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神様は働かない 作者:shiro
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邪神さんと生贄さん 12

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厨房へと移った二人は、さっそく調理の支度に取り掛かる。
フィルは腕まくりをし、フラウは残っていたメイド服からエプロンを装備する。
聞けば今日、メイド服を仕立て直しに出す前に、
エプロンを一着だけとっておいたのだという。
エプロンはシンプルな白だが肩や裾には可愛らしいフリルが付いており、
それなりに凝った造りをしていた。

「えへへ、どうでしょう?」
少し大きめだがそれだけに防御も万全、これなら服が汚れませんと、
得意げにくるりと回って見せる。
元々のデザインでも長めのデザインだったのが、
小柄なフラウが身に着けたことで更に余ってしまったのだろう、
背中にまわした帯が大分余ってしまっていたが、
それが大きなリボンの様にも見え、なかなかに愛らしい。

「うんうん。これは確かにかわいいね」
「えへへ、ありがとうございます」
フィルに褒めてもらって上機嫌なフラウとフィルはやる気一杯で、流し台に向き合う。

「さてと、今日は魚もあるし、豪華になるといいな!」
「はい! がんばりましょう!」
まずは、ミズの茎の皮をフラウに剥いてもらうために、
剥き方を教えることにする。

「これは上から下へと剥いで行くんだけど、枝の部分から剥いでいくとやりやすいんだ」
そう言うとミズの枝の部分を持ち、根本へ向かって引き裂いていく。
引き裂かれた枝についていた皮が、そのまま綺麗に幹から剥がされていく。

「わぁ、綺麗に向けるんですね」
「うん、でもこれだけだと一部しか剥けてないからね、今度はこれを食べやすい長さで折って、少しづつ剥いていきます」
そう言うと、今度はミズを上の方からぽきりと折って、
そこに付いている薄皮を剥いでいく。

「こんな感じで、剥いていくんだ。ちょっと大変だけどお願いできるかな?」
「はいです。任せてください!」

元気に返事をするフラウにミズを任せて、フィルは魚に取り掛かる。
とりあえず魚は、ムニエルにするとして、
ぬめりを軽く取った後、頭を落とし、内臓を取り出し、身を三枚におろす。

「フィルさん上手ですね! 私も出来るようにはなりたいのですけど、ちょっと怖くって」
「ははは、慣れればそれほどでもないのだけど、フラウにはまだ早いかもね。今はまだ無理にやらなくても良いんじゃないかな?」

フィルが魚をおろしているのを見て覚えようとしているのだろう。
フラウは興味津々といった様子でのぞき込んでくる。

「う~、でも、お料理を作るならお魚もきちんと料理出来ないとです。お魚のフライを作るにもきっと必要なのです」
「ああ、なるほど。それは確かに覚えておきたいところだね」

そんな会話をしながら四匹の魚すべてをおろす。
内臓などを捨てようとしたところでフラウが呼び止める。

「あ、骨の部分は残しておいてもらってもいいですか? あと塩も、後でスープを取ってみたいのです」
「うん? わかった。腐らないよう食料庫に置いておくね。さすがに内蔵は食べれないから捨てておくよ?」

そう言って、フィルが骨を別の器に移すと、
フラウがそれに塩を振りかける。
下処理が終わった中骨は食料庫へと入れられる。

さばいた後の切り身は布で水気を取り、
身に塩を振りかけて馴染ませた後、
さらに小麦粉を軽く振りかけ、下ごしらえをする。
フラウも、ミズの事はすっかり忘れて、
真剣な表情でフィルの下準備を眺めている。
フィルはそんな様子を楽しそうに見ながら、コンロの準備に取り掛かる。

コンロでよく熱したフライパンに油と刻んだニンニクを入れて、
切り身を入れて良く焼き上げる。
両面焼けていい匂いが出てきたらワインを入れて蓋をして少し蒸し焼きに。

「うん、こんなところかな」
出来上がったら、ひとまず焼いた切り身をさらに移動させる。
「よし、じゃあ、このまま、このフライパンで山菜を炒めてしまおうか」
フラウもはいっと言ったところで、皮むきをすっかり忘れていたことに気付いたようだった。
「……えへへ、茎を剥くの……すっかり忘れちゃってました」
「あはは、魚の料理の仕方を覚えるのに夢中だったみたいだしね」
ごめんなさいと謝るフラウに大丈夫だよと笑って、
二人でミズの皮むきに取り掛かる。

フラウは初めは慣れない手つきだったが、すぐにコツを覚え、
フィルもまた慣れた様子で剥いていったため、すぐに器一杯にミズがたまる。

「二人だとあっという間でしたね」
簡単でしたと得意げなフラウ。
そんな様子に楽しそうに見ながら炒め物の準備に入る。
そのフライパンをそのまま使い、
クレソンとヨモギに、ミズ、ノビル、ミョウガをいれて、暫く炒める。
暫くして火が通った頃を見計らって、持参していた塩と胡椒を振りかける。

「よし、これで完成かな」
わーいというフラウの歓声を聞きながら、
器に山菜炒めをよそり、
ムニエルを添えて、
温めなおした昨日の残りの麦粥もよそって、
それらをトレーにのせると、二人、居間へと向かう。

「ほんとはパンとかあったほうが嬉しいけど、作るの大変なんだよね」
「ふふ、それじゃあ今度はパン作りですね!」
「そうだね、せっかく窯もあるんだし、やってみようか」
楽しみですねとニコニコと笑顔なフラウに、扉を開けてもらい、
フィルは食事の乗ったトレーを居間へと運び込んだ。

ムニエルはニンニクのおかげで臭みもなく、
外側のカリッとさせた食感と、
中のホクホクした柔らかい身が良い感じの塩加減となっていた。

山菜炒めはもう一味、
肉やソーセージと一緒に炒めてればもっと美味しいのだろうが、
昨日使い切ってしまった以上、この際、贅沢は言えないだろう。

「ふむ、なかなか良い感じにできたかな。臭みもないみたいだし」
「そうですね。おいしいです!」
「パンとか無い分、魚はたくさん焼いたからね。少し心配だったけどこれなら全部食べれそうだ」
「あ、でも、おかゆに入れてスープにしたりするのも良いかもです」
「なるほど……それもよさそうだね。それじゃ無理に食べなくてもいいか」
「ふふふ、あ、じゃあ今度は私がこのお魚を具にスープを作っちゃいます。あと、このノビルとミズとクレソンも余っていたら具にしちゃってもいいです?」
「ああ、もちろんいいよ。楽しみだな」

食後、食器を片づけに厨房に戻り、食器を洗っている間、
フラウは明日の準備を始めていた。
先ほどの三枚におろしたうちの残った中骨の部分を
水で洗い流した後、熱湯に湯通しをして、フライパンで炒って乾かす。
油で炒めるのとは違う、香ばしい香りが漂ってくる。

「こうすると美味しいスープが取れるんですよ」
楽しそうにフラウが言う。
そして十分に焼けたところで、水を入れた鍋に投入し煮込み始める。
あくを取りつつ暫く煮込んだ後は、骨を取り出し、
先ほどのムニエルとクレソン、ノビル、ミズを投入する。
塩とニンニクをいれて味を整えてから暫くアクを取り除いた後、麦粥へと入れ直し
しばらくかき混ぜてからキッチンの椅子から降りる。
「と、これで下準備はできました!」
これで明日の朝ご飯はばっちりですとフラウ。

簡単な、あり合わせのを寄せ集めただけのスープと言ってしまえばそれまでだが、
フィルにはこうして自分のためにご飯を作ってもらえることが何より嬉しかった。
少女の頭を撫でてやり、ありがとうと礼を伝える。
そんなお礼に少女も無邪気に笑う。

「お疲れ様、とりあえず、今日したいことは大体やったし、後はお風呂に入ってのんびりしようか」
今日は一日、山登りをしたり、買い物をしたり、更には釣りや山菜取りまでやって
二人とも動き通しだったこともあり、フィルの提案にフラウも賛成する。
「はいです。えへへ、毎日お風呂ってなんだか贅沢ですね」
「そうだね。まぁ、せっかくあるんだし、使わないともったいないからね。今日もフラウが先に入るといいよ」

前日と同様、フラウが風呂に入っている間に残り一本となったピケットを冷やしておき、
フラウが戻るまで薪の番をして待つ。
(ビンもあと一本、か、どこかでオレンジとか手に入ればいいんだけどな)
ここにはせっかく綺麗な水がでる井戸もあることだし、
フラウにはさっぱりした蜜柑水とか喜んでもらえるかも。
手持ちの檸檬を初日で使い切ってしまったことが悔やまれる。

明日、街に行ったら探してみようか。
そんなことを考えながらフラウが上がってくるのを待つ。
暫くして雑貨屋で購入した新しい寝間着姿で上機嫌なフラウが戻ってくると、代わりに風呂に入る。

フィルが風呂から上がり、冷たいピケットを一緒に飲み、
居間に戻ってくるころには夜もだいぶ更けていた。
「そうだ、フラウ、新しい服を買った事だし、これまでの服を洗濯をしようと思うけどいいかい?」
「あ、はい。でも、それだとお風呂の前にしちゃったほうが良かったですね」

居間に戻ったところでフィルは、服の洗濯を提案した。
大抵の場合、洗濯は足や手で強くもみ、
汚れを落とすという結構に大変な作業であり、
また動くので汚れると思ったのだろう。フラウの表情が少し曇る。
そんなフラウの心情を察したのか、フィルは慌てて自分がすることを伝える。

「ああ、いや、洗濯は僕がするから大丈夫だよ。魔法でするから大変じゃないしね」
「魔法ってすごいんですね! あ、でも下着とか見られちゃうのは……」
自分がやらなくて済むことにほっとしたフラウだったが、
次の瞬間、今度は別の問題に再び顔を曇らせる。

「ああ、服の間とかに入れておいてもらえば、僕からは見えないから大丈夫だよ」
それならばとフラウは綺麗に折り畳んだ自分の服を差し出す。
えへへと照れているところ見ると、
やはり自分の下着を渡すのは恥ずかしいらしい。

他にもタオルなどを二人分の服を重ねて一つにまとめ、呪文を唱える。
瞬間、付いている汚れがすべて消え失せ、
服は新品のように綺麗な状態となった。

「うわー、すごいですね! 魔法って! 魔法みたいですね!」
「あはは、魔法だからねー。何を言っているのかわからないや」

これまで見た魔法以上に感動した様子に、フィルの方が少したじろぐ。
フラウの方はというと、フィルに見られないように居間の外に行って、
汚れが無くなっていることを確認してわーと歓声を上げているのが扉越しに聞こえる。

プレスティディジテイション……最も初歩の魔法の一つで簡単なものを持ち上げたり、
物を少し温かくしたり、少し冷たくしたり、
綺麗にしたり汚したり。
そんな感じの奇術のようなことをする魔法。
戦術的な効果は全くないが、生活には何かと便利で
これを用いた洗濯は見習魔法使いの手軽なアルバイトだったりもした。
もちろんどれだけ経験を積んだ者であろうと、
自分の服の洗濯をする必要があれば、大抵の魔法使いはこれを使う。
魔法使いの特権だと、仲間の魔法使いと笑いあったりしたことが懐かしかった。
(そういえば、この魔法、食べ物の味や風味を良くすることも出来たっけ)
今度料理に失敗したときはこれを使おう……と、
毎日の呪文に一つ多くセットすることをフィルは心に誓った。


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