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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7章後編 プロジェクト ノア
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最果ての絶頂

ギフトはバランスを守るためにある(守っているとは言っていない)

基本的にこの話と前後を知っているか知らないかで、この小説の見る目を変えるのが目標です


 しかし彼らも脳がある。理解はすれど、それでも納得のいかない部分はたくさんあった。

 まずはシンジが単純に疑問に思ったことを問いかける。


「姉はさっきすっげえいいこといったよ。だがそんな面倒なことしなくていいじゃんか。おとなしく人を殺して殲滅すりゃ万々歳だろうが」

「おまえ実は話聞いてないだろ」


 呆れた顔をした女神。

 まさにそれは愚弟の行いを笑う姉そのもの。


「どうやって殺す? 人間を?」

「そうだ。他の神を集って総力を挙げて人間を――――」

「ストップ。これ以上自分の愚弟を馬鹿にしたくないから質問を先読みして答えておこう」


 危うく禁忌・・を言いそうになった弟を止める。


「あのさ、どうして他の神が、それをやろうとしないと思ってる?」

「はあ?」

「はっきり言うけどね。その選択は愚策中の愚策。アリどころか微生物が宇宙に挑むようなもの」


 メープルは馬鹿な弟に宿題を教えるかのようにこの世の常識を教えた。


「そんなのお兄ちゃんが邪魔をするにきまってるじゃん」


 自明の理。神すらひれ伏す摂理。


しかし生まれて間もないこの2柱には、それを理解する経験が足りない。


「だいたい僕今までで一度も人を殺してないからね」

「「は?」」

「まじまじ。1章でジョセフ・ランフォードを操りはしたけど殺してはないし、4章で八重崎咲の件はトラックに轢かれて死んだのを存在消しただけだから。だから僕一度も人を殺してません。強要はしたけどね」


 だからあの時嘉神一樹が従わなければ、それですべてが終わっていた。

 まあ、メープルは絶対に今の仲間を選ぶという確信があっての行動であるため、たらればの入る余地はかなり少ないが。


「僕クラスならば頑張ってなんとかなるけど、普通の神ならあいつの監視を掻い潜って人間を殺すなんて不可能」


 メープル本人はあたりまえのことを告げたつもりだ。しかしその当たり前を彼らがすぐに受け入れられるはずはない。

 納得していない様子を見て、メープルは目をつむったまま、一つの理不尽をのべた。




最果ての絶頂オール・フォア・ザ・ラスト・ワン




 これが神薙信一のギフトにあたる能力だと続ける。


 いかにもあれらしい能力名というのがシンジの感想だが、その実態をつかめていない。


「一言で言っても分からないと思うけど、それでも一言で表すなら、すべての能力を無限に持っている集合体」


 何やら危険な香りがするのだけは2柱は察したが、それでも聞かないといけない。


「簡単なところだと火を出したり空を飛んだりする能力。こっちらしくなら時間移動、因果操作、空間掌握。不老不死、なんなら全知全能、主人公補正やメタ技能、さらには特定のキャラαを倒す能力でもいい。とりあえずあげられるもの全部あげて、その集合をNとする」

「そのNを無効化する能力N’、この上N’を無視するN’’、おまけにN’’を無に還すN'''、なんならN’’’にN’’を突っ込んでもいいし、N’’’にN’’’を再びぶっこんでもいい。こうやってN'をずーとずーと繰り返して、N(´×∞)に所持している」

「「…………」」


 控えめに言って最悪の事実。

 無茶苦茶でハチャメチャで滅茶苦茶な能力群。


「すべての能力を無限に持っている能力」


 たとえありとあらゆる全ての神が地球を襲いにきても、『神々がいつのまにか滅ぶ能力』も『神々が心変わりをして内乱を起こす能力』も『何をしようが無敵の存在を殺す能力』も『完全に超越した存在だろうが新聞紙で叩き潰せる能力』などなど、定義することのできる能力すべて持っている。


 何しろこの最果ての絶頂オール・フォア・ザ・ラスト・ワンは、ギフトの根源なのだから。ない能力なんて存在しないのだから。


 ゆえにあの男はすべてのギフト(の元)が使える。当然、ギフトなど通じるわけがない。


「それとこれもまたあたりまえだけど、使ったことなかったりする能力はもちろんあるよ。というかそっちのほうが多い。でもだからどうしたってやつだ。そのすべてをありとあらゆる誰よりも、完璧に完全に完結に使うことができる」


 破廉恥な能力は神薙だから持っていたのではなく、神薙だから好き好んで使っただけだ。


 あまりにも馬鹿げている、こんな存在がいるのなら考えたくも関わりたくもない。


 ほかの神々がしり込みするのも頷ける。


 正攻法だろうが、裏技だろうがあれを倒すのは不可能だ。


「ただし弱点がないわけじゃないよ。というかある。それがシンボル」

「シンボル?」

「そそ。シンボル。例えば無能の代名詞となった嘉神一芽は封印するシンボルを所持している。とうぜんお兄ちゃんも封印する能力はもっているけど使えない。さらに『~~を無効化する能力』なんかも連鎖して使えなくなる。一石二鳥どころか石一つで、不死鳥やグリフォンを仕留めたくらいに価値がある」


 シンボルは、あの最悪を弱体化する。それは事実。ただし


「とはいっても、瞬間移動なんてしなくてもワープや時間停止で似たようなことが出来るように、封印する術が無くたって結果的に封印することはできる。そもそも殺す能力なんてほとんどのキャラは持っていないけど、誰かを殺すことなんてわけないでしょ」


 弱体化したところであの男が一強であることに変わりはない。


「ただそれはシンボル持ちがごく少数の場合のみ。今は十くらいしか持っている者がいないけど、果てさえすれば、あいつはただ能力を持っているだけで使うことのできない男になる」


 明確な弱点があるだけ、まだまし。

 希望だけならばまだ残っている。


 と、都合の悪いことはすべて省き、まるで詐欺師のように説明した。

 何しろ能力など使わなくとも、あの男は裸一貫で存在する誰よりも強いのだから。


 希望はすでに潰えているのだから。


 それをしらないハヤテは


「なるほど。その能力で人間を守っているのであれば、神が手出しできないのも仕方ないだろう。だったらもう少しほかの手段があるのではないか」


 見事に騙される。


「言ってみてよ。他の手段ってやつを」

「神なのだ。世界を作ることなど造作もないはず。朕ですらできるのだ。なぜ母上を含め他の神は率先してやらない」


 世界の創造など神の十八番。ハヤテはそう言いたかった。

 消されるよりも多くの命や魂を、神が作ればいい。そうすれば被害なんて無視できる。


「はあ。その発想はちょっと危ういよ」

「危ういだと? 朕はまじめに意見を出したつもりだが」

「だろうね、神様としてそれは正しい意見だ」


 だがメープルが2柱に求めているのは人間性・・・である。


「なるほど、確かに神様はそう考えるべきだ。でもね、僕は嫌だ。1500人つくったから1000人を見殺しにするだって。そんなの認められるわけがない。これでも僕はね、全知全能の神様なんだよ。苦しむ魂の訴えが分からないなんて、どんなことがあっても絶対に言わない。言いたくなんかない」


 これもまた真実。

 この女神が伝えた嘘は希望があるのみである。


「知っていて、分かっていて、理解しているのなら、助けるしかないじゃん。救いの手を差し伸べることこそ、本当の意味で神の十八番だよ」


 この女は神。

 悪意に脅かされながらも、あれのどうしようもなさを誰よりも知っていながらも、自分の信念だけは曲げることのなかった最も尊い、人類以外の最後の砦。


「だから覚えておくといい。命は足し算なんかじゃない」


 希望と救済は女神の神髄。


「だいたい1500を作って1000滅ぶのを黙認するより、1000作って100まで被害を減らした方がいいに決まっているじゃん。最善をつくして何が悪いんだ。僕、何か間違えたこと言っているかな」

「何も……何も間違えていない……! 朕が間違えていた。母上が全面的に正しい」


 涙を流し、それをメープルがハンカチで頭をなでながらふき取る。

 場所と恰好が違えば、兄弟の温かい絆に見えていただろう。


「それにさ、ものすっごく勘違いしているけど、お兄ちゃんは仕方なく異世界人を犠牲にしているわけじゃないからね。増えたら増えたでもっと酷いことになるよ」

「はあ?」


 ここにきてシンジとしてはとんでもないちゃぶ台返しをされたと思ったが、それはあくまで己の理解が足りていないだけである。


「むしろ好き好んであんな酷い仕打ちをしている。だって考えてみなよ。すべての能力を持っているなら、コストやリスクのない能力を持っていたっておかしくもなんともないだろ?」

「それは……そうだが」


 百里もあれば、たとえ馬鹿でも納得はするであろう。


 しかしならば、この先の問いかけはひとつしかない。


「だがなぜだ。なにが目的でそんなことに」

「簡単だよ。それはね――――」


 女神は告げる。悪意の意味を。


 しかし、その続きを告げたのは女神ではない。

 全ての元凶。否、元兇。


 最悪の存在。

 人外の天敵。

 意思を持った害悪。


「――――人間が、好きなんだよ」


 【理不尽な絶望】が、やってきた。



最果ての絶頂ですが、次章でもうちょい詳しく描写します

なお、嘘偽りなく神薙さんは全ての能力を無限に持っています

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