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神様は働かない 作者:shiro
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邪神さんと冒険者さん 4

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「あ、フィルさーん。こっちですよー」
夕食を食べに食堂へ行こうと、
一階の階段を降りていた二人を
聞き覚えのある声が呼びかけてきた。
見れば、先ほど見捨てたバード少女が一人。
四人席のテーブルに座りフィル達を呼んでいた。
遠慮のない大声で、手をぶんぶんと振って嬉しそうに呼びかける姿に、
店内の客の視線が自然と少女へ、その次にフィル達二人に注がれる。

このまま何もなかったことにして
回れ右をして部屋に戻ろうとも一瞬考えるが、
動くよりも早く、フラウがとととと、バード少女の方へと駆けていく。
先ほどまでずっと心配していた心残りが無事だったことに安心したのか
嬉しそうにテーブルに駆け寄る少女をみて、
もはや、戻ることは出来ないなと内心ため息をつく。

「わぁ~お姉さん大丈夫だったです?」
「ええ、おかげ様で、衛兵の皆さんもとても優しかったですよ。おおー随分可愛い服ですね。新しい服ですか?」
「えへへ、今日、フィルさんに買ってもらったんです」
さっそく、新しい服を褒めてもらい上機嫌のフラウ。
褒めてもらったお礼を言い、ごくごく当たり前な疑問を一つ。
「あ、でも、どうしてここが分かったのです?」
「いやー、ほんと、どこへ行ったのか分からなくて、途方に暮れていたんですけどね。“偶然”見てたって人が居て、“親切”に教えてくれたんですよー」
そんな少女のフィルへの若干の当てつけも気づかず
すごいですね!と無邪気に喜ぶフラウ。


(偶然……いやいや、違うだろ……)
フィルはそんな、一見、ほほえましい再会の様子を
少し離れたところで呆然と見ていたが、
情報収集と交渉のエキスパートだと、
つい先ほど自分でそう考えていたことを思い出し、
自分の見通しの甘さを今更ながらに呪った。


「ささ、こちらにどうぞ! ここ、フィルさんの予約席ですからね!」
「そうなのか、それなら何故君がここにいるのか、説明してもらえるかな」
嬉しそうにどうぞ!と席を示す少女に、
もうなぜ自分の名前を知っているのかとか、
どうしてこの宿の席の予約を知っているのかとかは
この際聞かないことにする。
バード少女への敗北を認め、フラウと二人
少女の向かいの席に着く。
だが、最後のささやかな抵抗に、ここにいる理由を問う。


「それはもちろん、フィルさんに竜退治のお話を聞かせてもらうためですよ。あ、申し遅れました。私、サリアといいます。最近バードになったばかりの新米なんですけど、冒険者です」
少女は、そんなフィルのささやかな抵抗も笑顔ではねのけ直球で理由を答える。
こうしてみると、広場ではあまり気にしなかったが
少し子供っぽいものの、なかなかの可愛らしい顔をしており、
明るい雰囲気はいるだけで場の空気が和らいでいく。
なるほど、これなら酒場とかで歌えば喜ばれることだろう。
素直に包み隠さず正面からぶつかってくる様は
見ていて気持ち良いもので、応援してあげたくなるが、
自分の事を知ろうとしているとなると話は別だ。

バードというクラスの者は、
なにかと知覚に優れていたり、勘が良い者が多い。
さらに交渉の副産物としてか、真意看破に長ける者も多い。
それは、小さな予兆から、大きな悪事を探し出すことに
多大な効果を発揮するのだが、
今のフィルにとっては、
バードが近くにいるという事は、些細な痕跡から
自分が破壊神だとばれる可能性が一気に高くなる事を意味している。

「僕はフィル、で、こちらがフラウ。残念だけど、竜退治をしたのは僕じゃなく父親の方なんだ。だから竜退治の話は僕にはできないんだよ」
とりあえず、村人の時と同じように、ばれるのを覚悟で、
全てを父親のせいという事にして断ることにする。
真意看破で見破られたところで
自分が関わりたくないからという言い訳をすれば相手も引き下がってくれるかもしれない。

自分が竜殺しじゃないというフィルの言葉に
サリアは予想外といった顔をしたが、
すぐに、興味津々といった顔になり、更にフィルに質問をぶつける。
「ええ? でもフィルさんはフィード村の竜を倒して、そのあと、この街の危機を救った英雄だって、衛兵の皆さんは言っていましたよ?」
(バード相手なら仕方ないとはいえ……そこまで喋らなくても……)

おそらく、兵士達は、フィルの事を
頼れる名士ぐらいに考えているのだろう。
迷子の案内や、街のガイドも兼ねる街の見回り兵なら尚更、
聞けば名物の一つ程度のノリで答えてくれるのだろう。
今はそんな兵士達の高い職業意識が少し恨めしい。

「ああ、少し手違いがあったようだね。とにかく、僕の方からは話せることはないんだ。申し訳ないね」
「そうですか……あ、フィルさんの御父上って一人で火竜を倒したのですか?」
「いやぁ、その辺は僕も詳しくは知らないんだ」
倒した後に手に入れた家を押し付けられてねとフィル。
「そうなんですか……うう~ん」
そんなフィルの言葉に、サリアは更に掘り返そうとはせず、
興味深げにフィルをじっと見つめ、そのあとでふむと頷く。
その様子に、フィルは真意看破されてるなーと思いつつも
自分の方から何かするということも出来ずに、相手の出方を見守ることにする。
サリアは少しの間、何か考えていたようだったが、考えがまとまったらしく、
うんと小さく頷くとフィルに提案を出した。

「あ、フィルさん。今、フィルさんって火竜の巣穴に住んでいるって本当ですか?」
(そこまで聞き出しているのか)
この短時間で、事前情報をきちんと入手している手腕に、
なかなか良いバードなのだろうとフィルは心中で評価する。
とはいえ、できれば自分に関係ない所で頑張ってほしいのだけど。
「ああ、巣穴の入り口だけどね。そこの家に住んでいるよ」
「ええと、それじゃあ、こんなお願いも図々しいと思うのですけど、火竜の巣を私も見せてもらうことってできますでしょうか?」

ちょっと恥ずかしそうな照れ顔で
年頃の女の子がするお願いにしてはどうかと思う。
それにしても……正直なところは、
すぐにもあきらめて帰ってもらいたいところだが……。
「それは、かまわないけど……別に面白いものは無いよ? 死体もすべて埋葬したし、宝も取り尽くしたし……」
ただの、他より大きくてモンスターが住んでた跡が残る洞窟だよと言うフィル。
「でもでも、少し前までそこにドラゴンが居たんですよ! ダンジョンというのも見てみたいですし、いろいろ得るものはあると思うんです! お願いします!」
無下に断ってバードの心証を悪くするのも、
それはそれでこじれそうな気がする。
そんなわけでやんわりと、大して面白くないことを伝えてみるが
やはりサリアの決意を動かすことは叶わなかった。

「フィルさん、ダンジョンって今も危ないのです?」
「いや、ほとんど倒されてるから、特には大丈夫だと思うけど……」
「じゃあ、見せてあげたいのです。こんなに頼んでいるのです」
サリアの懇願にフラウも加勢する。
フラウからしてみれば、さっきは見捨てたことを気にしているのだろう。
今度はお願いを叶えてあげたいですと、
フィルの袖をひっぱり訴える。

表面上はフィルが何か損するような事がなく、
断る理由が無いうえに
少女二人に一生懸命お願いをされると、
さすがにフィルも折れざるを得なかった。
「まぁ……ダンジョンを見るぐらいなら……」
「いいんですか!? やったぁー!」
見学の許可を素直に喜ぶサリア、
そんなサリアを自分の事のように喜ぶフラウ。
お互いの健闘を称えあう二人を見ながら、
この短時間で自分の弱点が、
相手の味方になってしまったことを実感するフィル。

「僕らは明日ここを発って村に戻る予定だから、好きな時に来るといいよ」
「あ、ご一緒していいですか? フィード村って駅馬車はないみたいですし、街道沿いは盗賊も出るらしいから一人で街道を歩くのはちょっと怖くて」
まだ戦闘とか怖くてと、てへっと笑う冒険者に、軽くため息をつく。
「……分かった。明日の昼頃出発するから、その時に合流して向かおうか」
ここまで来たら、もう仕方ないとあきらめる。


「はい、わかりました! それで……ですね、実は私、今日の宿がまだとれてなくて……良ければご一緒してもいいですか? この時間だと良さそうな宿はもうなさそうだし、もし取れないと野宿ってことになりそうで」
上目づかいでフィルを見つめる少女。
さすがに若い男女が同じ部屋で寝るのはまずいだろう。
そう言おうとしたが、
「そうなのです? フィルさん、私達のお部屋で一緒に泊めてあげられません?」
「いや、さすがにそれはダメだろう。年頃の男女が同じ部屋でというのはさすがに、それに宿の人には二人で泊まるって言って借りてるしね」
「あ、それでしたら、宿の人はフィルさんの部屋に泊まるならいいって言ってくれましたよ」
「なっ、いつの間に」
にっこりと了解済みを伝えるサリア、
そこに、丁度、店の主人が料理を持ってやってきた。
「うちは構わないですよ。あいにく他の部屋が埋まっているんで、お客さんの部屋に相部屋という事になりますがね。困っているようですし、知り合いなら、泊めてあげてはどうです? ただ、ベッドや布団とかは貸せないのでお客さん自身で融通してもらいますがね」
その代わり宿代は二人分のままでいいですよと、
フィルには全く得が無いサービスをしてくれる主人に
フラウと、サリアは素直に喜ぶ。
「えへへ、宿代が浮きました! 実はお財布もなかなか厳しかったんですよね!」
「サリアさん良かったですね!」
「お店の人もこう言ってくれてるですし、泊めてあげたいのです」
「まぁ……フラウがそういうのなら、仕方ないか……」
完全に先手を打たれていたことに動揺しつつも、
サリアの方を見てみる。
少女の方は初めて助けた時のあの笑顔で気合十分といった感じだった。
何か、企んでいるようだが、
万が一、サリアが盗賊で、フィル達の荷物を狙っていたとしても、
貴重品を入れているバッグにはフィル以外使用できないよう魔法がかけられている。
盗まれる心配はないとは思うが、それにしても大胆過ぎる。

「それにしても、こんなかわいいお嬢さん二人と同じ部屋なんて、お客さんもなかなか色男ですね」
「そういうのではないですって、まったく……」
結局、二人に押され、さらには店主の援護もあり、
宿泊も了承したフィルは、とりあえずは出てきた夕食を食べることにする。


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