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鋼鉄のアイ 作者:パブロン

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TO・U・ZO・KU☆

 ガンマ方面部隊第二補給中隊所属第六補給小隊、通称テトラ隊は、ガンマの街へ向けて移動中であった。国境沿いの街<トゥリー>を出発してから約二日。目的地まで残りおよそ五〇キロに近づいていた。

『いやー、何事もなくてよかったですね、隊長』
「まだ着いとらんぞ、気を引き締めろ」
『すいません、隊長。でも今まで緊張しっぱなしだったんです』
 正直な男だ、とテトラは苦笑を浮かべた。テトラ隊はその所属が示す通り、補給部隊である。街道を走る車輌のほとんどは民間の輸送トラックを改造しただけのものである。
 ある程度の防弾性能は施してあるものの、中型クラスの生体兵器に襲われればひとたまりもない脆弱なものである。戦闘車両の分厚い装甲とは比べるべくもない。

 しかも今回の積荷の中心は砲弾や弾丸だった。なにやらガンマの街を制圧したのはいいものの、一部の軍人や開拓者を地下へ逃がしたせい――かつては古代遺跡であったガンマの地下には迷宮があるのだ――で今も散発的な戦闘が行われているというのである。

 もしも生体兵器の砲弾でも突き刺さろうものなら、確実に誘爆する。本来であれば弾薬補給車を使用するべきところであるがソフィスト軍はあまり補給に力をいれていない。戦闘力を持たない補給車輌よりも、戦車や自走砲などの戦闘車輌の充実に予算を割り振っているのだ。

 文明崩壊後、国家レベルでの戦争というものは行われたことがない。そのため補給や兵站は地球のそれよりも軽く見られる傾向にあった。

 自然、補給隊に降り掛かる危険というものは大きなものとなる。一つのミスで数十万ドルという物資が失われるばかりか、仲間の命も危険に晒すことになる。弾薬を積んでいる車輌が爆発すれば内部の人間の生存はほぼ絶望的である。

 生体兵器や盗賊などとかち合わないようこまめに偵察を出し、見張りを付け、慎重に慎重を重ねて行軍している。そんなわけでテトラ隊の面々の<偵察兵>としての技能は本職のそれを上回るほどであった。

 気難しい任務だ。若い下士官あたりであれば気を抜いてしまうのも仕方のないことである。

 なぜなら、

「あの気難しい戦車隊がわざわざ護衛を買って出てくれるなんて、明日は雪でも降るんじゃないですかね」
 運転席に座るベテラン軍曹がぽつりと呟く。

 テトラは頷き、窓ガラス越しに周囲を見回す。輸送トラック軍を取り囲むように三輌の戦車が併走していた。

 T-55。ソフィスト軍が保有する主力戦車の名称である。聞いてみれば彼等は元々一線級の戦車部隊だそうだ。とある任務を失敗したせいで、現在は干されているとのことである。

 しかしテトラには彼らの実力を疑うつもりは微塵もなかった。戦車乗りといえば言わずと知れた花形部隊である。硬い装甲に守られているため生存率は高く、レベルも上がりやすい。小学生(男子)のなりたい職業ランキングでは間違いなくトップスリーに入るくらいである。

 年に二度行われる戦車兵の追加募集時には募集人数の三十倍という人員が集まることなどざらなのである。

 そんな厳しい競争を勝ち抜いて選ばれたエリート中のエリートである戦車兵は自然と選民意識のようなものが生まれがちである。逆に不人気職ナンバーワンである補給部隊なぞ鼻で笑うような連中である。

 そんな戦車乗りが、自ら進んで護衛を買って出た。何か裏があるようで怖い。軍曹はそう言っているのだ。

 むしろ、あって当然だとテトラは考えていた。現在彼らは干されている。当然、物資の配給なども後回しだ。ここらで恩を売りつけておいて、後で物資を融通しろと脅されるに決まっていた。

 テトラはそれに従うつもりだ。戦車さえいれば生体兵器など怖くもない。任務は成功。死者はおろか負傷者はなし。部下や自分の命を守れるのなら多少の便宜を図るくらいのことは喜んで行う。別に民間へ横流ししているわけではないのだから、軍規に違反することもない。

 相手の出方によってはむしろ積極的に物資を融通するつもりでさえある。そうすればデルタからトゥリーへ戻る際にもまた護衛を買って出てくれるかもしれないからだ。情けない話かもしれないが、これが補給部隊の処世術なのであった。

 現場指揮官という重責から解放され、テトラがまあるい息を吐き出しかけたその時、彼の体は前につんのめった。

「うっ、な、なんだ」
「すいやせん、ちょっと戦車野郎が……」
 テトラは突如、街道に乗り上げ、立ち止まったT-55を睨みつける。

「おい! 何してんだ、危ないだろう! こちとら動く火薬庫だぞ!?」
 オープン回線で抗議すると、戦車からは若々しい、それこそ十代後半くらいにしか聞こえない声が返ってきた。

『そうだった、そうだった。すまんがすぐに停止してくれ』
 テトラは慌てて全車輌に急停止させた。どうやら前方で何かがあり、行軍を中断させたかったらしいが戦車乗りらしい配慮に欠けた行動であった。

 玉突き事故でも起こしたらどうなるか分からないのだろうか。当然、被害は甚大なものとなる。エンジンに火が付き、それが弾薬の詰まった箱に引火――想像するだけで恐ろしい結果となる。

 最悪、街道から外れるという手もあるが、民間車輌を改造しただけの輸送トラックに不整地を踏破する能力はない。万一、タイヤが砂地に飲まれようものなら部隊総出で車輌を引き上げる必要があった。

「なあ、一体、何があったんだ?」
『盗賊だよ』
 戦車乗りの言葉にテトラは戦慄した。

「なん、だとッ!? そこを退いてくれ! 散開するッ!?」
 このままでは危険だ。急停止を行ったせいで車間が狭まっている。一両でもやられればそのはずみで連鎖爆発する可能性があった。

 もっと偵察部隊を出しておくんだった、とテトラは後悔した。戦車乗りしろうとに見張りまで任せてしまったのが完全に裏目に出ていた。

『いや、その必要はない。むしろ動くな』
 戦車兵は傲岸にそう言って、車両を動かす気配すら見せない。

 ――これだから戦車野郎は!!

「馬鹿を言うな! 万が一ということもある! 敵はどこにいる!? 既に戦っているんだろう!?」
 さすがのテトラも頭に血が上り、声を張り上げた。奴等には自慢の装甲があるからいいかも知れないが、こっちは紙装甲の中に大量の爆弾を抱えているのだぞ!

『だから大丈夫だって。死にたくなけりゃ、大人しくしてな』
「黙っていられるか!」
 テトラが強引に道を外れようとした時、戦車の砲塔がぐるりと180度旋回し――こともあろうに――砲身は彼のトラックへと向けられている。

「なんだ、何なんだよ、アンタ!!」
『ああ、そうか、自己紹介が遅れたな?』
 戦車のハッチが開き、部隊長らしき兵士が戦車から降車した。

 その男の姿を見た瞬間、全身が粟立った。

 金色の強化服。鉈のような銃剣を腰に差し、片手に大口径の小銃を構えている。鴉のような黒髪が乾いた風に浚われて一層、不吉な色を帯びていた。

「俺達が件の『盗賊』だよ。俺はその盗賊団の頭目になるわけだ」
 瞳孔が開き切った凄惨な瞳はまるで血のように紅い。

 その風貌に聞き覚えがないわけがなかった。今や時の人だ。無論、ソフィスト軍人にとっては頭に<最悪の>が文字に付く。

「アンタ、まさか……」
 五〇名近い開拓者を破滅に導き、<越後屋>率いる三〇名の戦闘技能者を殺害し、戦車二個小隊と歩兵中隊をたった一人で壊滅させた生粋の化け物――


「<殲滅者スローター>だ。アンタ等の積荷と命、ごっそり全部奪いに来たぞ」

 ニタァ、そんな不吉な笑みを浮かべてスローターはそう言った。

 

 



「いやー、思った以上に上手くいったな……」
 倉庫に次々と搬入される、ソフィスト産の武器弾薬を眺めながらタクムは言った。

「タクム、この男達はどうする?」
「ああ、地下牢にでもぶち込んでおいてくれ。後で纏めて洗脳しておく」 ベジーの声に振り返り、迷うことなく指示を下す。

「承知した……おら! キビキビ歩け! このウスノロ共が!!」
 ベジーは手錠で繋がれた補給兵を地下室へと連行していく。

 タクム達、<鉄屑兵団>並びに<ガンマ義勇軍>はガンマから五〇キロほど行ったところにある基地にいた。かつてベジーを捕らえた際、レベリング兼新兵器の試験会場として利用した思い出の演習場である。

 ソフィスト軍は現在、都市内部に潜む反抗組織や、ガンマ周辺の町や村などを占領するのに注力しており、放棄された基地の回収などしないだろうと予想していた。足を向けてみれば案の定、無人のまま放置されていたため、再利用する流れとなったわけだ。

 ちなみにこの基地は素材不足に喘いでいるガンマ政府の都市軍出動を促す目的で、当時ガンマ都市軍総司令であったカール・ドラ・ガンマとの間に交わされた契約に従い、正式にタクムへと譲渡されていた。

 タクムは今後、毎月、三千万ドルという単位の基地使用料を義勇軍から徴収することなっている。特に用はないため放棄していた物件が、まさかこんなところで役に立ってくれるとは思いも寄らなかった。

 デルタの街で人員確保や物資購入に奔走すること一週間。戦争準備を終えたタクム達<ガンマ義勇軍>はガンマへ向けて出立。すぐさま敵支配域の拠点を解放した。

 現在、デルタではそんな筋書きの記事が紙面を踊っているのだろう。

 戦意向上のプロパガンダとしては例え、放置されたものであっても<拠点確保>は重要だ。しかも<義勇軍>が<正規軍>に先んじて手に入れたところでポイントアップ。

 現在の兵員は500名程度。同盟する兵団クラン獅子心王ライオン・ハート>などの協力もあり、それなりの数が集まったが、まだまだ敵軍と正面を切って叩き合うには至らない。

 戦功や実績は今後の組織運営に大きく関わってくる重要事項のひとつだった。誰だって勝ち馬に乗りたい。それは兵士や協力者だけでなく、投資や支援をしてくれる政府や企業も義勇軍の評判が良ければ容易く金を出してくれる。

 組織を拡大していくためには更なる知名度が必要だ。そして更に、<義勇軍>に居れば勝てるという幻想を見せ続けること。

 今は張子の虎であってもいつか本物になればいい。

「ライム、さっそく連中の所属をボカした上で<ガンマ義勇軍、敵部隊を撃破!>って感じの号外出しておいてくれ。この写真付きでな」
 引き連れられていく男達の背中をカメラに収め、ライムへと引き渡す。大した戦闘能力を持たない補給部隊を騙し撃ちで捕らえたぐらいでは何の自慢にもならないが、彼らを所属不明の部隊としておくことで読み手の印象は全く違ってくるはずだ。

「ふふふ、スローにゃん、お主も悪よのぉ……」
越後屋さぁびすぅ、お主もな。フハハ、フハハハ、フハハハハ……ッ!」
 タクムも上機嫌に現代ネタで返す。すべてが上手くいっている、その充実感がクールキャラを気取るタクムを狂わせていた。

「それじゃあ、後のことは任せた。俺はちっとばかし寝てくる」
 周囲の兵士はぽかんとさせながら、タクムは司令室兼寝所へと向かうのだった。

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