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神様は働かない 作者:shiro
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邪神さんと生贄さん 14

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次の日、フラウよりも少し早く起きたフィルは先に身支度を整える。
ローブに着替え、
普段から最低限の装備として身に着けている指輪とネックレス以外にも
ベルトやグローブ、ブーツ、クロークを装備し
久しぶりに冒険に出る装備一式を身に着けた感触を確かめる。
(う~ん、少し物々しいかな……。とはいえ、今は仲間も居ないし、用心するに越したことは無いか)

暫らくするとフラウが目を覚ます。
フィルを起こす機会を逃し、
少し残念そうなフラウが着替えるのを部屋の外で待った後に
二人、朝ご飯を済ませるため、厨房へと向かう。

「私って今日は旅の服でなくてよかったのです?」
街へ行くのに普通の服で大丈夫という事で、
さっそくお気に入りの服でおめかしをしたフラウはフィルの服を見ながらたずねる。
白い半袖のワンピースはシンプルではあるものの、
華奢なフラウが着るとよく似合っており、
淡い金髪が白い服をさらに引き立て、
ちょっとしたお嬢様といった感じだった。

「うん、距離もそれほどではないし、野宿をするわけでもないからね」
それほど距離もないし、わざわざ旅装束を着るほどじゃないとフィルは答える。
「でもフィルさんのほうは、武器を持っていくんですよね? やっぱり村の外は危ないのです?」
そう言うフラウの視線が自然と、フィルの腰に移動する。

フィルは服装こそ普段と変わらないローブ姿だったが、
グローブなどを着込み、さらには今日は腰に長剣を帯びていた。
暴力とはあまりの馴染みの無いこの娘にとって、
剣は不穏なものに映ったのだろう。
少し不安そうに尋ねる。

「ああ、これはなんというか、つい、習慣になっちゃっていてね」
少しばつが悪そうに照れ笑いをするフィル。
これまでの癖がすっかり染みついてしまい、
自分では何も疑問に思わなかったが、
フラウのような普通の人間からすれば
街に行く程度で剣を帯刀するのは少し大げさに見えるのだろう。

(一応、目立たないよう手持ちの中じゃ一番弱い魔法の剣を選んだんだけど、そういうのとは違うんだろうなきっと)
「まぁ、この距離なら大丈夫だとは思うけど、万が一があったときに対応できように用心はしておかないとね」

むやみにフラウを不安にさせたくは無いのだが、
実際、この村はつい先日までドラゴンとオークに支配され、
法の手が及ばないことをいいことに、便乗した盗賊なども出没し
近くを通る商人達にはかなりの数の被害が発生していた。
この村の人間に被害がなかったのは、
単にドラゴンに餌として飼育されていたために
盗賊たちもドラゴンの怒りを恐れて手を出さなかっただけであり、
この場所一帯は決して安全と呼べる場所ではない。

とはいえ、フラウを怯えさせても仕方ないので
なおも不安そうなフラウにフィルはご飯を済ませてしまおうと提案し、
話題を変えることにした。
昨日作ったスープをよそり居間へと持っていく。

「それにしても、このスープはなかなか美味しいね。魚の旨味が良く出てる」
フィルが言った通り、スープは魚や野菜の旨味が十分に出ており
なかなかに良い味に仕上がっていた。
まだ残っていたお粥の時の麦のおかげで空腹も満たされていく。
「えへへ、お代わりもありますよ? 今日は街に行ってしまいますから、食べきっちゃわないとですね」
「ああ、そうだね、それじゃ、遠慮なくお代わりしようかな」
二人で残りのスープを食べ終え、食器を洗い、
全ての準備が済んだ二人は屋敷の外へ出る。


今日も天気は快晴の空だった。
昨日の夜に降らせた雨はすっかり乾いており、
道がぬかるんでいるといった心配もせずに行くことができそうだった。

それじゃあ出発ですねというフラウにフィルは
「その前に、今日は少し楽して旅をしようと思います」
少しおどけてそう言うと、
普段物を出し入れするバッグとは別のポーチから、
何かの毛を取り出し、それを持ったまま呪文を唱え、
そして手にした毛を地面へと投げた。

毛は光り出すと円を描く、
円は地面に届くと大きさを広げ
その円の中から手綱や鞍を備えた一頭の中型の馬が姿を現した。
もともと、徒歩でも数時間で着ける距離ではあり、
何より急ぐ必要のない旅ではあるが、
せっかくの旅を楽しもうと
前の日に準備したものだった。

「わぁ、お馬さんですね! これに乗っていくんですか?」
「そう、手綱は僕が操るから、フラウは僕の前に乗るといいよ」

先にフィルが馬にまたがり、そのあとでフラウを引き上げてやる。
馬に乗るのは初めてらしく、
最初は普段よりもずっと高い場所に恐々としていたフラウだったが
魔法の馬が従順なこともあり、すぐに慣れたようだった。

「高いです! すごいですねー! わっ!」
フラウは横を見ようとしてバランスを崩すが
即座にフィルが手で支える。
「ははは、少し揺れるから鞍につかまるといいよ」
「わっわかりました!」
慣れない鞍に一生懸命バランスを取ろうと
悪戦苦闘するフラウを後ろから支えてやりながら、
掛け声をかけ馬を進めさせた。
魔法の馬はフィルの操作によりのんびりと歩き出した。


馬は、村を抜けて山間の小道を登り、
しばらくすると四辻に差し掛かる。
そこには朽ち果てた大きな建物が一つ。
「こんなところに一軒だけあるなんて、何の建物だったのかな、フラウは知ってるかい?」
「いえ、私も知らないのです。もうずっと、こんな感じです」
フラウが知らないのなら仕方ない
なるほどと納得し、さらにそのまま馬を進めるとじきに峠に差し掛かる。
それからはなだらかな下り坂の山道がひたすら続いた。

「この辺りは初めて来るところなのです。木漏れ日になってて気持ちがいいですね!」
「そうだね。もうすぐ夏とはいえ、これだけ緑に囲まれていると涼しくて丁度いいぐらいだね」
村から出たことが無いというフラウにとって、ここより先は未知の世界になる。
だが、不安そうな様子はなく、むしろ、これから行く街への期待で一杯のようだった。

フィルはフラウに下り坂だから前へずれ落ちないよう伝え、のんびりと馬を進める。
晴天の空は、平地ならかなり強い日差しになっているところだが
山道を囲うように生えている高い木々が丁度良い木陰を作ってくれるおかげで、
二人は快適に移動をすることができた。
時折木々の間をぬって吹き込む風が、適度に暑さを吹き飛ばしてくれる。

「風が吹くと気持ちいいですね」
木々の合間を縫って吹いてくる風を浴びて、フラウが少し伸びをする。
風に吹かれてなびく柔らかな髪がフィルへとかかる。
「確かに涼しくていい風だな。ああ、でも、寒くなったら言ってね。上に羽織るのもあるからさ」
「はい! えへへ、大丈夫です」
フィルの言葉にフラウは元気に答える。
遠くで山鳥の泣き声が聞こえる中、
馬はのんびりと歩を進める。
次第に道は森を抜け平野に出る。

平野に出ると日差しの強さは増したが
それでも時折吹く風のおかげで快適に歩を進める。
途中にある休憩小屋で少し休んだりしつつ、
遠く、黄色く染まった麦畑の向こうに壁で囲まれた街が見えてきたのは、
日もだいぶ昇り、お昼の時刻を少しまわったところだった。


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