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神様は働かない 作者:shiro
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邪神さんと生贄さん 3

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「わぁ……」
厨房に入るやその広さにフラウは歓声を上げた。
そして厨房の設備を見つけ、興味津々といった表情で部屋を見回す。
「すごく広いですね。私のおうちとは全然違うのです」
と言った後、自分が売り飛ばされた事を思い出したのだろう。
「もう、私のおうち、じゃないですね」
と、少しばつがわるそうに照れ笑いをする。

フィルはどう答えれば良いか迷う。
そうだねと言うのも残酷な気がするし、
そんなことは無いと言うのも無責任な気がする。
「フラウが、君が良ければだけど、この家に居てくれても構わないよ。僕の方は歓迎する」
「私、ここにいてもいいのです?」
「ああ、僕もこの屋敷に一人では少し寂しいかなと思っていたところでね、居てもらえると助かる」
結局、悩んだ末に出てきたのは、少女の住処を提供するという無難な選択だった。
フィルの言葉を聞き、少なくとも家から追い出されることは無いと安堵の表情を浮かべるフラウ。
そんな少女を見ながら、なんとかこの娘を喜ばせてあげられないものかとフィルは思案する。

「そうだ、ここにいる間は厨房を好きに使うといいよ。僕一人ではとてもじゃないけど使いこなせそうにないからね」
「ほんと!? いいの? っです!」
思わず普段の口調で言ってしまったのだろう。
言って気付き、後から慌てて、ですを付け足す。
フィルは少し笑うと、気まずげな表情の少女の頭を撫でてやる。
子どもらしい、きめ細かい髪がさらさらと流れる。
「ああ、君が手伝ってくれるなら大助かりだからね」
言葉遣いを怒られなかったことに安堵した少女は、少しはにかんで見せ、
さっそく厨房を興味深げに見て回る。

「すごいですね! 何でも作れそう!」
料理に興味があるのだろう、
厨房の食器や器具を手に取り、興味深そうに眺める。
戸棚の中を開けて使い勝手を確認する様などは、
まるで新居を確認する若奥様のようだとフィルは思った。

「あはは、実は僕も昨日からこの家に住みだしたんで、何が何処にあるのかもよく分かってないんだけど、確かに、ここなら大抵の物は作れそうだよね」
「この窯とかパンがたくさん焼けそうですね! パンが食べ放題ですね!」
設備をのぞき込んだり、棚の中を開けてみたり、
楽しそうに見て回るフラウ。
そんな少女の様子をこちらも楽しそうに眺めつつ、
先ほどの件ですっかり冷めてしまった麦粥を再びコンロにかける。
火種がコンロの中に残っていること確認し、薪をつぎ足し、火勢を回復させ
しばらく鍋をかき混ぜつつ温めなおし、頃合いを見て器によそる。

「さてと、それじゃ、居間に戻ろうか、食堂は広すぎて少し苦手なんだ」
「そんなに広いのです?」
トレイに器とスプーン、それとコップを載せて、準備が出来たフィルの言葉を聞いて
フラウは食堂に興味を持ったようだった。
厨房から出てすぐ向かいにある食堂の扉を教えると、
とととっと扉に向かい扉を開け覗いてみる。
中のぞき込んで、やはりわーと歓声を上げる。

食堂は先ほどまで二人のいた居間よりも少し広い部屋に、
片側に五脚ずつ、十人が広々と食事をとれる大きなテーブルが置かれていた。
そして、テーブルの中央には主人用なのか左右よりも豪華な椅子が置かれている。
だが、部屋は壁もテーブルも椅子も豪華なのだが、
シャンデリアや絵画などの装飾品は全て没収されており
そのせいで、豪華なテーブルもかえって寒々しく感じられてしまう。

「すごい広いですね! お城みたいですね!」
こういった食堂を見るのは初めてなのだろう。フラウが興味深そうに言う。
「まぁ、元は貴族の屋敷だったところだからね。さすがにこの部屋は二人で食べるのはちょっと広すぎなんだよね」
正直、こんな場所では一人で食べるときはもちろん、
二人で食べるにしても落ち着かないだろう。
「確かにちょっと二人だけだと寂しそうですね」
納得したフラウはそっと扉を閉める。

戻ってきたフラウをつれて、出来上がった料理を居間へと運ぶ。
テーブルに料理を配し、向かい合ってソファ―に座る。
「さぁ、食べようか、適当な男の手料理だから、味はあまり期待しないでね」

少し低めに作られたテーブルは食べるには少々不便で、
二人とも皿を手に持っての食事となった。
少女がスプーンですくい、口に運ぶのを見守る。
「おいしいです!とっても!」
フラウがまずそうな表情をしなかったことにまずはほっと安堵する。
「そっかぁ、それはよかったよ。いやぁ……女の子に食べてもらうって結構緊張するな。これまでは味に頓着のないオヤジばかりだったからね」
「ふふふ、そうなのです? とっても美味しいです」
食べてみると、塩味だけでなく、干し肉の旨味もしっかりついており、
我ながら、なかなか良く出来た味だった。

聞けばフラウは朝に食べたのを最後にずっと食べていなかったのだという。
よほど空腹だったのか、恥ずかしそうにお代わりをするフラウに、
フィルは笑うと皿を受けとり厨房へ向かう。
そのあとをフラウもついてくる。
「ん? フラウは部屋で待っていてもいいんだよ?」
「あ、えっと……えと、一人でいるの、いやで……」
「そう? じゃあ行こうか」
ほっとする少女に少し違和感を感じつつ、
厨房に戻りお代わりをよそり、再び居間に行く。
「うーん、もう少し厨房との距離が近いといいんだけどね」
「えへへ、ご飯を運ぶのにこんな廊下を歩くなんて初めてです」
他愛ない会話をしつつ、むしろ晩御飯ともいえる昼食が終わるころには、
外はすっかり夕刻となっていた。

厨房へと再び戻り、洗い物を手伝ってくれるというフラウと二人
食器を洗い片づけていると、フィルの耳に昼間同様の足音が聞こえた。
今回は荷車だろうか、何かが転がる音も聞こえる。

「どうやら村長さんが皆を連れてきたみたいだね」
何気なくフラウを見ると、少女は身を強張らせていた。
(自分を殺そうとした人達だもんな……無理はないか)
そんなフラウを見て、少女が安心できればと、
頭を撫でてやりながら話しかける。
「僕は一度挨拶に行こうと思うのだけど、フラウはどうする?」
「あの……ここにいてほしいのです!」
見れば少女は震えていた。
そんなフラウを一人にしても置けず、そのまま部屋で留まっていると、
村長達は荷物を積み終えたのか、
足音と、荷車の音は次第に遠ざかっていった。

「もう皆帰ったみたいだね……フラウ?」
「ごめんなさい……ごめんなさい……ううぅ、ぐすっ」
謝罪の言葉は次第に嗚咽に代わり、
とうとう少女はフィルにしがみつき、泣き出してしまった。
あふれる感情は少女ではどうすることも出来ないのだろう、
泣き声は一向に止まることはなかった。
「大丈夫だよ、ずっと辛かったんだろう。全然普通の事だよ」

これまでの事を考えれば当然だ、
これまでずっと普通に話したりしていた知り合いに殺されそうになり、
さらには売り飛ばされたのだ。

フィルには慰めの言葉も思いつかず、
他ににどうすることも出来ず、
ただ頭を撫で続けることしかできなかった。

「もう、大丈夫かい?」
「はい……あ、ありがとう……です」
 フラウが泣き止むころには夜もかなり更けてしまっていた。
外の様子はだいぶ暗くなり、
ランプが一つしかない厨房もすっかり暗くなってしまっているが、
幸いな事にここ数日続いているという晴天は夜でも雲一つ無い天気のようで、
おかげで月明かりが部屋の様子を照らし出してくれている。

謝るフラウの頭をぽんぽんと叩くと、
弱々しくだが、ようやく少女も笑顔を見せてくれるようになった。

「さてと、今日はそろそろ休んでしまおうか。いろいろあって疲れただろうし。そうだ、お風呂もあるから使ってみるかい?」
「え、いいのです? あ、でも、お風呂の用意ってたいへんじゃ……」
「大丈夫、大丈夫、結構すごいから行ってみるといいよ。と、まずは明かりを準備しようか」

そう言うと、フィルは厨房の壁に掛けられたランプに向かった。
厨房にはコンロに火をかけられるよう、
火が灯ったランプが残されており、
暗い厨房の中、そこだけが生きた場所かのように照らし出されていた。

フィルはカバンから自分のランタンを取り出し、
ランプの炎をランタンに移す。
壁のランプの明かりだけでは心許なかった空間に、
明るさが追加される。

「これで良しと、さぁそれじゃ案内するよ」
案内された先は厨房のすぐ隣の扉だった。
扉を開けると三畳ほどの広さの脱衣所、
そして脱衣所の先の扉の中をのぞいたフラウは歓声を上げる。

「すごいです! お風呂ってタライじゃないんですね!」
そこには水を一杯に湛えた、大きな石造りの浴槽があった。
向かって右手からは水が二筋流れ込んでおり、
常に水が入れ替わるように作られている。

「ここから、水が流れているんですね」
「ああ、ここは厨房とつながっているようでね、あそこの井戸から水を引いているみたいなんだ」
厨房の窯で火を焚くことでここが暖かくなるようだねと説明し、
いったん二人は厨房に戻り、窯に火を入れる。
暫くして火が回り、十分な薪を投入したところで、窯の蓋を閉める。

「これでしばらくすれば温かくはずだから、それまで、上の部屋を案内するよ」


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