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1膳のお箸

作者:
 ゆうじ君のお箸は、水色のかっこいい超合金ロボットが描かれていました。毎日使っているこのお箸を、ゆうじ君はたいへん気に入っていて、一日3回のごはんのたびに、2本のお箸は協力してゆうじ君の口へごはんやおかずを運びます。

 けれどもロボットのお箸はおたがいの事が嫌いでした。

「ぼくの方がピカピカでかっこいいんだぞ」
「いやいや、ぼくの方こそよくみがかれてかっこいいんだい」
といって、いつもけんかしていました。

 でも、けんかの勝負はいつまでも決着はつきませんでした。

 毎日使われているお箸の傷は数えきれませんし、ゆうじ君のお母さんはピカピカになるまでみがいてくれるので、汚れの勝負もできません。

 それならばとお箸の片方は言いました。

「今日は背くらべの勝負だぞ!」
「のぞむところだ!」

 そういって、2本のお箸は背くらべをします。けれども同じたかさなので、今回も勝負はつきませんでした。

「むー。なら、今日の夜ごはんにどっちの方がゆうじ君の口へ食べ物を運ぶか、勝負だ!」
「よーし、受けてたつぞ!」

 晩ごはんの時間になりました。2本のお箸はこぞってゆうじ君の口に料理を運ぼうとします。ですが、1本だけだと掴めないので口へ運べません。2本はけっきょく一緒になって、ゆうじ君にお母さんのおいしいお食事を届けました。

 こんかいも引き分けかなあ。2本のお箸は同じことを考えていました。

 そんなとき、ゆうじ君は大好物のミートボールを取ろうとしました。
 だけど、ミートボールはつるっとすべってなかなか取れません。どうしようかな、とゆうじ君は悩むと、いいことを思いつきました。

 ゆうじ君はお箸を片方だけ取ると、それでミートボールを刺しました。そして刺したミートボールをそのまま口へ運ぼうとします。

 このお箸はついに勝ったと思いました。くやしそうにテーブルに転がっているもう片方のお箸をみて、とてもうれしくなり喜びました。

 そのときです。ゆうじ君はゆうじ君のお父さんに叱られてしまいました。

「お箸を刺して食べるなんて、とっても行儀がわるいよ。ゆうじ君」
「はーい……ごめんなさーい」

 ゆうじ君はお父さんにあやまると、ミートボールを外してもう一度2本のお箸で掴むことにチャレンジしました。

 お箸をゆっくりミートボールへ近付けて、しっかり挟みます。見事ミートボールを食べることができました。

「よくできました。ゆうじ君」

 ゆうじ君のお父さんにも褒められて、すごくうれしくなりました。

 でも、ミートボールを刺していたお箸はちっとも喜んでいません。2本のお箸の勝負は、こんかいもまた決着がつきませんでした。

「お父さんのバカ! ぼくが勝ってたのに!」

 晩ごはんも終わり、お箸が洗われてすっかりピカピカになっても、怒りは洗い流されませんでした。

 1本のお箸はお父さんを恨み、いつまでもわめきちらしていました。透明なガラス扉の食器棚で、ゆうじ君たちが眠っている時間になってもずっとしゃべっています。

「お父さんがバカだって!」

 食器棚の奥から突然誰かの叫び声が聞こえました。不思議に思ったお箸たちは訊ねます。
「おじいさん。だあれ?」
「わしは大皿じゃ。ゆうじ君が生まれるずっと前から、この家にいたんじゃぞ」
「へー! すごいや!」
 お箸たちは口をそろえて言いました。照れた大皿のおじいさんは、バラをかたどった金色のふちを赤らめます。でも、1本のお箸が言ったことは忘れていませんでした。

「わしは、お前たちより多く年を取ったぶん、たくさん食卓に出てきた。人間たちはわしに乗せた食べ物をお箸でつまんでは口にしたものじゃ。とくに、ゆうじ君のお父さんやお母さんが、わしにのせたお魚を食べるときは、そりゃあもう、キレイに食べてくれたぞ。わしら皿たちは、それを見てはいつもやりがいを感じたぞい……ああ、わしは皿でよかったなあって。ところがお前らときたら、そういう、人間たちがキレイに食べてくれる喜びを忘れ、箸同士で争っている……これほど情けないことはないじゃて」
「でも、おじいさん。ぼくたちは、どっちがすぐれているのか、知りたいんだ」
「すぐれたもなにもあるか! お前たちは、箸なんじゃ。箸は2本で1つ。協力して、ゆうじ君にキレイなマナーを身につけさせることに、よろこびを感じなさい」
「……はーい」

 おじいさんの前では、素直に返事をしたお箸たちですが、おじいさんの言うことが理解できませんでした。ゆうじ君がどう使ってくれようとも、しょせん箸は箸です。2本は、その後も喧嘩を続けました。

 そんなある日のことです。お母さんがいつものように食器を洗っていると、1本のお箸を落としてしまい、あやまって踏んづけてしまいました。

 あっ! と思ったのもつかのま、1本のお箸は折れて2本になってしまいます。
 お母さんはあわてふためき、言いました。
「このお箸は残念だけど捨てなくちゃいけないわね」

 この言葉に、折れたお箸はショックを受けました。

「うぇーん! ぼく、まだ捨てられたくないよー!」

 同じように、もう1本のお箸もワンワン泣きだします。でも、もうもとどおりにはなりません。

 お母さんが、お箸たちを手に取ってごみ箱へ捨てようとします。そこへ、ゆうじ君がやってきました。

「お母さん。どうしたの?」
「ゆうじ君。ゴメンね。お母さん、ゆうじ君のお箸壊しちゃったの。明日、新しいのを買ってくるから、許してね」
「えっ!? やだよ。ぼく、あのお箸じゃないとイヤだ!?」

 ゆうじ君も、ワンワンと泣きだし始めました。1人と2本のお箸がそれはもう大声で泣いて、泣き声は家中に響きました。

 すると、ビックリしたお父さんがやってきます。

「どうしたんだい?」

 お母さんとゆうじ君は、お箸が折れて捨てられることを説明しました。するとお父さんは、自分の胸をポンと叩き、答えました。

「なんだ、そういうことなら、お父さんに任せなさい!」

 そういうと、お父さんは折れたお箸を持っていき、お父さんの書斎へ行きます。

 お父さんは、接着剤を用意して、お箸の断面にチョチョイのチョイと塗ると、折れたお箸はピッタリとくっつきました。
 お箸は、折れた跡が残り、もとどおりとはいきませんでしたが、ゆうじ君に見せたら、ゆうじ君はそれを手にとって大喜びしました。

「ワーイ! お父さん。ありがとう」

 お父さんはゆうじ君の頭をなでて、また書斎に戻ります。ゆうじ君はもう片方のお箸も持って、正しい持ち方で、お箸を持ちました。

 並んだ2本のお箸は、お互いの姿を見て言います。

「えへへ、ぼくの方が傷がなくてかっこいいね」
 折れていないほうがこう言うと
「ぼくのほうこそ、接着剤のおかげで背が高くなったよ!」
 と言い返します。

 けれども2本のお箸は、そんなことはどうでもよくなりました。自分たちが捨てられそうになった時、彼らはもうゆうじ君に使ってくれなくと思って、絶望しました。もう、争ったことなど、全く考えもしませんでした。

「ごめんね」
「ごめんね」

 2本は同じタイミングで互いに謝ります。そして、今日もまた、ゆうじ君に使ってもらえるよろこびを、分かち合いました。


「がんばろうね!」
「うん!」

 今日の晩ごはんは、ゆうじ君の大好きなミートボールです。2本は力を合わせて、ミートボールをゆうじ君の口へ運びました。
あくる日。ゆうじ君は、いつものようにごはんを待っていると、お母さんに手伝いなさいと言われて、お箸を運びます。

 渡されたみんなのお箸を見ていると、ゆうじ君のお箸がありません。

「お母さん。ぼくのお箸が2本ないよ?」
「あら……ごめんなさいゆうじ君。ところで、お箸は1本2本って数えないこと、知ってた?」
「えっ!? そうなの?」
「お箸はね、2つで1膳って数えるのよ。2つないと使えないでしょう? だから、2つ1組で、1膳2膳って数えるの」
「へえー……そうなんだ!」

 ゆうじ君は、渡された1膳のお箸をよろこんで運んでいきます。
 お箸たちも、ちゃんと聞いていました。

「ぼくたち、2つで1膳。一緒じゃないと、使えない」
「うん!」

 1膳の箸は、笑いながら、いつまでもそれを口ずさみました。

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