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神様は働かない 作者:shiro
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邪神さんと生贄さん 10

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「こっちですよー」
嬉しそうにフィルを先導して扉をくぐるフラウに続いて、
フィルも開け放たれた食堂の扉をくぐる。

食堂は昼時だったが、村の殆どは家か自分の仕事場である畑で昼を済ませるのだろう、
それなりに広めの店の中は空いており、
ご隠居とみられる老婆が一人、窓際でのんびりと昼食を食べているのみだった。

こんな小さな村だと、周りが全員顔見知りなのだろう、
老婆はフラウに気が付いたのか、笑顔であいさつし、
フラウも元気に挨拶を返す。
おそらく昨日の事も既に伝わっているのだろう。
フィルは若干の居心地の悪さを覚えたが、
フラウの方はというと、外食が嬉しいのか、特に気にした風もなく
ニコニコと上機嫌でフィルに食堂のお勧めを説明する。

「ここはシチューがとっても美味しいんですよ! あと、魚のフライも美味しいです!」
「なるほど、じゃあ今日はフラウのお勧めを頼もうかな」

席へ案内しようと顔を出した、給仕らしき元気そうな若い娘が、
フィルの顔を見て一瞬ぎょっとしたものの、
嬉しそうに横にいるフラウに気付くと我に返ったようで、
慌てて二人を店の中へと案内する。

「ご、ごめんなさいね。ここってお昼のお客様って珍しくって」
「ははは、気にしないでください」

一生懸命笑顔を張り付かせて、
しどろもどろになりながら弁解する店員に対して、
気にしないよう伝え、二人も窓際の席に座った。

「パンとシチューと魚のフライと、後は何か飲み物をもらえますか」
「わかりました。ふふ、それってフラウちゃんのリクエストですね」
え?という顔をすると。あらごめんなさいと楽しそうに笑って店員は奥のほうへ戻っていった。

「フラウはここでは大体アレを食べるのかい」
「はい、みんなで来るので他にもいろいろ食べるのですけど。シチューとフライは大好きなんです」

今日は二人なのでたくさん食べれます! と大喜びのフラウ。
なるほど、店員は以前、フラウが大喜びで食べる姿を見ていたのだろう。

「おやおやフラウちゃんは上機嫌だねぇ。こちら、ご一緒してもいいかい?」
見れば、先ほどの老婆がこちらにやってきていた。
もともとフラウとは仲が良いのだろう。
さっそくフラウは自分の隣を彼女にすすめる。
「若い二人のお邪魔をしてしまったかね」
ふふふと楽しそうに笑う老婆。
フィルとしても沢山の人と食べるのは嫌いではないからと老婆の提案に賛同する。

「あ、こちらはイグンおばあちゃん、村では一番の物知りでいろいろなことを知っているんです。それとこちらはフィルさん。今はフィルさんのお屋敷に住んでいるんです。」
フラウがお互いの紹介をしてくれ、お互いもそれぞれ挨拶を交わす。
イグン老はさっそくフラウに事の真相を尋ねた。

「フラウちゃん昨日、生贄にされて売られちまったって本当かい? 心配してたんだよ?」
「うん、あ、でも、フィルさんに助けてもらって、今はフィルさんの所に住まわせてもらってるんです」
本当なのかいと尋ねるイグン老に、
フィルは苦笑いを浮かべて答える。
「いや、まぁ、なんというか成り行きでこんな事になってしまいまして……」
酷くばつが悪そうに頭をかく。
雑貨屋の女主人同様、イグン老もフラウの味方なのだろう。
本気で心配をしているようだ。

「フィルさんは、そのままだと別の所に私が売られると村長さんに言われて、仕方なく自分の食べ物を渡して引き取ってくれたんです」
フラウのフォローに、あいつそんな事言っていたのかい!とイグン老は憤慨すると、
ようやくフィルへの嫌疑を解いてくれたようだった。

「そういう事だったのかい。あんたも随分と迷惑をかけちまったようだねぇ」
「はは……ま、まぁ過ぎたことですし、この子を救えたと思えば諦めもつきます」
「色男だねぇ、何かあったら私の所に相談に来るといいよ。あんたの相談なら大歓迎さ」
そのあとも、村について、先ほど見た放牧地やその近くを流れる川の事や、
作物の状態などのことを聞いているうちに、
先ほどの給仕の娘が料理を持ってやってきた。

揚げたてでほくほくした白身魚とジャガイモのフライに、
鶏肉とジャガイモとニンジンがしっかり煮込まれたミルクシチュー。
フラウのおすすめの通り、どれも味、量ともに十分の満足できる料理だった。

「うーん、やっぱりここのフライは美味しいです! フィルさんもきっとおいしいと思いますよ!」
「ああ、確かに美味しいね。シチューもすごく美味しいや」
「はいです。うーん、今日はたくさん食べれて、とっても幸せです!」

好物に上機嫌でフライをほおばるフラウ。
こうしてみると、育ち盛りの子ども、という表現がまさにぴったりで、
昨日感じた儚げな印象はほとんど感じられない。
フィルも嬉しそうに答える。
そんなフラウを楽しそうに眺めながらイグン老が店の状況について教えてくれた。

「ふふ、そうそう、安心してこれを食べられるのも、この人が食料を分けてくれたからなんだよ。昨日までは小麦の在庫が心配で店を暫く休もうかって話をしていたのだからね」
「そおいえば、今って食べ物が少ないのにお店をやってもよかったのです?」
イグン老の言葉に、フラウは素直な疑問を口にする。
イグン老は少し笑って答えてくれた。
「大丈夫だよ。このお店はね、もらった食料を少しでも無駄なく使うために必要だったんだよ」

聞けば、今、この食堂では昨日の食材を使って炊き出しに近い形で
無料で村人へと食事を提供しているのだという。
朝と夜、それぞれで行う事になっており、
初めて行われた今朝もかなりの賑わいだったそうで、
その時にはイグン老や村の女達も料理の支度や食事の配布を手伝ったのだという。

「少し大変だけど、こうして皆で食べるというのも賑やかでそれはそれでいいものさね」
楽しそうに話すイグン老の言葉を聞きながら、
フィルはそんなものなのだろうかと思う。
何はともあれ、せっかく貴重な食材を渡したのだから、
こちらとしても暗く食べられるより賑やかに食べてもらった方が確かに気分がいい。

「そうなんですね。この味が無くならなくてよかったです!」
とても大事な事のようにうなずくフラウにフィルもイグン老も笑みをこぼす。

「そうだ、フラウ、今度うちでもこういう料理を作ってみようよ」
「確かにお屋敷のキッチンならいろいろできそうです! あ、でもお料理の作り方わからないのです」
朝食を作っていた時の楽しそうな様子からも料理は好きなのだろう、
フィルの提案にフラウもやりたそうではあったが、
これまできちんとした料理を学んだ訳ではないフラウは、
せっかく厨房があるのに……と、とても残念にため息をつく。

「ふふ、料理ならこのおばあちゃんが教えてあげるよ。ここの料理は私が教えたんだからね」
「ほんとですか!? ありがとうございます! えへへ、これで美味しいものが食べ放題ですよ! あ、でも私、おうちを出ても良いのですか?」
そんなフラウの様子を楽しそうに見て、
イグン老が助力を申し出る。
思わぬチャンスに大喜びなフラウだが、
自分が買われた身であることを思い出し、少し不安な顔をフィルへと向ける。

「はは、僕も楽しみにしているよ。それじゃあ、すみませんがその時はよろしくお願いします」
そんなフラウに笑いかけ、イグン老の提案に賛同を伝える。

フィルとしても、イグン老の言葉はありがたかった。
自分の家のご飯が豊かになる事ももちろんだが、
フラウが村と疎遠になってしまう事を心配していたフィルにとっては、
彼女がフラウの様子を見てくれることで、
村との繋がりも維持できることが何よりも心強かった。
フラウもそんなフィルを見て安心した様子で、改めてイグン老へと礼を伝える。

「ふふ。好きな時に遊びにおいで。いつだって時間は空いているからね。大抵はここか、家にいるからね」
「こちらこそ、この子をよろしくお願いいします」
良かったですね。とフラウ。
フィルも素直に感謝し食堂を後にした。


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