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赤 い 波
作:凪沙 峻



22


天神の会は御母衣村に三十人の死客を送り込んできた。三百人の自衛隊と五人の刑事が警備していたため、死客は短機関銃と毒を塗った吹き矢を使った。その短機関銃と吹き矢で、自衛隊員九十人と刑事局の籐山が殺された。
「鷲武、恩にきる。妻と娘をよく守ってくれた。この恩は忘れない」
伊達はそう言って鷲武に頭を下げた。
 鷲武が危険を察して駆け付けてくれなかったら、奈美子や美子は、おそらく死客に殺されて制御ボックスのキーも奪われていただろう。
 もしも奈美子や美子が殺されたら伊達の生きがいは無くなっていた。愛別で襲われたときも鷲武が守ってくれた。そして今度も鷲武は天神の会の動きを読み、ギリギリのところで妻と娘を助けてくれた。この恩は決して忘れることはできない。
「伊達…」
鷲武が顔を上げた。
「これ以上は危険だ…」
鷲武が言った。
「おれは、おまえの娘が大事にしているお守りだから、無理にはキーを取り上げなかった。天神の会に襲われるかもしれんという危険を読んで、局の刑事と自衛隊で警備もさせた。だが伊達、これが限界だとおれは思う。地球が消滅する危険はもちろんあるが、おまえの娘がこのキーをお守りとして持っているいじょう、四十人の村人とおまえの家族がまた危険にさらされる。今回は幸いにして、おまえの家族も四十人の村人も無事だった。だが、九十人の自衛隊と局の籐山が死んだことは事実だ」
鷲武は伊達と奈美子を見つめながら言った。
 国分は黙って鷲武を見つめていた。厳しい鷲武の表情だった。
「彼らには気の毒なことをした…」
伊達は下をうつむいて言った。
「くだらん感傷にはひたるな!」
鷲武が鋭い声で言った。
「死んだ奴らはそれまでの運命だったのだ。ここを警備する任務についたのも運命で、天神の会に殺されたのも、その人間がそれぞれに持っている宿命というやつだ。どこでその鎖が切れるかは、それぞれの人間によって違う。あいつらが死んだのもそうだ。おまえや、おまえの家族のせいではない」
鷲武は美子の寝顔を見つめたまま言った。
「美子ちゃん、さあ起きろ」
鷲武が美子に言った。美子は鷲武の声に目をさました。眠そうな表情で鷲武を見上げている。美子の左の手首には三個の球が入っている錦織の袋が紐で縛ってある。
「美子ちゃんのお守りを、おじちゃんにくれないか?」
鷲武は笑いながら美子の目をのぞいた。
「このおまもり?」
美子はキーの入っている袋と鷲武を見比べた。
「そうだ」
鷲武がうなずいた。
「美子ちゃんのお守りだから、きっと大事なものに違いない。だが、美子ちゃんを守ってくれるのは、そのお守りだけじゃない。美子ちゃんのパパやママもいるし、ビリーだっている。みんな美子ちゃんを守ってくれるから何も心配することはない。大切にするから、そのお守りをおじちゃんにくれないか?」
鷲武の言葉を美子はじっと聞いていた。
「おじちゃんも、美子を守ってくれるの?」
「そうだ。みんな美子ちゃんが大好きだ」
「お姉ちゃんも?」
美子は座っている国分を見た。
「もちろんよ。美子ちゃんが困ったときは、すぐにお姉ちゃんが来てあげるから」
国分は手をのばして美子の手を握った。
「おじちゃんやお姉ちゃん大好きだから、お守りあげる…」
美子は鷲武に左手を差し出した。
「大事にしてね、おじちゃん」
鷲武を見つめながら美子が笑った。
「うん、約束するよ」
伊達と奈美子は無言で鷲武と美子を見つめていた。
「おい国分」
鷲武が笑って国分を見た。
「はい」
「将来、間違って子供を生んだときの練習だと思って、子守をしておけ」
鷲武はそう言って美子を抱き上げて国分に渡した。
 美子は国分の首にしっかりと両手でしがみついた。戸惑いの表情をしながらも国分は美子を抱き締めた。美子の身体からほんのりとミルクのような香りがした。
村人が大勢駆け付けていた。心配そうに玄関から覗き込んでいる。
 奈美子はその村人たちの姿を見てまた涙があふれてきた。一番前で心配そうな表情をしているトミばあさんに奈美子は抱きついた。自分より大きな奈美子に抱きつかれたトミばあさんは、戸惑いながらも奈美子の背中を何度もさすった。


次の日、御母衣村の警備体制が大幅に縮小された。警視庁刑事局の長内、山崎、岡本、取手の四人が御母衣村の専任警備として残ることになった。
三個のキーは鷲武の手に渡った。これ以上美子が持っていては村の住民と伊達奈美子親子が、また天神の会に襲われる危惧があった。一応は長内たち四人の刑事を残し、警備を続けることにはしたが、おそらくは襲ってはこないだろうと鷲武は判断していた。
天神の会が[すずらん]の情報を横取りして警察の動きを見ているのであれば、キーが刑事局の手に渡ったことも知っているはずだ。長内たちを残すのは万が一を考えてのことだった。 鷲武たちはまた御母衣村を出た。いよいよ天神の会の本拠へ乗り込むのだ。
天神の会は、新潟県上空で伊達と国分が乗った[おおとり]をダイナマイトを縛り付けたラジコン飛行機で撃墜しようとした。高柳と鷲武が囮として飛ばした[しらとり]もだ。いずれも警視庁を飛び立ってから、ずっと衛星で監視されていたのだ。
[おおとり]も[しらとり]も、新潟の海上上空にさしかかったとたんに小型飛行機が襲われた。
 あの近くに天神の会の本拠地か、あるいは隠れ家があると鷲武はにらんでいた。小型飛行機の航続距離やラジコンの電波の届く範囲、そしてヘリを見つけて直ちに飛ばせたことを考えても、そう見当はずれではないはずだった。




新潟県の海に浮かぶ粟島。周囲が七キロほどの島だ。
警視庁刑事局が、天神の会の本拠地かあるいは隠れ家として特定したのはこの島だ。
 粟島からいちばん近い本州までは約二十キロほどで、その真ん中は新日本海フェリーの航路だ。天神の会の池月英津子が警視庁に電話をかけたのは、成田空港の公衆電話だと警視庁の逆探知システムで判明している。しかしその電話には新日本海フェリー[はまなす]の汽笛が入っていた。
[はまなす]の汽笛が聞こえるどこかで録音したものを成田空港の公衆電話で流したか、あるいは国分の言うように、汽笛が聞こえるどこかからプッシュ回線の転送機能を利用して刑事局に電話を回したか、そのどちらかだと鷲武は判断した。
 そして、それを捜査するために伊達と国分が[おおとり]で新潟に向かった。
 その[おおとり]は本州と粟島の中間あたりで、どこからか飛んできた三機の小型ラジコン飛行機に襲われた。小型飛行機にはダイナマイトが縛り付けられていた。なんとか伊達が拳銃で射ち落としたものの、爆発の衝撃で[おおとり]のテールローターが破損して[おおとり]は日本海に落ちた。
それを聞いた鷲武は、どこかで情報が漏れていると判断した。事件の詳細を知っているのは、警視総監の薗村忠相、警視庁刑事局長の高柳邦広、次長の鷲武秀介、伊達英章、国分京子、横須賀で[あかしお]を警備している山際陽一の六人の刑事局関係者と、総理大臣の鹿部静夫、防衛大臣の福地健三、国家公安委員長の東根康一、警察庁長官の香川重富、内閣官房長官の山形兵衛の、五人の政府閣僚だけだ。
政府は極秘で一千メガトンの戦術核弾頭と、総排水量二万四千トンの戦略型原子力潜水艦を開発した。その戦術核を制御するボックスが天神の会に奪われた。
 その制御ボックスを分解したり改造したりしようとすれば、異常電波を受信した原潜[あかしお]の自爆装置が作動し、九十六時間で[あかしお]は自爆する。
 もしも爆発したら、日本、いや六十億の世界人類が絶滅する。
 その大事件を刑事局が極秘で捜査している。その捜査段階で天神の会にこちらの動きが読まれているというのは、誰かが、あるいは何かが相手に情報を伝えているからだ。
 このままでは仲間同士で疑心暗鬼になる。
 鷲武とて薗村や高柳を疑っているわけではない。だから囮の[しらとり]を飛ばせた。
その[しらとり]も、[おおとり]が襲われたのと同じ空域で射ち落とされた。そして鷲武は、天神の会が日本の人工衛星の電波を傍受しているのではないかと推測した。その推測は的中していた。
飛行機やヘリコプターならば、警視庁の[おおとり]や[しらとり]ばかりではなく、色々な会社の物が飛んでいるはずだ。その中から[おおとり]と[しらとり]を特定した上でダイナマイトを抱かせたラジコン飛行機で襲うというのは、どう考えても動きを読まれているとしか考えられない。それも[おおとり]や[しらとり]が警視庁のヘリポートを離陸したときからだ。
そこまで読めるのは何か。いかに天神の会といえども、本州全土をカバーするレーダーを持っているとは考えられない。
[おおとり]や[しらとり]が飛び立つのを、すぐに天神の会に知らせることが出来たのは、警視総監の薗村、そして高柳と鷲武だけだ。だが[おおとり]はともかく、囮の[しらとり]を飛ばしたことを知っているのは、囮の飛行を指示したときに刑事局長室にいた高柳と鷲武だけだった。
鷲武は考えをめぐらせた。考えられないものを次々と省き、最後に残ったものが、どんなに考えられないことでもそれが真実だ。
 鷲武がたたきだした結論、それは人工衛星だった。
 人工衛星の電波を傍受できれば、日本中のどんなところで警察が動いてもすぐにわかる。
 気象と通信の両方の機能をもつ[すずらん]と[つばき]ならば、その超高性能赤外線カメラで地上の動きをすべて知ることが出来る。[おおとり]や[しらとり]の動きばかりではない。天神の会は人工衛星の赤外線カメラを利用して、御母衣村にいる伊達の家族や警備していた自衛隊や長内たちの動きまでもつかんでいた。
大神や池月が隠れている場所は粟島か、あるいは粟島に近い本州のほかにはない。ラジコンの電波が届く範囲も決まっているのだ。レーダーを使ったにせよ、ラジコンの送受信電波は、強力に改造しても十キロが限度のはずだ。


二月五日。鷲武、伊達、国分の三人は自衛隊のヘリコプターに乗っていた。航空自衛隊の木更津基地から借り受けたOH・6J小型ヘリだ。最大速度は一四〇ノット・時速二六〇キロ、定員は四人だ。
 国分がこの小型ヘリにも[おおとり]と名付けた。
 岩手県警から借り受けた[おおとり]は日本海に沈んだが、国分は[おおとり]という名前が好きだった。県警の広報係長だった名もない自分が警視庁刑事局の伊達と知り合い、鷲武と知り合った。たまたまヘリを操縦できる者がいなかったおかげだった。
 そして気が付くと、このとんでもない事件の渦中にいた。[おおとり]は自分と刑事局を結んでいる絆のような気がする。
国分が操縦する[おおとり]は、青森県警察本部、弘前警察署、横須賀警察署、警視庁、成田空港、新潟県へと飛び続けた。国分のためにあったような[おおとり]だった。
 そして国分は警視庁刑事局の刑事に任命され、階級も警視になってしまった。
警視といえば所轄の署長か次席クラスの階級だ。
 自分は警視に値するだけの人間かどうかはわからない。
階級とはいったい何なのだろうと国分は思った。
 岩手県警広報係長の時は警部補だった。その警部補とて、必死に昇進試験の勉強をしてやっとの思いで合格しての階級だ。
 普通の警察官でも定年までに警部になれば大出世だという。
 それが伊達のたった一言で警部となり、鷲武の命令で刑事局の刑事として総理大臣に会った。その鹿部総理から何が気に入られたのか警視の階級章を贈られた。
階級制度の不思議さと、組織の中核がもつ力の大きさを改めて知らされた思いだった。
「右手に朝日岳が見えてきました」
国分が言った。朝日岳は新潟と山形の県境にある標高一八七〇メートルの山だ。
「そろそろだぞ…」
鷲武がそう言って座席ベルトを締めた。伊達が無言で煙草を取り出して火を付けて、自分もベルトを締めた。
「きっと、日本海に出たらすぐに襲ってくるでしょうね」
国分が操縦しながら言った。
「レーダーから目を離すな。日本海に出たら高度を二百メートルにまで下げろ。伊達、そっちの窓も外しておけ。海に出たら投げ捨てろ」
鷲武がネジ回しでアクリルの窓を内側に外した。
 万が一、またラジコン飛行機で襲われた時の準備だった。鷲武と伊達ならば数機で襲われても射ち落とせる。たぶんラジコン飛行機が襲ってくるだろうと鷲武は思っていた。
「わかった」
伊達も窓のネジをゆるめた。
ほかに襲う手段があるとすれば、電波妨害や対空機関銃などだろうが、電波妨害はともかくとして、いかに天神の会といえども、いきなり対空機関銃を発射はしないだろう。
 だが[おおとり]は天神の会に確実に捕捉されている。
天神の会は、東北自動車道で制御ボックスを輸送する青森県警を重機関銃で皆殺しにしている。島民の目の前で重機関銃でヘリを撃つ暴挙に出たりはしないだろうが、ダイナマイトを抱かせた小型ラジコン飛行機で襲ってくる可能性はじゅうぶんにあるし、妨害電波を発射してヘリの計器を狂わせ、パニックにおとしいれようとする作戦にでることも考えられる。
 人工衛星の電波を傍受できる天神の会だ。パラボラアンテナで強力な妨害電波を発射するくらいは簡単なはずだ。
[おおとり]は弁天島上空を横切って日本海に出た。前の[おおとり]や[しらとり]が飛んだコースと同じだ。日本海に出たところで、国分は高度を二百メートルに下げた。
 万が一のことがあってもなんとか着水可能な高さだ。鷲武と伊達は外しておいたアクリルの窓を投げ捨てた。国分はレーダーを見つめながら操縦している。前の[おおとり]に積んでいたほどの高性能レーダーではないが、半径五キロも捕捉できれば用はたりる。
「きました!。右後方から六機が高速で接近してきます!。このヘリなら振り切れますが、どうしますか!」
国分が叫んだ。OH・6J型のヘリは、時速二百六十キロの偵察用高速ヘリだ。ラジコン飛行機を振り切ろうと思えば簡単だ。
「よし、おまえの好きなようにやってみろ。奴らのラジコン操縦技術をみてやる。ついでにおまえの操縦もな」
鷲武が腕を組んだまま笑った。
「了解!」
国分は一気に[おおとり]を降下させた。内蔵がせりあがるほどの急降下だった。
「おい国分、もっと女らしい操縦はできんのか!」
鷲武が拳銃を抜いて怒鳴った。
「たいして惜しい命ではないと、いつかおっしゃっていましたよ!」
国分は笑いながら叫んだ。
「ああ、おれも確かに聞いた」
伊達も鷲武を見ながら笑っていた。
「クソッタレめ!」
鷲武が窓から身を乗り出しながら大声で毒づいた。
「きたぞ国分、右だ!」
伊達が拳銃を窓から突き出して叫んだ。
「了解。任せてください!。お二人とも、酔ってもわたしを恨まないでください!」
レーダーを見ながら国分が叫んだ。
[おおとり]を追跡してくる六つの光がレーダーに映っていた。国分は高度一五〇まで急上昇した。
「どうするつもりだ!」
鷲武が叫んだ。
「わたしがなんとかします!。ベルトをしてください!」
 国分は一五〇メートルのところで[おおとり]をホバリングさせた。六機のラジコン飛行機は[おおとり]に向かって接近していた。距離は二〇〇メートルほど後方だと国分は判断した。鷲武と伊達は安全ベルトをかけた。
「急降下します!」
国分はスロットル全開で[おおとり]を急降下させた。海が見る間に迫ってくる。どっちが空で海なのか、乗っている鷲武と伊達にもわからなくなるほどの乱暴な操縦だ。
 右斜めに傾いたまま一気に急降下した[おおとり]は、海面ギリギリのところでホバリングした。斜め上空から一団となったラジコン飛行機が襲ってきている。機体に縛り付けてあるダイナマイトの一本一本まで肉眼で確認できるほどだ。
百、八十…。そして、ラジコン飛行機が七十メートルに接近したとき、国分はスロットル全開で急上昇した。座席に尻が押しつけられるような感覚を鷲武と伊達は感じた。
 ラジコン飛行機は急上昇した[おおとり]に付こうとして機首を上げたが、時速二百キロ以上の速度での上昇には限界がある。ラジコンといえども飛行機だ。ヘリとは旋回能力が違う。
斜め上から襲ってきたラジコン飛行機は、海面ギリギリからの[おおとり]の上昇についてこれず、六機のうちの四機が海に突っ込んだ。だが、二機はなんとかまぬがれたのか上昇して[おおとり]を追ってきた。
 国分は[おおとり]の体制をたてなおして水平飛行に移った。速度はラジコン飛行機にあわせて時速二百キロにしている。
「もう一度やります!」
国分は大声で叫んだ。
「勝手にしろ!」
鷲武が怒鳴って拳銃をケースに収めた。
国分は水平飛行から全開で[おおとり]を急上昇させた。高度計は五百メートルを示している。ラジコンも追ってくる。国分は大きく深呼吸した。
 出来るかどうか国分にはわからない。だが理論的には可能なはずだった。高度五百メートルから操縦桿を一気に前に倒して[おおとり]は急降下に移った。
「何をやるつもりだ!」
伊達が叫んだ。胃袋が口までせり上がってくるようだった。高度が三百メートルになったところで、国分はスロットル全開のまま操縦桿をいっぱいに引いた。
「宙返りでかわします!」
国分は大声で叫んだ。
「なに、宙返りだと!。バカなことを考えるな!。やめろ!」
鷲武が怒鳴った。
「もう遅いです!」
国分は必死に操縦レバーを引きながら叫んだ。
[おおとり]はすでに腹を空に向けていた。高度は五百メートルになっている。重力が無くなったようだった。頭の下に海が見えていた。窓から顔を出して[おおとり]の後方を見た伊達の目に追跡してくるラジコン飛行機が見えた。その伊達の体に一気に重力がかかった。みるみる海面が迫ってくる。
 落ちる!。伊達は一瞬そう思った。水面までは二〇〇メートルもない。
「いけーっ!」
国分が叫んだ。必死で操縦レバーを引く国分の目に青い海面が迫っていた。
 だめだと鷲武は思った。旋回は間に合いそうもなかった。このまま海に墜落する。鷲武は水死体となって海を漂う自分たちの姿を想像した。伊達も鷲武と同じ思いだった。
 だが[おおとり]は体制をたてなおし紺碧の空に向かって上昇していた。[おおとり]を追ってきたラジコン飛行機は旋回が間に合わず、海面にふたつの小さな水しぶきを上げた。
 国分は大きなため息をついた。やった、という気分だった。
「振り切りました!」
国分は満面の笑顔で後ろを振り向いて叫んだ。
「クソッタレめ、遊びは終わりだ。海面ギリギリに飛んで島へ着陸しろ」
鷲武が煙草を取り出して言った。
「了解!」
国分は機首を粟島に向けた。
「刑事局も、とんでもないパイロットを雇ったもんだな」
伊達が鷲武を見て笑った。
まさかヘリが宙返りするは思わなかった。アメリカではヘリのアクロバット飛行が流行していると聞くが、自分が乗っているヘリが宙返りをするとは…。
 伊達はあきれてしばし言葉が出なかった。
「ふん…」
鷲武は、ついさっきまで頭の上にあった青い海をにらんだ。
第一の神の罰が香港を灰にしてから丸三日が過ぎるまで、あと一時間だった。













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