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神様は働かない 作者:shiro
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邪神さんと生贄さん 18


領主の用事を済ませ、屋敷を後にした二人、
屋敷の門を出て、大通りに戻ったところで
フィルは恨めし気に屋敷を見ると、ため息を一つ。
領主の呼び出しなんてロクな事じゃないだろうと予想してたが、
実際に聞くと気が重い内容だった。

正直なところ、この街の戦力がどの程度かは大体想像ができる
そして、街の戦力で、あの村の周辺の治安維持まで
手が回らないであろうことも予想はしていた。
とはいえ、それでも統治は向こうが行い、
こちらへは討伐の難しい盗賊や
モンスターの退治依頼が来るだろうと考えていたフィルにとって
討伐報酬という収入の当てが一つ外された感じが強い。
(徴税権といってもなぁ……まともに税が治められるようになるのは何時になる事か……)

どうしたものかと考えながら、元来た道を戻り、
宿屋が並ぶ街の入り口の方を目指すフィル。
と、不意に柔らかく小さい手がフィルの左手をとった。
握られた方を見てみるとフラウがフィルを心配そうに見上げていた。
ずっと、声をかけて良いか迷っていたのだろう。
視線があうと、あぅという声がかすかに聞こえた。
「ああ、ごめん、心配させちゃったかな」
「い、いえ、あの……フィルさんは私達を守ってくれるのです?」
フラウもフィルが乗り気でないことを感じ取っているのであろう
これからの事を思って少し怯えているようにも見える。

そんなフラウ見て、「心配しなくていいよ。僕は守るから」と言うが、
とはいえ、一人でできることには限度がある。
「うーん、とはいえ、僕一人で村をずっと守るというのはさすがに無理があるよなぁ」
「フィルさんでもダメなのです?」
つい口に出てしまう本音に、フラウが心配そうに尋ねる。
これまでも、雨を降らせたり、様々な魔法を見せてきた魔法使いが、
いつもと違い、弱気なのを見せるのは初めてだった。
「自分一人が生き残るとかなら問題ないんだけどね……。沢山の人を常に守るというのは正直厳しいな」
そう、自分一人なら、やれない事は無いだろう。
現に、火竜の時は、一人で押し込み、正面から戦って皆殺しという事をやってのけている。
今のフィルならば、よほどの相手でなければ倒すことが出来るだろう。

だが、村人たちを守るとなると話は違ってくる。
一人で村を見張り続ける。なんてことはもちろんの事、
彼らの村を常に警備出来る軍隊もフィルは持ち合わせていない。

(傭兵を雇うか……?)
傭兵という単語が浮かんだが、すぐさまその案を投げ捨てる。
千差万別とはいえ傭兵の中には
ゴロツキまがいの者が多い。
往路を警備して、復路で襲われたなんてのも良くある話だ。
戦場へ送り出すならともかく
適当に雇った傭兵を村に常に常駐なんてさせたら
村人たちへかかる迷惑の方が大きくなるであろうことは明らかだった。
それに傭兵への支払いは一回では済まず
常に金を支払い続けなければない。
極貧の村がそんなことをすれば、
金の匂いに敏感な傭兵の事だ、金の出所に疑問を持ち
終いにはその金を自分の物にするために暴れ出しかねない。

貴族や騎士に統治されている地域や
自治を行っている街や村は
殆どが徴兵による軍隊や自警団などの組織を抱えており
警察や周辺の治安維持にはそれらが活用される。
この場合、兵士に就く者は
そもそも知人に対して迷惑をかけるようなことはしない
という良識を持った地元の人間が兵士に就くのがほとんどだった。

また、別の場所から広く雇い入れた軍隊を持つところもあるが
こうした軍隊はとにかく金がかかる。
(最低でも契約料で金貨二十枚、何もなくても一日銀貨二枚だっけ)
もちろんこの金額で雇える兵士なんてほとんど役に立たず、
並みの兵士なら契約料で金貨七十枚、一日銀貨四枚は必要になる。
それを一人ではなく、複数維持しなければならないのだ。

それに、こういった軍隊は大抵の場合、厳格な指揮官の元
徹底した規律を叩きこまれていることが常だった。
兵士が一般市民に迷惑かけるようなことがあれば
速やかに粛清が行われ、部隊内の規律強化に利用される。
そんな有能な指揮官の当ても、もちろんフィルには無い。

軍隊を持つ余裕など無いあの村では
やはり自警団を組織して村人自身で守るか、
村人から兵士を育成させる必要があるだろう。
地元出身の者なら、知り合いを傷つけることは少ないし
村人たちからの信頼も得られることが出来る。
それに自警団なら普段は自分の仕事をするので賃金も最低限で済む。

「何とか村の皆が頑張れるようにならないと厳しいかな」
だが、これまでの火竜による支配で、
自らの権利も尊厳もすべて奪われ、
奴隷としての生活が当然となってしまったあの村に、
戦力と呼べるものを育てることができるだろうか。
これからの事を考えるだけで頭が痛くなりそうだった。

「そうだ、フラウ、村に自警団とかあるかな?」
「じけいだんです?」
自警団の意味が分からなかったのか、
よく分からないといった顔で尋ねるフラウ。
「村の見回りとか、ゴブリンが来たら追い払ったりとかする人達だよ。あの村にはないかな?」
「それならゴルムさん達がそうかもです?」
聞けば、山に入って行方が分からなくなった者や、
村で喧嘩が起きた時などゴルムという者が、
他の人たちと一緒に捜索に出たり、
いざこざを収めたりしているのだという。

「そうか、まぁ、村に行ったら聞いてみようか。ありがとうね」
今一つ確証がなさそうなフラウに、
お礼を言い頭を撫でてやりながらふぅむと考える。
「軍隊は無理でも、何人か勇敢な人がいればなぁ。冒険者のパーティ一組居れば、大抵は村の厄介ごとなら解決できるのだけどなぁ」
村で起こりそうな厄介事といえば、
ゴブリンやオークや盗賊、稀に、はぐれ者の魔術師……。
この辺りがおおよその相場だろう。
この程度まで対処できれば大体の問題は解決できる見て良い。
それ以上ならばフィルが出向けばよいのだから。
そして、これらは少し経験を積んだ冒険者にとっては丁度良い相手だった。
そんな一団が一組でも村に居ればどんなに助かるだろうか……。

「勇敢な人です? それならリラお姉さんは剣が使えて強いんです!」
よほど、その人物を信頼しているのだろう
すごいんですと力説するフラウはとても嬉しそうだった。
「なるほど、その地とが力を貸してくれれば心強そうだね。でも女の人か……ふむ……」
「女の人はダメなのです?」
フィルが納得した様子でないのを見て、
少し心外そうにたずねるフラウ。
「いや、個人の能力が良い場合でも、人数をそろえるときに男の中に女の人が一人とかになると面倒が起きやすいんだよね……、まぁ、その辺、どうするかは街に戻って村長に相談してからにしよう」
「はいです」

まぁ、フラウが凄いというぐらいだから
男顔負けの戦士なんだろう。
きっと、男だろうと率いることが出来るんじゃないかな。
少しだが期待も持つことが出来たフィルは
このことは村で考えることにして
今は街での買い物だと、考えを切り替えることにした。


大通り沿いには、隊商向けの大きな宿屋がいくつも並んでいるのだが、
そこから一つ裏側にも、もう一つ通りがあり、
こちらには比較的小さめの宿や飲み屋などが並んでいた。
キャラバンの隊商が丸々泊まることが出来るような、表通りの豪華で大きな宿屋と違い、
多くても六人部屋の相部屋程度の比較的小さい宿屋になるが、その分、宿泊料もリーズナブルで
各宿で食事や浴場など、それぞれ得意なサービスがあるのが特徴だった。
フィルはそんな裏通りの中でも比較的小さめだが
「美味しい料理!」と書かれた小綺麗な宿を見つけ、
そこに泊まることにした。

この宿も、他の宿同様に一階は食堂で
二階が宿泊施設という造りになっていた。
昼時はそれなりに過ぎているにもかかわらず、
五つほどのテーブルは人で埋まっていた。
宿泊者というより地元の住人らしい客が明らかに多い所を見るに
料理が美味しいという事に偽りはないのかもしれない。

「すみません二人部屋をお願いしたいのですが、空いてますか?」
奥のカウンターで食器の整理をしている、
店の主人らしき男性に声をかける。
主人は愛想よく部屋が空いている事と、
サービス内容、値段を教えてくれた。
個室の二人部屋は朝食付きで金貨四枚と若干割高な気もするが、
その分、布団も清潔で快適という主人の言葉に乗り、
今日の宿はここにすることにする。

部屋の鍵を受け取り、部屋に入った二人は、
市場に行く前に、少し休憩をとることにした。

部屋に入り、フィルは奥のベッドを自分のベッドに決めると
ベッドに腰かけ、そのままごろんと寝転がる。
部屋は簡素な造りで、ベッドが二つに、物入が一つ。
それ以外は椅子もテーブルも無い小さな部屋だった。

フラウの方を見れば、やはり長旅で足が痛くなったのだろう
靴を脱ぎ、自分のベッドに腰かけて足を延ばして、靴下越しに足の指を握ったり開いたりしていた。
「はは、やっぱり足痛くなった?」
「えへへ、ちょっとだけ、あまり歩いて無いはずなんですけど」
そう言いながら、握ったり開いたり、開いたり握ったり、
暫く動かして足の痺れも大分取れたのか、
フラウもフィルに倣って自分のベッドにごろんと横になる。

思えば移動でずっと馬の上だったり、
街に着いたら着いたで、
領主の呼び出しとかで、ひどく怯えさせたり緊張させたりで
今日はまだ半日程度しか経っていないというのに、
随分負担をかけている気がする。
「ごめんね、朝からずっと休み無しで連れまわしちゃって」
「大丈夫です。お屋敷にいた時はずっと座ってましたし。領主様にもあえましたし!」
謝るフィルに、そう明るく笑って返してくれるフラウに、
今度はありがとうと礼を言う。
「でもやっぱり疲れているんじゃないか? 少しここで休んでからお昼を食べようか」
「はいです! 私もお腹空いちゃいました」
えへへと笑うフラウ。
街に来てからお菓子を結構食べている気もするが
きっと旅の移動や、緊張したりで、普段よりお腹が空いたのだろう。
「さっき、この下の食堂を見た時、なかなか美味しそうだったんだけど、お昼はここで食べるでいいかな?」
「はいです! えへへ、私も楽しみです!」

と、フラウは自分のベッドから起き上がると
そのままフィルのベッドへと腰かける。
「えへへ、フィルさんの方がお疲れみたいです。無理はだめなんですよ」
「はは、そうだね」
フィルの頭を撫でながら、姉が弟に言い聞かせるように楽しそうに言うフラウに、
しばらくされるがままにされたフィルは、
少し体を起こし、フラウの頭を撫で返してみる。
フラウも目を細めて嬉しそうにされるままに身を任せる。
特に理由がある訳ではないが、何となくお互いお疲れ様を言って
暫く二人、部屋でのんびりした後、少し遅めの昼食を取りに
下の食堂へと向かった。


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