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神様は働かない 作者:shiro
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邪神さんと生贄さん 8

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屋敷の玄関を出ると、そこには初夏らしい明るい青色の空が広がっていた。
山の麓らしく若干の肌寒さがあるものの、
温かい日差しの中を爽やか風が流れ、絶好の散歩日和と言える。

ただし、例年なら、この時期は雨が多い季節でもあり、
村長の言うように、ずっと雨が降っていないのだとしたら、
作物の不安が出るのも仕方のない事に思えた。

「う~ん、今日も晴れてるなー」
「そうですね……気持ちいい天気なのですけど、できれば早く雨が降ってほしいです。……祈ることぐらいしか出来ないですけど」

単純に気持ちいい天気に背伸びして喜ぶフィルに対して、
フラウの表情はあまり明るくはなかった。
自分が殺されそうになった原因は、この日照りだった。
食料の心配が減ったとはいえ、この天気が続くようなら、
夏の作物が収穫できずに、遠からず飢えてしまうことになるだろう。
とはいえ、天気を変えることなど、自分の力ではどうにもできない……。

そんなことを考えているのだろう。少女は少し寂しげな表情であった。
そんなフラウの頭を大丈夫だよと撫でてやり、
二人はまずはフラウの知る見晴らしの良い場所へと向かった。

屋敷のある丘から、山道をしばらく下りると、
途中、右手側から小さな川と合流する。
そこからさらに小川を眺めながら川沿いに更に下ると、
本流と思われる水のだいぶ少なくなった川へと合流する。

この本流らしき川には村の手前に橋が架かっており、
橋を越え、村に入ってすぐのところにある十字路を左に曲がる。
しばらくすると別の小山に入り、先ほどよりは若干細めの山道を上る。
道の途中、山菜などあるか見て回るが、残念ながらどれも採りつくされた後のようだった。
「う~ん、食べられそうなのは全滅か……野草もなさそうだし」
「このあたりは、ほとんど採っちゃってるかもです」

もうすぐ夏も近づく季節、この季節は本来なら雨が降った後にはキノコが豊富なはずだが
雨不足による不作と、この辺りは村人達でもオークの心配せずに近寄れた場所だったために、
わずかなキノコや山菜も取りつくされているようだった。

仕方ないと、山菜はあきらめてまっすぐ目的地へと向かう。
緩やかな上り坂を小一時間ほどのぼり、
目的地に到着するころには、日はすっかり真上に昇っていた。

そこは木々に囲まれた、ちょっとした広場になっており、
その少し先は見晴らしの良い崖で、そこから村が一望できる場所だった。
「これはなかなか、いい景色だね」
天気が良いこともあり、山あいの立ち並ぶ村の様子が崖の上から良く見える。
「えへへ、ここは良く家族でピクニックに来た場所なんです」

春はこのあたりに野イチゴが沢山あるんですよと、広場の端の茂みの前に立って見せるフラウ。
「ピクニックかー、せっかくだからお弁当とか持ってくればよかったかな」
「確かにそうかもです、でも、まだお昼にはちょっと早いかもですよ? 今度来るときにはちゃんと準備をするのです」
少し、残念そうにするフィルをフラウが慰める。
フラウのフォローにありがとうとお礼を言いつつ、もう一度村を見やる。

村には北西から南東へ向かって流れる川が走っており、
それに沿うように、川の南西側に家々が集まっており、
村の西側には畑が広がっていた。
そして、川を挟んで北東側には牧草地帯が、フィル達の来た火竜の山と隣り合うように広がっており、
川と巣のある山の境界に小さな川が流れているのが見える。

牧草地帯には貯水池らしき池なども見ることが出来たが、
火竜の巣がある山に隣接するように広がる牧草地帯は、
早々に放棄されたのだろう。

牧草地帯に家畜の姿は見えず、
斜面も良く見ると、草が伸び放題で、かなり荒れている様子がうかがえる。
畑や、牧草地帯の位置は、この辺りの地図を持っていなかったフィルにとっては、
これらの位置情報はありがたい情報だった。
(今度、地図をどこかで買っておくか)
そんなことを考えながら、これから使う魔法の目標地点を定める。


「? フィルさん?、どうしたのです?」
フィルの様子の変化に戻ってきた少女の頭を撫でてから、
少し待っているように言うと、腕を伸ばし呪文を唱え始める。

暫くすると、それまで雲一つ無かった空に白い雲が集まりだす。
白い雲はさらに集まり、白から灰色へ厚みを増して、今にも振りそうな雨雲へと成長する。
そしてついには大粒な雨が一粒二粒とこぼれ、とうとう大ぶりの雨になった。

ぽかんと、空を見上げるフラウの手を取り、二人は雨宿りのできる木陰に移動した。
「これを一日一回、あと二,三回降らせればしばらくは大丈夫だよ。きっと」

フィルの言葉にまだまだ何が起きたのか理解できないでいたが、
暫くすると、フィルが雨を降らせたことを、ようやく理解したのか、
喜びの顔でフィルを見上げていった。

「ありがとうございます! きっと村のみんなも大喜びです! あ、でも村長さんがお願いしたときは出来ないって言ってませんでした?」
以前のフィルの返答を思い出し、今回雨を降らしたのは大丈夫なのかと少し心配する。

「ああ、魔法使いというのは誰かに頼まれて魔法を使う時は、お金を払ってもらうのが普通なんだ。あの時、頼まれて願いを叶えてしまったら、僕は村へお金を支払うよう求める事になるだろうからね……今のこの村には厳しいと思うんだ」
 そこまで言ってから、少し考えて、さらに続ける。

「それに……困ったことは何でも僕に頼る、という考えを持ってもらいたくないんだよ。村人たちが自分たちの力で解決しようとしない限り、村が幸せにはなれないと思うんだ」
「でも、フィルさんなら皆を救えるのに、頼んではいけないのです?」
「うーん、確かにどうしても、という時はあるかもしれないけどね。常に僕頼みで自分達が努力しなくなっては困るんだ。人は自分にできることを積み重ねて、何か問題が起きた時はそれまでの自分の成果を対価に問題を解決する。神様に祈ったり、お金を払わずに僕に雨を降らせようとしたりするというのは、それを放棄した行為だと思うんだ。他の困っている人や、一生懸命頑張って何かを成そうとしている人達のにとっては、すごく不公平に思えてしまうだろうし、そんな人たちまで助けられるほど僕の力は凄くないしね」

 う~ん? と考え込むフラウまだ何か腑に落ちていないことがあるようだった。
「でも、今、魔法で雨を降らせてくれましたよ? 手助けするのはダメではないのです?」
「あはは、これは僕の我儘だからだよ。フラウに喜んでほしくて勝手にやった我儘なんだ」

きょとんとするフラウ、その隙をつき、うりゃっと抱き上げる。
お互いの顔が近くなる。
「こんな素敵な女の子が悲しそうにしているのを見るのは嫌だからね。喜ぶ顔を見たくて少し頑張ってみたのさ」

びっくりして固まっていたフラウの表情がみるみる赤くなる。
やっと自分の態勢を理解したのか降ろしてくださいと足をバタバタさせる。
「もうっひどいです! びっくりさせ過ぎですっ!」
「あはは、ごめんごめん、でも驚いたのなら、この作戦は成功だね」
必死の抗議も受け流され、うーっと唸っていたフラウだが、
ふと何かに思いついた様子で、すこし楽しそうに言った。

「ふふふっ、なんだかフィルさんって神さまみたいですね」
「ははは、そんなことないよ、さすがに神様みたいになんでもできるって訳じゃないよ?」
少しドキリとしながら否定するフィル。
そんな様子を見て反撃とばかりにフラウは続ける。
「だって、ドラゴンがきて私達が助けてって祈ったとき、神様は助けてくれませんでしたもん。でも、フィルさんの話を聞いたら、神さまも私達に自分の力で頑張って欲しいって思っていたのかなって、そんな風に思ったんです。」
「……」
「そう思うと、神さまが力を簡単に貸してくれないのも、誰かだけを助けて不公平にならないようにする為で、決して見捨てられた訳じゃないのかなって、そう思えるのです」

少し寂しそうに続けるフラウ。
その理由ならば、神様というのは困っている人が居ても助けてくれない事になる。
と、思いついたように
「あ、でも、結局は雨を降らせてくれたフィルさんは優しい神さまですね!」
「優しい神かぁ……」
 今度はフィルの顔が赤くなる番だった。
「そうです! フィルさんみたいな優しい神さまなら、きっとみんな一生懸命お祈りしちゃいます」
フィルの変化に気づかずか、楽しそうに続けるフラウ。
「あはは……それは大変そうだ。僕じゃ救いきれないよ」
「あ、そうか……じゃあ僧侶さんをたくさん増やして、その人に頑張ってもらうのです! その時は私もお手伝いしちゃいます!」
「そうだなーそれなら僕も楽できるかー。じゃあ、もし僕が神様になったらフラウには一番に神の使いになってもらおうかな」
「はいっ、約束ですっ」

その後も、僧侶になったらみんなの病気を治してあげたいとか、
僧侶の呪文にはアンデットを倒す呪文もあるからアンデット退治に行こうと誘って嫌がられたりとか、やっぱり僧侶なるには力も必要なのかなとか、
そんな取り留めのない会話が続いた。

ほんの戯れの会話、もし、目の前で無邪気に夢を語るこの娘が、
自分が本当に神様で、この少女が僧侶になるとなったらどんな顔をするのだろうか。
さっきみたいに驚いた後、喜んでくれるのだろうか、
それとも、今まで騙していたことに怒るのだろうか。
そんなことを思っているうちに、雨は上がり、辺りはすっかり元の晴天に戻った。

「さてと、それじゃあ村へと戻ろうか。道がぬかるんでいるかもしれないから、少し気をつけてね」
「はいっ」
嬉しそうに先導するフラウの顔を見てみる。
少女の表情に先ほどまでの憂いは見えない。
フィルもほっと胸のつかえがとれた気分でフラウの後に続いた。

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