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神様は働かない 作者:shiro
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邪神さんと冒険者さん 3

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この少女のクラスは、おそらく吟遊詩人、バードだろう。
このフレンドリーさは十中八九、詩のネタ集めだ。
大方、誰かが竜殺しと言ったのを聞いての事だろう。
そう予想したフィルは、
このバード少女から何とか離れようと思案する。
結果、兵士たちに働いてもらうの一番だと結論を出した。

突き出されたバード少女の笑顔が凍り付き、
頬には冷や汗が流れ始める。
「いや、あの、これはいったい?」
「僕はさっき兵士の人に事情を話したけど、君はまだのようだからね。先に済ませておいた方がいいよ」
「ええっと、私は清廉潔白ですよ? 本当ですよ?」
愛想笑いを浮かべて、ちらりとフィルの方を見る。
「ごめんね、それは兵士たちに説明してあげないと。彼らも報告しないといけないだろうしね」
フィルの方も笑顔だが、目は笑っておらず、少女の頭を放そうとはしなかった。
「えーっと、私、一人で行くのはちょっと心細いかなーって」
「大丈夫だよ、ここの兵士は皆、街の人とかに優しいみたいだからね」
きちんと説明しないと、暴れた責任を取らされるかもしれないよと言うと、
少女もなけなしの抵抗を諦め、がっくりうなだれる。

やってきた兵士に少女の身柄を引き渡し
待っていてくださいね!と必死に引き止めようとする少女に笑顔で手を振っていると
フラウがもう片方の手をくいくいと引いてきた。
「フィルさん、あのお姉さん、かわいそうです!」
バード少女の悲痛な様子に同情しているのだろう。
一生懸命、女の子には優しくしないと駄目なんですと主張するフラウは
少しご機嫌が斜めになっている。


(この子の性格ならそうなるか……)
バード少女を遠ざけるという目的は達成したものの、
フラウのご機嫌を損ねてしまった事に少しだけ頭を抱えつつ、
そて、どう説得しようか思案をする。
「いやぁ、でも、あれだけ暴れたんだし、ちゃんと説明しないと駄目だよ?」
「そうですけど、あのお姉さん、フィルさんとお話ししたがっていたのです!」
その点についてはフィルも可哀そうだとは思うのだが、
肝心の関わりたくない理由が、自分が破壊神だからとあっては
正直に言うことも出来ずに、どうしても苦しい言い訳になってしまう。

フラウからは、フィルが少女と関わるのが面倒だから
兵士に押し付けたというように見えたのだろう。
待っていてあげたほうが良いのですとフラウは主張するが、
今はあまり目立ちたくないからと少女を説得し
何とか宿に戻ることを納得してもらった。


宿に戻るころには夕刻も近く、
もう暫くで宿の食事の時間という頃合いになっていた。
食堂も徐々に客が増えてきているようで
忙しそうに動き回る主人に挨拶をして、
夕食の席を予約し、二階へと上がる。

「ふぅ、疲れた……」
宿の部屋に戻ったフィルは自分のベットに座り、
そのまま背中を倒してベッドに転がる。
「……今日は大変だった……」
今日は一日、久しぶりに色々と動き回った気がする。
最後の戦闘は正直、格下相手で
それほどではなかったが
街中で相手を殺さないよう手加減しての戦闘は、
なにかと周囲に気を使うことが多く、
何より、周りから見られてる中でという点が
体力よりも神経を使わせ、疲労感をより大きくしていた。

一応、市場で少し休んでいるはずだが、
それでも全然足りなかったようで、
ベッドに横になったとたん、
疲労しているのだという実感が急に押し寄せてくる。

フラウの方はというと、
疲れてはいるものの、まだまだ元気ありますといった感じで、
さっそく購入した服を開けてみている。
「フラウも少し休んだ方がいいよ。」
「はいです! でも、少し着替えてみてもいいです?」
新しい服が嬉しいのだろう。
取り出した服を胸の前に抱きしめ問うフラウ。

フィルも新しい服を着たフラウを見たくはあったが、
それには、若干の問題もあった。
「ん~、でもここ、衝立とか無いよ? 家に戻ってからでも良いんじゃないかな?」
家の時は、自分が外にでて着替えるのを待ったのだが
今は疲れていて、もう暫らくはベッドから離れたくない。
「僕はしばらくベッドから動けそうにないんだ、ごめんね」
そんなフィルの情けない言葉に、
少し思案していたフラウだが、
「うふふ、それじゃあフィルさん。少し目を閉じてくださいです」
そういうと少し悪戯っぽく笑う。

やれやれ仕方ないと、目を閉じるフィル。
フラウはフィルが目をつぶっていることを確認すると、
いそいそと着替えに取り掛かった

目を閉じた闇の向こうから、
フラウがせっせと着替えている様子が聞こえてくる。
(うーん、目を閉じてると、眠くなってきた……)
こうして目を閉じてると、だんだんと眠気が増してくる
暫らくうとうとしていると、フラウがやってきて
フィルをゆさゆさと揺すってきた。

「フィルさん、フィルさん、もう大丈夫ですよ」
「あ、ああ……ほう、可愛いものだね」
ウトウトしているところを現実に引き戻されるフィル。
目を開けてみると、そこには新しい服で可愛らしく着飾り、
嬉しそうにした少女が立っている。

全体の色はこれまでと同じ白だが、
腰の部分に大きな桃色のリボンのような帯がまかれ
少女らしい可愛らしさを演出している、
さらにはフリルや細かいアクセントが丁寧に付いており、
これまでの田舎の可愛いお嬢さんといった感じから、
今度は都会の可愛いお嬢様と印象が変わっていた。

「えへへ、どうです?」
「ああ、ほんとにかわいいよ。 えーっと、はは……ごめん、なんと言ったらいいのか、こういう時なかなかいい言葉が出ないもんだね」
何とかフラウを褒めてあげたいが、思うように言葉が見つからず、
後半はむしろ謝罪の言葉になってしまう。
「もうっ、えへへ、でも許しちゃうです。ちゃんと褒めてくれましたから」
そんな、少し困ったように謝るフィルに、フラウは楽しそうに笑うと、
フィルに見てもらうようにと何度かくるくる回って見せる。

暫くフィルに見てもらって、そして褒めてもらって満足したフラウは、
前と同じようにフィルの隣にちょこんと座り
フィルの様子を見ようと覗きこむ。
「フィルさん疲れちゃったです?」
「うん、フラウも今日はずっと動いてたから大変じゃなかった?」
「えへへ、少し疲れちゃいましたけど、武器屋さんとか休んでいたので大丈夫です」
「そっかー。今日はもう用事もないし。ちゃんと休んでおくといいよ。旅先だと気が付かなくても疲れが溜まって、何かの拍子に体調を崩したりすることがあるからね」
「はいです!」
元気よく返事するフラウ。
そんな言葉を聞いて少し元気が出てきたフィルは
身を起こすと、フラウの頭を撫でてやる。
「ふふふ、お昼の時みたいですね」
「確かに、フラウの髪はサラサラだから撫でがいがあるんだよね」
「えへへ、フィルさん……あのお姉さん、そのままにしちゃってきちゃったですけど、大丈夫です?」
フィルに撫でられながら、尋ねるフラウ。
少し心配そうな顔なのは、あの少女を思っての事なのだろう。

「たぶん大丈夫だよ……なんだか色々たくましそうな娘だったしね」
何となくだけどね。と言い、フラウから手を放すと
先ほどのバード少女の事を思い出す。
初対面であれだけ正々堂々とふるまえるのだから、
きっと世渡りに慣れているのだろう。


そもそもバードという職は、
一般人からは歌を人前で披露する人という程度の認識だろうが、
冒険者から見ると、情報収集と交渉のエキスパートとしての側面が強い。

バードはその知恵や機転、
そして巧みな交渉術をもって相手と交渉し、
自分達に必要な情報を引き出していく。
あの娘が本当にバードなら、
兵士に連れていかれたとしても
相手を説得することなど大したことではないだろう。

そんなことを考えつつも、
とはいえ、外見や行動による推測だけで
少女がバードであるという確証があるわけでもなく
フラウにどう説明したらよいか考えあぐねた結果、
あの娘が犯人なわけじゃないからすぐに開放してもらえるよと説明し
ひとまず安心してもらうことにする。

「確かにそうですけど、あのお姉さん、フィルさんと、とっても話をしたそうだったのです」
「そうなんだけどね、うーん」
言葉を区切って、言っていいものか少し迷い、
「悪漢から助けてもらったから、だとは思うのだけどね、あの子の笑顔が何となく営業スマイルっぽかったんだよね」
「えいぎょうすまいるです?」
「ああ、作った笑顔って感じかな。そうだな……なんというか、何か目的がありそうな、みたいな? あまり深く関わらないほうが良さそうな気がしたんだ」
「そうなのです? でも、悪い人には見えませんでしたよ?」
あの少女が悪人とは思えないというフラウは少し不満そうだった。
「うん、そうだね、僕もあの子は悪い人間じゃないとおもう。でも、もしあの子がバードなら、あの子は悪人じゃないけど、僕にとって面倒なことになりそうだなって思ってね。申し訳ないけど関わるのは避けたかったんだ」
いまいちよく分からないといった感じのフラウだったが、
とりあえず、あの少女が悪くないという事に安心したようで
「フィルさんが何かダメって感じたのなら、フィルさんを信じますね」
フィルの顔を見て笑顔で言うフラウ。
そんなフラウにもう一度、頭を撫でてやり、感謝を伝える。

「はは、ありがとう。さてと、それじゃ、ご飯を食べに下に行こうか」
「はいです!」


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