刑事局の刑事として生きてゆく覚悟があるのなら、感傷というものは捨てなければならん。場合によっては、任務のために命を捨てることもある。いまは[おおとり]のことを忘れるときだ。たとえ、おれや伊達が天神の会に殺されておまえがひとりになっても、おまえは刑事局の刑事として天神の会を潰さなければならんのだ。わかるか」
鷲武は国分を諭すように言った。
「はい…」
国分は小さな声で言った。
「鷲武…」
伊達が真剣な表情で鷲武をみた。
「なんだ」
「この調子では、国分はここへ残した方がいいようだぞ。闘争心が消えてしまっている」
 伊達が言った。
「そのようだな…」
伊達の言葉に、鷲武は腕を組んで国分を見つめた。
「ちょっと待ってください!。わたしを置いてゆくつもりですか!」
国分があわてて大声をだした。
「あたりまえだ。闘争心の無くなった婦警などには用はない。ここで[おおとり]のお守りでもしてろ!」
鷲武が吐き捨てるように言った。
「だれが闘争心を無くしたと言いましたか!。勝手な判断をしないでください。残るのなら両警視長が残ってください。わたしは一人でも行きますから!」
国分はふくれっ面をして島の南へ通じる道を歩きだした。
 夕日に足の長い国分の後ろ姿が浮かび上がった。鷲武と伊達は立ち止まったままその姿を見ていた。その国分が振り返った。
「お二人とも、行くんですか行かないんですか。はっきりしたらどうなんです!」
国分は鷲武と伊達に大声で言った。
「おい、怒ったのかおまえ…」
鷲武がそう言って伊達と歩きだした。
「怒ってなんかいません。お二人の態度がはっきりしないからです!」
そう言って国分はまた歩き始めた。
「ちょっとからかいすぎたか?」
鷲武が小声で伊達に聞いた。
「さあな…」
伊達が前を歩く国分の姿を見ながら笑った。
「まさか、あいつ。ひょっとしてあの日か?」
 鷲武がまた小声でつぶやいた。真剣な目で伊達を見た。
「いいかげんにしろ。これ以上国分を怒らせると、おれやあんたじゃ手におえなくなるぞ」
 伊達は煙草をくわえて笑った。


三人の行く手に岩船の町並みが見えてきた。粟島の北端にある鳥崎から歩いて二十分ほどのところだった。左に日本海と本州の山並みが見えている。
 岩船は粟島で一番大きな群落だ。百人ほどの人々が住んでいて、そのほとんどは漁民だ。 鷲武と伊達の間に国分を挟むようにして岩船の繁華街を歩いていった。繁華街といっても、港を中心とした道路の左右に、二軒ほどの雑貨屋と、小さなガソリンスタンド、民家が十五軒ほどあるだけだ。
 道路から見える港には漁船が十隻ほど停泊していて、通りには何人かの人が歩いている。いずれも漁民だろうと国分は思った。
 必要物資などを島へ運ぶ定期船らしい船から、船員らしい男がダンボールや発泡スチロールに入れられた荷物を卸していた。着いたばかりらしい。
 三人の姿を行き交う人たちが珍しそうに見ていた。
国分は全身の神経を張り巡らせていた。鷲武や伊達も同じだろう。行き交う人たちや、店の中、スタンドにいる人間の一人一人を鋭く観察しているに違いない。
三人は、のれんが下がっている大衆食堂へ入った。粗末な木の椅子に腰をおろしてソバを注文した。店の中には六十才を過ぎたと思われる女主人が一人いるだけだった。
「都会のお人だね」
女主人が三人に声をかけた。
「わかりますか?」
国分が明るい表情で女主人にいった。
「そりゃあわかるだよ。島にはそんなハイカラな格好をしている人はいねえもの」
女主人は三本ほど歯が抜けたままの口をあけて笑った。
「都会の人たちは、この島にたくさん来るんですか?」
国分は女主人がカウンターにのせたコップの水を手に取りながら聞いた。
「たくさんはこねえだ。夏ならともかく、いまみたいな真冬に来たって、観光なんてこの島にはねえし、魚が新鮮だということくれえだしな…」
女主人は笑いながら言った。国分はできるだけ自然に女主人に接した。会話の中から何かをつかむのは鷲武と伊達に任せた。
「しかしまあ、若くてめんこいおなごと男の人が、何だってこんなへんぴな島にきたのかね?」
女主人はカウンターの中から珍しそうに見ている。
 鷲武と伊達は、島の景色がどうだとか、網であがる魚はさぞうまいだろうとか、そんな会話をしながら国分と女主人の話を聞いていた。女主人に警戒されないように時には笑い声をあげた。
「わたしの兄と従兄なんです。村上まで用があってきたんだけど、この島に渡るフェリーがあるって聞いたから、寒いけどちょっと行ってみようってなったんです。夕方の船で帰るつもりですけど」
国分はカウンターの椅子に座ったまま女主人にそう説明した。
「そうかね、また物好きな…。ほい、できただよ」
女主人は、国分の言葉に笑いながらカウンターの上に出来上がったソバをのせた。国分が鷲武と伊達のところにソバの丼を運んだ。国分は小声で、毒などを入れた形跡のないことを二人に告げた。
「でも、そんなに都会の人が渡ってこないんですか?。きれいな景色なのに…」
国分はソバを食べながら女主人を振り向いた。鷲武と伊達が何かをつかんだかどうかはわからない。鷲武と伊達はうまそうにソバを食べている。
「夏はけっこう来るだども、冬はあまり見かけねえだね…」
女主人は首を振ってそう言った。
「んだども…」
女主人は何かを思い出したように顔をあげた。
「二ヶ月くれえ前になるだが、釜谷に大きな船が入って、立派なビルができたって噂は聞いたことがあるだよ」
「釜谷?」
国分が顔をあげた。
「んだ、島の南側にある入江だ」
「ヘエー、ビルが?…」
国分はそう言って笑った。
「おらは見たことはねえだどもな…」
女主人は歯の抜けた口をあけて笑った。


ソバを食べおわった三人は大衆食堂を出た。
「ついたぞ」
鷲武が小声でそう言ったのは食堂を出て間もなくだった。尾行者が現れたことは伊達も気が付いていた。
「四・五人はいるな…」
伊達がつぶやいた。国分も背中に尾行者の気配を感じ取っていた。
「どうする?」
伊達は鷲武に聞いた。
「襲ってきたら殺るだけだ。そうでないのなら放っておけ」
 鷲武は小声で言った。
 民間人が見ている前では、相手も手は出さないはずだと鷲武は判断した。ここまで来たからにはあわてる必要もない。ヘリで島に着陸したのは警察だと天神の会も知っている。当然見張りがつくのは承知しているが、隠れるつもりはない。
伊達は腕時計を見た。時計の針は昼の十二時三十四分を差していた。
 池月英津子が予告した第二の神の罰の期限は三十分ほど過ぎていた。果たして第二の罰は実行されたのだろうか。もしも実行されたとすれば、香港を消滅させたのと同様か、あるいはそれ以上の規模の爆弾がどこかの国か町を消滅させたことになる。
鷲武は、自分たちが島に上陸したことがわかれば、天神の会は第二の罰を実行しないだろうといった。鷲武の言うとおりならばいいが、と伊達は思った。
民家が無くなった。一面に海が広がっている。まだ舗装されていない道路が小高い丘のむこうに延びていた。道路の両側には雪が積もっている。
三人は背中に殺気を感じながら歩いていた。大衆食堂を出てからかなりの時間がたっている。民家もとうになくなり、三人の行く手には丘陵と海が広がっているだけだが、三人を尾行している天神の会の手と思われる人間は、いっこうに襲ってくる気配はなかった。
 面倒だからこちらから手を出すつもりはない。
 天神の会は御母衣村の伊達奈美子と美子の親子を襲ったとき、刑事局の刑事には手痛い目にあっている。三十人もの殺し屋が全滅させられたのだ。その刑事たちの中には、鷲武、伊達、国分の三人がいたことを天神の会は知っているはずだ。うっかり手を出せばただでは済まないことを相手も知っている。
「どうやら襲ってくる様子はないようだな」
伊達が言った。
「そのようだ」
鷲武はそう言いながら煙草をくわえた。
「怒らせると恐ろしい婦警もいるしな…」
火を付けた煙草を吸いながら鷲武が笑った。
「お二人とも、なぜわたしだけを酒の肴にするんですか?」
真ん中を歩いている国分が鷲武と伊達を交互に見上げた。
「おまえが来るまで、刑事局というところは野郎ばかりの世界だった。刑事局創設以来の女刑事だ。多少はからかってみたくもなる」
鷲武は前を見たまま言った。
「それとも、セクハラを受けたと高柳に訴えるか」と鷲武が笑った。
「局長のお小言を、素直に聞くような鷲武警視長じゃないでしょう?」
国分も笑った。
「まあな…」
鷲武は短くなって捨てた煙草を歩きながら靴で消した。
「黙って上司の言うことを聞くような人間だったら、あんたはとっくに警視総監になっているさ」
伊達は鷲武の横顔を見ながら笑った。
「ふん、ぬかせ」
鷲武も笑って毒づいた。
「人間には、それぞれに向き不向きというものがある。官公庁の人事などというのはいいかげんなものだ。それは警察も例外ではないが、いいかげんな人事でも、人間を見る目は少しはある。薗村が警視総監なのも高柳が刑事局長なのもそうだ。あいつらはそれ相応な人間だとおれは思っている。だいいち考えてもみろ。薗村や高柳に現場の捜査官がつとまると思うか」
鷲武はまた煙草を取り出した。
「無理かもしれんな…」
伊達は高柳と薗村の顔を思い浮べながら答えた。
「無理だ。あいつらは管理職には向いているが現場には不向きだ。反対に、おまえはともかくとして、おれはホシを追い詰めて逮捕することはできても、人間の管理はできん」
鷲武は苦笑しながら言った。その通りだと伊達も思った。
「おれも管理職はつとまらん。国分はともかく、へたにあんたの上司にでもなってみろ。もめ事ばかり起こされて、おれの胃は一日ももたん」
 伊達はそう言って笑った。
「ふん」
鷲武は伊達の言葉に鼻で笑った。
高柳も薗村も、刑事局長と警視総監という立場にいるから管理職としての能力が発揮できるのかもしれない。どう考えても鷲武が局長や総監というのはイメージが合わない。鷲武が管理職になったとしたら、おそらく三日ももたないだろう。気が狂って一日中誰かを怒鳴りちらしているに違いない。
 鷲武が管理職となり、一日中机に向かっている姿を想像しただけで伊達は笑いだしそうになった。
「何がおかしい」
鷲武は伊達を睨んだ。
「あんたが警視総監になった姿を想像してみたのだ」
「エエッ!、鷲武警視長が総監に?。うそでしょう」
国分は大声で叫んで鷲武をみた。そして立ち止まって笑いだした。
「きさま!。本当に叩き殺されんとわからんようだな」
鷲武が前を見たまま言った。そう怒った鷲武の目も笑っている。
「伊達警視長、変な想像しないでください。万が一にでも鷲武警視長が総監になったら、日本の治安はどうなるんですか?」
国分はとうとう腹を押さえて笑いだした。
「国分、おまえも叩き殺されんとわからんのか!」
「だって…」
にらむ鷲武を見上げて国分はまた笑いだした。
「くだらん想像などしやがって。勝手に笑ってろ、クソッタレめ!」
鷲武はそう毒づくと足元の石ころを蹴飛ばした。
「おい、見えてきたぞ」
笑っている伊達と国分に鷲武が言った。
曲がりくねった道路のむこうに、黒く塗られた建物が見えてきた。
 三人は建物が見える場所で立ち止まった。建物は三階建てだった。全体は黒く塗られて各階に小さな窓が三つ付いているだけだ。屋上に直径三メートルほどのパラボラアンテナがふたつ付いていて、それぞれ違う方向に向けられていた。鷲武が推測した人工衛星の電波を傍受するためのアンテナかもしれない。
三人が立っている場所から建物までの距離は約二百メートル。小高い場所なので三人からは多少見下げる格好になる。建物をはさんで反対側は海になっている。海を囲った自然の岩で入江になっていて、その入江には大型クルーザーが一隻停泊していた。
「どうする?」
伊達が鷲武に聞いた。
「あれが奴らの隠れ家なら、黙っていても攻撃をしかけてくる。それを見てから方法を考えるしかあるまい。無線機のスイッチを入れておけ」
鷲武は二人に言った。伊達と国分はマイクが付いたヘッドレシーバーをかけた。ポケットには小型無線機の本体が入っている。
「弾はどのくらいある」
「五弾倉の七十発というところだ。国分は?」
 伊達が国分に聞いた。
「七弾倉ですから、予備は四十九発でプラス八発です」
国分は上着の裾をまくった。右脇のベルトに差し込まれた弾倉が七つ並んでいた。
「いまから前進する。斜面をおりていくいじょう、おれたちの姿は奴らから丸見えだと思え。したがって奴らのほうが絶対に有利だ。覚悟だけはしておけ」
鷲武が言った。
「国分、こういう場面になって、おれはおまえを刑事にしたことを多少後悔している」
鷲武がそう言って国分を見た。
「そんな言い方はやめてください。わたし自身は、ここまで来たことをみじんも後悔なんかしてません。それに、[あかしお]の核が爆発すれば、死ぬことには変わりはないのでしょう?」
国分は長身の鷲武と伊達を見上げた。
自分を刑事にしたことを、鷲武は後悔しているといった。それは自分が女だからだ。もしも自分が男だったら鷲武はそんなことを言わなかったはずだ。
「国分、おまえの優秀さを鷲武は認めていないわけじゃない。刑事局のほかの刑事と比べても、おまえは群を抜く優秀な刑事になったが、たとえおまえが男でも、やはり鷲武は上司として心配するはずだ」
伊達は国分に言った。伊達の言葉に国分が少し笑ったようだった。
「わたしは刑事局の刑事になったことを誇りに思っています。両警視長にお会いして、わたしのなかに埋もれていた別のわたしが顔を出したような気がします。県警本部で伊達警視長とお会いし、[おおとり]で青森、弘前とご一緒しました。そして横須賀で鷲武警視長とお会いして、何が何だかわからないうちに刑事局の刑事になっていました。成田でのことや御母衣村でのことなど、色々なことがあって、とうとうここまで来ました。この場になって両警視長はなぜか柄にもなく感傷的になっています。男や女とは関係ないと伊達警視長はおっしゃいましたが、やはりわたしが女だから気にしてくださっているのでしょう?。尊敬するお二人から一応は女と見ていただけてうれしいです」
国分はそう言って鷲武と伊達を見つめた。
「でも、もうわたしは一人の刑事です。何かがあったときは、上司の両警視長が骨を拾ってくださるとわたしは信じています」
国分はそう言った。
「この事件が、自分の命を賭けるだけの価値があると納得させてほしいと、わたしは総理に言いました。そしてわたしは、自分の命を賭けるだけの価値があると納得しています。ですから、わたしに対する気遣いはしないでください。人のことを心配していると、ご自分が怪我をしますよ」
国分は目を輝かせながら言った。
「………」
鷲武も伊達も黙って国分を見つめていた。
「それとも、[おおとり]で本庁へ逃げ帰りましょうか?」
国分は笑った。
「よし。国分、おまえの骨は、おれと伊達が確かに拾ってやる。安心して死んでみろ」
鷲武は腰から拳銃を抜いて国分を見た。
「はい!」
国分も拳銃を抜いた。


「攻撃の準備はできていますか?」
 池月英津子がテレビモニターを見つめながら言った。モニターには三人の男女が映っていた。アジトの四角に付けられている監視カメラが、対面する斜面をとらえている。
 よういならぬ相手が島に上陸してきた。会が送り込んだ刺客をことごとく全滅させた刑事たちだ。その内の一人は女だ。その刑事たちが、いま池月が見つめるモニターの中にいる。
第二の神の罰どころではなくなっていた。
 フィリピンのマニラが標的だったが、刑事たちが島に上陸したとの情報で作戦は急遽延期したのだった。この刑事たちを殺さなければ今後の会の作戦に大きな支障をきたす。まずは上陸した三人の始末が先だと判断して、池月は大神の許可をあおいだ。
北海道の愛別町で四人、横須賀の海上自衛隊基地で二十人、成田空港で工作員が三人、岐阜県の御母衣村で三十人が殺された。制御ボックスのキーも今だに手に入れていない。
 キーは三人の刑事の誰かが持っているという。
 だが、キーはもう必要はなかった。会の科学者が制御ボックスの上部カバーを外すことに成功したのだ。あとは内部配線をチェックして原潜を奪って積みこみ、太平洋に出航するだけだ。
 しかし制御ボックスの回路の改造はまだ終わっていない。配線の数本は回路の変更に成功したものの、内部回路は複雑をきわめていて、二日や三日でどうにかなる代物ではなかった。弘前大学と防衛省の技術研究所が総力をあげて制作しただけのことはある。
 制御ボックスは上部カバーを外したまま、丸二日もそのままになっていた。
「攻撃の準備は完了しています」
黒装束の男が池月英津子に答えた。
「攻撃!」
池月の澄んだ声が地下に響いた。


斜面をゆっくりとおりる国分の目に、[おおとり]を襲ったと同じラジコン飛行機が映った。ラジコン独特のかん高いエンジン音と、燃料の蓖麻子油が燃える煙が見える。全部で三機だ。
国分は両手で拳銃を構えた。一機が猛烈なスピードで国分に向かってくる。引き金を二度引いた。空薬莢が右上方に飛んだ。三十メートルほど手前の空中で大爆発が起きた。
国分は爆風で後ろに飛ばされた。斜面の下に向かって転がりながら、国分は別のラジコン飛行機が自分に向かって突っ込んでくるのを見た。
 国分は転がる勢いで立ち上がり、思い切り地面を蹴った。ラジコン飛行機がエンジン音をたてて国分のすぐ近くを急上昇してゆく。転がる体を右足で支えた国分は、仰向けになったままラジコンめがけて拳銃を発射した。弾は飛行機に抱かせてあるダイナマイトではなく機体に直接命中したらしく、ラジコン飛行機はフラフラと頼りなく地上に落ちた。爆発は起らなかった。
 国分は素早く立ち上がった。もう一機が背後から迫っている。国分は片膝をついて拳銃の狙いを付けた。
『国分、無事か!』
レシーバーから伊達の声がした。
「だいじょうぶです。両警視長はだいじょうぶですか?」
国分は口元のマイクに言った。
『無理をするなよ国分。注意して進め』
鷲武の声が聞こえた。
「はい!」
国分は答えた。拳銃を構えながら進む国分の目の前に黒い建物が迫っていた。













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