挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
神様は働かない 作者:shiro
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

6/42

邪神さんと生贄さん 5

 ---------


厨房に戻ったフィルは暗闇の中、自分のバッグを探り、
太陽のシンボルが装飾された美しい黄金の盃を取り出すと、一言、合言葉を呟く。

盃はライトの呪文と同じ白く明るい光を放ち、
それまでランプでかろうじて照らされていた厨房をさらに明るく照らし出す。

ゴールデン・チャリス・オヴ・サン……太陽の聖杯と呼ばれるこのアイテムは、
大層な名前を持ってはいるが、
その実、ライトの魔法のように明るく輝く能力と、
癒しの力を三回まで利用できるというアイテムだった。
さらに言えば、癒しの力はすでにこれまでの冒険で使い切っており、
今ではもっぱら、キャンプ時の手ごろな照明として使われていた。

光る聖杯をテーブルの上に置き、
厨房の隅の椅子に腰かけ、
さらに腰のバッグを探り中から別の金色の酒杯を取り出したところで、手を止め……
考え直してそれを戻すと、戸棚から別の酒杯を取り出し、
食料庫を物色することにした。

夕方の一件で大分食料が無くなり、
ずいぶんと寂しくなった食料庫を物色していると、
おそらく使用人達が自分のために作っておいたのだろう奥の隅の方に
「ピケット」と手書きで書かれたラベルの貼られた瓶を二本ほど見つける。

一本を取り出して酒杯に注ぎ、まだ飲めること確かめると、
水の張ったタライを準備して、短く呪文を唱えた。
凍えるような空気と氷の光線がフィルの指先から発射され、
タライの水に命中すると水面に幾つかの氷を浮かび上がらせる。

レイ・オブ・フロスト……見習い時が最初に覚える初歩魔法のうちの一つであり、
戦闘に用いれるような威力は殆どないが、
物を冷やしたりするときに何かと重宝する魔法だった。

タライに瓶を入れて、ようやく一息つけると酒杯に口をつける。
ピケットはワインを作る際に搾り取った葡萄の搾りかすに水を加え、
もう一度無理やり絞って液で作る薄く粗悪なワインだが、
それだけにアルコール分が低く飲みやすくもある。
搾りかすで作られた葡萄酒特有の薄く酸味のある味で喉を潤しつつ、
窯の火を見守るついでに、時折はぜる薪の炎をぼんやりと眺めながら、
フィルは今後の事を考えた。

(明日はどうするかな。あの子の服とか揃えておいたほうがいいだろうし、減った食料とかも補充しないと)
他にも照明も必要だろう、
蝋燭や油やランプ、こういった使えそうなものは、
殆ど全てが使用人に持ち去られていた。
フラウをこれ以上怖がらせないためにも、
これらは早急にも補充しておくべきだろう。
いや……明かりだけなら燃料を買うより
『コンティニュアル・フレイム』を準備したほうが便利かもしれない。
必要になる素材もたしか手持ちにあったはず……。

そんなことを思いながら、明日、何を買おうか考えていたフィルだが、ふと、その思考が止まる。

お金についての懸念だった。
正直、これまでかなりの冒険を重ね、
この間倒した火竜の財宝が、誤差の範囲内と言えるぐらいには資産は十分にある。
よほどのマジックアイテムでもない限り、大抵のもので購入できないものは無い。

だが、村人には自分は未熟な魔法使いと伝えている手前、
ここで、自分が湯水のように金貨を使うところを見せたら、
困窮している村人たちにどう思われるかは想像に難くない。

元より無駄遣いをするつもりは無いが、
あの娘が苦労しない程度にして、贅沢は控えておいた方が良いだろう。
そう考えたフィルは腰のバッグの中から金貨を百枚ほど取り出すと、
それを皮袋に入れ替え、ベルトの別の場所に付いている、
魔法がかかっていない通常のポーチへと移した。
魔法の助けが無くなり、確かな重量が腰に来るのを感じる。
(このくらいなら、それほど怪しまれないで済むかな。とはいえ、何か稼ぎ口も考えないと)

よく世間では金貨二枚あれば一か月は暮らせるというが、
それは自給自足が可能な農家などの話だ。
フィルのような生産能力の無い冒険者では
宿代や食事代で金貨二枚では二日持たない……フラウの分も考えれば一日三枚は確実に必要となる。

いくら、この家に住んで宿代がいらないとしても、
食事や燃料の購入でやはり金が要る。
そう考えると金貨百枚というのは、どうにも心もとない。
今後のためにも何らかの収入源は作っておくべきだろう。

(野菜でも作ってみようかな……)
自分が野菜を作っているところを想像してみる。
悪くはないのだが、技術も経験も土地も持たない身では、大したものは育てられない。
自分達で食べる分を趣味の範囲で育てるのがせいぜいだろう。

(マジックアイテムでも作って売るか……)
マジックアイテムの制作には魔法の技術だけでなく、
アイテムを制作するための特技も必要となるのだが、
幸いなことにフィルはそれらの特技を収めており、
さらに言えば、マジックアイテムを作るために必要となる素材は、
これまでの冒険でかなり手に入れていた。
手持ちの素材で作れるアイテムならば、材料費もかからないので儲けも大きい。

今度、街に行った時にでも武器を買って試してみよう
……こんな事なら、オークを倒したときに手に入れた武具は、
すぐに売り払うんじゃなかったかな……
そんなことを考えていると風呂から上がったフラウが厨房へと入ってきた。


お風呂に入りさっぱりしたのがよほど嬉しかったのだろう、
先ほどの不安そうな様子から一転、すこぶる上機嫌になっていた。
「お待たせしましたー! すごくいいお湯でした! わぁ……ここも明るいですね!」
ほんのり火照った顔でタオルで湿った髪を乾かせながら
厨房に入ってきたフラウはフィルが飲んでいる盃に目を止める。
「あーお風呂に入る前からお酒を飲んでいるんですかー?」
しかたないですねーといって笑う、そんなフラウに対して、
薪の世話で熱くてね。とごまかしなが氷の入ったタライを示した。
「ピケットだからフラウでも大丈夫なはずだよ。そこに冷やしておいたから飲むといい。風呂上がりだと喉も乾いているだろう?」
そう言って、タライから瓶を取り出すと、もう一つの酒杯にフラウの分を注ぎ入れる。
一口飲んでみて、既に季節は初夏だというのに、その冷たさに少し驚く。
「わぁ……すごく冷たいですね」
「そうだろう? 喉が渇いている時に冷たい飲み物飲むとすっきりするんだよね」
風呂上がりで喉が渇いていたのだろう、
瞬く間に酒杯のピケットは無くなり、
フィルはお代わりを注ぎ入れる。

「えへへ、なんだかちょっと贅沢ですね。やっぱりこれも魔法なのです?」
「ああ、冷気の魔法だよ。初歩の魔法で戦闘にはあまり役に立たないのだけど、こういうのに便利でね」
フラウはタライへと近寄ると、
「わ、つめたっ! 魔法ってすごいですねー」
と、楽しそうに冷たい水桶の氷水に手をつけたり、離したりしている。
水面に手をつけては冷たそうな表情になる少女のそんな様子しばらく眺めたあと、
フィルは浴室に向かうことにした。
「それじゃ、僕も風呂に入ってくるね。何かあったら、大声で呼んでくれればすぐ向かうから」
「はいです。それじゃあ、しばらく火を見ていますね」
水桶でひとしきり遊び終え、
髪を乾かすついでに窯の傍の椅子に座って番をすることにしたフラウへ
そう呼びかけるとフィルは浴場へと向かった。

 ---------
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ