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鋼鉄のアイ 作者:パブロン

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なぜ邪魔をする

 戦端が開かれて半日ほどが過ぎていた。戦況は悪い。

 ソフィスト軍は亀のように拠点に篭っては抵抗していた。拠点に篭った亀、とはいえ奴等には強靭な牙がある。数百メートル先の鉄板を軽々と打ち抜く120ミリ戦車砲に、上空から襲い掛かる152ミリ榴弾砲、功を焦って飛び出してくる戦車達は発見されると同時に撃滅されていった。

「まずいのう……」
「ああ、全くな」
 都市軍総司令のカフカと、義勇軍臨時司令のクリスは戦局図を眺めながら認識を合わせた。

 義勇軍ならびにスター政府軍が多大な犠牲を払いつつ、制圧した敵拠点は陣地東側の三つだけ。指揮官達はこれ以上の進攻は困難と判断していた。
 現在、制圧した陣地には多数の敵戦車砲が向けられており、少しでも顔を出そうものなら猛烈な集中砲火が加えられることになるからだ。

「偽情報だったのでは?」
「馬鹿を言うな、この私が情報を間違うものか」
 ヘクトールの疑問に、情報士官を兼任するミッツが噛み付く。

 彼等は知る由もないが、ニーアは眠れない夜の時間を利用して指示書シナリオを作成していたのだ。

 こう攻めてきたらこのように指示をする、といった感じの命令書の束であった。例えば今回は『シナリオ1-5:敵が東から攻めて来たら、ポイントH1、H2、I3から不良部隊のみを残して後方に下がらせる』という指示書に従って、敵部隊の一部を内部に招きいれ、それを逆手に足止めをさせたのである。

 戦局は動き続けるものであり、指示書を数枚作ったくらいでは意味がない。しかし、ニーアは恐ろしいまでの執念でもってシナリオを書き続けた。作り込まれた指示書は千を超え、彼等が考え得るありとあらゆるシュチュエーションが網羅されていた。

 司令部は彼女のシナリオを探し出して、前線部隊に伝えればいい。つまりニーアは倒れたが、彼女の意思は健在だったのである。

「まあ、大丈夫だろ」
 危機感を募らせる指揮官達。そんな中、クリスがぽつりと口を開いた。

「アレはまともじゃねえからな」
 クリスは絶対の信頼を浮かべる。そのまま席を立ち、司令部用のコンテナハウスから外に出た。

 強い日差し、荒野特有の乾いた風が、冷房で冷えた体に何とも心地良かった。

「遅ぇよ、タクム」
 にたりとクリスは笑みを浮かべ、愛車である<エイブラムスM1>に乗り込んだ。敵防衛陣地の反対側に目をやれば、濛々と黒煙が上がっている。

 集音機のスイッチを入れると、火薬の炸裂音の中に獣の咆哮が混じっていた。

「戦争再開だ!! 野郎共、この俺について来い!!」
 そうしてクリス率いる義勇軍本隊が前線へと繰り出した。




 乾いた大地が突如として盛り上がった。飛び出してきたのはT-10戦車――第二次大戦後に開発された重戦車――である。

 主力戦車であるT-54やT-55、現在ソフィスト軍で配備されているそれに比べ、重量は五割増しとなっている。が、その分、装甲は分厚く出来ており、砲塔前面は200ミリという分厚さを誇る。加えて巨大な車体から伸びた更に長大な122ミリ戦車砲は、500メートル以上の距離から150ミリの装甲を容易に撃ち抜く威力を持つ。

 生産性を排除し、高い防御力と火力のみを追求した重戦車。それがこのT-10戦車である。更にT-10の後方100メートル地点の岩場の影からは――キャタピラの上に鉄のテントが張ってあるような形状の戦闘車両――SU-100駆逐戦車から伸びた100ミリ対戦車砲を覗かせている。

 駆逐戦車は、簡単に言えば戦車の車体から砲塔取り除き、より強力な固定式砲台を取り付けた戦闘車両である。砲撃範囲が前方に限られるものの、単純な火力だけで言えば同世代の戦車を凌駕する。

 ニーアはわざわざ本土から取り寄せた防衛兵器のひとつである。重戦車に駆逐戦車、いずれも機動戦には向かないものの、待ち伏せや拠点防衛には打ってつけの車輌であった。

「チッ!!」
 車内のクリスは舌打ちをひとつすると、そのままM1エイブラムスを走らせる。

「お前等は下がってろ!!」
 その直後、砂漠迷彩ドゴゥッの施されたゴゴッ車体が土煙ドオオォッに包まれる。

『親父ッ!』
『そんな……クリスさん……私達を守って……』
『うおおぉぉぉ! 隊長――ッ!?』
 若い隊員達から悲鳴が上がり、

「喧しいわッ!」

 すぐさま怒声と120ミリ滑膣砲の爆音がそれを掻き消す。

 濛々と上がる白煙は砲撃の衝撃波で吹き消された。飛び出すダークブラウンの荒野迷彩。砲撃を受けた車体の左側面だけが鈍色の光を反射している。

 クリス中隊に配備されている戦車は最新型でもM60パットンであり、装甲は200ミリ程度であり、直撃を受ければ犠牲が出る可能性があった。

 しかし、クリスの駆る<M1エイブラムス>だけは違う。部下を守るために前進し、直撃の瞬間、車体を僅かに傾げることで砲弾を弾いたのである。その装甲幅は前面であれば砲塔、車体共に250ミリを超える。加えて劣化ウランを用いた複合装甲ともなればその装甲は500ミリ鋼板よりも強固となる。

 ちなみにこの世界では通常装甲に加えて軽量で丈夫な生体兵器素材も存在しており、高位の開拓者であるクリスは当然の如く、大型生体兵器の装甲を車体に追加している。大口径とはいえ型遅れの徹甲弾などものの数ではないのである。

『親父ッ!』
『クリスさん!』
「騒いでねえでさっさと打ち込め!! また撃たれるぞ」

 T-10重戦車はその砲塔が吹き飛ばされ、黒煙が上がっている。先のクリスによる反撃でT-10重戦車は大破していたのだ。120ミリ滑膣砲から放たれた装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)は構造上、最も硬い砲塔前部の装甲を易々と貫いて、その運動エネルギーと熱量、衝撃破によって搭乗員諸共戦車を吹き飛ばしていたのだ。

 残るは|SU-100(駆逐戦車)だけである。

 合計一〇門を超える砲撃を受け、平然と反撃を行った上、重厚な重戦車を一撃の下で屠る、新型車輌という名の化け物を前に敵部隊は浮き足立っていた。撤退か、抗戦か、もっと単純に言えば逃げるか、抗うか。現場指揮官がその判断を下す前に、エイブラムスからあるいは部下のM60パットン部隊から次々と砲弾が吐き出されていった。

 僅かな――ほんの五分という敵戦車は撃滅された。

「予想通り、敵が薄い……」

 クリスが攻め込んだのは東門へと続く重要拠点であった。

 僅か10輌の戦闘車両しか配置していないところを見るに、司令部は相当に混乱しているようだ。拠点の重要性と配置する防衛力が全く噛み合っていない。

「このまま突き進むぞ! お前等全員、ついて来い!!」
『『『了解!』』』

 機を見るに敏、クリスは長らく鍛えられてきた開拓者の勘で判断を下すと、占領した防衛拠点は後続部隊に丸投げにして次なる最前線へと突っ込んでいった。




 タクム達は北部防衛陣地の混乱に乗じ、敵陣突破に成功した。常人であればMPKによって敵部隊を大混乱に陥れた功績を手土産に本陣に戻るところであろうが、<殲滅者スローター>たる彼がその程度の戦果で納得するはずがなかった。

 北東部防衛陣地の後方にするりと抜け出ると、適当なところで戦車を停車させ、そのまま岩陰に隠した。

「ベジーは合図があるまでここで待機。その後は戦車砲と機銃で狙撃。支援に徹してくれ」
「了解した」
 ベジーの返事を待たず、タクムはハッチを開く。

「ね、ねえ、あたしは!?」
「ああ、お前は邪魔にならないところで遊んでろ」
「ひどっ!」
 そのまま無視して降車するタクム。

 後方部隊とはいえ――だからこそ、敵戦力は高いものと推測される。遠距離からの曲射を行う、自走砲部隊が展開している。また拠点防衛の肝である砲撃部隊護衛のため戦車やそれに付随する歩兵部隊もいるはずだ。ここは最終防衛ラインのようなものでもあり、錬度も装備も一線級の部隊に守られているはずだ。

 先のトレインのように、遊び半分で挑んでよい相手ではない。

 タクムは荒野迷彩が施された擬装アイテムダンボールを被った。これさえあればよほど高位の偵察兵でなければ<サークルレーダー>の監視にも引っかからない。

 タクムは膝を折りたたんだ状態で移動を開始した。高ステータスに裏打ちされた中腰移動であったが、下手な兵士の全力疾走と変わらない速度が出ていた。僅かな紙擦れの音だけを残し、あっという間に敵部隊の展開地点に辿り着く。

 敵部隊の展開位置を持ち手の穴から出したカメラで撮影。そのままベジーへと転送する。

 最後尾に位置する自走砲――隊長機であろう――<2S3アカーツィヤ>の背後に回り込んだ。車長らしき男がハッチを空けて前方を警戒していた。

 ――よし、殺るか。

 当然ながらタクムの存在には気付いていない。

「フブッ……」
 崩れ落ちる車長。音もなく車体を昇ったスローターが銃剣<ドリームリッパー>で首を刈り取る。一瞬だけ吹き出した血液が砲塔を汚すよりも早く、車内に潜り込むとそのまま<コルトガバメント>の引金を弾いた。

 消音器により、タタタンッとくぐもった銃撃音と共に操縦手、装填手、砲撃手が倒れた。

 制圧完了クリア。一秒掛かるかという時間のうちに戦闘車両を無力化。タクムはそのまま複合スキル<遠隔操作>によって操縦を奪い、152ミリ榴弾砲を傾ける。

 弾道予測線が伸び、護衛部隊であろう戦車――<T-62>の背面を正確に照準ロックする。

 瞬間、戦車を中心にドッシュゥゥゥ地面が浮き上がったゥゥゥゥゥゥッ。そう思わせるほどの爆撃音が戦場に轟いた。

 上手く装甲を叩き潰せたのだろう、砂煙が晴れた頃にはT-62の背面は完全に拉げており、各所から火柱が上がっていた。

『砲撃か!?』『サムウェル機、応答しろ!!』『一体、どこから!! 後ろには――』『まさか!!』
 搭乗員はほぼ即死であったろう。飛び交う通信。いつまでも戻らない返信が混乱に拍車をかける。

 ――いい具合に盛り上がっているな。

 砲撃音のした方向や、着弾部の位置を考えればタクムの乗る<2S3アカーツィヤ>が怪しいことはすぐに分かる。勘の良い連中が気付く前に、すぐさま行動を開始する。

「ベジー! 殺れ!!」
『承知!』
 岩場に隠れたT-55から砲撃が放たれる。それは付近の自走砲にぶち当たる。自走砲は戦車に比べ、装甲が薄い――機銃程度しか防げない――T-55が誇る100ミリ戦車砲の前には紙切れも同然である。

 加えてベジーの狙撃力は尋常のそれではない。距離は500メートル近くあったが、正確に弾薬庫を撃ち抜いて誘爆を起こさせていた。

『くそ! どこだ!!』『十時の方向に敵車輌を発見――』『待て、味方だ! あれはT-55だ』『だが、確かにアイツが――』

 前線からは少なくとも二キロは離れていたはず、そんな認識が合ったために切り替えが遅れているようだった。

 その間に<2S3アカーツィヤ>の自動装填装置は作業を完了させていた。予め狙いをつけていた敵戦車に砲撃を見舞う。榴弾砲による射撃は初めての経験であったが、タクムには弾道予測線があった。こちらにお尻を向けたまま身動きしない戦車にぶち当てることくらい造作もない。外れる可能性は皆無だった。

『貴様、狂ったか!!』『違う、こいつ、きっと乗っ取られてる!』『そんな馬鹿な』

 ――ようやく気付いたか。

 タクムは自走砲から飛び出した。<遠隔操作>で操作は可能だ。せいぜい混乱させてやろうと、<2S3アカーツィヤ>を全身させて近くの戦車に突っ込ませる。

 砲塔を回転させる戦車。戦車砲が火を吹く――それと合わせるかのように自走砲からも榴弾が射出され、両者は同時に火柱を上げた。

 すぐ近くでは新たにもう一輌の自走砲が、ベジーの駆るT-55によって打ち抜かれて炎上していた。

「アハッ、アハハハッ!! いいぞ、ベジー。もっとやれ!」
 もはや隠れる必要もないとタクムは声を上げて嗤い、塹壕に飛び込む。中に居た兵士達の顔に恐怖が刻まれ――銃盾<ハーベスト>から放たれたグレネード弾によって弾き飛ばした。

 頭がすっぽりと隠れられるほどの深さがあり、各車輌の展開地点同士を繋ぐ道のようになっていた。これはいいと塹壕を伝って戦車へと近づく。

「なッ――ガッ」
「速……ィ……」
 ソフィスト兵士達を斬り捨てる。彼等の死因は『<殲滅者>の進行方向に立っていた』からである。自然災害のように、理不尽なまでの力を振り回し、戦車の足元まで辿り着く。

 すぐさま跳躍。<ダブルジャンプ>のスキルで砲塔の上に立つと、ハッチに<ドリームリッパー>を突き刺した。

「はい、どーん!」
 射出される20ミリ機関砲――半焼夷榴弾によって貴重な戦車兵達をハンバーグに変える。

 恐らく焼付き、壊れたであろう電子回路。車内に<リペアキット>を叩き付けて無理矢理に回復させると、またもや<遠隔操作>で無人となった陸戦兵器を奪取する。

「ほれほれ、反撃しないと死んじゃうよぉ、ギャハハハッ!」
 粘つくような哄笑が戦場に響き渡る。背を向ける戦闘車両の群れたちに次々と砲弾を見舞っていく。

 タクムは奪取した戦車と並走しながら戦場を駆け巡る。兵士は蹂躙、戦車は搭乗員だけを殺害し、奪い取る。戦力は急速に削られていき、ついに敵兵士の中には戦闘車輌から飛び降り、銃を投げ捨てる者まで現れた。

「降伏する!」
 そう言ったのは年若い戦車兵であった。

『降参します、だから殺さないで……』『俺達の負けだ、だから仲間だけは……』
 それに追従するように各車輌や通信機から降伏を示す通信が飛んでくる。

 <殲滅者>は金色に斑の血染めを施した装甲服で、戦車兵に近づいた。戦車兵はその場で這い蹲り、言葉だけでなく、行動でもって無抵抗の証とした。

「降伏……? それが……どうしたぁあああぁぁッ!?」
 垂れ下がった頭を踏みつけた。びちゃりと水風船が割れるが如く、男の頭部パーツが四散する。

『ちょっ!? 無抵抗な相手殺すなんて!』
 何処かから入った通信をタクムは完全に無視して、赤い瞳を更に怪しく輝かせた。

「いいか、ここは戦場だ! 敵は根絶やしにするのが普通だろうに!! 降伏なんてあまっちょろいこと、この俺が認めるとでも思ったか、アーハハハハッ!」

 ここしばらく慣れない指揮官仕事で鬱屈していたタクムの精神が、最高潮に達する。殺戮欲と征服欲を刺激され、完全に酔っ払っていた。今にも射精しそうなほどの開放感、興奮に身を委ねる。

『タクム、いい加減にしなさいよ! これ以上は戦いじゃないわ! ただの――』
「うるせえ! 黙ってろ、クソアマ!! さあ、続きだ……せいぜい、足掻けよ。死に掛けの狐なんか狩っても、面白くもなんともないからなァ!!」

 タクムはそのまま近くの戦車へと駆け出し、

『い……いい加減に――……しろおおぉぉっ(ファアァァクッ)!!』
 爆音に弾き飛ばされた。

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