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赤 い 波
作:凪沙 峻



18



[夜明けの星]からの犯行声明のなかに、かすかに大型船舶の汽笛の音が入っていた。コンピューターで解析しなければ気が付かないほどの、かすかなものだった。
 警視庁の科学捜査研究所でその音がどんな船舶のものかを解析した。
 その結果が出た。その汽笛は新日本海フェリーの[はまなす]のものだった。
[はまなす]は北海道の小樽と新潟の舞鶴を往復する定期フェリーだ。小樽と舞鶴を往復するフェリーは[はまなす]のほかに[あかしや]と[いしかり]がある。
 汽笛の音はその船によって違う。フェリーは小島や岬の付近を通過するとき、周りに自船の存在を知らせるために汽笛を鳴らすのだという。
新日本海フェリーに問い合わせたところ、[はまなす]の出航時間は決まっていて、小樽出航の場合、夕方五時に小樽の勝内埠頭を出航し、次の日の夜十一時に舞鶴に入港する。約三十時間の航海だ。出航のときを除けば、北海道近海で汽笛は鳴らさない。鳴らすのは舞鶴港に入港する直前に通過する能登半島付近だとの回答だった。
「建物の中で録音したと考えて、このくらいの音量で録音される場所は、おそらく佐渡か、能登半島の突端に近いあたりだろうと科研の見解が出た」
警視総監の薗村が部屋の四人を見渡した。
「佐渡か能登か…」
そう言ったのは鷲武だった。腕を組んで天井を見つめている。
「山際と長内から何か連絡はあったか」
鷲武が高柳に聞いた。
「いや、何もない。誰かの射撃練習のほかにはな…」
高柳が苦笑しながら言った。
「そうか…。今のところは平穏というわけか」
 鷲武はそう言って、腕を組んだまま目を閉じた。
誰もが黙ったまま鷲武を見つめている。鷲武の次の判断を待っているのだった。
 鷲武の判断が刑事局では優先する。現場捜査は薗村や高柳の領分ではない。それはよく知っている。
 薗村も高柳も、黙ったまま目を閉じている鷲武を見つめていた。
「思い切って、制御ボックスのキーを渡すか…」
 鷲武が目を開けてつぶやいた。
「キーさえ渡せば、第二の罰とやらはやらんだろう。いまキーを渡したところで、[あかしお]は山際たちが警備しているから奪われる心配もない。総監、どうする」
鷲武は前を見たまま言った。
「確かにキーを渡しても、当面[あかしお]へ積み込まれる心配はない。だが心配がないだけで、絶対に積み込まれないとは断言できん。しかしキーがこちらの手の内にあるかぎりは、制御ボックスが作動しないことは事実だ。分解されないかぎり[あかしお]の自爆装置も作動しない。残るのは、キーを渡した場合と渡さない場合の、我々の捜査にのしかかってくるリスクの大きさだけだ」
薗村が座っている鷲武に言った。
「リスクは、キーを渡した場合のほうが大きいと、わたしは思う」
薗村はそう言って鷲武の正面に腰をおろした。
キーを渡したら、天神の会は必ず制御ボックスを[あかしお]に積もうとするだろう。会の全力を上げて横須賀を襲う。
 制御ボックスとそのキーを手に入れた以上は、天神の会の最終目的は[あかしお]で世界を征服することだ。
 天神の会に[あかしお]を奪われたら、事は日本だけでは済まなくなる。世界を征服するためなら、どこの国にでも天神の会は核ミサイルを発射するだろう。それだけは絶対に避けなければならない。少なくとも世界戦争の引き金を日本が引いてはいけないのだ。天神の会にキーを渡すということは、彼らの狙いを[あかしお]のみに集中させることになる。
刑事局の刑事は五十人だ。刑事局の刑事はともかくとして、実戦に慣れていない警察官や自衛隊などは、殺しに手慣れた天神の会が一度に襲ってきたら、ただ慌てるだけで何の役にも立たないだろう。いまのうちは敵の戦闘力を分散させておくのが一番だ。
「わかった…」
薗村の言葉に鷲武はうなずいた。
「伊達…」
鷲武が目をあけた。
「国分と北陸へ飛べ。奴らの本拠は日本海沿岸の新潟、富山あるいは石川県のどこかだ。天神の会がどこかの町をうろついていたとしたら、必ず何か痕跡があるはずだ。そいつを探せ」
鷲武が伊達と国分に命じた。
「わかった。あんたはどうする?」
伊達が聞いた。
「ここでおまえたちの報告を待つ」
鷲武がテーブルをにらんだまま言った。
「クソ女が指定した三日以内が、明日で期限が切れる。どこかで何かがあった場合、おれが対処せねばならんからな。おまえたちの捜査の進捗具合によっては、またどこかで核爆弾が爆発することも考えられる」
「わかった。すぐに出発する」
伊達が鷲武に答えた。
「じゅうぶんに注意しろ。核爆弾で香港を灰にした奴らだ。どんな物騒なものを持っているかわからん。奴らは、ある程度はおれたちの動きを掴んでいると思っていたほうが無難だ」
「わかった」
そう言って総監室を出る伊達と国分の後ろ姿を、鷲武はじっと見つめていた。


「伊達警視長…」
屋上へのエレベーターの前で国分が伊達を見た。
「ん?…」
伊達が答えた。
「明日までに制御ボックスのキーを渡さなければ、次のテロがあるのでしょうか」
扉が開いたエレベーターに乗り込みながら国分が聞いた。
「あるだろうな…」
「今度はどこだと思います?」
そう言いながら国分が屋上のボタンを押した。
「まるで見当がつかん」
「そうですか…」
そう言っている間にエレベーターは屋上についた。
[おおとり]を警備していた二人の警察官が伊達と国分を見て敬礼をした。駐機している[おおとり]に伊達と国分は乗り込んだ。
国分が操縦する[おおとり]は警視庁の屋上を飛び立ち、能登半島へと向かった。東京から能登半島までは直線距離にして約三百キロある。最高速度の一二〇ノットで約一時間三十分だ。
「伊達警視長、ひとくちに能登半島や佐渡といっても相当広いです。どうやって探しましょうか」
国分は副操縦席に座っている伊達に聞いた。
「さて、どうしたものかな…。鷲武なら何かの方法を見つけだすだろうが、今のところ何も方法は考えていない。向こうへ着くまでに考えるさ」
伊達は煙草を吸いながら笑った。
「伊達警視長は楽天家なんですね」
国分がヘルメットの中で笑った。
「そう見えるか?」
伊達も国分の言葉に笑った。
「これでもけっこう気は使っている。まわりを見てみろ。警視総監やら警視監がうろうろしてる。ひょんな事から刑事になったが、まだまだおれは、鷲武から見ればひよっこだ」
「えっ、伊達警視長はずっと以前からの刑事じゃないんですか?」
国分は驚いた表情で伊達を見た。
「ああ、本業は医者だ。鷲武にむりやり刑事にされる前は北海道にいた」
「そうなんですか…」
国分は感心したように前を見つめていた。
伊達は鷲武の後輩で、警察大学を卒業したキャリア組かと思っていた。
 警視長という階級からみてもそうだ。警視長といえば方面本部長か、悪くても東京の中央管内の署長、あるいは本庁の管理職の階級だ。
 警視長の上は警視監、その上は警視総監だ。警視総監は日本に一人しかいない。しかし警視監や警視長とてそんなにたくさんいるわけではない。
「好きで刑事になったわけではないし、警視長という階級も、おれには重すぎる気がする。[あかしお]の核ミサイルから妻や娘を守るためでなければ、おれは今でも北海道で医者をやっていただろう」
伊達はガラスの灰皿で煙草を消しながら言った。
「奥様やお嬢様を守るため…」
国分はそうつぶやいた。
「そうだ…。おれにとって、妻と娘はおれの人生のすべてだ。[あかしお]の核ミサイルが爆発すれば、どこにいようと死ぬことには変わりはない。ならば妻や娘と一緒に死んだほうが幸せかもしれない。だがおれは運命を感じた。妻や娘を守るために立ち上がる運命をだ。だから立ち上がった。たとえ何もできなくとも、おれはただ黙って座っていたわけではないと、心の中で言い訳くらいはできるからな…」
「…………」
国分は黙って伊達の言葉を聞いていた。
国分は伊達の妻や娘がうらやましかった。
 もしも自分が結婚していて、今と同じ立場に置かれたら、自分の夫は自分を守るために立ち上がってくれるだろうか。それはわからない。
 少なくとも国分が知っている警察官にはそんな男性はいなかった。 
 だがここに、自分の妻や娘を人生の全てだと言い、その妻や娘を守るために立ち上がったと堂々と言う男がいる。
 こんな素晴らしい人に守られる妻と娘とは、いったいどんな女性でどんな娘なのだろうか。 自分は遅く生まれすぎた。もっと早く生まれて、伊達や鷲武という刑事と知り合いたかった。国分はそう思うと胸が熱くなってきた。
「奥様はきれいな方なんでしょうね」
国分は伊達の横顔を見つめて言った。
「まあな。おれは美人だと思って結婚した。世界一幸わせな男だと思っているよ」
「伊達警視長の奥様がうらやましいです」
国分は前を見て言った。
「しかしまあ、こうして刑事になっても、今となっては後悔はしていない。鷲武はあんな男だが尊敬できる最高の刑事だ。それに…」
伊達はそう言って国分の横顔を見た。
「妻の奈美子に勝るとも劣らない、美人の女性警官とも知り合えたしな」
「まあ!」
国分は目を丸くして伊達を見た。
「わたし、美人ですか?」
「ああ、国分は美人で性格もすばらしい。国分を見ていると妻を思い出す」
伊達はそう言いながら煙草を取り出してくわえた。
「もっとも…」
伊達は笑って煙草の煙を吐いた。
「妻は少々乱暴ではねっかえりだ。だから、鷲武は奈美子が苦手なんだ。フライパンで頭を叩かれたしな…」
「エーッ!。鷲武警視長は、伊達警視長の奥様にフライパンで叩かれたんですか?」
国分は大声で聞いた。
「ああ、二度もな…。これは鷲武には言うなよ。信じられんだろうが、鷲武は年寄りや子供には好かれるんだ。おれの娘も鷲武にはなついている」
「ヘエー、信じられませんね!」
国分は大きな声で笑った。
国分が操縦する[おおとり]は、関東平野から冬の赤城山、中禅寺湖をかかえる足尾山地の上空にさしかかっていた。
 ここ最近は地球規模の異常気象が続き、雪の量は少ないものの、気温は数年前に比較すると平均五度は低くなっている。九州などでも何度も大雪に見舞われ、沖縄にいたっては、毎年一月末には海水浴ができたのに、ここ数年は三月にならなければ海開きもできないほどだった。
 伊達は真っ白な雪に覆われた山岳地帯を見下ろしていた。
「もしも、制御ボックスのキーを天神の会に渡さなければ、大神たちはボックスを分解すると思いますか?」
国分は伊達に聞いた。
「当然、分解して手を加えようとするだろうな…」
「もしも分解したら、九十六時間で世界は消滅して自分たちも死ぬのに…」
国分は[おおとり]に搭載されたばかりの高性能レーダーを見ながら言った。
[おおとり]に搭載されたレーダーは、航空自衛隊の対潜哨戒機に搭載されているものを小型にしたもので、半径百五十キロメートル以内をカバーする。その性能はレンジの中にあるものなら人間くらいは判別することができる。
[おおとり]は川越上空から関東山脈を越え、松本盆地の上空を飛行していた。前方に飛騨山脈が見えている。
「あと三十分程で能登半島が見えてきます。どこへ降りますか?」
国分は、新潟県を含む日本海側の富山と石川の地図を見ている伊達に聞いた。
「能登で一番大きな町は七尾だ。だが、その前に北上して日本海側の村上市へ飛んでくれ。海岸線を上から見たい」
伊達が国分に指示した。
天神の会が、鷲武の言うとおり、新潟、富山、石川のいずれかの県のなかに本拠地を置いているとすれば、地上から捜索する前に、上空からその三県を見ておこうと伊達は思った。
 地上から捜索するにしても海岸線や地形を頭に入れておいたほうがよい。[おおとり]は飛騨山脈の手前で一気に機首を北に向けた。
「山形と新潟の県境に弁天島という陸続きの小さな島が見える。そこから日本海に出て海岸沿いに南下してくれ」
伊達はそう言って国分に地図を見せた。
「了解しました。その前に、村上市で燃料を補給します」
国分は伊達に燃料計を指で示して言った。
 国分は無線機のマイクを持った。周波数を警視庁の一斉に合わせた。
「新潟県警。こちら警視庁刑事局の[おおとり]です。ただいま阿賀野川上空を飛行中。村上警察署で燃料の補給を願いたい。どうぞ」
 国分は、警視庁から割り当てられている秘話のかかった無線で新潟県警を呼び出した。
 十秒ほどして『警視庁の[おおとり]へ、こちは村上署。ただいまの件は了解した。ただちに手配する。海岸に近い瀬波小学校グランドにマークするので、そちらに向かわれたい。座標は…』という返事が返ってきた。
マークとは、ヘリが緊急着陸する際の印のことをいい、たいていは白い石灰などで円をえがき、その中にHの字か十文字を表示する。
二十分後、瀬波小学校のグランドで新潟県警から燃料補給を受けた[おおとり]は、新潟県と山形県との県境にある弁天島に向かった。
「あれが弁天島です」
国分は風船のように海に浮かんでいる丸い陸続きの島を指差した。
「よし、海岸線に沿って飛んでくれ」
「了解」
国分は答えた。
[おおとり]は弁天島の真上を南東から北西へ横断し、日本海に出た。
 機首を南西に向けた[おおとり]は海岸線に沿って八十ノットで飛行した。右手に粟島が見える。周囲七キロほどの島だ。[おおとり]が飛行している下は新日本海フェリーの航路になっている。
「警視長、何かが接近してきます!」
[おおとり]が粟島と村上市の真ん中あたりにさしかかったとき、国分が伊達に言った。
 レーダーが[おおとり]に接近する三つの飛行物体を映し出していた。かなりのスピードだった。見る間に[おおとり]に近づいてくる。
「全速で逃げろ!」
伊達が叫んだ。
「このスピードは鳥じゃない。明らかにおれ達を狙っている。全速でかわせ!」
伊達はそう叫びながら腰から拳銃を抜いて副操縦席から後部席へ移動した。
「きました!。かわします!」
そう叫んだ国分は[おおとり]を急降下させた。後ろの伊達が宙に浮く程の急降下だった。
 国分はレーダーを睨みながら必死に操縦した。伊達は後ろの席の天井から下がっていたロープを腰に巻き付けた。ヘリの左右にあるドアに届く程度ロープに余裕をもたせて両側のドアを開けた。
「警視長、右に接近しています!」
国分が大声で叫んだ。[おおとり]の右横を小型のラジコン飛行機が前方に通過した。
 小型飛行機には二本か三本に束ねられたダイナマイトのようなものが縛り付けられている。 伊達が大きく傾いたヘリの中を這うようにして右のドアに近づいた。ラジコン飛行機は大きく右に旋回して態勢をたてなおしている。
「今度は真うしろです!」
国分が叫んだ。
「右へかわせ!」
伊達の声に国分は機体を右に急旋回させた。
[おおとり]の左側すれすれに小型飛行機が通過した。必死に機を操縦する国分の目にも、ラジコン飛行機の下についているダイナマイトが鮮明に見えた。
 後ろで拳銃の音がした。とたんに[おおとり]の左後方で大爆発が起こった。伊達がラジコン飛行機を拳銃で撃ったのだ。
国分の目に正面から接近してくるラジコン飛行機が映った。背筋に冷たい汗が流れている。
 国分は[おおとり]を急降下させた。上昇するよりも急降下させるほうが早いのだ。ベルトをしていても体が宙に浮くようだ。内蔵がせりあがりそうだった。メインローターの上をラジコン飛行機が通過してゆく。
「左旋回だ!」
伊達が叫んだ。国分は[おおとり]を左に旋回させた。焦っているせいか旋回するまでの時間がいやに長く感じた。
 伊達が拳銃を撃った。右上空で小型飛行機が大爆発を起こした。爆発の衝撃で[おおとり]も大きく揺れる。国分は必死で傾いた[おおとり]をたてなおした。
「右前方です!。だめです、避けられません!」
国分が叫んだ。国分は全身に冷や水を浴びせられたような気がした。
 [おおとり]の右前方から小型飛行機が突っ込んでくる。近距離だ。どんな操縦でも避けられる距離ではない。
「左だ!」
伊達が叫ぶと同時に国分も反射的に[おおとり]を左旋回させた。伊達が拳銃を発射した。 至近距離でラジコン飛行機が爆発した。その衝撃で[おおとり]はまるで風に遊ばれる木の葉のように大きく傾いた。
「テールローターをやられました!」
 国分が叫んだ。
 テールローターを破損した[おおとり]は、メインローターの回転方向にゆっくりと回りはじめた。テールローターは、高速で回転するメインローターと同じ方向に回ろうとする機体を抑え、機体を常に正面に向けておくための回転翼で、機体の方向を変える役目もする。そのテールローターがラジコン飛行機の爆発の衝撃で破損したのだ。
国分はメインローターの回転出力を下げた。そうしなければ機体が大きく回りはじめて制御がきかなくなる。
 メインローターの回転数を下げたためか、[おおとり]はゆっくりと大きく弧を描くように降下しはじめた。ローターが回っているかぎり高速で墜落することはない。しかしこのままではいずれどこかに落ちる。
「だめか!」
伊達が国分に聞いた。ラジコン飛行機はあの三機だけだったらしく、レーダの画面には下の海岸線と海しか映っていない。
「何ともいえません。でも、いま狙われたらどうにもなりません。うまく海へ着水できるといいのですが…」
国分が不安そうな表情で下を見た。高度計は二百メートルあたりを示していた。
「でも、もし墜落して死んでも、伊達警視長と一緒なら幸せです」
国分が大声で言った。
「バカ、おれとおまえだけが仲良く死んだと鷲武に知れてみろ。地獄まで追いかけられて叩き殺されるぞ。とにかく降りるしかない。頼むぞ」
伊達はそう言って国分の肩をたたいた。
「わたしは、鷲武警視長だけじゃなく、伊達警視長の奥様やお嬢様にも恨まれますね」
国分は、ゆっくりと旋回しながら下降してゆく[おおとり]を必死で操縦しながら言った。
「そういうことだ」
伊達は笑った。
「覚悟だけはしてください」
そう言った国分も、ふと笑ったようだった。
 [おおとり]のメインローターは、その羽根がはっきり見えるまでにゆっくりと回っていた。機体はパラシュートで降下するほどの速さで下降していた。みるみる海面が迫ってくる。
「着水します!」
海面が迫ったとき、国分はそう言いながらスロットルをいっぱいに開けた。ゆっくりと回っていたメインローターが高速で回転をはじめた。
 機体がメインローターに合わせて回りはじめる寸前、[おおとり]は海面に着水した。
 機体が着水したのを確認して国分は素早くスロットルを戻してメインスイッチを切った。
 着水の時にスロットルをいっぱいに開けたのは、メインローターを高速で回転させて機体に浮力をあたえ、着水のショックを小さくするためだった。
「よし、すばらしい操縦だった。脱出だ」
伊達は国分に笑顔で言った。
「命だけは無事でしたね。わたしの操縦もそんなに下手ではないでしょう」
国分は得意そうな表情で伊達を見た。
「わかったから早く脱出しろ。ここで溺れたくはないからな」
そう言った伊達に笑顔を見せて、国分は半分ほど沈んだヘリから身を切るような冷たい冬の海に出て泳ぎはじめた。













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