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神様は働かない 作者:shiro
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邪神さんと生贄さん 23

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「いらっしゃい。何かお探しですか?」
店員はローブを着たフィルの姿を見取ると、
冒険者の客と判断したようで要件を訪ねてきた。
殆どの問題を知識と魔術で解決しようとする魔法使いと言えど、
護身用の短剣や、スタッフなど武器に頼る者はそれなりに多い。
それだけに、この客も冒険で使う武器の入用なのだろうと店員は考えた。

スタッフや魔法使い用の魔法が付与されたダガーも取り揃えていますよといった
商品のセールストークに、フィルは少し申し訳なさそうに答える。
「ええと、生活費の足しに魔法の武器を作ろうと思っているんですが、何か高品質のロングソードがあればと探しているんです」

日頃、偉そうに知識をひけらかすような輩が多い魔法使いらしくない
世知辛い返事に、店員は笑ってなるほど承知しましたと伝えると、
カウンターの後ろの引き出しから
三振りのロングソードを取り出しカウンターに並べた。

「これは、うちの工房で鍛えたものでしてね。特に、この剣は親方のお気に入りなんですよ」
三振りの内の一振りを見せ、
少し得意げに剣の造りや特徴、使った技法をフィルに説明する。
店員の言う通り、この一振りは、
なかなかに見事な剣だった。

普通の剣との比較は言うに及ばず、
一緒に出された、高品質な部類に入る他の二振りと比べても
刃の波紋の美しさといい、持った感じの納まりの良さといい、
頭一つ良い出来である事が持っただけでも伝わってくる。

(うーん、それだけに惜しいな……)
きっと、他の二振りと比べても手間暇かけて鍛えられたのだろう。
それが分かるだけに、なおさら残念な気持ちになる。

武器は同じ素材、同じ造り方で作っている限りは
性能に大きな差はない。
例えば、同じ鋼を鍛えたロングソードであれば
手間暇かけて作った名剣と数打ちの量産品では
扱いやすさに差が出るものの
威力については、研ぎ次第の所が大きく
高品質な品と一般の品とでは、
鋭く切れる回数に違いが出るぐらいで
鈍ってきてしまえば、鋼を叩きつけた時の威力はあまり変わらない。

だが、これが魔法が付与された剣となると
もっとも基本的な魔術付与である、
鋭さや硬度を強化する術をかけた場合でも
刃の固さ、使いやすさ、更には打ち込んだ時の衝撃まで
魔法の強弱により大きく変化する。
さらに言えば、他にも炎を刀身にまとったり
切った相手を麻痺させたりなど
魔法の武器による利点は分かりやすく大きいため
騎士や冒険者などは皆、より強い力が込められた魔法の武器を求める。

それに対して、熟練の技による高品質の剣というのは、
値段の割には大きな効果は期待できず
素材を特殊なものにしたうえで
高価すぎる魔法の武器の予備といった扱われ方が殆どで
あまり重要視されないのが現状だった。

「たしかに、この剣はとてもいい造りですね」
「でしょう? うちにある中で、一番の出来ですよ。……と言っても魔法がかかった物にはかなわないんですけどね」
店員も魔法の武器が優遇されることは重々知っているのだろう。
少し、自嘲気味に笑う。

「ところで、お客さんは、どれぐらいの強化が出来るんですか?」
店員の質問に、少し考え答える。
「そうですね……第三段階まで可能です。今回は小銭稼ぎなので、第一段階のを幾つか作るつもりですが」

実際の所は、フィルの実力なら強化術は
定命の物が出来るとされている第五段階までの強化が可能で
そこから追加で、別の効果を付与できるぐらいの実力があったが
若返って、どう見ても若造なこの姿で言ったところで
信じてはもらえないだろうし、
万が一、信じられたとしても
良い事にはならないだろうと判断したフィルは
実力を低めに伝えることにする。

魔法付与の基本とされる、硬度や鋭さを増す術については
強化の度合いによって段階があり、
最も基本的な強化である第一段階から始まり
段階を追うごとに威力が増していき
人間やエルフやドワーフなどの定命の物が
作れる最高位は第五段階までとなる。

そこから更に上、神話武器とも呼ばれる第六段階以上ともなると、
神すら傷を負わせることが可能となり
まさに伝説に語られる戦いに登場するような
英雄や神が持つ武器となる。

もっとも、世間に出回っている、
もしくは作り出せる魔術師が比較的多いのは
殆どが第一段階のもので
高位になればなるほど
店に出る機会は極端に少なくなっていくだけでなく、
武器の購入金額も、
第一段階の金貨にして二千枚から始まり
第二段階ならば金貨八千枚
第三段階ならば金貨二万枚と
高位になるほど急激に跳ね上がっていってしまうため
高性能な魔法の武器は
遺跡や盗賊から奪うことが出来た運のよい冒険者か
死線を何度も超え、実力をつけたベテランぐらいしか
持つことが出来ないのが現実となる。

第一段階といえど、強化の魔法がかかった武器ならば
普通の武器では傷つけることが出来ない生物に傷つけたり
実体を持たない相手にダメージを与えることが出来るなど
有ると無いでは大違いなため、駆け出しの冒険者などは
まずはこれら武器を目標に依頼をこなしていくことが多い


店員からは、フィルの第三段階まで可能という言葉は
十分に高い技能と映ったらしく、高い関心を示したようだった。
「ほう、まだ若く見えるのに大した腕前ですね! それならどうでしょう、この剣へと第三段階での強化魔法の付与を依頼させてもらえませんかね?」

店員が言うには、この武器への魔法付与を依頼し、
魔法の武器として売り出したいのだという。
だが、今、この街には、残念ながら
第一段階の強化が出来る魔法使いしかおらず
フィルが第三段階まで出来るならば是非依頼したいという事だった。

「うーん、とはいえ、第三段階ともなると金貨二万枚はしますし、なかなか買ってもらえないんじゃないですか?」
金貨二万枚は、並みの冒険者でも支払うには躊躇する金額だ。
そんな武器を商品として置いても、購入できる者が居なければ
ただ、店の飾りにしかならないだろう。
「ははは、買ってもらわなくていいんですよ。高価な武器を見える場所に飾っておくことで、この店で良い武器を扱っているという箔が付くんですから」
「なるほど……」

高価になりすぎ、売れる機会はかえって減るだろうに
この店員がどうして、この剣に魔法を付与させたいのか
フィルにも何となく理解することが出来た。
せっかく精魂込めて作成された剣が
そのまま、評価されずに使いつぶされることが耐えられないのだろう。
この剣に込められた想いに見合った評価が受けられるようにしたい。
そんな気持ちを受けると、どうにも無下に断るのも忍びない。

結局、実際にフィルが付与した物を見ている訳ではないからと
まずは、普通の方の高品質の剣を二振り購入し、
こちらの剣の出来栄え次第で決めてもらうことにして
今回は見送ってもらうよう説得に成功した。


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