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神様は働かない 作者:shiro
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邪神さんと生贄さん 6

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「お待たせ」
「あ、おかえりなさい。いいお湯でしたよね」
 入浴を少し早めに済ませ、厨房に戻ってきたフィルをフラウは上機嫌で迎える。
「ああ、やはりさっぱりすると気分がいいね。さてと、風呂上がりに一杯もらうかな」
自分の分の酒杯にピケットを注ぐ。
先ほど飲んだものと違い、冷たいのど越しが、乾いた体に染み渡る。
一人で怖くなかったか尋ねると、
今度は明るかったし、光る器や窯の火を見張っていたら気にならなかったとフラウ。
その言葉に安堵しつつ、残りを飲み干す。

「ふぅ、風呂上がりは美味いな。そうだ、明日からの事なんだけど。あの村って服が買えるような店はあるかな?」
フィルの質問に指に手を当て少し考えるフラウ。
「ええと、村に雑貨屋さんが一軒あるのです。そこにお洋服や布が売っているのです」
そこ以外ではたぶんないと思いますと答える。
「なるほど、じゃあ、明日はフラウの服を買いに行こうと思うんだ」
服を買うという言葉に喜ぶかと思ったフィルだが、
フラウの方はというと少し気まずそうな顔をしている。

「あれ、うれしくないのかい?」
「ええと、私、お金が……」
気まずそうな原因が分かり、なるほどとフィル。
「お金なら僕が出すから大丈夫だよ。フラウは気にせず好きな服を買うといいよ。いつまでもその服でいるわけにもいかないだろうからね」
サイズが合わないせいで、ゆったりとしたローブのような生贄服は、
どこか浮世離れしていて、何かの巫女を思わせたが、
日常生活に使うには不便そうだった。
それに何より、薄手の生地は耐久性があるようには見えず、
傷んでしまう前に、しっかりとした服を手に入れたかった。

「君の家族に会って、前まで着ていた服を譲ってもらうのも考えたのだけど、今はまだ、お互い顔を合わせるのはつらいんじゃないかと思ってね」
家族という言葉に一瞬、フラウの動きが固まる。
やはり自分を捨てた人間と顔を合わせるのは思うところがあるのだろう。
「どのみち、その服一着のままという訳にはいかないし、簡単なものでいいから幾つか服をそろえておこうと思うんだ。ああ、寝間着も欲しいな」

そこまで言ってから、ふと思いつく。
この家に使用人が住んでいたのなら、もしかしたら……
「……ねぇフラウ、今からこの屋敷を探して、何か着れる服がないか探してみようか?」
 気分転換に提案した、ちょっとした宝さがし、
フラウの方はといえば、暗闇の中を探すことに少し躊躇しているようだった。
「お部屋を探すのですかですか? ……ちょっと怖そうです……」
「それなら、僕と一緒に探せば大丈夫だよ。なに、二人一緒で、ここにある明かりも持っていけば、怖くなんてないよ」
それなら怖くなさそうと、今度は少し緊張した面持ちで、はいっと頷く。
「よし、じゃあ、それを飲んだら出発しようか」
「ほんとに、一人にしないでくださいよ?」
飲み終わった酒杯を軽く洗ってから、
二人はそれぞれライトのかかったコインと聖杯、ランタンを持ち、
二階の使用人部屋へと向かった。


再びやって来た二階は、二回目とあって屋敷に慣れたこともあるが、
二つのライトにランタンと、先ほどと比べ沢山の照明に照らされ、
ランタン一つだった一回目とはだいぶ印象の異なる空間となっていた。
なるほど、明かりに照らされた壁や絨毯は、
窓の外の暗さ比べることでより色彩が映え、
昼間の時よりも、むしろ明るい空間という印象となっている。

「なんだかさっきと全然違いますね」
屋敷にもだいぶ慣れたのか、
これなら怖くないかもと話すフラウ。
とはいえ、一人で寝るのはやはり怖いらしく個室の提案はすぐに却下される。
「いじわるしないでください」
泣きそうな顔で見つめてくるフラウにもうしないからと謝りながら
まずは客間へと向かうことにする。

客間の扉を開け、中に踏み込んでみると
先ほどと異なり、部屋は明るく照らし出される。
十分な明かりのある部屋は、朝の時のような
明るい雰囲気を漂わせており、怖さもほとんど感じられない。
「これは、やっぱりきちんと照明を用意しないとだね」
明るさに感謝しつつ部屋を物色する二人。

一通り各部屋をまわり、それなりの品を見つけた二人は
とりあえず戦利品をフィルの部屋へ運び、戦果を確認することにした。
どの部屋もベットやタンスなどの家具はあるものの、
大半の物は持ち去られており、
特に主人の部屋は証拠品集めを兼ねて徹底的に行われたのだろう、
備え付けの家具以外は、ベットやシャンデリアも含めた全ての物が持ち去られていた。

「こうしてみると、人が居ないって寂しいですね」
灯りのおかげで明るくても、やっぱりちょっと怖かったです。とフラウ。
「そうだね、人の住んでいない建物というのは、確かに寂しいものだね。フラウはこういう場所初めて?」
「はい、夜はずっとおうちにいましたし、他の人の家に行ったこともほとんどないですし、フィルさんはどうです?」
「僕は冒険者だったからね。昔の街の廃墟とか幽霊屋敷とかも何度かあるかな」
「わぁ……幽霊屋敷って、幽霊がでるのです?」
幽霊屋敷という言葉に興味を持ったらしく、フラウは幽霊屋敷のことを聞きたがった。
フィルもまんざらではないようで、当時の事を語って聞かせる。
「あるアーティファクトを追っていた時に、大昔のある錬金術師が持っていたという事を知った僕たちは、その錬金術師が住んでいたという廃屋に行ったんだ」
 そんなことを話しながらクローゼットやタンスの中をのぞき込んだり、備え付けの机を物色する。
「廃屋には地下室があって、そこにアーティファクトはあったんだけど、錬金術師のゴーストも一緒にいてね。僕たちに帰るよう警告してきたんだ」
「いきなり襲われたりはしないんです?」
「それは幽霊によってバラバラだね、彼みたいに警告してくるのもいれば、問答無用で襲い掛かってくるのももちろんいるよ。王族の墓で配置された幽霊なんかは見つけた途端おそいかかってきたからね」
「うう……、やっぱりこわいですね」
「はは、まぁその錬金術師の時も、原因がもう死んじゃっている相手への復讐で、もう死んでいないって言ったら逆に怒らせちゃって戦闘になっちゃったんだけどね。それから幽霊を破壊して、復活してきたところでもう一度説得して、アーティファクトは無事手に入れることができてめでたしといった感じかな」
「幽霊って倒せないのです?」
「ああ、武器や魔法で破壊するだけじゃ倒せないんだ。倒しても数日で元通りになってしまってね。だから幽霊と出会った時は、相手の話を聞いて、成仏させるのが一番正しい方法になるんだ」
「なるほどです。幽霊って大変なんですねー」
「まぁ、普通の幽霊なら、未練の内容もそれなりだけど、大抵は復讐だったりするんで手を貸すわけにもいかないんだよね」
いまいち怖くない幽霊話をしながらも、二人は順調に部屋の調査は進めていった。

「意外と物はあるもんだな……けど」
二人で部屋を物色した結果、結構いろいろなものを見つけることができた。
フィルの自室に戻った二人は、さっそく戦利品の確認を始めた。

 ・おそらくはお仕着せとして用意されていたのであろう女性のメイド服が数着(下着はなかった)
 ・エプロン
 ・少し古びたタオルが大小それなりの数
 ・男性物の服(おそらく元の主人のだろう。洗いたてのようだから洗濯中の物か)
 ・古びたランプ二つ(それ以外は備え付けすらないとは……)

メイド服は価値がないと判断されて置いてかれたのだろう。
どれも綺麗に使われており、そのまま着ても問題なさそうだが、
残念なことに、どれもフラウには大きいサイズばかりだった。
だがフラウは綺麗な服に興味津々といった感じだった。

「こ、これでも裾とか袖とか揃えれば何とか」
「いやあ……それだけずれていると大変じゃないか?」
「でも、これを直せればお洋服にはこまらなくなるですし、やっぱりもったいないですよー!」
メイド服がかなり気に入ったのか広げて自分の肩幅に合わせながら
フラウはどうやったら着られるか必死に考えているようだった。
とはいえ、通常の少女よりもさらに華奢なフラウでは
一般サイズとはいえ大人が着る服はかなり大きすぎた。
「まぁどこかで仕立て直してもらうのが一番じゃないかな……お、こっちの夏用は袖が短いから、とりあえず、これなんかどうだい?」
試しに着てみると、スカートの腰回りや肩回りにかなり余裕があるのはまぁ仕方ないとして、
スカートの裾は地面についてしまっていたり、
短袖のはずなのに肘にかかっていたりと、
文字通り大人の服を着た子供状態となっていた。

「うーんやっぱり大きすぎるか」
「これぐらいなら大丈夫です! あとは少しスカートの裾を縛っちゃえば転んだりもしないです」
そう言うと、スカートの端を左側に寄せて縛って裾を詰める。
「これで裾を踏んづけたりはしないはずです」
「ははは、今日はそれでいいとして、あとで仕立て直してもらおうね」
「はいです!」
寝間着を得たフラウは部屋の姿見の前でくるくる回って服のチェックを楽しんでいた。
フィルもそんなくるくる回る少女の姿を楽しそうに眺める。
「今日はなんだかいろいろなお洋服が着れて、ちょっと楽しいです」
「あはは、その分大変な目にあっているんだし、割に合っていないと思うけどね」
少し止まって、思案するフラウ、
でもやっぱり今は楽しいですよとにっこり笑うと、
フィルもまた笑顔で返す。

「さてと、そろそろフラウは眠ったほうが良いかもしれないね。そこのベットを使うといいよ。僕はソファーを使うから。」
夜も更けてきたこともあり、
フィルはフラウにそろそろ眠るように促しながら。
自身は机に座り分厚い本を開きながら読書を開始した。
まだ寝ないのか尋ねるフラウに、
魔法使いは明日の呪文の準備をする必要があるから先に眠っておくといいと教える。

「明日は家の照明を増やす呪文を使おうと思ってね。ああそうだ、明日なんだけど雑貨屋に行く前に、どこかこの村を見渡せる見晴らしの良い場所とかあれば連れて行ってもらえるかい?」
「あ、はい、それならいい場所があります。楽しみにしててくださいね」
 ふふふっと笑うフラウ。
その後、ベットに入り毛布をかぶると、まだ少し眠れないのか、フィルに話しかける。
「えへへ、実は毛布って初めてなんです。藁と違ってふわふわですね!」
「そうなんだ、初めてなのかー、僕らも旅する時は毛布は持っておくんだ。外で野宿するときとかも体を冷やさずに済むし、襲われてもすぐに反撃することができるからね」
「もうっ、フィルさんの毛布だと、贅沢なお金持ちというより、怖い兵隊さんみたいですー」
「あはは、冒険者だったんだししょうがないよ、ごめんね怖がらせてしまったかな」
「あ、大丈夫です…。でも……、もうすこし……」

声はいつの間にか聞こえなくなり、
見ればフラウは眠ってしまっていた。
寝息をたてる少女に、もう少しの後を聞きたかった気もしたが、
それはいつでも聞けるだろうからと、
フィルは再び呪文書に目を戻し、明日の呪文の調整に入った。


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