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鋼鉄のアイ 作者:パブロン

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MPK

更新、遅くなりました。
ほんとすいません。
 ――ニーア・チェルツコア、倒れる。

 待ちかねた報が伝えられると同時、政府軍と義勇軍はカルマ攻略を開始した。総勢1500名からなる大部隊が怒号と共に攻略地カルマへと近づいていく。

「殺せ殺せ殺せぇええぇぇぇ!!」
「殺しただけ褒賞が出るぞッ!!」
「ヒャッハー! 俺が殺すぞおぉぉおおぉぉ!」
 タクムは通信機から漏れ聞こえる味方兵士の叫びを心地よさそうに聞いていた。

 まるで獣のような台詞だが、戦争なぞまともな精神状態でやるものじゃない。戦闘訓練を積んだ開拓者とて普段はまともな人間だ。同じ人間を殺すのに忌避感を持たないはずがない。

 そのためタクムは事あるごとに<精神汚染>スキルによって、復讐心を煽り、殺戮欲を高めている。判断は上でやる。下は盲目的に着き従い、目に付く敵を殺してくれればよい。

 故郷を追われた人々の憎悪を増幅させ、死兵を作り出す。その爆発力は尋常のそれではない。彼等は好んで銃弾飛び交う戦場を掛け、仲間の屍を踏みながら塹壕に飛び込んでいく。

 そんな状態であったから自然と敵味方共に死傷者は増える。この戦争が終わり、洗脳を解かれた彼等はPTSDに悩まされることになるだろう。

 戦後の事など一切考えない殲滅者一流の用兵術であった。

 しかしながら戦況のほうは劣勢であった。カルマの街から広がるおよそ2キロに渡る防衛陣地は実によく出来ていた。戦車や迫撃砲が隠れられる遮蔽物が多く、至る所に張り巡らされた有刺鉄線や対人地雷や落とし穴などのトラップが兵士の浸透を妨げる。また要所要所に設けられたトーチカも邪魔だ。

 一ヶ月に及ぶ睨み合いの間に敵部隊も増援を送ってきた。スター都市軍が合流したものの、兵士や戦車にほとんど差はない。士気の高さでは圧倒しているが、このまま手をこまねいていれば遠からず敗北するであろう。

 タクムやベジー、カフカ、クリスといった歴戦の強者が前に出れば状況は変わるかもしれない。彼等は歩兵でありながら単独で複数の部隊を相手取れる類稀な戦士であり、ソフィストから見れば悪夢のような存在だ。

 しかしこれだけの規模の戦闘となると、個人の力で戦局を覆すことは難しい。個人の戦功など高が知れている。精々、局地的な勝利を収めて終了である。

 敵防衛線は何重にも渡って構築されている。たかだか一枚二枚を抜いたところで戦況など変えられようはずがない。

 敵より多くの兵を確保する。加えて地の利も完全に失われている。

 ガンマ解放軍が勝利することなど有り得なかったのだ。

 この時点では――







 カルマ攻略が上手くいったところで義勇軍独自の功績とはなり得ない。どれだけの戦功を積んだところで、義勇軍と政府軍の戦力比を考えれば、どうしたって功績は都市軍に掠め取られる。

 ――やってられん。

 そんなわけでタクムは前線から外れることにした。

 今、彼の姿はカルマ防衛陣地から南に20キロほど行ったところにあった。

 野太いエンジン音を響かせながら主力戦車<T-55>が荒野を走る。赤茶色の大地に履帯の後を刻みつけながら、タクムは<遠隔操作リモートコントロール>のスキルを用いて移動を続けた。

 訪れたのは<獣の森>。かつて新兵同然だったタクムがアイの指導の下、狙撃による訓練レベルアップを受けた思い出の場所である。

「んじゃ、ミッションスタートだ」
 タクムは<遠隔操作>で戦車を操作し、荒野と森の境界線を沿うように走らせた。パンっと後方で炸裂音。牽引していた自走式コンテナが開く。

 中身は生体兵器の肉塊である。目玉や手足だったと思われる部品、輪切りにされた胴体から引き摺り出された臓物がボトリボトリとコンテナボックスから排出されていく。肉片からこぼれ出した血液が戦車の轍を赤々と染めていく。

『うぇぇ……気持ち悪ぅ』
 銃座に座るライムからそんな通信が入った。彼女の位置からだと戦車の後方が丸見えなのである。

「文句言ってないで撃ち込め」
『うぇぃ……』
 やる気のない返事に覆いかぶさるように猛烈な銃撃音がダダダダダダ荒野に響き渡るダダダダダダダダダ

 チョーク大のライフル弾が<獣の森>に次々と吸い込まれていく。副砲である<DShK38重機関銃>の射撃である。タクムの指示に従って定期的に銃弾を見舞うだけ。狙いはテキトーである。敵影が見えないの狙いようがない。

『あ、弾切れた』
「ベジー、教えてやれ」
『了解した。いいか、ここに――』
 まるで軍事教練のようだが、当然ながら違う。きちんとした軍事作戦である。こんな大事な時期に義勇軍の屈指の兵士であり、幹部である二人に加えて士気に大きく影響するみんなのアイドル、ライム・ダッチャーが基地を離れるわけがない。

『タクム、出てきたぞ!』
 ベジーの報告、続けて展開する<サークルレーダー>に多数の反応。タクムが車内で喜色を上げた。<獣の森>に居たであろう生体兵器が血の臭いに惹かれ、あるいは銃撃音に反応して森から出てきたのである。

 そうして血肉と弾丸を排出しながら荒野を駆け抜ける戦車を見つけ、

「ガアアァァァァーッ!」
「キシャー!」
「アオオォォォーッ!」

 生体兵器達は一斉に快哉を上げた。

 <リザードッグ>にその亜種である<ホットドッグ>、<アントゴーレム>に上位種である<ジャイアントゴーレム>、レア種として知られる<スカトロベンジャー>まで出てきた時にはタクムとライムは顔を顰めた。あれはトラウマである。

 森の出入り口に反応が集まっていく。出るわ出るわ、その勢いは百を超えてなお衰えることはない。

 それも当然のこと。<獣の森>は生体兵器の楽園なのである。ガンマ近郊で発生する生体兵器の7割はこの森で生まれたと考えられており、その総数は万を超えるであろうと言われている。
 こうして境界付近で少しばかり挑発行為を繰り返しただけで数百という生体兵器を誘き出すことが出来るのである。

 ちなみにアイが境界線からやや離れた場所を狙撃ポイントに選んだのは、二人では対処し切れないと考えていたからだ。

「いやー、あの処女指揮官と違って生体兵器は単純でいいな」
 タクムは慣れない指揮官仕事でたまっていた不満を口にする。ぐるりと砲塔が回ると同時、耳を聾するような爆撃音が木霊した。目前の木々と共に、集結しつつあった生体兵器が吹き飛ばされる。

「アーハハハッ!! 死ね死ね死ね死ね!」
 生体兵器の砲撃、その射線から器用に逃れつつ、タクムは戦車砲で反撃していく。ますますいきり立つ生体兵器達。

『こらぁぁぁ!! 撃つなら撃つっていえー! 鼓膜破れるかと思っただろがー!!』
 久方ぶりの戦闘にタクムはハイになっていたらしい。

「悪い悪い。ベジーもライムもほどほどに惹き付けたら中に入ってくれ」

 二人の了解、という言葉を聞きながら、タクムは進路を北に向けた。





「なんなんだ、何なんだよッ!?」
 そういって若いソフィスト兵士が<リザードッグ>へAK-47を向けた。ドドドッ、という銃撃音と共に閃光が眼前で踊る。

「ガアアァァァァーッ!」
 血を流して倒れる生体兵器。AK-47が放つ7.62×39mm弾は、一般的な9mmパラベラム弾の4倍近い威力を誇る。硬い表皮を持つ生体兵器であっても――もちろん、小型に限った話ではあるが――十分に殺傷可能である。

「へッ、へへ、どうだ、この野犬め……」
 嘲りの言葉を吐くソフィスト兵。

「ざまあみやガッ――……」
 しかし、次の瞬間、彼の首は宙を舞っていた。

 ソフィスト兵の頭上には無色透明な翅を瞬かせて空中静止する枯葉色の蟷螂の姿があった。

-------------------------------------
サイスマンティス
蟷螂のような形状をした生体兵器。両腕の先についた巨大な鎌を用いて攻撃を仕掛けてくる。
遠距離攻撃こそないものの、飛行能力を有しており、飛行時の音は小さな風切り音だけであるため、混戦状況では容易に接近を許すことになる。

脅威度:D+
生命力:E
近/中/遠攻撃力:C/-/-
装甲:F
俊敏性:B+
-------------------------------------

 サイスマンティスはそのまま塹壕の中に身を躍らせる。

「なッ!」
「ギャア――」
「くそがッ、このカマ野郎!」
 ソフィスト兵士2名の首を刈った。途中で侵入に気づいたベテラン兵士のおかげで全滅こそ免れたものの、それは一時的なものでしかなかった。

「アオオォォォーッ!」
 塹壕の端から顔を出した赤い鱗を持った犬ー―

「ホットドッグだ!」
「逃げ――ッ――…………」
 ホットドッグが口腔から粘着液を吐き出し、次の瞬間、塹壕内は炎に包まれた。




 ある者は首を落とされ、腸を撒き散らしながら死んでいく。ある者は生きたまま腕を足を、全身を喰われて絶叫を上げている。

 ある者は嗚咽し、慟哭を上げ、そして獣に蹂躙される。

 このような光景が防衛陣地の南部で幾つも見られた。ひとつ、またひとつ、防衛拠点が落とされていく。

「アハハ、アハハハハッ! いいな! 最高の光景だ!!」
 文字通りの地獄絵図を作り出した張本人は赤い眼球を鈍く光らせ嗤っていた。

 確かにソフィスト軍の装備は充実していた。通常業務――この世界での軍人の仕事は八割方、街や街道の防衛に当てられる――の中で多くの生体兵器を屠ってきた。

 それでも複数の生体兵器に同時に襲われたことはなかった。

 戦闘には定石セオリーというものがある。快足で敵部隊に接近、近接戦闘を仕掛ける犬型生体兵器。巨体から繰り出される突進力によって拠点や戦闘車両をひき潰す猪型や牛型生体兵器。蟻酸や飛行能力、粘着糸を吐いて移動能力を阻害するなど、特殊技能を持つ虫型生体兵器。各々の特性に合わせ、戦い方を変えるのは当然のことである。

 例えば、リザードッグのような犬型であれば拠点に篭って弾幕を張るのがセオリーだ。奴等は群れるため、遠目から銃弾の雨を降らせることで容易に殲滅可能である。
 逆に、蟻酸を投擲してきたり、無音での空中機動を行ってくる虫型であれば一つの場所に留まらず、動き回って狙いを絞らせない工夫が必要となる。また知能も低いため、一人が囮となって、それを追いかけさせてから前後左右から挟み撃ちにするという手もある。

 しかし、今回のように異なる生体兵器に同時多発的に襲い掛かられると、対処し切れないのである。拠点に篭れば虫型に襲われ、拠点を出れば犬型に蹂躙される。

 また下手に攻略法があるが故に、それに固執してしまい、周りが見えなくなってしまうという弊害も発生していた。

 攻略法には穴があった。しかし生体兵器は同一種族以外とは行動を共にしないため、露見することはなかっただけなのである。それが此度の生体兵器の群れによって明るみになった。

 ――タイミングは最高だな。

 タクムは後方で繰り広げられる人と獣の戦争・・を、カメラアイで眺めながらニタァとほくそ笑んでいた。

 タクム達の狙いは簡単だ。多数の生体兵器が潜む<獣の森>に近づき、蒔き餌と銃撃によって生体兵器と交戦状態アクティブに入る。そのまま森の外延部を走り続ければリンク――ノンアクティブな生体兵器達も巻き込んでいく。

 そのまま敵が諦めて仕舞わないよう、時折、戦車砲やライムやベジーからの銃撃によって攻撃しながらそのままカルマまで誘引する。

 ソフィスト軍の戦車乗りから聞き出した通信コードや符丁を使って偵察兵に成り済まし、そのまま防衛陣地に突っ込んでやった。

「どうだ、ベジー。満足か?」
『ああ、これはすばらしい……これがタクムの策か……』
 ベジーが感嘆の声を上げる。

「ならいい、さっさと本部と通信を取れ。今が、チャンスだとな」
 タクムは薄ら笑いを浮かべたまま、ベジーにそう促した。

なんということでしょう。
ソフィスト軍が勝手に死んでいくではありませんか。

タクムの粋な演出に依頼主ベジーも大喜びです。

次の更新は8/3 0:00を予定しています。
どうぞ宜しくお願いします。
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