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神様は働かない 作者:shiro
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邪神さんと生贄さん

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(うん……朝か……)
差し込む光に気づき、意識が自然と浮かび上がる。

薄目を開けて、辺りを見回すと、見慣れない豪華な部屋が目に入る。
白い壁紙でまとめられた明るい室内には、
豪奢な暖炉や高級そうなソファや椅子、
サイドテーブルが品良く置かれ、
高価な硝子が惜しげもなく使われた窓は、初夏の日差しを存分に部屋へ通すが、
これまた高級そうなカーテンが上手い具合に柔らかい光へと換えてくれている。

そんな貴族の寝室のような部屋に置かれたベットのふかふかの布団には、
あの魔法使いがぐったり疲れた様子で一人。
ここ数日続いた労働で疲れた体を少しでも休めようと布団に包まり惰眠を貪っていた。
とはいえ、既に昼近く、
カーテンが良い仕事をしているとは言え、
日差しは容赦なく彼の顔に当ててくる。
日の光は更に魔法使いの眠気を削ぎにかかるが、
魔法使いはそれを、もぞもぞと布団を頭からかぶることで完全にかわす。

あの場所から飛び出してからの六日間、彼はずっと働き詰めだった。

 一日目には、火竜の巣穴をみつけて、そこに住むドラゴンと配下のオークを殲滅して破壊欲求を解消し、生贄の娘達を麓の村まで送り届けた。
 二日目には、そこで見つけた魔法の鏡から、領主の弟が火竜と通じて国を乗っ取ろうとしていることがわかり、領主を説得、逃げられる前にということで、その日のうちに緊急捕獲。
 三日目には、領主の弟から他の協力者を喋ってもらい、そのほかの協力者全員を捕獲。
 四日目には、協力者達の裏付けをして全員処刑。報酬として領主の弟の館をもらった。
 五日目には、火竜の巣穴の再調査を行い、取り逃した宝の回収や、オークと火竜の死体を埋葬。
 六日目には、館を引き払う準備が終わったと連絡を受け、館を火竜の巣穴の入り口に転移させ、水まわりを工事。

まさに殆ど寝る暇もない毎日だった
(特に最後が……神になってまでスコップを握るとは思わなかった……)。
それら全てが終わり、今、ようやく得た休息。
ここには誰もおらず、いくら寝ていようが、もちろん邪魔されることはない。
これからは気ままな一人暮らし、破壊の神として働くつもりがない以上
ここで何もせず過ごしていくのだ。

(とはいえ、神になっても腹は減るか……)
しばらくの間、惰眠を存分に貪ったあと、
空腹を覚えてようやく布団から這い出た彼は遅めの昼食をとろうと厨房に向かう。
途中、部屋の姿見を見かけた彼は、改めて鏡に映る自分を見直した。

(これが俺か? 神になると若返るのか……)
そこにいたのは、かつての壮年魔法使いではなく、
二十台もそこそこ……もしかしたら届いていないかも、
といった感じの青年の姿だった。
その姿は全く知らない人物という訳ではなく、
二十年前は確かに自分はこんな姿だったと覚えている。

ただ、短いようで二十数年の歳月は結構長いものだったらしく、
自分の姿を新鮮なものと感じられるぐらいには忘れ去っていたようだった。
これだけ若造だと、偉そうな態度をすると面倒そうだな……
などど妙なことを考えつつも部屋のドアを開ける。

廊下に出て、改めて、この屋敷の廊下を見て、思わずほう、と歓声を上げる。
昨日屋敷を受け取ったのは既に夕方で、
そのあとは深夜まで強行作業での工事だったため、
昼間の屋敷を見るのは初めてだったのだが、
夜の時に見た暗く静まり返った印象と比べると、
白い壁が光を受けて輝く様はまるで別の建物にいるかのようだった。

(中古の家だし、使う人が居ないなら貰っとこう。ぐらいのつもりだったけど。
 ちょっと自分には贅沢すぎる建物だったかもしれないな)
そんな思いに駆られつつ、中央に絨毯が敷かれた廊下を通り、
幅広に作られた階段を降りて右に曲がり、奥にある厨房を目指す。


(食材は……これだけあれば暫くは問題ないか)
厨房に入り、食料庫の中を覗いた魔法使いは、食料の貯えに満足そうにうなずく。
屋敷のおおよその金目の物は、そのほとんどが謀略を仕掛けられていた領主に没収され、
残りも突然路頭に迷うことになってしまった哀れな使用人達への補償金に充てられており、
屋敷には財産と呼べそうな物は殆ど何も残っていなかった。

厨房もまた例にもれず、魔法が付与された包丁や調理器具、
そして、はるか遠方でとれる珍しい果物や香辛料などの高価な食材は全て持ち去られていた。
それでも、無限に水の沸く井戸や腐敗しない食料庫のような、
個人では持ち運べない設備系の魔法の品や、
五キロで銀貨一枚にもならないような大麦やカブやジャガイモやチーズなどは、
さすがに持ち去ることを諦めたようで、そのまま残されており、
他にも、ごく普通の品だが、よく手入れされた包丁や木の食器なども残されていたため、
男一人が暮らす分には十分といえた。

なにより、(貴族というやつは大抵そうだが)前の持ち主は食道楽だったのだろう、
厨房には肉やパンを焼くのに便利な小型の窯が一つと、
豚の丸焼きができそうな大型の暖炉が一つ、
二つの石組みコンロに、
さらには使い勝手の良さそうな二口の青銅製コンロまで用意されており、
独身の貴族にしては十分すぎる設備が揃っていた。

(正直なところ、こんな豪華な設備があっても無駄にしてしまうだけだろうけどね……今日の昼は……麦粥でいいか)
ここしばらくは携帯食料の生活が続いており、
豪勢な肉のローストや野菜のサラダと言わないまでも、
せめてシチューでも食べたい、という気も無くはなかったが、
そこまで準備するやる気も無く、
素朴な塩味の麦粥も今の疲れた体にはちょうど良いんだと自分を納得させつつ、
暫くの間、料理に使う鍋を探して、厨房に棚を探し回る。
(うーん、小さい鍋は全部持っていかれているようだな……)
結局、一番小さい鉄鍋が十人分はある大きさの物しかない事を知った魔法使いは、
自分の腰につけた小型のバッグに手を突っ込むと、

バッグの中から、厨房の物よりも一回り小さい、
今までの冒険で使っていた鍋を取り出す。
鍋はバッグと同じか、それ以上の大きさがあったのだが
そんなことはお構いなしにバッグから吐き出される。

バッグ・オブ・ホールディング……見た目とは異なり、
広大な収納空間を持つそのバッグには、
これまでの冒険で手に入れた、様々な武器や防具、アイテムが格納されていた。

とはいえ、パーティの中でも最も強力な武具などは、
それを必要とする仲間達によって常に持ち歩かれており、
このバッグの中にある武具は、主に装備を失った時の予備や、
冒険中、現地で傭兵などの戦力を調達した際に貸し与える目的で貯め込んでいたものばかりだ。
さらに言えば、パーティが持っていた“最も強力な武具”は全て、
あの男に持ち主ごと『破壊』されてしまった訳だが……。

魔法使いで後衛に回ることが多く、
そのため、パーティのアイテム管理を任されていたことで、
このバッグが破壊を逃れたことは不幸中の幸いと言えた。

ここにあるものより小さいとはいえ、六人の冒険者の腹を満たせる大きさの鍋に、
これから暫くは麦粥かなと苦笑いをしつつ、魔法使いはさっそく料理に取り掛かる。

まずは食材庫の大麦の袋から適当な量を取り出し、すり鉢に入れ荒くすり潰す。
潰した麦を水を張った鉄なべに入れ、
何度か麦を研いだ後は、麦に水を吸わせるために水を張った鍋に漬けたままにして、
今度はコンロに火をつけるため青銅製コンロへ向かった。

薪台から小さめの薪をとり空気が良く入るよう並べると、
壁に掛けてあるランプ(他はほどんと持ち去れていたが、さすがにこれは残していってくれたようだ)
から火を取り、コンロに火を入れる。
順調に火が回っているの確認後、コンロに鍋をセットし温め、
暫くして水が沸騰しだしたら、持参の塩と乾燥肉を削り入れて味を整え、
さらに暫く煮込む段となり、やっと一息入れることができるようになった。


檸檬の果汁を絞りいれた水をコップに注ぎ、
それを飲みながら、肉と麦の香りを立てながら湯気を上げる鍋をぼうっと眺めていると、
これまでの事が思い返される。

(みんなには黙って出て行ってしまったけど、やっぱ討伐しに来るのだろうな……)
あの時、誰の目にも自分に神の権能が移ったのは明白だった。
それは現在も続いており、高位の僧侶ならば自分の場所を神託で得るなど造作もないはずだ。

破壊の権能は自分に神の責務を果たすように常に囁き続ける。
責務を全うし、信者を増やし、より強い力を手に入れよと。

その声が強くなると、
自分の欲望なのか、神の責務として押し付けられたものなのか
分からない状態になり、自らの体を突き動かした。
火竜とオークはそんな暴走の都合の良いはけ口だったに過ぎない。
若干哀れに思うところが無いわけでもないが、
おかげで自分は破壊衝動を抑えることが出来たわけだし、
それまでに彼らが行ってきた略奪を考えれば因果応報というものだろう。
暴走した自分があの場に居た娘達を襲う最悪の事態にならなかった事が幸運だったといえる。

(うん、まずまずの出来かな)
味見をしてみて、まずまずの成果に満足気に頷く。
麦に火が通るのに少し時間がかかったこともあり、
出来上がる頃には、午後もだいぶ過ぎ、もう少しで夕刻にという時間になっていた。
厨房へ差し込む光も大分弱くなり、空の青みが濃く色付いている。

彼が鍋を火から離し、食器に粥をよそろうとした時
遠くから複数の足音がやってくるのが聞こえてきた。
神になってからというもの、周囲の変化に敏感になったような気がする。
火竜の巣穴の時でもオークの位置など手に取るように感じることができた。
そんな足音は屋敷の前で止まったようだった、
そして何やら男達の声が聞こえてきた。

「神様、どうぞ願いをお聞きください。どうかお願いします」
さすがにまだ自分がここにいることは知らないはずだ。
ということは前神に仕えていた僧侶だろうか?
いや、それにしては祈りが聖句ではない。
自分が神になったばかりだから通常の言葉にしているのだろうか?
そんな取り留めもないことを考えている間にも男達の声は続く。

「どうか、この生贄をお納めください」
と、同時に、小さく幼い悲鳴が聞こえた時、大急ぎで彼は玄関へ向かって駆け出した。


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